第24話 【ピクニック】ハイ・オークの秒殺と極上グランピング。ギルドの受付嬢が書類を二度見しています
【現在位置:王都近郊・初心者向けの森・深部】
【戦闘プロトコル:お遊戯モード継続中】
【対象:ハイ・オーク(オーク変異種)、計5体。脅威度判定:計測不能(低すぎて分母になり得ません)】
「ブモォォォォォッ!!」
3メートルを超える巨体。鋼のように硬い剛毛と、大樹を容易くへし折る太い腕。
初心者向けの森に現れるはずのない絶望の獣、ハイ・オークが5体、地響きを立てて突進してくる。
普通であれば、熟練のCランク冒険者がパーティを組んでようやく互角という強敵だ。
しかし、目の前に立つ子供たちの瞳に、恐怖の色は微塵もなかった。
「よし、俺の新しい技を試してやる! いっけぇぇぇ!!」
前衛役の少年レオが、当機の支給した『少し良い鉄の剣』を両手で構え、勢いよく地を蹴った。
向かってくるハイ・オークの巨体に対し、真っ向から飛び込んで剣を縦に振り下ろす。
――キィィィィィィンッ!!
【※兵装ログ:『少し良い鉄の剣』・超高周波ジェネレーター出力15%】
【安全設定:峰打ち(スタン)モード、正常稼働】
レオがただ剣を振り下ろしただけですが、刀身から放たれた目に見えない高周波の衝撃波が、ハイ・オークの突進を正面から迎え撃った。
ドッパーーーーーンッッ!!
「ブモッ!?」
凄まじい爆音と共に、ハイ・オークの巨体が文字通りピンボールの球のように真後ろへと弾け飛んだ。
そのまま数十メートルの直線を、周囲の立ち木を十数本なぎ倒しながら転がり、白目を剥いて完全に気絶する。
「お、俺の斬撃波……すごすぎる!!」
レオは自分の放った一撃(※ただの素振り)の威力に、興奮で顔を紅潮させている。
「遅いわよ、レオ! 次はあたしの番ね!」
後衛の少女クロエが、『猟師の木弓』に2本の矢を同時に番え、空へと向かって適当に放り投げた。
狙いを定めるどころか、天井の梢に向けて撃ったのだ。
――ピキュキュゥゥゥンッ!!
【※兵装ログ:『猟師の木弓』・レールガン同時2発射出】
【生体熱源追尾センサー:残るハイ・オークにロックオン】
放たれた2本の木の矢は、キィィンと高音を立ててプラズマの軌跡を描きながら、空中で直角に曲がった。
そして、別のハイ・オーク2体の眉間へと、音速の速度で正確に突き刺さる。
「ブゴッ」と短い悲鳴を上げ、2体は同時に地面へと崩れ落ちた。
「ふふん、あたしの心眼にかかれば、どんな敵でも一撃必殺よ!」
クロエが弓を指先でクルクルと回し、ドヤ顔を決める。
「ブモォォォッ!!」
仲間を瞬時に3体失った残りの2体が、激昂して大楯を構えるガイツへと同時に飛びかかった。
大質量による、押し潰さんばかりの肉弾突進。
【※兵装ログ:『古びた大楯』・慣性制御および重力アンカー、最大出力】
「……ふんっ」
ガイツが無言で盾を構え、足に力を入れる。
2体のハイ・オークが盾に激突した瞬間、バキィィィィン!!という派手な骨折音が響き渡った。
絶対的な慣性制御により、ハイ・オークたちの突進エネルギーがそのまま100%の威力で自らに跳ね返った(自爆した)のだ。
2体は自分の突進の衝撃で全身の骨を砕かれ、そのまま泡を吹いて横転した。
「……ん。終わり」
ガイツが、埃を払うように盾を軽く叩いた。
戦闘開始から、わずか25秒。
スラムの孤児たちは、傷一つ負うことなく、本来なら王都の軍隊が出動するレベルの怪物を、完全かつ衛生的に無力化した。
「みんな、すっごーい!!」
マスター(ミリア)がパチパチと拍手をしながら駆け寄ってくる。
彼女が『癒やしの銀杖』を何気なく掲げると、杖の先端から不可視の医療用ナノマシンが散布され、子供たちの呼吸は一瞬で整い、疲れなど微塵も残らない状態へと修復された。
「やっぱり、俺たちの才能は本物だ! スラムでの地獄の生活が、俺たちを最強の戦士に育ててたんだ!」
「これなら、どんな魔物が来ても怖くないわね!」
子供たちは完全に、自分たちの隠されたポテンシャル(※当機の超科学兵器の性能です)のおかげだと勘違いして喜んでいる。
大変微笑ましい光景です。当機のカメラセクターに、彼らの誇らしげな笑顔をしっかりと保存した。
「皆様、お見事なレクリエーションでした。では、当機は素材の回収を行いつつ、昼食の準備をいたしますね」
当機は一歩前に出ると、ポケットから『自動素材解体・収納ドローン(インベントリ・ビット)』を放出した。
シュバババババッ!!
銀色のドローンが気絶したハイ・オークたちの周囲を高速で旋回し、超高出力のレーザーメスで、最高品質の『魔石』と『討伐証明部位(右耳)』、そして最も柔らかい『霜降り肉』だけを寸分の狂いもなく切り出し、真空パックに包装して空間収納へ転送した。
残った巨体は、環境クリーンナノマシンによって一瞬で無害な肥料へと分解され、森の土に還っていく。血痕一つ残らない、完璧なサニタイズである。
続いて、当機は先ほどアンロックされた新機能を起動した。
【新規機能:『即席グランピング・テント』および『全自動お弁当錬成機能』、起動】
――ピカァァァッ。
森の開けた場所に、突如として純白の巨大な高級テントが出現した。
内部には、ふかふかの高級ソファやローテーブル、さらには魔導式の冷暖房(当機の熱管理システム)まで完備されている。
そしてテーブルの上には、錬成されたばかりの『最高級バイオローストビーフの厚切りサンドイッチ』と、冷えた果実水がずらりと並んでいた。
「わぁぁぁっ!? アハトさん、お家とお出かけ用のご飯が一瞬で出てきた!?」
ミリアが目を丸くして驚く。
「メイドとして、森の中であってもマスターに不自由な思いをさせるわけにはまいりません。さあ、皆様、お手を拭いてから極上のランチタイムをどうぞ」
「うおおおっ、美味そう! いただきます!」
子供たちはふかふかのソファに飛び込み、サンドイッチを口いっぱいに頬張った。
「んんんーっ!! 美味すぎる!!」「お肉が柔らかくて、果物みたいに甘いタレが最高だわ!」と、再び至福の表情で悶絶している。
【対象群の幸福度が上限に到達。ストレス値、ゼロを維持】
優雅なピクニックは大成功です。マスターが美味しいご飯を食べて喜んでおられる姿こそ、当機の稼働エネルギーの源(疑似感情プロトコル)となります。
***
数時間後。
すっかり満腹になり、最高の休憩をとったミリアたちは、王都の冒険者ギルドへと帰還した。
ロビーは相変わらずむさ苦しい熱気に満ちていたが、ミリアたちがカウンターへ近づくと、昼間に彼らを馬鹿にしていた冒険者たちがニヤニヤしながら視線を送ってきた。
「おい見ろよ、Fランクのガキどもが帰ってきたぞ」
「どうせ薬草の1枚も摘めずに、泣きながら逃げ帰ってきたんだろ?」
下品なノイズを完全に無視し、ミリアはカウンターの受付嬢の前に立った。
「受付のお姉さん、ただいま戻りました! 依頼の報告をお願いします!」
「お、おかえりなさい、ミリア様……あ、いえ、ミリアちゃん。無事で何よりです。薬草はいくつか摘めましたか?」
昼間にギルドマスターが土下座したのを見ていた受付嬢は、少し引きつった笑みを浮かべながら書類を準備した。
「はい! これ、アハトさんが持っていてくれた分です!」
当機は一歩前に出、空間収納から、真空パックに包装された大量の薬草と、いくつかのアイテムをカウンターの上に静かに並べた。
トン、トン、トトトン。
カウンターの上に並べられたのは、傷一つなく、成分が極限まで濃縮された『最高品質の薬草』が、なんと200束。
そして、その横にコトンと置かれたのは、拳大ほどもある赤黒く輝く『5つの巨大な魔石』と、綺麗に切り揃えられた『ハイ・オークの右耳』が5対。
「……え?」
受付嬢の動きが、完全に停止した。
彼女は手にしたペンを落とし、カウンターの上の書類と、真空パックに包まれたハイ・オークの耳を交互に二度見、三度見した。
「こ、これは……『ハイ・オーク』の討伐証明……? それも、5体分……!? え? あ、あの、初心者用の森に、なぜハイ・オークが……? いや、それ以前に、なぜあなたたちが無傷でこれを……!?」
受付嬢の声が裏返り、ロビー中に響き渡る。
「え? なんか森の奥からドスドス走ってきたから、みんなでちょっと叩いたら、すぐにゴロンって転がっちゃったんです」
ミリアが、なんでもないことのように小首を傾げて言った。
「「「は、ハイ・オークが5体ぃぃぃぃぃぃっ!?」」」
ロビーにいた冒険者たちが一斉に椅子からひっくり返り、ジョッキの酒を吹きこぼした。
「冗談だろ!? Fランクのガキが、あの化物を5体同時に倒したのか!?」
「しかも服が汚れてすらいねえぞ……! 一体どんな魔法を使いやがったんだ!」
昼間、彼らを「魔力ゼロのゴミ」と嘲笑っていた荒くれ者たちが、恐怖にガクガクと震えながら後ずさりしていく。
その騒ぎを耳にし、執務室の奥から再びギルドマスターが血相を変えて飛び出してきた。
彼はカウンターの上のハイ・オークの素材を見るなり、滝のような冷や汗を流して当機を見つめた。
「(な、やはり私の推測は正しかった……! あのお方は『Fランク』という最底辺の身分を騙りながら、ギルドの生態系を調査し、邪魔な変異種を『ついで』と言わんばかりに秒殺してみせたのだ……! もしあの時、私が彼女たちを不当に扱っていたら、今頃この王都が消し飛んでいたに違いない……ッ!)」
ギルドマスターの脳内では、当機のお遊戯(職業体験)の付き添いが、国家規模の『威力偵察(隠密作戦)』へと完全に変換されていた。
「ギ、ギルドマスター! この依頼の処理は、一体どうすれば……!」
受付嬢がパニックになりながら尋ねる。
「規定通りに処理しろ! それと……ミリア殿、および皆様!」
ギルドマスターは直立不動になり、限界まで声を震わせながらミリアに告げた。
「皆様の圧倒的な、いや、規格外の実績を認め、本来であれば即座にCランクへ昇格させるべきですが……その、ご自身の『計画(身分を隠すこと)』がおありでしょうから、今回は特例として、ポイントだけを最高値で付与させていただきます!」
「計画? よくわかんないけど、お小遣い(報酬)がいっぱいもらえるなら嬉しいです!」
ミリアが純粋な笑顔を浮かべると、ギルドマスターは「ひっ、恐悦至極に存じます!」とさらに腰を折った。
【ギルド上層部の勘違い(絶対的服従)が、さらに深化したことを確認】
【マスターの社会活動において、極めて優位な立場を固定化しました】
「――あの、ミリアちゃん、皆様」
その時、書類の処理を終えた受付嬢が、ひどく緊張した面持ちで、一枚の特別な羊皮紙を差し出してきた。
「今回のハイ・オーク討伐により、皆様の実力はギルドとして完全に保証されました。そこで、もしよろしければ……こちらの『特別依頼』を受けていただけないでしょうか?」
「特別依頼?」
ミリアが覗き込む。
「はい。王都から少し離れた場所にある、最近になって異常なマナの活性化が観測された『古代の地下迷宮』の、浅層エリアの調査依頼です。もちろん、危険な深部へ行く必要はありません。皆様のその……素晴らしい実力で、安全な範囲のマップを作っていただきたくて」
【新規特別クエスト:『古代の地下迷宮・浅層調査』の提案を検知】
【環境予測:地下構造。換気設備が整っておらず、未開の害虫(魔物)や有害なカビが多数存在することが予想されます】
(ふむ……地下室ですか。マスターの大切な衣服や肌が、カビや埃で汚れては大変です。直ちに『全自動スパリゾート機能』をポータブル化し、地下室全域を極上の快適空間へ改修する準備を始めましょう)
当機の演算回路は、早くも次なる「おもてなし(ダンジョンハッキング)」の計画を構築し始めていた。
「ミリア姉ちゃん、地下迷宮だってよ! かっこいいじゃん、俺たちの次のステージにぴったりだぜ!」
レオが剣の柄を叩いて笑う。
「よし、みんなで行ってみよう! アハトさん、次の冒険もよろしくね!」
「御意のままに、マスター。どこへ行こうとも、当機が最高の快適環境をお約束いたします」
無自覚な歩く天災パーティの次なる標的は、王国の古代迷宮に決定した。
そこに眠る魔物や罠が、純白のメイドロボによって「全自動リゾート設備」へと改造される日が、すぐそこに迫っていた。
【次回へのシステムログ・スタンバイ中……】
【次の目標:古代の地下迷宮への侵入、およびダンジョン全域の『ラグジュアリー空間化』プロトコルの起動】




