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過酷バイトはもう嫌や! 働きたくない凡人女子高生、億り人おじさんと始める『一億円逆算投資戦略』  作者: しばたろう
新入社員編

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43 おめでとう。遥

 新郎・水野くんの会社の部長さんによる威厳とユーモアに満ちた挨拶が終わると、会場内はしばし和やかなご歓談の時間となった。


 高砂の壇上では、タキシード姿の水野律くんと、純白のウェディングドレスに身を包んだ吉川──いや、もう水野遥か──が、さっそく駆けつけた友人たちに囲まれて楽しそうに談笑している。

 まばゆい光を浴びる遥は、言葉を失うほどに綺麗で、まるで内側から発光しているかのように輝いて見えた。私は胸の奥で、静かに(遥、本当におめでとう)と呟いた。


 それにしても、と改めてグラスを片手に周囲を見回してみる。


 本当に立派な会場だ。見事な装花や格調高い調度品、そしてスタッフの洗練された立ち振る舞い。本日の結婚披露宴の招待客は、両家合わせておよそ六十人ほどらしい。


 今の時代、結婚式といえば「ナシ婚」や「家族婚・少人数婚」が完全にスタンダードになっている。そんななかで、親族や会社関係、友人をこれだけしっかりと招待する王道の結婚披露宴は、確実に少数派(マイノリティ)と言えるだろう。

 だから最初、京都の一流ホテルでちゃんとした披露宴を開くと遥から聞かされた時は、正直かなり意外に思ったものだ。なんせ準備には膨大な時間と労力がかかるし、費用も総額で四百万円くらいかかるらしい。遥も律くんも、日頃のお金の使い方は実に堅実で、決して派手な生活を好むタイプではない。


 しかし、その選択に至った理由を深く聞いた時、私は「さすが遥」と、彼女らしい人間性に改めて脱帽することになった。


 彼女が真っ先に挙げた理由は、「親孝行」だった。

 自分をここまで育ててくれた親に、最高の晴れ姿を見せること。親孝行なんて、長い人生の中で何度もできるものではないから、と彼女は笑っていた。そしてもう一つは、これまでお世話になった人々への「感謝」を形にすること。彼女たち夫婦は、自分たちの周りにいる大切な人間関係を、何よりも重んじているのだ。


 普段の投資先やキャリア選びにおいては人一倍シビアで冷徹な二人だが、ここはコスパやタイパといった薄っぺらい数字ではない、全く別の価値観に基づいて選択をしていた。そういえば先日、遥が少し得意げに言っていたっけ。

「今回はな、私らの金融資本を、一生モノの『社会資本』に変換するイベントやねん」と。


 ふと、高砂の近くに設けられた遥の親族席へと視線を移す。

 そこには、嬉しそうに目頭を押さえるご両親の隣に、どこか超然とした雰囲気をまとったナイスミドルなおじさんが座っていた。

(……あの人が、遥の「師匠」である叔父さんだろうか)

 あの吉川遥を育て上げ、その思考のベースを叩き込んだという陰の立役者。披露宴の後半、歓談の隙を見つけてぜひ一度、言葉を交わしてみたい。


「翔子ちゃん、どうしたん?」

 私がじっと親族席を見つめていると、隣の席の宇佐美くんが不思議そうな顔をして覗き込んできた。


「ううん。吉川──じゃなくて、遥のお師匠さんってどの人かなって思って」

「ああ、あの叔父さんやね。それ、俺もすごく気になってた。あとで一緒に挨拶しに行こう」

 宇佐美くんが優しく微笑みながら頷いてくれる。


「おいおい、親戚の叔父さんにそこまで興味持つなんて、お前らほんまに変わっとるよな」

 その隣の席で、すでにビールを美味そうに煽っていた沢田が、呆れたような声を上げた。


 遥は入社三年目、二十五歳という若さでの結婚だ。

 未婚率が上昇しつづける現代の日本においては、かなり早いタイミングの決断と言えるだろう。しかし、あの二人のことだ。決して一時的な情熱や勢いだけで入籍を決めたわけではないはずだ。きっと、これから先の人生設計やキャリア、お互いの未来を冷徹なまでに考え抜いた上での最適解なのだろう。

 そのあたりの裏話は、二次会ででもじっくり突っ込んで聞いてみるとしよう。



 不意に、会場のスピーカーからピッとマイクの音が響いた。

「ご歓談中のところ恐縮ですが、皆様、中央のスクリーンにご注目ください……」


 よく通る司会者の声を聞いた瞬間、私の心臓は、うるさいほどの鼓動を脈打ち始めた。


「ここで、新婦遥さんのご友人を代表いたしまして、遥さんの職場の同僚であられます、沓沢翔子様よりお祝いのスピーチを頂戴したいと存じます。沓沢様、どうぞ前へお進みください」


 温かい拍手が沸き起こる。宇佐美くんが「いってらっしゃい」と頼もしそうに目を細めて送り出してくれた。

 私は深く息を吸い込み、心地よい緊張感を胸に抱きながら、スポットライトで眩しく照らされた壇上へと一歩を踏み出した。

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