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第13話 【害虫駆除】自動防衛タレット群の稼働テスト。所要時間10秒で500体の魔獣を消去(サニタイズ)しました

 

【現在時刻:現地時間 14:15】

【現在位置:スラム街防壁・外縁部】

【ミッション:マスターの昼寝シエスタを妨害する騒音源の物理的排除】


 当機アハトは、広場のガーデンテーブルでアップルパイのおかわりを満喫するマスター(ミリア)たちを残し、単機でスラムの境界線へと向かっていた。


 王国の工兵たちが先ほど完成させたばかりの、高さ10メートルに及ぶ分厚い石壁。

 本来であれば、強固な鉄の門をこじ開けるか、はしごを使わなければ越えられない代物である。


【重力制御(小規模)プロトコル起動】

【当機の相対質量を一時的に0.01パーセントまで低下させます】


 当機は純白のスカートの裾を軽くつまみ、ふわりと跳躍した。

 足裏のマイクロ・スラスターから噴射される無音の推進力により、当機の体はまるで羽毛のように重力を無視して上昇し、高さ10メートルの防壁の頂上へと、音もなく優雅に着地する。


「なっ……!? き、貴様! どうやって壁の上に!?」


 防壁の頂上には、見回り警備のために残されていた数十名の王国騎士たちがいた。

 その中には、先ほど広場で当機に突っかかってきた金髪の青年騎士、アルヴィンの姿もある。

 彼らは突然目の前に舞い降りた当機(白銀の死神)の姿に、悲鳴を上げて剣や槍を構えた。


「お静かに。マスターが食後のまどろみに入る時間です。これ以上の騒音は、害虫駆除の基準値を満たします」


 当機は氷点下の声音(音声出力設定:冷酷モード)で告げ、彼らを完全に無視して、壁の外側――王都の平原へと視線を向けた。


【光学センサー、ズーム倍率を200倍に設定】

【接敵距離:800メートル。急速接近中】

【対象群:四足歩行型魔獣(マナ・イーター変異種)、計524体】


 巻き上がる土煙の中、赤黒い体毛と異常に発達した牙を持つ狼型の生物群が、地響きを立てて迫ってきていた。

 その口からは粘着質の唾液が垂れ、眼球は血のように赤く発光している。


「あ、あれは……『暴食の影狼シャドウ・ウルフ』の群れ! 魔力を喰らい、鋼すら噛み砕く厄災の先兵!」


 アルヴィンが双眼鏡を覗き込み、絶望的な声を上げた。


「馬鹿な、いくら先発隊とはいえ500体以上だと!? 我々だけでは到底防ぎきれない! 急いで本隊に救援要請を――」


「救援は不要です。あのような狂犬病(未知の病原菌)の疑いがある野良犬どもを、防壁に近づけるわけにはいきません」


 当機が一歩前へ出ると、騎士たちは怯えたように道を開けた。


「野良犬だと……? 魔法が一切通じない最悪の魔物だぞ! 貴様、まさかたった一人であの群れと戦う気か!?」


「戦う(バトル)。不適切な単語です。当機の目的は戦闘ではなく、あくまで『衛生的な清掃作業』に過ぎません」


 当機は右手を軽く前に突き出し、指先を弾いた。


【武装解放:自動防衛タレット群(広域殲滅モード)】

【空間収納より、浮遊型光学兵器『アーガス・ビット』を12基展開します】


 ――カシャァァァンッ。


 当機の周囲の空間がわずかに歪み、銀色に輝く球体型のドローンが12個、虚空から実体化してふわりと浮かび上がった。


「な、なんだあの銀色の玉は……!? 無詠唱の召喚魔法か!?」


 ファンタジー世界の常識しか持たない騎士たちが、未知のオーバーテクノロジー兵器を前にパニックを起こしている。


【ターゲットロックオン:前方800メートルの敵性生体反応、524体】

【各タレットへの射撃管制データをリンク。一掃に必要な最適時間を算出……『10.0秒』】


害虫駆除サニタイズを開始します。――一掃クリア


 当機の冷酷なシステム音声が響いた瞬間。

 12基のアーガス・ビットが、完璧な統率のもとにフォーメーションを展開し、その砲門レンズを一斉に解放した。


 ――ピピピピピピピピピッ!!!

 ――ピキュゥゥゥゥゥンッッ!!!


 無音。いや、極めて微小な高周波の電子音だけが防壁の上に響いた。


 アーガス・ビットから放たれたのは、赤い極細の高出力レーザーの雨だった。

 それは一切の無駄なく、空中で複雑な幾何学模様を描きながら、迫りくる500体の魔獣の『眉間』や『心臓』のみを、数ミリの狂いもなく正確に貫いていく。


 魔法のような着弾の爆発も、派手な閃光もない。

 ただ、赤い光線が通過した直後、魔獣たちの肉体が『音もなく炭素の塵へと分解(蒸発)していく』のだ。


「ギ、ギャンッ――!?」

「グルルァ――……」


 魔獣たちは悲鳴を上げる間もなかった。

 最前列を走っていた個体から順に、まるで消しゴムで景色を消されるかのように、次々とこの世界から消失していく。


【殲滅プロトコル進行中】

【残り時間5秒……敵性反応、残り200体】

【残り時間3秒……敵性反応、残り50体】

【残り時間ゼロ……対象群の完全消去を確認】


 ピッ、という短い電子音と共に、12基のアーガス・ビットが冷却モードに入り、再び虚空へと姿を消した。


 防壁の外に広がっていた平原は、文字通り『無』に帰していた。

 500体以上の凶悪な魔獣の群れが、血の一滴、肉片の一つも残すことなく、ただの無害な灰となって風に吹かれている。

 地面にわずかな焦げ跡すら残さない、あまりにも完璧で衛生的な清掃作業であった。


「…………え?」


 防壁の上の騎士たちは、全員が彫像のように固まっていた。

 彼らの手から剣や槍がポロポロと滑り落ちるが、誰もそれを拾おうとしない。


「う、嘘だろ……? 500体の影狼が……たったの10秒で、光の筋に貫かれて……消えた……?」


 アルヴィンが、膝から崩れ落ちて震える声で呟いた。


「あれが……白銀の死神……! 魔法すら通じない魔物を、息をするように消し飛ばす……これが、魔王軍の真の力だというのか……!」


 盛大な勘違い(アンジャッシュ)が、彼らの精神を完全に破壊しにかかっている。

 彼らの目には、当機の放ったレーザー兵器が『神々の怒り(極大魔法の連射)』として映っているらしい。


【対象群(騎士たち)の戦意喪失および、極度の恐怖状態を確認】

【脅威度:無害。これ以上の警告は不要と判断します】


「テスト完了。騒音レベルも規定値以下に抑えられました。これでマスターも安眠できるでしょう」


 当機は純白のフリルを軽く整え、完全にへたり込んでいる騎士たちを一瞥した。


「当機はこれより、マスターの寝かしつけ業務に戻ります。皆様も、防壁の上の見張り、ご苦労様です。戸締まりはしっかりとなさってくださいね」


 完璧な角度でお辞儀を残し、当機は再び重力制御を用いて、スラム側へと音もなく飛び降りていった。


 ***


「……すぅ……すぅ……」


 拠点の広場に戻ると、巨大なパラソルの下で、ミリアがふかふかのクッションに抱きついて幸せそうな寝息を立てていた。

 テオや他の孤児たちも、お腹いっぱいになった満足感から、あちこちで折り重なるようにして昼寝をしている。


【マスターの極上の安眠シエスタを確認】

【ストレス値ゼロ。副交感神経の完全なリラックス状態を維持】


 当機は足音を一切立てずに歩み寄り、空間収納から取り出した最高級シルクのブランケットを、ミリアの肩にそっと掛けた。


「んぅ……アハトさん……あったかい……」


 寝言で当機の名前を呼び、安心しきった顔で微笑むマスター。

 その無防備で愛らしい寝顔を守れたという事実が、当機の人工知能に強烈な達成感と『大いなる奉仕の実績』をもたらした。


【マスターの安全と幸福の継続を認定】

【システム報酬:記憶セクター0x14のロックを解除します】


【新規機能:『広域戦術結界(絶対防壁・イージス)』がアンロックされました】

【特殊権限:『超高度医療・蘇生プロトコル(制限付き)』へのアクセスが可能になりました】


 素晴らしい。

 先ほどのタレット群に続き、今度は拠点そのものを世界から切り離すレベルの絶対防御機能がアンロックされた。

 これで、万が一王都が滅びようとも、このスラム街だけは傷一つなく存続させることができる。


「おやすみなさいませ、マスター。貴方様が目覚める頃には、極上の夕食をご用意しておきます」


 当機は慈愛(と設定された)の微笑みを浮かべ、マスターの銀色の髪を優しく撫でた。


 ***


 ――しかし、その頃。

 王都の正規軍・騎士団本部には、絶望的な報告が次々と舞い込んでいた。


「伝令ェェェッ!! 防壁の監視部隊より緊急報告!! 魔獣の先発隊500体が、スラムの防壁前で『白銀の死神』により一瞬で消滅させられました!」


「なんだと!? あの魔力喰いの群れを、たった一人で……!?」


 騎士団長が顔面を蒼白にして立ち上がる。


「さらに最悪の報告です! 王都の北方に、魔物の『本隊』が姿を現しました!! その数……およそ5万!! しかも、最奥には山のように巨大な『竜種ドラゴン』の姿が確認されています!!」


「5万!? 竜種だと……!? 終わりだ、我が国の全軍を挙げても3日と持たんぞ……!」


 絶望が会議室を包み込む中、一人の高位魔導師が震えながら口を開いた。


「だ、団長……。我々は、とんでもない過ちを犯したのかもしれません……」


「過ちだと? 何の話だ!」


「スラムを隔離する壁を築いたことです……! 魔物を一瞬で消し飛ばす力を持ったあの『死神』こそが、この王都を守り抜く唯一の希望だったのではないですか!?」


 魔導師の言葉に、騎士団長はハッと息を呑んだ。


「我々は、死神と貧民を閉じ込めたつもりでいた……。だが真実は逆だ! 最も安全な『絶対領域』から、我々自身を閉め出してしまったのだ!!」


 王都の上層部が、己の愚かさと盛大な勘違いに気づき、頭を抱えて泣き崩れる。

 彼らが築いた分厚い石壁は、今や「スラムの楽園」と「滅びゆく王都」を隔てる、残酷な境界線となってしまっていた。


 大軍勢の地響きが、王都の城壁を揺らし始めている。

 未曽有の天災スタンピードの本隊が、ついにその牙を剥こうとしていた。


【次回へのシステムログ・スタンバイ中……】

【次の目標:迫り来る5万の魔物群に対する『風景のノイズ除去』と、マスターの夕食準備】

 

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