フィーラとの出会い
最後の魔物を倒し、全ての魔物が砂と化す。
生き残っているのは女の子と、一人の男性だけ。その男性も重症を負い、今にも倒れそうだ。
「君は……。一体……」
大剣を地面に刺し、体を支えながら男性が尋ねてくる。
「通りすがりの村人です。大勢の人が死にかけている場面に耐えられなく、加勢しました」
本当ならシンリン様の回復薬を分けてあげたいけれど、そのシンリン様が姿を現さない。どうやら彼らと関わり合いたくないようだ。薬は諦めよう。
治癒魔法も習っているけれど、これ以上、どんな魔法を使えるのかは見せたくないので、控えることにする。
「こんな魔法使いが……。こんな僻地に……」
「祖父が魔法使いだったので」
「そうか……。その方も、さぞ実力のある……」
答えず、ただ微笑む。
実際、おじいちゃんがどれほどの魔法使いなのか、私は知らない。シンリン様は、普通だと言っていたけれど、その普通が分からない。比較対象がこの辺りには、ほとんどいないからだ。
近臨の村や町に魔法使いが数人いるものの、彼らと比べると、自分は強いかなとは思う。
ただ、おじいちゃんを狙って魔物が現れなかったと聞くから、そんなに強くなかったのかなと思っている。魔物が狙う、王族に近い愛し子ではない、ということだから。
「本当にありがとうございました。貴女は命の恩人です。この御恩、どうお返しすれば良いのか……」
女の子が出てくると、胸に手を当てながらお礼を言ってくる。
ざっと見た感じ、ドレスに汚れや破れはあっても、怪我はなさそうで安心する。
「そんな恰好で森に入って、逃げにくかったのではありませんか? 魔物はいつどこに現れるのか分からないというのに」
相応の恰好をして、馬車に乗るべきだと伝える。
「はい、ろくに走れませんでした。そのせいで動きが鈍り、このような結果に……」
女の子が、倒れている皆たちを見つめる。自分を守るために失われた命。彼女の思いを量ることなどできない。
「この辺りは魔物が出ないと聞いていたので、考えが甘かったです」
「転移の魔石、持っていなかったのですか?」
「魔石をご存知で?」
「はい、村に来た商人に見せてもらったことがあります。彼は万が一に備え、常に持ち歩いていると言われていました。貴女は高貴な御方と見受けます。なぜ保険をかけなかったのですか」
護衛の数から、かなり裕福な家のお嬢様だと分かる。それなら、魔石を買うことは難しくないだろうに。
「お恥ずかしい話ですが、魔物が出ても対処できると考えていました」
それがこの惨事か……。
ライドさんは偏った力の魔法使いだけでは構成せず、バランスを重視して、複数人を雇うと言っていた。きっと、今回のように相性の悪い魔物に遭遇した場合、一人でも対応できる魔法使いが居るようにと、考えているのだろう。
高貴な人ならその辺り、知っていそうな気がするのに。ライドさんより劣っているなんて不思議な気もする。それともライドさんが、意外とすごいとか? あの人、経験値がありそうだし。魔物に遭遇したことが、何度もあると言っていたし。
どちらかといえばライドさんは高齢だし、年の功もあるのかもしれない。
「今日はろくなお礼ができないので、改めてうかがわせて下さい。どの村にお住まいですか?」
「あ、その……」
魔法を使えることを村には隠している。お礼に来られ、魔法が使えることを暴露されては困るので、口ごもる。助けたい思いから動いたものの、こうなることを考えていなかった。すぐに立ち去れば良かった。
「大丈夫です。貴女の悪いようにはしません」
そう言うと、彼女は短剣を取り出し、唯一の生き残りだった男性の心臓を貫く。彼の体が剣から離れ、ゆっくりと倒れていく。
「な、なにを……!」
理解できない。なぜ護衛を殺したの?
「魔法が使えることを隠したいのはありませんか? この通り、目撃者は消しました。もちろん村を訪れた際も、伏せておきます。そうですね。護衛が魔物を倒したものの、相打ちとなった。気絶していた私を、偶然通りかかった貴女が介抱してくれた。そういう話にしましょう。貴女がなぜ魔法を使えることを隠すのかは、尋ねません。ただこの実力、この地に留めておくのはもったいない。どうか私の護衛になって下さい」
まさかの提案に、面食らう。
こんな簡単に自分を守っていた人を殺める人の、護衛? 私が?
いくらイシェンニの民とはいえ、さすがに道理に反する人に力を貸したくない。断ろうとすると、彼女は言う。
「私の行動は理解できないでしょう。なぜ護衛を殺したのか、意味はあります。今はまだ詳細を語れませんが、彼はリーヴァーに忠誠を誓った者。貴女ほどの実力を持つ魔法使いなら、リーヴァーへ報告するからです。そうすれば貴女は、リーヴァーへと連行されるでしょう。しかし私は、この国に有利な形を取りたい。リーヴァーへ渡したくありません」
「リーヴァー?」
どくんと、胸が跳ねる。
動悸が激しく、息が荒くならないようにと、冷静さを崩さないように努める。
シンリン様が制止してきたのは、この人たちが、リーヴァーと繋がっていると気がついたから?
リーヴァーに忠誠を誓っている者を護衛にしているなんて、この子は一体……。
ここでようやく、リーヴァーから移住してきた者の可能性に気がつく。
まずい。私はイシェンニの民を助けるために動いたつもりだった。それがまさか、リーヴァー側の者を助け、魔法を使えることまで知られてしまった。どうしよう。
「だ、だったら……。貴女を……」
彼女を殺せば、知る者はいなくなる。だけど今、私に人を殺せる? 短剣を持つ手が震える。彼女は落ちついた態度を崩さず、言ってくる。
「私を殺せば、リーヴァーがこの地へ人を寄越すことでしょう」
退路が断たれる思いだ。腕が垂れ、項垂れる。
護衛が大勢付き添うくらいだ。かなりの権力者の子どもなのだろう。そんな子が亡くなれば、調査されて当然だ。
「……考えさせて、下さい……」
絞りだすように、そう言うだけで精一杯だった。
これが私とフィーラ様との出会いである。




