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過酷バイトはもう嫌や! 働きたくない凡人女子高生、億り人おじさんと始める『一億円逆算投資戦略』  作者: しばたろう
女子高生編

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05 資本家に、わたしはなる!最初の一歩は受験勉強

「ちょっと待って! わたし、資本家になれんの?」


 わたしは思わずソファーから飛び上がった。

 おじちゃんはすました顔で、「なれるで」と頷く。ただし、と一本の指を立てた。


「今の日本では、という条件付きやで」

「そうなん?」

「まず発展途上国は、労働者の条件が絶望的すぎる。先進国でも、中国や韓国は若者の競争が苛烈すぎるし、アメリカや欧州も超実力主義や。それに比べて日本は全然ヌルい。資本家になれる好条件が揃っている、世界でもレアな国なんや」

「そうなん!」


 わたしは一歩おじちゃんに詰め寄り、両手を握りしめた。

「おじちゃん、資本家のなりかた、教えて!」

「ええやろ」


 おじちゃんはポンと自分の膝を叩いた。

「まず、資本家とは『資本を持っている人』。では資本とは何か? お金を生み出してくれるもの、平たく言えば『金のなる木』やな。具体的には株や不動産や」

「金のなる木がお金を生んでくれるから、自分は働かんでもええってわけやね」


 たしかに株を保有している威力なら、この前もらったマクドナルドの株主優待券で実感している。あの魔法のチケットがあれば、ハンバーガーもポテトもタダなのだ。

 しかし、そこでわたしは重大な問題に気づいてしまった。


(確か、マクドの株って、七十三万円……)


「ちょっと待って。株って高いやん? わたし、そもそも株を買うお金がないやん?」

「そう。なので、まずは金のなる木を買うために、お金を稼がなあかん」


 おじちゃんは涼しい顔をしてそう嘯く。

「結局、労働やん!」

 思わず大声で突っ込んでいた。


 みんな、そんなお金は持っていないのだ。日々の暮らしで精一杯なのだ。お父さんも朝から晩まで一生懸命働いているし、お母さんも主婦の傍らパートを頑張っている。家のローンもあるし、わたしを養わなければならない。高い株を買う余裕なんてどこにもない。


 そんなわたしの悲壮感をほったらかしにして、おじちゃんは話を続ける。


「だからな、遥。まずは効率よくお金を稼ぐんや。そして、凡人が効率よくお金を稼ぐには……遥、大企業に入り」


 さらっと、とんでもないことを言った。

「大企業て……」


 絶句する。こんな成績のわたしが、大企業なんて入れるわけがない。

 おじちゃんはわたしを置き去りにしたまま、さらに言葉を重ねる。


「大企業は給料が高いし、社員もええ人ばかりでホワイトや。福利厚生も充実してる。それに、そこに籍を置いているだけで、保険や家賃、会社から毎月ありとあらゆるサービスやお金を身代わりに払ってもらえる。まさに『逆サブスク』状態や。株を買う元金も最速で貯めることができるんや」


 身振り手振りで熱弁するおじちゃんを、わたしは慌てて制した。

「まって、おっちゃん。わたし、大企業に入れる自信、ない……」

 涙目で訴える。


「大丈夫や!」

「え、大丈夫なん?」


「まず日本は『新卒一括採用』という、何者でもない若者がいきなり大企業に入れる、世界でも類を見ない制度が機能している」

「さっき言うてた、ほかの国と比べて日本が有利な点やね」

「その通り。そして、現在、歴史的な『超売り手市場』や。今の新卒者には強烈な追い風が吹いているんや」


 そこでおじちゃんは、一瞬だけ遠い目をした。

「……俺のときはな、団塊ジュニア世代であほみたいにライバルが多かったうえに、ちょうど『就職氷河期』で、ほんま悲惨やったからな」


 おじちゃんの自虐をスルーしつつ、わたしは現実的な疑問を口にする。

「ゆうても、大企業に入るんは難しいやろ?」

「その通りや。大企業には『学歴フィルター』いうのがあってやな、一流大学でないと、そもそも入社試験すら受けさせてもらえへん。せやから、遥。一流大学に入り」


「一流大学て!」

 本日二回目の絶句だ。


「わたし、あほやで!」

 直近の、あの見るも無残な赤点ギリギリのテスト用紙を、おじちゃんの目の前に突きつけたい衝動に駆られる。


 しかし、おじちゃんは迷いなく言い切った。

「大丈夫」

「……何がよ」


「一流大学ゆうても、東大京大に行きなさい言うてるわけではないで。地方の国立理系か、関関同立で十分や」


 言われた名前の響きに、ハードルが一気に下がった気がした。だが、すぐに現実に引き戻される。

「関関同立も、今のわたしには雲の上の存在なんですけどね。地方の国立理系も、文系のわたしには無理やし」


 しょんぼりと肩を落とすわたしに、構わずおじちゃんは言葉を続ける。

「もちろん勉強は頑張らなあかん。でも、常識的な範囲の努力でええ。日本は中国や韓国みたいに、とち狂った競争にはなっていないからな」


 おじちゃんは悪戯っぽく笑って、わたしの顔を覗き込んだ。

「それに、ゆうても遥は『箕面高校』やろ? 手を伸ばせば届くとこに、おるんやで」


──あ。


 おじちゃんにそう言われると、不思議といける気がしてきた。

 人間、絶対に無理だと思っているときは諦めがつくのに、「あと少し手を伸ばせば手に入る」と言われた途端、猛烈にそれが欲しくなるものだ。


 胸の奥から、ふつふつと熱いものが湧き上がってくる。関関同立に行って、大企業に入って、元金を貯めて、そして、資本家になる。


「おじちゃん。わたし、関関同立に入るには、どうしたらええんやろ?」

「もう夏やろ? あと一年と少ししかない。でもな、今から本気で始めれば、絶対間に合うで」



──とは言ったものの。

 こんな赤点スレスレの成績のわたし、いったい、どこから手を付ければよいのだろう。

 そもそも、受験勉強って具体的に何をすればいいの?


「うーん……」


 自室のベッドに寝転がり、天井を睨みつけながら悩む。だが、すぐに名案がひらめいた。

 すぐ近くに、受験のエキスパートがいるではないか!


 その日の夜。大学から帰宅して一息ついた様子の、舞香ちゃんの部屋に突撃した。


「舞香ちゃん! わたし、関関同立いきたいねん」


 突然の宣言に、舞香ちゃんは少し驚いたようだったけれど、すぐにいつもの優しい笑みを浮かべた。

「そう。そしたら、勉強がんばらなあかんね」

「せやねん。で、わたし、具体的になにしたらええやろう? やっぱり、塾とか行くべき?」

「そうやねえ……」


 舞香ちゃんはふーんとしばらく考え込んでから、わたしを振り返った。

「遥は、文系やんな? であれば私立で必要なのは、英国社やな。学校で社会は何取ってるの?」

「日本史」

「そしたら、暗記ゲーやな。ただ、裏のストーリーとかドラマとかが重要やからな。そういう意味で、文系科目言うても、人から教わるほうが効率はええと思うよ。塾は、行ったほうがええやろね」

「そうなんや! どんな塾がええやろ?」

「今は、いろんな形態の塾があるしな。昔ながらの河合塾みたいな予備校、河合塾マナビスや東進予備校みたいな映像授業、武田塾みたいな自学自習」

「ほう。くわしく」


 ベッドの端に腰掛けた舞香ちゃんは、自身の経験を思い返すように目を細めた。

「私、浪人時代に河合塾の予備校通てたけど、講師の授業はほんま良かった。何度も目からうろこが落ちたで。理系教科はもちろんのこと、文系教科であっても、人から教わるほうがええと実感したなあ」

「そうなん。そしたら、わたしもそうしようかな。普通の予備校と映像授業、どっちがええやろ?」

「映像授業は自分のペースで進められるのが利点やね。一方、予備校の、対面で授業を受けるライブ感はええし、プロの先生に質問もできるのがポイント高いな。遥が理系やったら、間違いなく予備校勧めるけど、文系やから、映像授業もええかもね」

「そうなん。そしたら、映像授業にしようかな」


 わたしの単純な決断に、舞香ちゃんは「ええんちゃう」と頷きつつも、表情を引き締めた。

「ただし、映像授業には、注意点がいくつかあるで」

「え、なに?」

「映像授業ゆうても、映像見てるだけではあかん。予習復習を含めた自習が一番重要やで」

「はい、先生」


 背筋を伸ばして敬礼するわたしに、舞香ちゃんは苦笑しながら指を二本、三本と立てる。

「あと、映像授業って、講座ごとに授業を買うんやけど、塾も商売やから、どんどん売りつけてきよる。生徒が消化不良起こそうがお構いなしや。せやから、そんなセールスに乗らんと、ちゃんと必要な授業だけ厳選すること」

「わかった。塾もえげつないことしよるね」

「あと、これ一番重要なんやけど……私も経験あるんやけど、映像授業は眠くなる。特に、部活後とかに受けたらほんま子守歌や。せやから、万全の態勢で気合入れて受けなあかん」

「うう。それ、わたし絶対寝るやつやん……」


 早くも白目を剥きそうになるわたしを見て、舞香ちゃんはクスッと笑った。

「まあ、これらの注意点だけ守っていれば、映像授業自体は質がええし、実力はつくと思うよ」

「とにかく、受け身はあかん、いうことやね」

「そう。あと、映像授業やったら、わざわざ塾通わんでも、スタディーサプリとか、サブスクで安くて質のええサービスあるよ?」


 舞香ちゃんからの思いがけないハイテクな提案に、わたしは少し気後れしながら苦笑いを返した。


「そうやねんな。でも、わたしみたいなヘタレは、たぶん強制力が必要やねん。一人でやろうとすると、絶対サボる自信あんねん」

「あはは、そうやな。それ、あるなあ」


 舞香ちゃんと話せてよかった。頭の中が整理できた。


「ありがとう、舞香ちゃん。ちょっと、親に話してみるわ」



 その夜、わたしはなかなか寝付けなかった。

 静まり返った部屋の中、布団の中でまんじりともせず、思いにふける。


 もし、おじちゃんの家に居候することになっていなかったら。

 たぶん、わたしは何も考えずに、ただなんとなくキャンパスライフを楽しんで、なんとなく普通の会社に就職して、激務やセクハラに疲れた人生を送っていたんだろう。世の中の仕組みに深く向き合わないまま、ただ働き続けるだけの労働者として。


 でも、幸いというか、わたしは社会の厳しさと、その裏にある攻略法を知ってしまった。

 今、そこに気づけて本当に良かったと思う。


 今なら、まだ間に合う。

 そう、本気で始めれば、絶対に間に合うのだ。

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