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魔法、覚醒

 村長の言葉を思い出し、恐怖が襲ってくる。

 まだママと再会できていないのに。ママに会えるまで死にたくないのに。死ぬのだけは嫌だ。

 どくどくと体の脈が大きく動き、うるさい。心臓が体から飛び出そう。体も震えて自由が効かなくて、自分の体なのに、自分ではないみたいになる。


 一部の人間も魔法が使えるけれど、素質がなければ魔法は使えない。そして、素質があるかどうか判別できるのは、魔法使いだけ。

 顔を知らない亡くなったおじいちゃんは、魔法使いだった。でもおじいちゃんを最後に、村で魔法を使える人は誰もいない。だから魔法使いの素質があるのか、誰も判断できない。調査をするために外部の者を呼ぶ余裕は村になく、魔法がなくても暮らしていけるからと、村はそのままで過ごしている。だから仮に誰かがこの状況を見つけてくれたとしても、助けてくれずに逃げ、慌てて村民に呼びかけ、総出で避難するだろう。村に魔物へ対抗できる人はいないから。


 魔物は私が抵抗できないと気がついたのか目を細め、にっと、口角を上げる。

 瞬間、死という文字が改めて頭を埋めつくす。

 魔物の目には嗜虐(しぎゃく)の色が混じっており、自分はただ殺されないのだと察した。どんな目に合うかは分からないけれど、想像を超えた苦痛と恐怖の時間になることは分かる。

 嫌だ、嫌だ、死にたくない。誰か助けて。ママ、ママ。誰か、誰か助けて。

 息を荒げて震える中、ママとおばあちゃんを思い出す。


「もしかしたらリティには、魔法の才能があるかもしれないわ。無くても良いの。知識は、貴女の武器となるから」


 そう言って、おじいちゃんの書斎の鍵を渡してくれたおばあちゃん。書斎には魔法に関する本が溢れていた。何冊か子どもの私でも分かる内容で書かれており、それを中心に読んだ。

 もし魔法が使えたら、魔物に抵抗できるのに……。

 そうだ、魔物を倒さないと。ここから逃げないと。二度とママに会えない……っ。そんなの嫌!


 ママに会いたい。その思いが生きたい力となり、手探りで辺りを探る。適当な枝を拾うと空に向けて掲げる。とにかく動かないと。このままではママに会えず、ただ死ぬだけ。

 魔法を使いたいと思い、何度もこっそりと試した。杖となるのは、なんでも良いと書かれていた。だから家にある色々なものを掲げ、繰り返し唱えた呪文は覚えている。抗わず死ぬより、抗って死にたい気持ちもあった。


「主神シンリンよ、我が声に応えよ。我が名はリティ、シンリンの愛し子の血脈なり。今こそ我に、力を与えたまえ!」


 呪文を唱えると、体を吹き飛ばされた時に感じた、目に見えない波動が体を覆う。こんなの初めてだ。大地からも、空からも。波動が枝に集まってくると分かる。

 同時に余裕を見せていた魔物が笑みを消し、武器を振りかざし再び吠えるが、私の周囲にある波動が魔物の波動を弾く。この波動がきっと、魔法なのだと確信する。


「走れ! 風の刃!」


 杖を剣に見立て、真横に振る。

 直後、ず……。ずず……。

 ゆっくりと魔物の体が切れ、上下に分かれて崩れていく。魔法が魔物の体を真っ二つにしたのだ。血を流す魔物の体は端から砂となり、風に吹かれて消えていく。残ったのは、魔物の持っていた武器だけ。


「で、できた……?」


 立ち上がりながら、なぜ急に魔法が使えたのかと考える。



◇◇◇◇◇



「今日のフィーラ様の茶会、気がつきまして?」

「ええ、国王派の同年代の方は、ほとんど参加していませんでしたね。今日はラーロン様と、お見合いしている家があるとは聞いていますが……。成り上がりや貧乏な家が王家に嫁ぐなんて、まともなに考えれば、あり得ないでしょうに。ただ結婚すれば良い話ではなく、万が一は実家が支援しなければならないし、色々と考えられないものかしら」

「結果が気になり、家で待機している方が多いのね。余裕のないこと」

「それに、現在の王族と既存の貴族の確執……。その間に挟まれるのは、並大抵の神経では務まらないでしょう」

「だからこそラーロン様は王太子なのに、縁談がなかなか決まみませんが」

「しっ、これ以上は口を閉じなさいな。どこで誰が聞いているのか分からなくてよ」

「でも、フィーラ様はなぜ旧王族派を中心に、茶会の招待状を送ってきたのかしら」

「決まっているわ。きっと私たちと仲良くなり、将来、国王派にさせるつもりなのよ」

「思惑はあると分かっていても、現在の王族の蛮行(ばんこう)を考えると、無視はできませんからね。自分の我がままで、一族を全滅させる訳にはなりませんもの」

「別に前王族に問題はなかったと聞いていますのに。なぜ攻めてきたのかしら。両親に尋ねても、分からないとしか言われませんの」

「私の両親も同じく」

「なぜ戦争が起きたのか分からない以上、王家へ嫁がせるのは、あまりにも危険ですものね」

「外交問題等、国内外のやり取りで苦労するのは、目に見えていますから、私はラーロン様との縁、願い下げですわ」


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