第31話 【事後報告】ギルドマスター三度目の気絶。王都の上層部がざわつき始めます
【現在位置:王都・冒険者ギルド本店】
【環境スキャン:周囲の冒険者個体数、約50名。視線および雑音レベル:過剰】
【当機の裏タスク:マスターの社会活動報告(成果提出)における安全管理および収支計算】
光の扉(転送ゲート)をくぐり、地上へと戻ったマスター(ミリア)たちは、そのまま王都の冒険者ギルドへと向かっていた。
「ふぅー! 無事に帰ってきたね!」
ミリアがのびをしつつ、ニコニコと笑顔を浮かべた。
スラムの孤児たち――レオ、ガイツ、クロエの3人も、誇らしげに胸を張ってギルドの重厚な扉を押して中へ入る。
ギルドのロビーは、相変わらず酒臭くむさ苦しい熱気に包まれていた。
だが、昨日とは雰囲気が少し異なっている。
ミリアたちが足を踏み入れた瞬間、周囲のベテラン冒険者たちが、どこか恐る恐るこちらを盗み見してきたからだ。
「あ、おい……あのFランクのガキども、迷宮の調査から戻ってきたぞ」
「おいおい、丸一日経ってるが、怪我どころか服の汚れすらねぇぞ……」
周囲のヒソヒソ声を気にすることもなく、ミリアはまっすぐに受付カウンターへと進み出た。
「受付のお姉さん! ただいま戻りました! 依頼の調査、終わりましたよ!」
「お、おかえりなさいミリアちゃん! 無事で……って、えっ!?」
受付嬢は書類から目を上げ、ミリアたちの姿を見て二度見した。
怪我一つなく、むしろ温泉上がりでお肌がつやつや、髪はサラサラの完璧な状態だったからだ。
「あ、あの……無事だったのは何よりですが……浅層のマップ調査はどこまで進みましたか? 何か異常なマナとか、異変は見つかりましたか……?」
「はい! アハトさんが綺麗なマップを作ってくれました! あと、異常なマナなんですけど……」
ミリアが振り返り、当機に合図を送る。
「当機より、ご報告いたします」
当機は一歩前へ出ると、純白のスカートを軽くつまみ、優雅にお辞儀をした。
「依頼の対象であった異常マナの発生源ですが……最下層にて原因となっていた不衛生な大型廃棄物(古代防衛ゴーレム)を、皆様の手で撤去・清掃完了いたしました」
「え?」
受付嬢のペンが、ポロリと手からこぼれ落ちた。
「今……なんて……? 最下層……? ゴーレム……?」
「ええ。あと、その残骸と、道中で回収した素材を持ってきました」
当機がパチンと指を弾いた。
【空間収納より、自動解体・梱包済みの素材を提出】
ドォォォォン……ッ!!
カウンターの上に、そして溢れ出た分が床の上に、ズシリと重厚な音を立てて積み上げられた。
それは、美しい青銀色に輝く最高品質の金属――『ミスリル合金の純粋な塊』数十キロ分。
さらには、第5階層のボスしかドロップしないはずの『超特大・最上位魔石』。
それらが、血や泥の一滴すら付着していない、完璧な真空パック包装の状態で山のように並べられたのだ。
「ひ、ひぃぃぃっ!? これ、ミスリル!? それにこんなバカでかい魔石……古代の迷宮主のコアじゃないですかぁぁぁっ!?」
受付嬢の悲鳴がロビー中に響き渡る。
「「「な、なんだってぇぇぇぇぇっ!?」」」
ロビーにいた数百人の冒険者たちが一斉に立ち上がり、目を飛び出さんばかりに見開いた。
「バカ言え! あそこはSランクパーティでも最下層まで辿り着けねぇ高難度ダンジョンだぞ!?」
「Fランクのガキどもが、一日でボスを倒して帰ってきただと!?」
大パニックに陥るロビー。
その騒ぎを察知し、執務室の扉を勢いよく開けて飛び出してきたのが、ギルドマスターであった。
「何の騒ぎだッ! ミリア殿に失礼があったら承知せんぞ――」
威圧感たっぷりに怒鳴り散らそうとしたギルドマスターだったが、カウンターの上にうずたかく積まれたミスリルの山と、超巨大な魔石を見た瞬間。
ピキ……ッ。
その顔面から一瞬で血の気が引いた。
「(な、なん……だと……!? あの『古代の地下迷宮』の最下層の封印が……完全に解体されている……!?)」
ギルドマスターはガクガクと膝を震わせ、滝のような冷や汗を流しながら当機を見つめた。
「(『浅層の調査』と称して送り出したはずが……たった一日で迷宮そのものを『攻略』してしまったというのか……!? 一体どんな領域の武力を行使すれば、あの神話級のゴーレムがこうも綺麗に解体されるのだ……ッ!?)」
盛大な勘違い(アンジャッシュ)が、彼の脳内で最悪の恐怖となって炸裂した。
「あ、あの……おじさん? またお顔が真っ青ですよ?」
ミリアが心配そうに覗き込む。
「あ……あう……あ……」
ギルドマスターは言葉にならない声を漏らし、そのまま瞳を白黒させると――
ドシーンッ!!
巨体を揺らして床へと倒れ込み、見事な白目を剥いて泡を吹いた。
三度目の、完全なる気絶であった。
「きゃあああっ!? ギルドマスターがまた倒れたーっ!?」
「おい! お医者様を呼べぇぇぇっ!」
上へ下への大騒ぎになるギルド内。
「ふふっ、おじさんたら、大喜びしちゃったね!」
「俺たちの活躍が凄すぎて、腰を抜かしたんだぜ!」
ミリアとレオたちは、自分たちの成果が大人たちを感動させたと無邪気に喜んでいる。
【ギルド上層部からの絶対的評価(恐れと服従)をさらに強固なものに更新しました】
当機は大量の成果物に対する正当な報奨金(金貨の山)を自動計算してドローンで受領すると、優雅にお辞儀をした。
「これにて依頼は無事に完了いたしました。マスター、おうちに帰って夕食にいたしましょう」
「うん! 今日の夜ご飯は何かなー!」
「本日はマスターの好物、特製デミグラスハンバーグでございます」
「やったー!」
金貨の袋を抱えたミリアたちは、大混乱のギルドをあとにし、ルンルン気分で我が家へと足を向けた。
***
一方――その頃。
王都の中心にそびえ立つ、王国の権勢の象徴『王城』の深奥にて。
「……報告は真実か?」
暗い会議室の中、重厚な声を上げたのは、王国騎士団長であった。
その周囲には、王宮魔法師団の長や、国家の政務を司る高位貴族たちが重苦しい表情で集まっている。
「はっ……。王都近郊の『古代の地下迷宮』から発せられていた異常なマナ反応が、小一時間ほど前に『完全に消失』いたしました」
魔法師団長が、震える手で羊皮紙を広げた。
「調査に向かった冒険者ギルドの情報によれば……スラム出身の【Fランクパーティ】が、たった一日で最下層の守護者を撃破し、迷宮のコアを無力化させたとのことです」
「馬鹿な……! Fランクの子供だと!? そんな存在がいてたまるか!」
貴族の一人が卓を叩いて叫ぶ。
「騎士団長……先日の『地龍の蒸発事件』といい、今回の迷宮の消失といい……王都のすぐ足元に、国家の軍勢すら凌駕する『未知の超特級戦力』が潜んでいるのは確実です」
騎士団長は苦虫をかみ潰したような顔で、窓の外――王都の片隅にある『スラム街』の方角を睨みつけた。
「白銀の死神……いや、スラムの聖女か。彼女たちの目的は何だ? 王国の転覆か……それとも……」
王都の最高幹部たちは、当機たちの圧倒的な暴力の影に怯え、夜も眠れぬパニックへと陥り始めていた。
……なお、当の本人のミリアは。
「ん〜っ! アハトさんのハンバーグ、今日も世界一美味しいっ!」
スラムの超ハイテク要塞にて、焼きたてのハンバーグを口いっぱいに頬張り、満面の笑みを咲かせている最中であった。
【次回へのシステムログ・スタンバイ中……】
【次の目標:王都上層部からの接触(密使)の予測、およびマスターのスローライフを脅かす政治的介入の無力化】




