魔石集め
「だから我は止めろと言ったのだ!」
手ぶらで帰宅するなり、シンリン様が怒鳴ってきた。
「我の言いつけを守ったことを責めはせぬが、今のこの国は、リーヴァーの属国とも言える。どれだけリーヴァーから人が流れてきたと思っているのだ! 想像力、あらゆる可能性を考える知性が、まだ足りぬ! 勉強不足だ!」
私は村から出たことがないと、表向きはなっている。でも魔法の練習で空を飛び、高速移動が可能となった。降り立ってはいないが、他の村や町に行っている。
この辺りで一番大きな町を空から眺めたこともある。建物や人の多さに驚いたが、シンリン様は小さい町だと言っていたが、信じられなかった。これほど大勢人がいるのに、まだ少ないなんて。
だから基本的に私は、村を基準にしか世界を知らない。知識はあっても、よく分からないことが多い。
それにこの辺りにリーヴァーの人が来るなんて、思ってもいなかった。
言い訳はいくらでも浮かぶが、制止を振り切った非があるので、シンリン様の説教に反論することなく、黙った。
「しかし恐ろしい娘だったな。躊躇いなく、心臓を一突きしおって」
人が人を殺す場面を、初めて見た。思い出し、口に手を当てる。胃液の酸っぱさが口内に広がるが、なんとか耐える。しばらくして口から手を離し、はあ。と、重い息を吐く。
「あの娘は、現在この国の王、ルージェンの娘、フィーラだ。ルージェンはラウンデスを滅ぼす際、方法について異を唱えた男だが……。フィーラのアレは、完全にリーヴァーを裏切る行為だ。護衛を殺すことといい、なにを考えているのだ、あの娘は」
権力者の娘とは予想していたが、まさかお姫様だったなんて。
しかも敵の中枢に位置する相手に、顔を知られてしまった。どうしよう、取り返しがつかないことをしてしまった。もっと強く止めてほしかった。自分が悪いけれど、ちょっとシンリン様を恨む。
今から逃げても、下手をすれば人相書きをされ、手配される可能性が出てきた。他国へ逃げるには、路銀が足りない。本当に困ったことになった。
しばらくお互い黙っていると、ふと、ある計画が浮かぶ。
「シンリン様、逆に敵の懐に入り、動向を探るというのはどう?」
「うむ、よくある戦法だな。危険度は高いが、ラウンデスの生き残りを探し、殺そうとしている噂があるのに、その本人が敵の内部に入りこむとは、リーヴァーは考える可能性は低い」
「内部に入り信頼を得て、情報をかく乱させるのも戦法になるよね。だったら私、フィーラの所へ行く」
シンリン様は体を縮こませると、唸り続ける。
きっと考えているのだろう。その戦法も有りだが、危険すぎる。下手をすれば、死ぬ。だから簡単に許可を出したくないのだろう。だけど、譲れない。
「正直、躊躇いなく人を殺す人に近寄るのは怖い。でも、いつ襲われるか怯えながら生活を送るより、攻めるのも大事だと思う」
やがて観念したように、シンリン様は頷いた。
「分かった。だが今のままでは危険だ。魔石を手に入れ、いざという時、その場から逃げられる保険が必要だ。魔石を手に入れ、転移用に作るぞ」
異論はないが、これまで多くの魔物を倒したけれど、一度も魔石が出たことがない。どうやったら入手できるのだろう。
「分かったけれど、ライドさんは運だと言っていたよ。狙って手に入れられるの?」
「運というか……。知識がなければ、無理だな。魔石は一撃で魔物の心臓を貫くと、入手できる」
「心臓?」
言われて、胸に手を当てる。今までここを狙い、倒したことはある。でも、魔石が出たことはない。
「人間の心臓はそこにあるが、魔物によって心臓の位置が違うのだ。人間と同じく全身を焼かれたり、体が真っ二つになったりすれば絶命と、死に至る条件は人間と同じだが、体の内部構造が、全く違うのだ」
「そういえば、魔物は倒せば砂になるから、体の内部構造、知られていないよね。だから、なぜ魔石が取れるのか、分からない。これまで、たまたま心臓を貫いた人が、魔石を手に入れていたんだね」
「そういうことだ。心臓を貫かれ絶命する瞬間、魔物の持っていた魔力が凝縮され、形となったのが魔石だ」
まさか魔物により、心臓の位置が違うなんて。思ってもいなかった。これはこの世界にとって、かなり重要な情報になる。すごいことを知ってしまった。誰にも言えないけれど。
でも、そうか。私は今まで心臓を貫かず倒していたから、魔石を入手できなかったのか。なるほどと、合点する。
条件を知れば簡単そうに思え、早速シンリン様に魔物を呼び寄せてもらう。ところが……。
「リティ、こやつらは人で言う右肘付近に心臓があるぞ」
「え? なんでそんな所に?」
心臓の位置は、想像の斜め上をいく。意味が分からなくなり、一瞬動きが鈍くなり、久しぶりに危ない場面が出た。
狙おうとすると、彼らとしては心臓を守りたいから防御を徹底され、なかなか心臓を貫くことができない。
「……難しい……っ」
普段は攻撃しない所を狙うのは、意外と難しい。しかも右肘ってなに? 内側? 外側? 狙ったことがない。本当に合っているのか疑いつつ、攻撃を続ける。
何体か失敗し、ただ砂と化したが、やっと成功し、本当に魔石が落ちた。これだけの状態でも太陽にかざせば、きらきらと輝いている。透き通っていて、とても綺麗。本当に宝石みたい。
「やっと一つ……」
魔石を見ていて、ようやく気がつく。魔石は魔力が凝縮され、作られる。つまり、魔力の塊だから、そもそも魔力を宿しているのだと。なんて単純な仕組み。でも世の理を知らなければ、分からない。
「シンリン様、これをどうやって転移の魔石にするの?」
「そちらは簡単だ。魔法陣を描き、それを石に刻むだけよ」
聞いた感じだと難しそうに思えたが、シンリン様に教わった通り、まず丁寧に陣を描く。それから陣の中央に石を置き、呪文を唱える。それだけで成功し、一瞬、石が光った。
「今、一瞬だけど光った?」
「成功の証拠だ。そしてこの光こそ、ライドの言っていた光だ」
淡い光だった。明かりとして使えない。今は一瞬しか見えなかったけれど、独特のゆらめきがあって綺麗だった。
実際、実用品ではなく、装飾品として求める人もおり、余計に価値が高いとシンリン様が教えてくれる。
とりあえず、これだけ淡い光なら布にでも包んでおけば、隠して持ち歩けると安心する。何年もママが隠せていた訳だ。
フィーラと再会するまで、もっと魔石を集めようと、シンリン様と動く。
中には人間と同じ位置に心臓のある魔物もいた。これは狙いやすく、魔石が沢山取れた。
「だからこの魔物は、この世界に送られることが少ない。魔石の量を、我々は調整しておるのだよ」
「なんか長年聞いていると、神様も色々と面倒に思えてきた。神同士の付き合いに、世界の管理とか」
「しかも我らは人間と同じく、感情があるからな」
ということは、神様によって性格も違うのか。相性が合う、合わないがあると言っていたし。シンリン様以外の神様って、どういう性格をしているのだろう。いつか会うこと、あるのかな。
魔石を集めたものの、シンリン様に言われ、わざと光らないように魔法陣を刻まない石も残しておく。それらは全て、木で作った装飾されていない、名前だけの宝箱へ入れる。荷物を検められる可能性があるので、綺麗なガラス玉も混ぜておく。
もし見つかっても、村では宝石が手に入りにくい。まして私は収入が少ない。だから、綺麗なガラスを集めているという誤魔化しは、通用するだろう。
順調に魔石を集めている中、ついにフィーラが村へやって来た。




