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過酷バイトはもう嫌や! 働きたくない凡人女子高生、億り人おじさんと始める『一億円逆算投資戦略』  作者: しばたろう
女子高生編

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04 わたし、働きたくない!女子高生、資本主義を知る

 おじちゃんがくれた神チケットの威力は、確かに絶大だった。

 だけど、放課後の時間のすべてを、マクドナルドで過ごすわけにはいかない。たまにはオシャレなカフェにも行きたいし、無性に粉もんが食べたくなって、学校帰りにちょっとお好み焼きを突っついたりもする。

 おかげで、わたしのお財布事情は引き続きかなり心細いままだった。


 なので、軍資金補充のため、致し方なくスマホのアプリで単発バイトもちょくちょく入れ続けている。


 人間、極限状態を繰り返すと進化するらしい。最近のわたしには、募集要項を見ただけで「すごく大変なバイト」と「少し大変なバイト」を見分ける謎の嗅覚が備わってきた。なお、悲しいかな「いずれも大変である」ということには変わりない。

 所詮、高校生なんてバイトヒエラルキーの最底辺に位置する存在だ。そんな奴らに、座っているだけで稼げるような割の良いバイトなんてあてがわれるわけがないのだ。世間は本当に厳しい。


 そんなこんなでジタバタしているうちに、ジメジメした梅雨が明け、一気に本格的な夏がやってきた。

 高校2年生の一学期、期末テストもようやく終わり(結果については、どうか何も聞かないでください)、世間はもうすぐウキウキの夏休みムード。だけど、その前に立ちはだかる最大の難所――「三者面談」が待っていた。


 豊能町の山奥の山奥からわざわざ出てきたお母さんがわたしの横に座り、担任の先生を交えての面談が始まる。


「吉川さんの今の成績では、正直、国公立は厳しいです。関関同立もかなり厳しい。ここから頑張れば、その下の産近甲龍に受かるかな、どうかな、というところですね」

「はぁ……」


 先生の非情な宣告に、お母さんが神妙な顔で相槌を打つ。横で聞いているわたし自身は、「まあ、そんなところだろうな」と他人事のように受け止めていた。甲南大学とか、神戸にあってなんかオシャレそうだし良いかもなー、くらいの軽い気持ちしか持ち合わせていない。


 正直なところ、大学選びもそうだけど、わたしは自分の将来というものが全く見通せていなかった。特にやりたい仕事があるわけでもない。

 それに加えて、ここ最近の過酷な単発バイトにすっかり魂を削られてしまい、わたしの脳内では「仕事=きつい+つまらない+給料安い」という拒否反応がガッツリ出来上がってしまっていた。


 そんなネガティブ思考が限界突破したせいだろうか。

 先生とお母さんが真面目な顔で今後の進路を話している最中、わたしは思わず、ぽろっと本音を口に出してしまっていた。


「……わたし、働きたくない」


 一瞬、面談室の空気が凍りついた。

 そして次の瞬間。

「あんたは何を言うてんのや!」

「吉川さん、社会をなめたらあきませんよ!」


 案の定、お母さんからの鋭いビンタのような怒声と、先生からの熱い教育的指導のダブルパンチを喰らい、わたしは夏休み前にたっぷりとお小言をもらう羽目になってしまったのだった。

 


 そんなわけで、わたしはその夜、神崎家のリビングのソファーで魂が抜けたようにうなだれていた。

 そこへ通りかかった篤史おじちゃんが足を止める。


「どうした、遥? えらい元気ないみたいやな」

「いやぁ……今日、三者面談やったんやけどな。先生とお母さんの前で、将来『働きたくない』ってぽろっと本音を言ってしまって……」


 慌てて両手で口を覆う。やばい、お小言をもらうやつや、と身構えたが、おじちゃんはなぜか深く満足そうにコクコクとうなずいた。


「『働きたくない』という視点を持つことは、大事やで」

「……え?」


 お説教を覚悟していた拍子が完全に抜ける。あまりの想定外に、わたしは首を傾げた。

「ごめん、おじちゃん。何言うてるか、わからへん」


 おじちゃんはハハッと笑い、わたしの向かいに座る。

「つまりな、『働かない』という選択肢を持つのもアリや、ってことや」

「そうなん!」


 大人にそんなことを言われたのは初めてだ。わたしの両眼が限界まで見開かれる。


「あ、でもな。ニートになってもええで、っていう意味ではないからな?」

「そうなん?」

「うん。俺、遥が昼間っからパジャマ姿でソファーに寝転がって、コーラ片手に新喜劇見て大笑いしている姿なんて見たないもん」


 その薄汚い将来像を想像し、背筋がゾッとした。

「そんなん……わたし自身も嫌やわ」

「そして、そんな怠慢な生活がたたり、体重は増加の一途をたどる。可憐な女子高生の頃の面影は今やどこにも見当たらず……」

「もうええて! 勘弁して!」


 必死にディストピア妄想を振り払う。おじちゃんはニヤリと笑ってトーンを戻した。


「もちろん、天職に出会い、その職業に一生を捧げるっていうのが一番ええんやけどね」


 真っ先に舞香ちゃんの姿が頭に浮かんだ。


「でも、実際は、自分が何をしたいんかもわからへん凡人がほとんどや」

「……わたしのことやん」

「それでみんな、流されるままになんとなく選んだ仕事で、しんどい、つまらないと愚痴を言いながら、一生働いていくんや」

「あかん。そんなん言いながら働いてる大人のわたしが目に浮かんできた」


 先日の苦行バイトの記憶がよみがえり、リアルに凹むわたしにおじちゃんは微笑みかけた。


「せやから、なるべく早くそんな労働から解放されるように、今から準備しときましょうね、っていう話や」

「なるほど……!」


 おじちゃんの言葉に、わたしは大きく首を縦に振った。


「遥、今の世の中はな、『資本主義社会』っていう仕組みで動いてるんや。聞いたことあるやろ、資本主義」

「あー……なんか、中学とか高校の社会の授業で習った気がするわ。資本主義と、対義語で社会主義、みたいな」


 おじちゃんは「そう、その資本主義や」と指を鳴らした。

「でな、この資本主義社会っていうのは、人間が大きく分けて二つの人種に分かれるんや。それが『資本家』と『労働者』や」

「資本家と、労働者……」


 思わず、おじちゃんの言葉をオウム返しにする。

「例えば、労働者の遥が時給一〇〇〇円のバイトで、一時間パン工場でパンを焼いたとする」

「うん。一時間ゆうても、パン工場めっちゃしんどいで」


 思い出すだけで足腰が痛くなりそうだ。

「で、それで、遥が会社に生み出した価値が、例えば一万円やったとする」

「一万円て、わたしすごいやん!」


「で、遥はこの労働で、お給料を一〇〇〇円もらうわな」

「うん。わたしがんばったな、って思う」


「じゃあ、残りの差額の九〇〇〇円は、どこにいくか? 細かい経費の話は省略して、単純に言うと、働いていない資本家、つまり、会社のオーナーや株主な。彼らのポケットにそのまま入るんや。」

「……え、資本家、ずるい」


「そうやろ? で、昔、カール・マルクスというおっちゃんが、この仕組みを暴露した『資本論』っていう本を書いて、ベストセラーになったんや」

「カール・マルクスの資本論て、中学の歴史の授業で覚えた! テストに出るから暗記したけど、そんな暴露本書いた人やったんや……」


 ただの歴史の教科書の太字が、急に生々しい意味を持って目の前に現れた。


「そう。で、この本を読んだ労働者がキレて、『労働者の国を作るぞ!』言うて起きたのがロシア革命や。それで、世界初の社会主義国家のソ連ができたんや」

「そういうことやったんか! あのソ連って、怒った労働者の国やったんや」


 歴史のピースが、おじちゃんの手によってパチパチと音を立てて噛み合っていく。


「まあ、結局そのソ連も崩壊してしもて、今、地球は資本主義ほぼ一色になっている。つまり、資本家側の完全勝利やな」

「世知辛い話やな、ほんまに……」


「そして、現在、みんな、この資本主義の仕組みに深く向き合わないまま、働き続けているわけや」


「そうやろな。うちの親からも、資本主義がどうこうなんてセリフ、聞いたことないわ」


 ため息とともに、そんなセリフが口をついて出た。

 お母さんだって毎日一生懸命働いているけれど、それは「生きるために働くのが当たり前だから」であって、社会のシステムがどうなんて考えたこともないはずだ。学校の先生だって同じだろう。みんな、仕組みの枠の中でただ必死に走っているだけなのだ。


 神崎家のリビングに、少し重たい沈黙が流れる。


 そんなわたしを、おじちゃんはソファーの向かい側からじっと見つめていた。その目はいつもの悪戯っぽいものではなく、どこか真剣で、わたしの未来を真っ直ぐに見据えているようだった。


 そしておじちゃんは、わたしのこれからの人生を大回転させる一言を、静かに、だけどはっきりと告げた。


「せやからな、遥」

「お前は、()()()()()()()()()()()()

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