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過酷バイトはもう嫌や! 働きたくない凡人女子高生、億り人おじさんと始める『一億円逆算投資戦略』  作者: しばたろう
新入社員編

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41 未婚率の増加とクリスマスデート作戦

 今の日本は、未婚率が年々増加しているらしい。


 最新の統計によると、生涯未婚率は男性が約28.3%、女性が約17.8%に達しているという。

 ちなみに、古き良き昭和の時代──1980年(昭和55年)のデータを見ると、男性が2.60%、女性が4.45%だった。文字通り「全員が結婚して当たり前」の、いわゆる皆婚(かいこん)社会だったのだ。それが1990年前後を境に急上昇し、今のような状況に至るらしい。


 日本の国力や少子化という大局的な観点から言えば、これは間違いなく由々しき事態であろう。

 ただ、「女の立場」から言えば、また少し違った見方ができる。


 女性の視点に立てば、未婚率の増加は「人生の自由度や選択肢が増えた結果の幸福」と捉えることもできるのだ。かつての全員が結婚しなければならなかった社会は、女性にとって選択の余地がない強制的な側面が強かった。よって、現在の未婚率の上昇は、女性が「不満な結婚をする不幸」を自らの意思で避けられるようになった結果、とも言える。


 私たち世代は、よく「結婚はコスパが悪い」と口にする。

 ただ、この言葉のニュアンスは、男と女の立場で若干異なっているように思う。


 男の場合の理由は実にストレートで、主に「お金と自由」の損失だ。自分の稼いだ金を家族に奪われ、自由に使える時間がなくなることへの抵抗感。

 一方で女の場合は、「リスクと負担」の不条理さに集約される。すなわち、わざわざ自分のキャリアや自由を犠牲にしてまで、家事や育児といった他人の世話をワンオペで引き受けるメリットがない、という役割負担の偏りだ。

 もちろん、これらは「家事や育児に理解のある旦那さん」を捕まえることができれば、何の問題もない話ではある。つまり女側からすれば、「結婚相手ガチャに失敗するという莫大なリスクを冒してまで、わざわざ結婚したくない」ということになるのだ。


 まとめると、無理に結婚しなくても良いし、無理して子供を作る必要もない。

 気づけば、私もいつからかそのように考えるようになっていた。

 それは、自身の親が必死に苦労して、自分や兄弟を育ててくれた後ろ姿を見てきたからだろうか。あるいは、自分ひとりで自立して生きていけるだけのお金を稼げている、という自信が芽生えたからだろうか。


 さらに最近では、この「結婚はコスパが悪い」という議論の延長線上に、「恋人をつくること自体がコスパ、あるいはタイパが悪い」という意見が、若年層を中心に急速に広がっているらしい。


 かつては人生の必須イベントだった恋愛は、今や「リスクが高く、リターンが不条理で、膨大な時間とお金を消費する、コスパの悪い贅沢品」、または「一部の恋愛強者だけが嗜む娯楽」へと認識が変化している。それが現代のリアルな世相なのだ。

 たしかに今の世の中は、スマホ一つで手軽に手に入る娯楽に溢れている。人生から恋愛という要素を丸ごと差し引いたとしても、十分に充実して幸せに暮らせる基盤はあるのだ。


 そして、私はと言えば、今、誰もが知る大企業に勤め、経済的にも完全に自立できている。

 結論として、無理をしてまで恋人を作り、そして結婚をするという不確定な営みに、血眼になって全力を尽くす必要などどこにもないのである。

 恋愛や結婚を差し引いたとて、私は、十分に幸せな人生を謳歌する自信があるのだ。


 …。

 ……。


 なぜ、私がこのような身も蓋もないひとり語りを、脳内で突然始めたかというと。


 カレンダーが、12月になってしまったからだ。

 12月と言えば、泣いても笑ってもやってくる、12月24日。


 ──クリスマスイブを、宇佐美くんと過ごしたい。


 あろうことか、私の脳みそはそんな大それたことを思考してしまったのだ。


 でも、自分から誘う勇気なんて、ない。あるわけがない。

 そこからの、「まあ、誘わなくても死ぬわけではないし」という必死の開き直りを経て、最終的に先ほどの「現代日本における未婚率についての冷徹な考察」へと至ったわけである。


 白状する。ただの現実逃避だ。


 この「イブに誘いたい」から「未婚率の考察」への脳内ループを昨晩3度ほど繰り返したあたりで、私は限界を悟った。もう、これは誰かに相談しないと、絶対にひとりで勝手に病む。

 じゃあ一体誰に相談すればいいのか、頭の中で必死に候補を割り出した結果。

 ──結局、吉川遥。

 彼女しかいない、という結論に達した。


 半年前の私であれば、彼女に恋愛相談なんておよそ考えられないことだった。けれど、今となっては、単にちょっと気恥ずかしいから言い出しにくい、というだけの話なのだ。


 そこで今日の仕事中、勇気を振り絞って、隣の席に座る彼女に「ちょっと、相談があるんやけど……」と思い切って声をかけてみたところ、「いいよ! 今晩どお?」と即答してくれ、そんなわけで、今、私は彼女と二人で、職場近くのカフェバーに来ている。

 


 ある落ち着いた照明の、静かなカフェバー。

 カラン、と心地よい音を立てるグラスで乾杯を交わしたのち、私たちはさっそく本題に入ることにした。


「それで、相談ってなあに?」

 小首を傾げて尋ねる吉川の、そのギラギラと好奇心に満ちた瞳を見た瞬間、私はすべてを察した。──あ、これ、もう中身まで完全にバレてるわ。

 ここで下手な言い訳をしても時間の無駄だと観念した私は、余計なプライドをすべて捨て去り、素直かつ簡潔に本音を白状した。

「……クリスマスイブに、宇佐美くんを誘いたい。どうすれば良い? 助けて、お願い」

 これ以上ないほどストレートに、私は彼女に向かって頭を下げた。


「やっぱり、そういう話かなって思てたわ」

 吉川は意地悪くニヤつくこともなく、静かで落ち着いたトーンでそう言ってくれた。その拍子抜けするほどの優しさに触れて、私のドクドクと高鳴っていた心臓も、ようやく少し落ち着きを取り戻すことができた。


「作戦はな、一応3パターンあるんやけど」

 吉川はカクテルグラスに手を添えながら、頼もしい軍師のような顔つきで切り出した。


「パターン1。いつものように、クリスマスイブに私たちと4人でWデートをする」

「パターン2。パターン1の発展形。最初はWデートの約束をしておいて、当日、私らがドタキャンする。そこから、なし崩し的に二人きりデートに持ち込む」

「パターン3。最初から直球で、二人きりのデートを申し込む」


 吉川から提示された選択肢を聞いて、私の答えは一瞬で決まった。

 パターン1は却下だ。いくらなんでも、恋人たちにとって特別な聖夜にまで吉川たちを付き合わせるのは、さすがに申し訳なさすぎる。

 パターン2も却下。そんな古典的な策略、宇佐美くんに見え見えすぎて逆に恥ずかしさで死んでしまう。


「……パターン3でお願いします」

 私が決意を込めて告げると、吉川は満足そうに深く頷いた。


「了解。男前やね、沓沢さん。そしたら、あとはもうどうやって誘うかだけやね。これも、LINE、電話、直接口頭で言う、の3パターンあるけど……これは断然、『直接言う』のがええと思うな。一番本気度が伝わって説得力あるし、相手の表情が見えるから、その場の反応に合わせてアドリブも利くしね」


「うん。わかった。そうする……。でも、具体的にどんなシチュエーションで、どう切り出せばええと思う?」

 面と向かって宇佐美くんをデートに誘うなんて、想像しただけでまた脳内未婚率の考察に逃げ込みそうになる。不安げな私を見て、吉川は不敵な笑みを浮かべた。


「ふふん、わたしにええ考えがあるよ。2、3日中に、わたしが会社で自然に二人きりになれるチャンスを作ったげるから、沓沢さんは心の準備だけしといてな」


「ほんまに……? すごい、ありがとう、吉川さん」


 目の前の頼もしすぎる同期に、私は心からの感謝を述べていた。まさか自分が、半年前まで苦手としていた相手にここまで運命を委ねることになるとは、人生本当に分からないものである。

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