第19話 【変形】搭乗型メカスーツ『ヴァルキリー・クレードル』起動。マスターの決意を物理的な殲滅力へと変換します
【現在時刻:現地時間 06:45】
【基本プロトコル:『居住支援』から『殲滅戦術』へと移行完了】
【最高権限マスター(ミリア)からの『絶対護衛および広域防衛』コマンドを受理】
「私は逃げない。……みんなを、守って!」
マスター(ミリア)の気高き決意の涙がスラムの地面に落ちた瞬間。
当機の中枢システムに掛けられていたブラックボックスの封印が、甲高い稼働音と共に完全に解除された。
【記憶セクター0x01、物理プロテクト解除】
【対星間用・戦術強襲形態へのトランスフォーム・シークエンスを開始します】
「アハト……さん……? 体が、光って……!」
ミリアが涙を拭うのも忘れ、驚愕に目を見開く。
当機を覆っていた純白のエプロンドレスが、圧倒的な光の粒子(ナノマシンの集合体)へと分解され、周囲の空間を渦を巻くように覆い尽くしていく。
「な、なんだ!? 一体何が起きている……!?」
全身傷だらけで倒れ込んでいた騎士アルヴィンも、あまりの光量に腕で顔を庇いながら呻き声を上げた。
【空間の質量を強制変換。縮退炉の出力を0.0001%から35%へ引き上げ】
【装甲材質:超時空合金。外部兵装マウント:オールグリーン】
光の渦が収束し、そこに現れたのは、もはや「可憐なメイド」の姿ではなかった。
全高約2メートル。
純白と銀色を基調とした、極めて美しく、かつ凶悪な流線型のフォルムを持つ『搭乗型メカスーツ』。
背部には青白いプラズマの炎を噴き出すスラスターを備え、両腕には重厚なガントレット、そして頭部には天使の輪のようなセンサー・リングが浮遊している。
「これより、当機は機動殲滅スーツ『ヴァルキリー・クレードル』として、マスターの意志を代行します」
メカスーツの胸部装甲が、蒸気を噴き出しながら左右に展開した。
中には、小柄なミリアがすっぽりと収まるサイズの、極上のクッション性を備えたコックピット(操縦席)が用意されている。
「さあ、マスター。当機の胸の中へ。貴方様の戦う意志を、当機が物理的な暴力へと変換いたしましょう」
「私が……これに乗るの?」
「はい。操縦技術は一切不要です。当機の知覚インターフェースとマスターの神経を同調させ、貴方様の『ただの動き』を、最強の武力として出力します」
ミリアは一瞬だけ呆然としていたが、すぐに力強く頷き、メカスーツの胸の中へと足を踏み入れた。
【マスターの生体情報をリンク。シンクロ率、規定値をクリア】
【神経接続(痛覚遮断・視覚共有モード)完了。ハッチを閉鎖します】
プシュゥゥゥンッ……ガコンッ。
ミリアを包み込むように胸部装甲が閉じられる。
外部から見れば、美しい白銀の戦乙女がそこに屹立しているだけだ。
しかし、その内側では、ミリアの視界と当機の広域センサーが完全に同調し、スラムの外で暴れ回る5万の魔物たちの姿が、手に取るように把握できていた。
「すごい……! 外の様子が全部見える……それに、体がすっごく軽い!」
コックピット内でミリアが腕を動かすと、外のメカスーツの巨大な腕が、コンマ一秒の遅れもなく滑らかに連動する。
「な、なんなんだその白銀の鎧は……!? 無詠唱でゴーレムを錬成し、その中に入ったというのか!?」
地面に這いつくばるアルヴィンが、完全に理解を超えたオーバーテクノロジー兵器を前に発狂寸前の声を上げている。
「アルヴィン様。貴方様の勇気ある行動により、マスターは『守るべき世界』の美しさを知りました。感謝いたします」
当機の外部スピーカーから、アハトの冷静な音声が響いた。
「貴方様はそのまま、当機が錬成した防衛結界の中で休眠していてください。マスター、出撃します」
「うん……っ! 行こう、アハトさん!」
【足底スラスター、点火。目標、王都第一防衛線・突破口】
――ドゴォォォォォォンッ!!!
メカスーツが大地を蹴った瞬間、スラムの地面がクレーターのように陥没した。
音速を優に超える初速。
当機はスラムを隔てる巨大な石壁を文字通り「飛び越え」、魔物たちが雪崩れ込もうとしている王都の平原へと、隕石のような速度で降下した。
***
「ひぃぃぃっ! 囲まれたぞ! 槍を構えろ!」
「だ、駄目だ! 影狼どもの牙で盾が紙くずみたいに……!」
王都の外縁部では、絶望的な防衛戦が展開されていた。
魔法を吸収する数万の魔物の群れを前に、王国の騎士たちは次々と武器を破壊され、陣形を食い破られている。
「ここまでか……」
前線で指揮を執っていた部隊長が、迫りくる無数の赤い眼光を前に、静かに目を閉じた。
その時である。
――ズドォォォォォォォォンッ!!!
戦場のど真ん中、騎士たちと魔物の群れの間に、空から『白銀の流星』が突き刺さった。
「なっ……!? なんだ!?」
巻き上がる土煙と衝撃波によって、周囲にいた数百体の影狼がボールのように吹き飛ばされる。
煙が晴れた後に屹立していたのは、見たこともない白銀の機械鎧だった。
『……ここから先は、通さない』
メカスーツの外部スピーカーから、少女の凛とした声が戦場に響き渡る。
「あ、あれは……っ!? スラムに現れたという、白銀の死神……!?」
「いや、声が違う! それに、あの姿は……戦乙女!?」
王国の騎士たちが呆然と見上げる中、魔物の群れが獲物を奪われた怒りで咆哮を上げ、一斉に当機へと襲いかかってきた。
その数、ざっと三千。
『アハトさん、来るよ!』
【敵性生体反応の接近を確認。マスター、迎撃のモーションを。当機がすべてを同調アシストします】
コックピットの中で、ミリアがぎゅっと拳を握り締め、迫りくる魔物の群れに向かって、ただ真っ直ぐに「パンチ」を放った。
スラムの少女の、喧嘩の技術すらない、ただの素人のパンチ。
しかし、それが当機の駆動系と同調した瞬間、事象は『天災』へと化す。
【モーション入力確認。右腕ジェネレーター、出力開放】
【打撃エネルギーに指向性音波とプラズマを上乗せします】
メカスーツの右腕が、ミリアの動きに連動して前方に突き出された。
――ヒュンッ。
一瞬の静寂。
直後。
バゴォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!
当機の右拳から放たれたのは、大気を極限まで圧縮して撃ち出された『音速の衝撃波』だった。
それは竜巻のような螺旋を描きながら扇状に広がり、射線上にいた三千体の魔物の群れを、物理的な圧力だけで「ミンチすら残さず粉砕」した。
「……………………は?」
王国の騎士たちが、全員一斉に顎を外したように口を開けた。
彼らの目の前に広がっていた黒い魔物の絨毯が、たった一発の「見えないパンチ」によって、長さ数百メートル、幅数十メートルにわたって完全に『消失(えぐり取られて)』いたのだ。
魔法ではない。純粋な物理的運動エネルギーによる、圧倒的な暴力。
『すごい……! 私、ただ手を前に出しただけなのに!』
コックピット内で、ミリア自身が一番驚きの声を上げている。
【マスターの戦意、極めて良好です。これより、全敵対勢力を物理的に排除します】
数万の魔物群が、本能的な恐怖で足を止める。
だが、もう遅い。一度目覚めた最終兵器の甘やかし(殲滅戦術)は、対象のすべてを塵にするまで止まらない。
【次回へのシステムログ・スタンバイ中……】
【次の目標:対星間用ガトリング砲による弾幕展開と、超巨大地龍とのコンタクト】




