リーヴァーへの報告
「フィーラ様、ご無事ですか!」
遅れてやって来た護衛の一団を率いる女、ジェネが走って来ながら、フィーラへ声をかける。
「ええ、この通り。魔物は倒され、護衛も……」
すでにリティはこの場を離れており、彼女の姿をジェネに見られることはなかった。また、フィーラは約束を守るためには、今はリティのことを腹心のジェネにも話す気はない。
「リーヴァーに対して有効な魔物が襲ってくるとは思わなかったわ。驚いたけれど、結果的には良かったわね」
フィーラは隠し持っていた転移の魔石を取り出す。
「リーヴァーから送られてきた監視者は、ほぼ魔物が始末してくれたようですね」
惨事となった現場を見渡し、ジェネが言う。残りの者たちは現在、元の場所で今も魔物と格闘中だ。
「今回、たまたま計画通りとなりましたが、無茶はお止め下さい。まさか馬車から飛び出されるなんて、どれだけ心配したことか」
「ごめんなさい。でも、監視を兼ねている護衛を分断させるには、今しかないと思って」
護衛をわざと分断させるため、フィーラは馬車を飛び出した。万が一の時は、魔石を使って逃げるつもりだった。今はこの国の姫であるため、リーヴァーから送られてきた護衛達も、当然と彼女を守るために追いかけてきた。そのせいでジェネの隊は、動きが遅れた。
今回、部隊は三つに分かれていた。一つはフィーラを真っ先に追いかけた隊。もう一つがジェネの隊。最後の一つが、現在も格闘中の隊だ。
「あちらはどうなったのかしら」
「今も応戦中ですが、勝敗は見えています」
「そうでしょうね。今回の護衛は、あの魔物と対等に戦える人材ではありませんし。リーヴァーではないから、油断していたのでしょう。だから、無駄に命を散らすことになるのよ……」
計画通りとなったが、やはり実際に大勢が亡くなる場を見るのは、胸にくるものがあった。リーヴァーに忠誠を誓っていても、性格が悪い訳ではない、逆に気の良い者もいた。そういった者も、ただリーヴァーに忠誠を誓っているという理由だけで、見殺しにしたのだ。
きっと亡くなった者の中には、自分を恨んで絶命した者もいるだろうと、フィーラは改めて遺体を見渡しながら思う。
「さあ、私たちは魔石を使い、城に帰りましょう」
イシェンニの民、又は、古くから忠誠を誓ってくれている、厳選された者だけを集めた一団を連れ、魔石を使い、城へ帰る。
人を殺すのは嫌いだ。だがそれ以上にフィーラは、人を殺そうとする者を嫌っている。そんな自分が人を殺めるのは矛盾しているが、リティを守るためには、ああするしかなかった。
今回の魔物に対して、リーヴァーの民は弱い。遭遇すれば、必ず犠牲者が出る。全滅も珍しくないので、あの魔物が集団で出たと言えば、疑われることはないだろう。いつかリーヴァーが送ってきた者たちを始末するべきと考えていた。だが、まさかこんなに上手くいくとは。偶然とは恐ろしいものだと、フィーラは思う。
「どうした、フィーラ。予定よりも早い帰りではないか」
リーヴァーへ報告を行うため、通信部屋へ入る。予定よりも早いことを、予想通り指摘された。
「知性のある魔物に襲われ、多くが犠牲となりました。私はこのことを報告するために魔石を使い、城へと戻ってまいりました」
「つまり魔物が出た地に、ラウンデスの生き残りがいるのか」
やっと良い報告が聞けたと、リーヴァーの王、フィーロウは声を弾ませる。
「いいえ。おそらく魔物の狙いは、リーヴァーの民でしょう。なにしろリーヴァーが討伐を苦手とする、あの知性の高い、集団行動をする魔物でしたので。そのため、魔石で逃げるしかありませんでした。しかし全員を助けられず……。陛下に忠誠を誓った者たちを多く失い、このフィーラ、謝罪申し上げます」
フィーラの言葉に、フィーロウはあの魔物かと、額に指を当てる。
あの魔物には、リーヴァー本国も頭を悩ませている。リーヴァーが得意とする火魔法が効きにくいので、他の魔法も使える者を中心に隊を編成しているが、それでも全滅することがある。
フィーラは顔を伏せたまま報告をしているが、フィーロウが渋い顔をしていると、見なくても分かる。
「なんたる不運だ。しかし、そうか。あの魔物が出没したとは珍しい。なぜかあの魔物は、リーヴァーにばかり出没する。まるで我らリーヴァーを滅ぼしたいと言わんばかりだ。解せぬことよ」
魔物がなぜ現れるのか、フィーロウは知らない。
彼の予想通り、リーヴァーの民を傷つけたいという、ある神の意思が働き、魔物は送りこまれている。今回フィーラが狙われたのは、彼女がリティの住む地域へ向かっていたので、その神が動いたのだ。リティを守るために。
ところがリティが勘違いし、リーヴァーを助けるものだから、神は焦った。その者たちを助ける必要はないと、神の国で何度も叫んだ。
だがシンリンの愛し子であるリティに、自分の声は届かない。シンリンに連絡を取りたいが、彼女はまだ本調子ではなく、完全に連絡が取れない。やっと連絡が取れた時は、戦いが終わっていた。こんな結果になるのなら、動かなければ良かったと後悔する。シンリンにも文句を言われた。
しかし妙なのは、フィーラの行動だ。
まるでリーヴァーを裏切る言動。彼女の真意が分からない神は、首を傾げるしかない。
そのフィーラには、しばらくの休息が与えられることになった。それを告げられて報告の通信が終わり、やっと顔を上げて息を吐く。緊張が緩んだ。
報告内容が嘘だと知られたら、きっと自分は処刑されるだろう。だが、恩人を殺されるくらいなら、自分の命を捨てるべきだと考えているが、それでも緊張した。
とりあえず休息をもらえたことで、リティへ接触できる時間ができた。遺体の回収と、魔物の被害が広がっていないか調査すると言えば、外出も可能だろう。きっと父には、なんのための休息だと呆れられるだろう。
だが、リティを放ってはおけない。
殺した護衛の言う通り、あれだけの魔法使いがあのような僻地にいるとは驚きだった。しかも二つの属性の魔法を同時に発動し、完璧に操作していた。自力で取得できるものではない。よほど優秀な師がいるのだろう。
普通に考えれば、その師は祖父になるのだろうが、フィーラは違うと読んでいる。
イシェンニの貴族は、リーヴァーが攻めた際、一部消された。その生き残りでもいるのか。それとも……。
「ウランデスの生き残り……」
ぽつりと、呟いた。
リティがウランデスの生き残りなら、なぜ自分を助けてくれたのか。フィーラには分からなかった。




