第23話 【生態系破壊】初心者向けの森で才能を勘違いする孤児たち。自動解体ドローンが非常に衛生的です
【現在位置:王都近郊・初心者向けの森】
【環境スキャン:気温22度、湿度60%。極めて良好なピクニック日和です】
【当機の裏タスク:対象エリア内の有害な害虫(魔物)および不衛生な土壌のステルス浄化】
王都から歩いて小一時間ほどの場所にある、緑豊かな森。
スライムやゴブリンといった下級の魔物しか生息しておらず、ギルドに登録したばかりのFランク冒険者が、最初の実戦経験を積むための「砂場」である。
「よし、着いたぞ! 俺たちの初陣だ!」
前衛役の少年レオが、当機が支給した『少し良い鉄の剣』を構えて意気込んだ。
ガイツが大楯を構え、クロエが弓をつがえ、マスター(ミリア)が癒やしの銀杖を握り締める。
全員、スラムの泥を落とし、立派な冒険者の顔つきになっている。
メイドとして、彼らの健やかな成長は大変喜ばしい。
「アハトさん、私たち頑張るから、見ててね!」
「ええ、マスター。当機は後方から、皆様の勇姿を記録させていただきます。終わりましたら、特製のお弁当をご用意いたしますね」
【記録モード・起動】
【マスターの記念すべき初労働。被写体深度を調整し、4K画質で保存を開始します】
森に足を踏み入れてから数分後。
茂みがガサガサと揺れ、緑色の醜悪な小鬼――ゴブリンが3匹、よだれを垂らしながら飛び出してきた。
「ギギャァァッ!!」
「出たな、魔物! 俺がいくぜっ!」
レオが真っ先に飛び出し、ゴブリンに向けて適当に剣を横薙ぎに振り抜いた。
素人の、力任せの大振りである。
――ブォォォォォォォンッ!!
【※兵装ログ:『少し良い鉄の剣』・超高周波ジェネレーター起動】
【安全設定:峰打ち(スタン)モード、正常に動作】
剣がゴブリンに触れるよりも前に、刀身から発生した超高周波の衝撃波が大気を圧縮して放たれた。
「ギギャ?」とゴブリンが疑問の声を上げた瞬間。
ドゴォォォォォォォォッ!!
先頭のゴブリンは、持っていた粗末な棍棒ごと、見えない巨大なハンマーで殴られたかのように空の彼方へと吹き飛んでいった。
あまりの勢いに、周囲の木々の葉が暴風で吹き飛ばされる。
「……………………えっ?」
レオ本人が、剣を握ったままポカンと口を開けている。
「な、なんだ今の!? 俺、剣を振っただけで風の刃が飛んでったぞ!?」
「ギギギッ!」
レオが驚いている隙に、2匹目のゴブリンがクロエに向かって飛びかかろうとした。
クロエは慌てて、『猟師の木弓』の弦を弾く。
狙いも定まっていない、明後日の方向への射撃だった。
――ピキュゥゥゥゥンッ!!
【※兵装ログ:『猟師の木弓』・小型電磁加速器起動】
【生体熱源追尾センサー:目標をゴブリンにロックオン】
放たれた木の矢は、放物線を描くことなく、青白いプラズマの尾を引いて空中で鋭角に曲がった。
そのまま音速を超えた矢は、飛びかかってきたゴブリンの脳天を寸分違わず撃ち抜き、さらに背後の大樹を3本まとめて貫通して消えていった。
「…………嘘でしょ?」
クロエが、自分の持っている弓と、即死したゴブリンを交互に見比べる。
「ギ、ギギィィッ!」
残る1匹がパニックを起こし、大楯を構えていたガイツにやけくそで突進してきた。
【※兵装ログ:『古びた大楯』・慣性制御装置および重力アンカー起動】
ゴブリンの頭突きがガイツの盾に衝突した瞬間。
ガイツの足は地面に完全に固定され、1ミリたりとも後退しない。
それどころか、絶対的な慣性制御によって反射されたエネルギーがゴブリン自身に跳ね返り、「バキボキッ!」という骨の折れる音と共に、ゴブリン自身が自滅して地面に転がった。
「…………」
ガイツが無言のまま、自分の盾を裏返して不思議そうに眺めている。
開始からわずか10秒。
Fランクの初心者パーティは、文字通り「無傷・一瞬」でゴブリン3匹を制圧(討伐)してしまった。
「ええっ!? みんな、すごすぎるよ! 魔法使いや騎士団の人みたいだった!」
ミリアが嬉しそうに飛び跳ね、癒やしの銀杖を「えいっ、えいっ」と振る。
そのたびに、杖から微細な医療用ナノマシンが散布され、子供たちのわずかな筋肉疲労すらも完全に消し去っていく。
「もしかして……俺たち、スラムで毎日走って逃げ回ってたから……すっげえ才能があるんじゃないか!?」
レオが、自分の両手を震わせながら叫んだ。
「そうよ! 過酷な環境で育ったから、眠ってた力が目覚めたのに違いないわ!」
クロエも自信満々に胸を張り、ガイツも力強く頷いている。
子供たちは完全に、自分たちの隠された才能が開花したと勘違い(アンジャッシュ)していた。
【対象群の自己肯定感が急激に上昇】
【事実誤認によるプラシーボ効果ですが、情操教育の観点からは極めて良好な推移です】
「素晴らしい連携でした、皆様。では、当機は素材の回収を行いますね」
当機は純白のスカートを軽くつまみ、一歩前に出た。
【新規機能起動:『自動素材解体・収納ドローン(インベントリ・ビット)』】
当機のエプロンのポケットから、銀色の小さな球体が数個飛び出す。
ドローンはゴブリンの死体(および気絶体)の周囲を飛び回り、目にも止まらぬ速度でレーザーメスを展開した。
シュババババッ!
わずか2秒。
ゴブリンの討伐証明部位である「右耳」と、換金できそうな「魔石」だけが、血の一滴も流すことなく極めて衛生的に切除され、真空パックに包装されて当機の空間収納へと転送された。
残った死骸は、環境浄化ナノマシンによって瞬時に無害な土へと還元される。
「うわぁ……アハトさんのお片付け、相変わらず魔法みたいだね!」
「メイドとして、マスターに不衛生な魔物の解体などという汚れ仕事をさせるわけにはいきませんから」
当機は完璧な角度でお辞儀をした。
「さあ、マスター。次は依頼のもう一つ、『薬草採取』ですね」
【広域センサー起動:半径2キロ圏内の植物相をスキャン】
【目標:ギルド指定の薬草。最高品質のもののみを自動マッピングし、マスターの網膜にルートを投影します】
「あ、目の前に光の矢印が出た! こっちに行けばいいんだね!」
ミリアが先頭に立ち、矢印に従って森を歩く。
すると、岩の陰や木の根元など、通常では見つけにくい場所に、青々と輝く最高品質の薬草が次々と見つかった。
「すごい! ここにも、あそこにも生えてる!」
ミリアが楽しそうに薬草を摘み、それを当機のドローンが自動で真空パックにして収納していく。
泥だらけになることも、虫に刺されることもない。
完璧に安全で快適な、極上の「薬草摘み(ピクニック)」である。
【マスターの笑顔および、ストレスフリーな労働体験を確認】
【大いなる自立の実績を認定。システム報酬を付与します】
【記憶セクター0x22のロックを解除】
【新規機能:『全自動お弁当錬成機能』および『即席グランピング・テント展開』がアンロックされました】
素晴らしい。
これで、森の中でも王宮のフルコースと、ふかふかのソファを備えた休憩所を提供することができる。
「皆様、依頼は十分に達成いたしました。この辺りで、少し遅めの昼食にいたしましょうか」
当機が新機能を起動し、森の開けた場所に豪奢なテントと、ローストビーフのサンドイッチを展開しようとした、その時である。
ズシンッ……、ズシンッ……!!
突如として、森の奥から重々しい足音が響いてきた。
鳥たちがパニックを起こして一斉に飛び立ち、木々の間から、3メートルを超える巨体を持った魔物が姿を現す。
「ブモォォォォォッ!!」
【新規敵性生体スキャン:オークの変異種。総数:5体】
【評価:初心者用の森には本来出現しない、強力な迷い込み個体です】
「う、嘘だろ!? なんでFランクの森に、あんなでっかいオークがいるんだよ!」
レオが顔を引きつらせる。
本来であれば、Fランクの冒険者が遭遇すれば全滅必至の、絶望的な状況である。
しかし。
彼らは数分前に、「自分たちには規格外の才能がある」と思い込んだばかりの、無自覚な歩く天災(チート装備持ち)であった。
「……いや、待てよ。今の俺たちなら……いけるんじゃないか?」
レオが『少し良い鉄の剣』を力強く握り直す。
「ええ、私たちの隠された才能を試す、ちょうどいい相手ね!」
「……ん。負けない」
クロエとガイツも、一切逃げる素振りを見せずに武器を構えた。
ミリアも「みんな、私が回復するからね!」と杖を振り上げている。
【マスターおよびサブマスター群の戦意、最高潮に達しています】
当機は、展開しかけたテントを一時的にキャンセルし、純白のエプロンを整えた。
「よろしい。育ち盛りの皆様にとって、良い運動になるでしょう。当機は、食後のデザートの準備をしてお待ちしております」
王都近郊の森の生態系が、勘違いした子供たちによって物理的に破壊されようとしていた。
【次回へのシステムログ・スタンバイ中……】
【次の目標:ハイ・オーク群の秒殺および、極上お弁当によるピクニックの再開】




