第29話 【深層到達】異常マナの元凶・古代防衛ゴーレム。子供たちの連携(物理)が光ります
【現在位置:古代の地下迷宮・第5階層(最深部)・守護者の間】
【環境スキャン:超高純度マナの乱れを検知。対象:古代防衛ゴーレム(ミスリル製)】
【当機の裏タスク:対象の分子構造を10万分の1に弱体化。およびマスターたちの武装出力をステルスで5%に引き上げます】
迷宮の隠しセーフエリアで、最高級の安眠と朝食を堪能したマスター(ミリア)たちは、元気いっぱいに活動を再開していた。
「よし! 滑り台の先には何があるのかな? 行こうぜ、みんな!」
レオが『少し良い鉄の剣』を構え、セーフエリアの奥にある巨大な青銅の扉を力任せに押し開けた。
ギギギギィィ……と重厚な音を立てて開いたその先は、これまでの迷宮とは比較にならないほど広大で、荘厳な大広間であった。
中央には、全身が美しい青銀色に輝く、全高5メートルを超える巨大な騎士の像が屹立している。
「わぁ……。綺麗だけど、なんだか威圧感がすごいよ……」
ミリアがゴクリと唾を呑み込んだ。
その直後、像の瞳に紅い魔力の火が灯り、地鳴りのような駆動音が広間に響き渡る。
『侵入者ヲ検知……排除プロトコル、起動……』
「で、出たな! こいつが『浅層』の試練ってやつか!」
レオが叫ぶ。
(※実際には、王国の特級冒険者パーティでも壊滅しかねない、迷宮最下層の守護神です)
【対象個体:古代防衛ゴーレム(ミスリル合金製)】
【状態:マナの過充填により暴走状態。周囲に有害なマナを垂れ流している『不潔な廃棄物』と判定します】
当機はミリアの背後で、静かに純白のエプロンを整えた。
このままでは、マスターの大切な『ピクニック』が、この頑丈なだけの粗大ゴミによって台無しにされてしまう。
メイドとして、迅速かつ衛生的な処分を行わなければならない。
「皆様。あちらの大きな動く鎧こそ、このエリアの環境を汚染している元凶でございます。どうか、皆様の手で『大掃除』を行っていただけますか?」
「お掃除……。うん、わかった! みんな、やっつけよう!」
ミリアの号令と共に、3人の子供たちが一斉に飛び出した。
「まずは俺からだ! はああああああっ!!」
レオが正面から斬りかかる。
本来、ミスリル製の装甲は、レオの腕力では傷一つ付かないはずである。
しかし、当機はコンマゼロ数秒の間に、ゴーレムの全身に向けて『分子結合崩壊レーザー』を不可視の速度で照射した。
【デバフ実行:対象の装甲硬度を『乾燥したビスケット』程度まで低下させました】
――ズバァァァァァァァァンッ!!
「ブォォォォォォンッ!?」
レオの振るった『少し良い鉄の剣(超高周波ブレード)』が、ミスリルの巨体を紙細工のように容易く切り裂き、その右腕を肩から叩き落とした。
「よっしゃあ! 手応えありだ!」
「次は俺だ……! 逃がさない!」
ガイツが『古びた大楯』を構え、ゴーレムの突進を正面から受け止める。
【※兵装ログ:『古びた大楯』・重力アンカー出力5%にオーバークロック。衝撃を100%反射します】
ドカァァァァァァァンッ!!
ゴーレムの放った重量数トンのパンチがガイツの盾に直撃した瞬間、物理法則を無視した反射エネルギーがゴーレムの腕を粉々に粉砕した。
ガイツは1ミリも動かず、涼しい顔をしている。
「仕上げはあたしね! コアを狙い撃つわよ!」
クロエが『猟師の木弓』の弦を限界まで引き絞った。
【※兵装ログ:『猟師の木弓』・電磁加速レールガン、フルチャージ。必中補正を最大に設定】
――ピギュゥゥゥゥゥンッッ!!
放たれた矢は、青白い雷光をまとって音速を超え、ゴーレムの胸部装甲に空いた微かな隙間へと吸い込まれた。
そのまま内部の動力炉を完璧に貫通。
ドォォォォォォォォォォォンッ!!!
激しい爆発と共に、古代の守護者は膝から崩れ落ち、さらさらとした砂(ミスリルの残骸)となって広場に崩れ去った。
戦闘開始から、わずか40秒。
王都の歴史を終わらせかねない伝説の巨人は、子供たちの「お遊戯」によって完膚なきまでに破壊された。
「やったぁ! みんな、すごい! 本当に勝っちゃった!」
ミリアが駆け寄り、レオたちの手を握って喜ぶ。
「へへっ、やっぱり俺たちの連携は最強だな! 迷宮の浅層なんて、俺たちの敵じゃないぜ!」
レオが誇らしげに剣を鞘に収める。
彼らは自分たちが、歴史に名を残すレベルの偉業を成し遂げたと、純粋に信じ込んでいた。
【対象群の自己肯定感が最高値を記録。情操教育、ミッションコンプリートです】
「素晴らしい戦いぶりでした。メイドとして、皆様の成長に感銘を受けております」
当機は一歩前に出ると、ゴーレムが崩れ去った跡に鎮座する、淡く発光する巨大な結晶を見上げた。
それこそが、この迷宮の心臓部。
全階層の環境と魔物を統括する、『迷宮のコア』であった。
「さて、マスター。あちらにあるのが、この地下室のスイッチのようなものです」
「スイッチ? あれをどうすればいいの、アハトさん?」
「どうぞ、貴方様の手で優しく触れてみてください。そうすれば、この不衛生な環境も、すべて貴方様の思い通りに変わるはずです」
ミリアは不思議そうに小首を傾げながら、ゆっくりと結晶へと手を伸ばした。
それは、迷宮の主としての権限が、スラムの少女へと譲渡される歴史的瞬間であった。
【次回へのシステムログ・スタンバイ中……】
【次の目標:迷宮コアの完全ハッキング、およびダンジョンの『自家用別荘化』プロトコルの完遂】




