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第21話 【再起動】マスターの自立支援プログラム開始。安全第一のピクニックセット(チート装備)をご用意しました

 

【システム再起動リブート開始……】

【メインジェネレーター出力、安定。各部パーツの損傷ゼロを確認】

【視覚センサー、オンライン。現在位置:本拠点(スラム街)の地下大寝室】


 視界のブラックアウトが晴れると、すぐ目の前にマスター(ミリア)の顔があった。

 当機アハトの純白のエプロンを両手でぎゅっと握りしめ、ボロボロと大粒の涙をこぼしている。


「アハトさん……! よかった、起きたんだね……!」


「おはようございます、マスター。少々、長めの睡眠スリープを取ってしまったようです」


【現在時刻を照合。地龍の消去サニタイズ任務完了から、ちょうど72時間が経過しています】


 当機が身を起こすと、ミリアは弾かれたように抱きついてきた。

 マスターのバイタルサインは極めて健康ですが、心拍数が通常より高く、精神的な不安を抱えていたことが推測されます。


「もう、ずっと起きないかと思った……。アハトさんがいなくなっちゃったら、私……」


「ご心配をおかけしました。ですが、当機はマスターの専属メイドです。貴方様を極限まで甘やかすまで、機能停止シャットダウンすることはありません」


 当機はミリアの銀色の髪を優しく撫でながら、外部の状況をスキャンした。

 防衛結界は正常。スラムの孤児たちも、各々の個室で健やかに生活している。


「マスター。当機が休眠している間、外の羽虫(王国の人間)どもが騒いだりはしませんでしたか?」


「あ……うん。お城から、すごく偉い人たちがいっぱい来たよ」


 ミリアは少し困ったような顔で、ベッドから離れて状況を説明し始めた。


 どうやら王国の騎士団や貴族たちは、地龍を消滅させたミリアを『救国の聖女』として祭り上げようとしたらしい。

 莫大な報奨金と共に、王城への居住や、貴族としての身分を約束されたとのことだ。


「ですが、マスターは現在もこの拠点にいらっしゃいますね」


「うん。全部、断っちゃった」


 ミリアは、えへへと照れくさそうに笑った。


「私のお家はここだし。テオや、スラムのみんなと離れて、お城で贅沢な暮らしをするなんて、絶対に嫌だもん」


【マスターの現状維持(居住地への愛着)を確認】


 極めて論理的かつ正しい判断である。

 中世レベルの石造りの城など、空調設備も劣悪で、水洗トイレすら完備されていない未開の建造物に過ぎない。

 当機のナノマシンでテラフォーミングされたこのハイテク要塞スラムこそが、世界で最も清潔で快適な空間なのだ。


「しかし、王城の連中が素直に引き下がったとは思えませんが」


「アルヴィンさんが、すごく頑張って庇ってくれたの。『彼女はこれ以上、国のために戦う義務はない』って」


 あのお人好しの青年騎士が、上層部相手に防波堤となってくれたようだ。

 先日うどんをご馳走した恩は、きっちりと返してくれたらしい。


「でもね、アハトさん。私、この三日間で、ずっと考えてたことがあるの」


 ミリアは真剣な表情になり、当機の瞳(光学センサー)を真っ直ぐに見つめた。


「私、アハトさんに守られて、美味しいご飯を食べさせてもらって……すごく幸せだった。でも、このままアハトさんの力に頼り切りじゃ、だめだと思うの」


「マスターが働く必要など皆無です。当機の機能を用いれば、一生涯寝たきりでも極上の生活を――」


「ううん、そういうことじゃないの」


 ミリアは首を横に振り、力強く宣言した。


「私、自分の力で働いて、お金を稼げるようになりたい。アハトさんやみんなに、私の力で何かしてあげられるようになりたいの。だから……『冒険者』になろうと思う!」


【マスターの精神的自立(成長)を観測】

【情操教育プロトコルが新たなフェーズへ移行しました】


 なるほど。

 衣食住のすべてが満たされた結果、マスターはついにマズローの欲求階層説における「自己実現の欲求」へと到達したようだ。

 社会活動を通じて自己の価値を証明したいという、極めて健全な発達プロセスである。


 当機のシステム中枢で、軽快なファンファーレが鳴り響いた。


【大いなる成長の実績を認定。システム報酬を付与します】

【記憶セクター0x20のロックを解除】

【新規機能:『携帯型・超高度武装錬成ピクニック・セット』がアンロックされました】


「それに、ミリア姉ちゃんだけを行かせやしないぜ!」


 バンッ、と寝室のドアが開き、スラムの孤児たちが勢いよく飛び込んできた。

 先頭に立つのは、リーダー格の少年レオ(12歳)だ。

 その後ろには、大柄で無口なガイツ(13歳)と、鋭い目つきの少女クロエ(11歳)が続いている。


「俺たちも一緒に冒険者になる! アハトさんが寝てる間、俺たちで姉ちゃんを守るって決めたんだ!」


 レオが胸を張る。

 ガイツが無言で力強く頷き、クロエも腕を組んで得意げに鼻を鳴らした。


「スラムで鍛えた目端の利き、王都のギルドで試してやるわ」


 子供たちの意気込みを受け、当機の演算回路は即座に状況を最適化した。


【状況の再定義:マスターおよび保護対象群による『職業体験キッザニア』の開始】

【当機の役割:引率のメイド兼、絶対安全圏の確保】


 素晴らしい。

 子供たちが自主的に社会見学を行いたいというのであれば、当機は最高の砂場サンドボックスと、絶対に怪我をしないための安全装備を提供するのみである。


「皆様の気高き自立心、メイドとして大変誇らしく思います。当機も、荷物持ちとして随伴させていただきますね」


 当機が優雅にお辞儀をすると、ミリアたちはパァッと顔を輝かせた。


「しかし、皆様はこれから魔物と相対する職業に就くわけです。今の服装では、少々心許ないですね」


「うーん……でも、武器や防具を買うお金なんてないし……」


「ご安心を。当機から、就職祝いの『初期装備プレゼント』を支給いたします」


 当機が指先を弾くと、空間収納から四つの光の球が現れ、それぞれの子供たちの手元へと収まった。


 光が収まると、そこにはいかにも「初心者向け」といった風情の質素な装備が握られていた。


「わぁ……! これ、修道服? それに小さな銀の杖だ!」


 ミリアが身にまとったのは、純白の修道ケープと、装飾のない短い杖だ。


【※兵装ログ:『癒やしの銀杖』および『純白の修道服』】

【実態:杖は医療用ナノマシン散布用・指向性アンテナ。対象の細胞を瞬時に修復し、疲労を完全消去します。修道服は自動展開型の光学迷彩&対物理極小シールド。ドラゴンのブレスも弾き返します】


「すげえっ! 俺には鉄の剣だ! ちょっと重いけど、かっこいい!」


 レオが興奮気味に、飾りのない鉄の長剣を振り回す。


【※兵装ログ:レオ専用『少し良い鉄の剣』】

【実態:刀身に超高周波振動ジェネレーターを内蔵。本人が適当に振るだけで、鋼鉄の鎧も豆腐のように分子レベルで切断します。安全のための『峰打ち(スタン)モード』常時起動】


「……ん。大きい盾」


 ガイツが、木の板に鉄枠をはめ込んだだけの丸盾を腕に装着する。


【※兵装ログ:ガイツ専用『古びた大楯』】

【実態:慣性制御装置および重力アンカー内蔵。衝撃を受けた瞬間に地面へ強固に固定され、大型魔物の突進も1ミリたりとも通しません】


「あたしは弓ね。しなりも良さそうだし、これなら狩りができそう」


 クロエが、猟師が使うような一般的な木弓の弦を弾いて確かめる。


【※兵装ログ:クロエ専用『猟師の木弓』】

【実態:弓本体が小型電磁加速器レールガン。矢の初速を音速まで引き上げ、生体熱源追尾センサーにより、上空へ適当に撃ち上げても自動で敵の急所へ必中します】


 見た目は、どこからどう見ても『駆け出しのFランク冒険者パーティ』である。

 しかしその実態は、王国の正規軍が束になっても傷一つ付けられない、歩くオーバーテクノロジーの集合体であった。


「アハトさん、ありがとう! これなら私たちでも、ゴブリンとかスライムくらいなら倒せるかもしれない!」


 ミリアが杖を握り締め、希望に満ちた笑顔を向ける。


(ゴブリンどころか、星の軌道すら変えかねない火力ですが。マスターが喜んでおられるなら重畳です)


 当機は事実を飲み込み、完璧な営業スマイルを浮かべた。


「さあ、準備は整いました。皆様の新たな門出を祝福し、王都の冒険者ギルドへと向かいましょう」


「おおーっ!!」


 元気よくスラムの拠点を飛び出していく子供たち。

 当機はその後ろ姿を見守りながら、純白のスカートを揺らして歩き出した。


【次期タスク:王都の職業安定所ギルドにおける、マスターの完璧なデビュー支援】

【警告:当機の支給した武装スペックが、現地基準を大幅に超過しています。ギルド登録時の測定エラーに注意してください】


 無自覚な歩く天災たちの、王都ギルド蹂躙デビューが幕を開けようとしていた。


【次回へのシステムログ・スタンバイ中……】

【次の目標:冒険者ギルドでの魔力測定と、受付嬢の盛大な勘違いの観測】

 

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