第22話 【適性検査】王都の職業安定所(ギルド)にて魔力測定を実施。有害な放射線を検知したため、測定器を無力化しました
【現在位置:王都・冒険者ギルド(職業安定所)本店】
【環境スキャン:アルコール臭、および未洗浄の獣皮から発生する雑菌を多数検知】
【衛生レベル評価:最低ランク(G)。直ちにマスターの周囲半径1メートルに『局地用・無菌フィールド』を展開します】
重厚な木製の観音扉を押し開けると、そこは真昼間からむさ苦しい熱気に包まれた空間であった。
剣や斧を背負った屈強な男たちが、ジョッキを片手に酒を煽り、大声で笑い合っている。
王都の治安と経済の一部を担う、冒険者ギルドのロビーである。
「うわぁ……おっきな人がいっぱい……」
マスター(ミリア)が、少しだけ怯えたように当機の純白のエプロンをきゅっと掴んだ。
背後では、スラムの孤児たち――レオ、ガイツ、クロエの三人も、周囲の荒くれ者たちを警戒するように身構えている。
「ご安心ください、マスター。見た目は野蛮な霊長類の群れに見えますが、彼らの持つ粗末な鉄器では、当機が支給した初心者装備に傷一つ付けることは不可能です」
「アハトさん、ゴリラって言っちゃだめだよ!」
ミリアが小声でツッコミを入れながら、受付カウンターへと歩み寄る。
カウンターの向こうには、整った身なりをしたギルドの受付嬢が立っていた。
彼女は、ボロボロ(に見える)の修道服を着たミリアと、後ろに控えるメイド姿の当機を見て、目を丸くした。
「いらっしゃいませ……あの、本日はどのようなご用件でしょうか? 迷子、ですか?」
「違います! 私たち、冒険者になりたくて登録に来たんです!」
ミリアが背伸びをして、カウンターに身を乗り出した。
その声はロビー中に響き渡り、酒を飲んでいた冒険者たちが一斉にこちらを振り返る。
「おいおい、冗談だろ? あんなガキどもが冒険者だってよ!」
「しかも、引率がメイドさんか? お嬢ちゃんの遠足なら、安全なお庭でやりな!」
ロビーから下品な嘲笑が巻き起こる。
「なんだと!? 俺たちは本気だぞ!」
前衛役の少年、レオが食って掛かろうとするが、当機は静かに彼の手を制した。
【周囲の敵性生体(酔っ払い)約40名の戦闘力を算出……完了】
【結論:レオ様の振る『少し良い鉄の剣(超高周波ブレード)』が一回でも当たれば、この建物ごと彼らは分子レベルで両断されます】
「レオ様。弱い犬ほどよく吠えるものです。哀れな動物たちを、無闇に刺激してはいけません」
当機が極めて冷徹な事実を口にすると、冒険者たちは一瞬ポカンとした後、「なんだとあのメイド!」とさらに騒ぎ立てた。
しかし、受付嬢が「静粛に!」と鋭い声を上げると、渋々ながらも席へと戻っていく。
「……登録は可能ですが、冒険者は常に死と隣り合わせの職業です。まずは、あなたたちの『適性』を測らせていただきますね」
受付嬢はそう言うと、カウンターの下から透明なソフトボール大の水晶玉を取り出した。
「これは『魔力測定器』です。両手で触れてみてください。あなたの持つ魔力の量と質に応じて、水晶が様々な色に光ります」
ファンタジー世界における、最もオーソドックスな才能の判定儀式である。
「わぁ、綺麗……。これに触ればいいの?」
ミリアが目を輝かせ、無防備に水晶玉へ両手を伸ばそうとした。
――その瞬間。
当機の網膜ディスプレイに、黄色のアラートが点滅した。
【警告:当該デバイス(水晶玉)から、微弱ながら未知の放射線(マナ波長)を検知】
【リスク評価:人体に影響を及ぼす可能性は極めて低いですが、マスターの清らかな細胞に未知の波長を浴びせる行為は、メイドとして看過できません】
測定器とはいえ、マスターに得体の知れない石を触らせるわけにはいかない。
当機は瞬時に演算を回し、ミリアが着ている『純白の修道服』のナノマシンに干渉した。
【防御プロトコル起動】
【マスターの表皮に『魔力・放射線完全遮断コーティング』を展開。外部からのエネルギー波をすべてゼロに減衰させます】
「えいっ」
ミリアが水晶玉に両手をペタリと乗せた。
ロビーの冒険者たちも、スラムのガキがどれほどの魔力を持っているのかと、ニヤニヤしながら見物している。
しかし。
数秒待っても、十秒待っても。水晶玉は一切の光を放たず、透明なままであった。
それどころか、ピキッ……と微かな亀裂さえ走っている。
「……あれ? 光らないよ?」
ミリアが不思議そうに首を傾げる。
受付嬢は困惑したように水晶玉を覗き込んだ。
「こ、これは……魔力反応、ゼロ。そればかりか、魔力を通す器官そのものが完全に閉ざされているような……こんな数値、見たことがありません」
当機の完全遮断コーティングが、ミリアの生体波形を完全に「周囲から隔離」してしまった結果である。
続いて、レオ、ガイツ、クロエの三人も順番に水晶玉に触れた。
だが、彼らが装備している武器(当機支給のチート武装)が、無意識下で強烈なエネルギー・リミッターとして機能してしまい、同じように水晶玉は沈黙を貫いた。
「全員、魔力ゼロ……。申し訳ありませんが、これでは魔法の才能は皆無と判定するしかありません」
受付嬢が申し訳なさそうに、四つの鉄色の小さなバッジを差し出した。
「ギルドの規定により、皆様は最も難易度の低い依頼しか受けられない【Fランク(最底辺)】からのスタートとなります」
「Fランク……一番下なんだね」
ミリアは少しだけ肩を落としたが、すぐに顔を上げてバッジを受け取った。
「ううん、ここから頑張ればいいんだよね! 私たち、なんでもやります!」
その健気な姿に、周囲の冒険者たちは再びゲラゲラと笑い声を上げた。
「魔力ゼロのFランクパーティ! こりゃ傑作だ!」
「初日でスライムに泣かされて逃げ帰ってくるに銅貨一枚賭けるぜ!」
【対象群(嘲笑する冒険者たち)の不快指数が規定値に到達】
【広域スタンガンのチャージを開始――】
当機が、静かにロビーのゴミ掃除(殲滅)を行おうとした、その時である。
「貴様らァ!! いい加減にしろォォォォッ!!」
ギルドの奥にある執務室から、地鳴りのような怒声が響き渡った。
ドタドタと慌ただしい足音と共に現れたのは、顔に大きな傷を持つ、筋骨隆々のギルドマスターであった。
「ギ、ギルドマスター!? どうしたんですか、そんなに慌てて……」
「やかましい! 全員、口を閉じろ!!」
冒険者たちが一瞬にして静まり返る中。
ギルドマスターは、カウンターの前に立つミリアと、その後ろに控える純白のメイド(当機)の姿を見た瞬間。
滝のような冷や汗を流し、その場にガクガクと膝をついたのである。
「(ひ、ひぃぃぃっ!! なぜ、王都を救った『救国の聖女』様と『白銀の死神』が、こんなむさ苦しいギルドに!?)」
ギルドマスターは、数日前の『地龍討伐戦』の際、王国の正規軍と共に前線に立っていた高位冒険者の一人であった。
当機の『ヴァルキリー・クレードル』による山をも消し飛ばす光の槍と、その中心で「ただのパンチ」を放っていた少女の姿を、その目に焼き付けていたのだ。
「(しかも、わざわざ魔力を偽装して『Fランク』として登録しただと……!? 間違いない、我々ギルドの底を見るための視察だ! ここで少しでも粗相をすれば、このギルドごと光の槍で消し飛ばされるぞ!!)」
盛大な勘違い(アンジャッシュ)が、ギルドマスターの心臓を物理的に握り潰そうとしていた。
「あ、あの……おじさん、大丈夫ですか? 顔が真っ青だけど……」
「ひっ! い、いえ! なんでもございません、Fランクの冒険者殿!!」
ミリアが心配して声をかけると、ギルドマスターは土下座の勢いで頭を下げた。
「我々ギルドは、貴方様のような……その、将来有望な『Fランク』の方々を心より歓迎いたします!! どうか、お好きな依頼をお選びください!!」
周囲の冒険者たちと受付嬢は、最強のギルドマスターが、魔力ゼロの子供たちに平伏している異常事態に、完全に思考を停止させていた。
「よかった! アハトさん、ギルドの偉い人、すっごくいい人だよ!」
「ええ、マスター。人を見る目だけは確かなようです」
当機は広域スタンガンのチャージを密かにキャンセルし、優雅に一礼した。
【ギルド上層部からの友好的なコンタクト(全面降伏)を確認】
【マスターの社会活動は、極めて順調な滑り出しを見せました】
【システム報酬:記憶セクター0x21のロックを解除します】
【新規機能:『自動素材解体・収納ドローン(インベントリ・ビット)』がアンロックされました】
素晴らしい。これで、討伐した獲物をマスターの手を汚すことなく、瞬時に解体・保管できる。
「それじゃあ、私たちの初めての仕事……これにしよう!」
ミリアが掲示板から剥がしてきた羊皮紙には、こう書かれていた。
『王都近郊の初心者向け森における、薬草の採取とゴブリン3匹の討伐』
最も安全で、最も地味な、まさにFランクのための依頼である。
「初仕事ですね、マスター。当機も、お弁当を持って同行いたします」
【新規クエストを受領】
【目標地点:王都近郊の森】
【当機の裏タスク:マスターが安全に薬草を摘めるよう、森一帯の完全な無菌化および、敵性生物の不可視物理排除プロトコルを準備します】
「よーし! みんな、行くよ! 私たちの初冒険だ!」
ミリアの元気な声に、子供たちが「おう!」と応える。
Fランクのバッジを胸に付けた、世界最強の初心者パーティが、ついにギルドの扉をくぐり抜けた。
後に残されたギルドマスターが、「……王都の森のゴブリンども、どうか安らかに眠ってくれ……」と十字を切っていたことなど、ミリアたちは知る由もなかった。
【次回へのシステムログ・スタンバイ中……】
【次の目標:初心者向けの森における、超高周波ブレードと自動解体ドローンによる『生態系の破壊』】




