シンリンとの生活~2~
村はリーヴァーと反対側に位置しているから、戦火に巻きこまれなかったと、村人の大人が言うので、そうなのだと思っていた。実際は、王族以外は攻撃対象ではないから、無視されていただけだった。
「普通の侵略行為とは違う戦争だったからな」
「でも、王族を守ろうとする人もいたでしょう? そういう人は、どうしたの?」
「邪魔者は消されるだけのことよ」
冷たい口調で言い切られる。
理不尽だが、それが戦争というものなのかもしれない。お互いに武器を持って戦うのだ。昨日の魔物のように、命の危険にさらされる。戦うということは、常に死が隣り合わせとなって、殺し殺され……。きっと覚悟がないと、戦場には立てない。
昨日、魔物と戦ったばかり。もう一度戦えと言われても足がすくみ、体が動かず、無理かもしれない。今の私には覚悟がないと、書斎の鍵を握りながら思う。
「降伏すれば傷つけないと言われ、白旗を掲げる領主も多かった。白旗を掲げるというのは、戦意がないと示すことだ。これは世界各国共通し、白旗を掲げた者への攻撃は、批判が集中する悪行。世界を敵に回す。また、白旗を掲げつつ攻撃することも重罪だ。それこそ殺されても文句を言えない」
「王族を守るより、自分や多くの命を救う道を選んだってこと?」
「そういう者もいたが、王族を全員殺されるとは思わなかった者もいる。処刑後、後悔した領主も多い。だからこそ、そなたは危険なのだ」
どう繋がるのか分からない私は、首を傾ける。
「全員亡くなり後悔している者たちにとって、王族が生き残っていると知れば、そなたは希望。守りつつ、担ぎ上げる存在。正当な者を王位につけろと動き、内乱……。国内で戦争が起きるだろう。内乱を起こさせないためにも、現在の王家は生き残りがいないかと、必死に探している。生存説の噂はつきないからな」
「もし、私が生き残りだと知られたら……」
「リーヴァーに殺される。だから鍵をかけないのは不用心だと言うのだ。もしリーヴァーの関係者がそなたの正体に気がつき、闇夜に紛れて襲ってきたらどうるすつもりだ。だから我は口うるさく言わせてもらうぞ」
ママが消えたことと話の辻褄は合うけれど、こんな真実は知りたくなかった。でも知らなければ、永遠とママを待ち続けた。どちらが幸せだったのだろう。今は判断できない。きっと未来になっても、結論は出ないかもしれない。やっぱりママを嫌いになれないから。
だって、これまでおばあちゃんと一緒に、赤の他人の私を育ててくれた。シンリン様はママを無責任だと言うけれど、この恩を一生忘れることはできない。
「そういえば、転移魔石を使ってママは逃げたと言うけれど、どこへ行ったのかは分かる?」
「興味がないので調べていないが、どうせイシェンニと友好関係にあった国だろう。リーヴァーと戦える力があり、イシェンニの末裔を匿える国は限られている。そなたの母は、生き残ったそなたがどんな目に合うか分からないからこそ、様々な可能性を考え、正体を知られた場合に使えと、転移魔石をフェーアに渡しておいたのだ。どういう時に使用するのか、どうやって使用するのかも説明されたのに、あの女め……」
私にも、イシェンニと友好関係だった国へ逃げるのも手だが、子どもの一人旅は難しいと言われる。
「魔法をもっと訓練し、我も力を取り戻せば問題ないが……。今の状態では厳しいな。護衛を雇うにしても……。金がないのだろう?」
「うん」
一か月に何回か、旅の商人が訪れる。そこで育てた作物を売ったりして、村は生計を立てている。私は売れるほどのなにかを育てられないし、村の皆に恵んでもらったり、物々交換したりして生きている。もう少し成長すれば、きっと採ったキノコとか売るようになるだろう。
「おじいちゃんが貴族だったのなら、なにか売れないかな。書斎の本は売りたくないけれど……」
「あるかもしれないが、高価だとどこで入手したと追及される可能性が高い。もしくは価値がないと嘘を言われ、二束三文で買い取られるだろう。本を売らないのは正解だ。この書物は魔法使いにしか意味のないものだが、価値のあるものばかりだからな」
家にあるもので収入を得ることは諦めた。
この日は地図を中心に、世界とはなにかを教えてもらった。
国という単位により、加護している神が異なる。神が消えない限り、その土地を完全に奪うことはできない。だからリーヴァーはイシェンニに王族を送り、自国の属国にするしかできなかった。
もしシンリン様が消滅していたら、リーヴァーの国土は広がり、地図は変わっていたそうだ。




