二つ目の起点
「今日は魔物の気配はないし、動物でも狩ろうかな」
そう言って、弓を構える。
シンリン様から魔物の気配を探る魔法を教えてもらい、村へ近づいてくる魔物がいれば、すぐに討伐できるようになった。
さらに最近は道具に魔法をまとわせて放ち、威力を高めることもできるようになった。
例えば矢の先に火種程度でも火魔法をまとわせれば、普通の動物への効果は高い。
短剣に水魔法をまとわせ、刃の長さを変更させることも可能だ。距離を開けて攻撃したい時に、重宝している。
鹿がよく出没する地域へ向かっていると、集団の魔物の気配が生まれたと気がつく。
今日も魔物倒しかと思いながら向かっていると、誰かが戦っている音が聞こえてくる。しかも複数の音。こんなの聞いたことがない。この辺りで魔物と戦える人は限られているが、共闘することはない。そんなレベルの魔物は私が倒しているから。
「シンリン様、これ」
「うむ。どうやら何者たちが、魔物の集団に襲われておるな。馬車で移動中、突然魔物に襲われたという所か……」
現場上空から見下ろすと、数台の馬車が停まり、甲冑を着ている人が応戦している。あの人たちが、騎士と呼ばれる人なのだろうか。魔物へ立ち向かっているが……。
「劣勢だな」
シンリン様が言う通り、魔物に負けている。戦っているものの、次々に傷を負って動きが悪くなっている。
ある馬車の中から一人のドレス姿の女の子が飛び出してくる。私とそんなに年齢は変わらなく、少し年上くらい。彼女を守るように数人が囲み、一斉に森に向かって走り出すが、女の子たちを追いかける魔物が複数いる。
「シンリン様が呼び寄せた魔物、ではないよね」
「ああ、我は関与していない」
ドレスなんかで森の中、逃げられる訳がない。心配になり、女の子の集団を追いかける。
「待つのだ、リティ!」
シンリン様の制止を振り切り、人間と魔物、双方が視認できるが、相手から見つかりにくい場所に降りると、様子をうかがう。
「リティ、すぐに離れるのだ」
「そんなことできない。私のせいで魔物に襲われているもの。あの女の子、ドレスを着ているということは、商人ではないよね。皆から守られているし、貴族の娘とかじゃない? イシェンニの民なら、私が守るべきでしょう? シンリン様がそう教えてくれたじゃない」
この魔物たちは知性が高く、集団で行動する。追いかけている振りをして、追いこんでいるに違いない。
案の定、女の子たちを待ち構えていたように、先回りした魔物が行く手を立ちふさぐ。
慌てて周りの男性たちが女の子を守ろうと戦い始めるが、やはり彼らも魔物に比べて弱い。
「魔物との相性が悪いのかな。あの人たち、魔法を使っているけれど、意味ないね。あの魔物、重力を操るから厄介だし。打撃は重たくなって、避けようにも体は重たくて難しくなるから」
何度死にかけただろうと、思い返す。
「うむ、人間たちは火魔法を得意としておる。そなたのように風を使い、体を浮かして動かすことができない。しかし、全く風魔法の適正がない訳ではない者もいる。重力魔法も弱いものだ。きちんと訓練をしておけば、押されることはないだろうに」
これだから訓練を怠る者は駄目なのだと、憤慨するシンリン様。その流れで、私にもだから訓練は必要だと、くどくど言ってくる。今、お説教をする場面ではないだろうと、聞き流す。それに何年も同じことを言われているので、今さら言われなくても覚えている。
魔物により、男性たちが吹き飛ばされていく。火魔法を放ち攻撃しようとしているが、上手く当たらない。体に重力の負荷がかかり、上手く魔力を練れないのだろう。
一方的に人間が蹂躙されていく光景から、目が離せない。
自分は何度も戦った経験はあっても、人が魔物と戦う場面を見るのはほとんどない。こんな規模の戦いは、初めて見る。迫力が違う。私もこんな風に戦っているのだろうか。
改めて戦いというのは、恐ろしいものだと思う。暴力が、人を傷つける。人を死に至らせる。見ている間に、一人、また一人と犠牲者が増えていく。魔物は勝利を確信し、雄叫びをあげる。だが……。
「貫け! 水の矢よ!」
堪えられなくなり、水圧を重ねた矢を魔物に放つ。矢は一体の魔物の頭部を貫き、砂とさせる。
「リティ!」
「見捨てるなんてできない! 一方的にこんなの、見ていられない!」
短剣を取り出し、駆け出す。
女の子は木の隙間に身を隠して、まだ無事だ。でも男性はほとんど生きていない。
彼女はよほど大事にされているようだ。とにかく彼女を守るよう、彼らは動いている。でもそれが良くない。防御に徹底し、攻撃が疎かになっている。そんなことを分析する余裕が自分にあるのかと、自然に苦笑いを浮かべる。魔物と初めて戦った頃の震えていた私は、どこへ消えたのだろう。
私に気がついた魔物が魔法で、私の体の自由を奪おうとする。風魔法を使い、重力に反発させるように体を動かす。複数の魔法を同時に操作することも練習させられた。負けない! 負けないで、生きてみせる! あの子だって! 私だって!
「生きる!」
すでに展開させている水魔法に影響はない。風魔法で俊敏に動き回り、刃を走らせる。刃が当たった瞬間、水圧を放つ。反動で体が吹き飛ばされそうになるが、風魔法で耐える。
一体、一体と確実に仕留める。これまでと同じ。人目があるかないかの違い。死なないためには、戦うしかない。
私はラウンデス最後の王族。イシェンニの民は、守ってみせる。
魔物が私へ敵意を向ける。邪魔者を排除したい、そんな意思を感じる。
「……邪魔なのは、どっちもどっち」
おばあちゃん、ごめん。どっちもどっちなんて考えだから、争いは終わらないよね。でも、おばあちゃんも知っているよね。私はラウンデス最後の生き残り。イシェンニの民を守るべきだと。
それに、多くの魔物とは会話が不可能。戦うことでしか、やり取りができない。本当は対話で解決するのが、一番良いのだろうけれど。こればかりは仕方ない。
「殺す気があるのなら、こちらも同じだけのこと!」




