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過酷バイトはもう嫌や! 働きたくない凡人女子高生、億り人おじさんと始める『一億円逆算投資戦略』  作者: しばたろう


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02 過酷バイトはもう嫌や!社会の洗礼と金欠女子高生

 神崎家に居候となってから、わたしの生活は劇的に改善した。


 毎朝、七時に起きる。舞香ちゃんと一緒にトーストや目玉焼きといった朝ご飯の支度をして、篤史おじちゃんと三人で食卓を囲む。それから身支度を整えて学校へ向かう。

 かつての、あの暗黒の五時起き生活が嘘のような、優雅すぎる朝である。


 さらに素晴らしいのは、放課後だ。部活が終わった後も、友達と寄り道をする時間的な余裕がたっぷりとある。

 ちなみにわたしはバドミントン部に所属している。一応は運動部だが、先輩も同期もゆるい空気なので、ヘタレのわたしには丁度良い。放課後は友達と「みのおキューズモール」に寄ってスタバを飲んだり、お喋りしたり。


「これだよ、これ……!」


 わたしが心の底から求めていた高校生活が、今、ここにある。

 環境を整えてくれた篤史おじちゃんには、本当に感謝しかない。もはやおじちゃんの方角に足を向けて眠れないレベルだ。


 ――で、あるならば。

 手に入れたこの貴重な時間の余裕を、わたしは勉学に充てる、

 わけもなく。


 わたしは、遊ぶ金欲しさにアルバイトを始めることにした。

 時間のゆとりができた次のステップとして、どうしても先立つもの(お金)が必要となるのだ。高校生、遊びたい盛りである。とてもじゃないが、親から貰っているお小遣い五〇〇〇円では到底足りない。いずれ、これまでに貯めたお年玉のストックも底をつくだろう。


 うちの箕面高校は、原則としてアルバイトは禁止だ。

 だが、校風が自由なせいか、みんな結構こっそり隠れてやっている。なら、わたしがやったってバチは当たらないはずだ。


 せっかくバイトをするのなら、制服がかっこよくて楽しいのが良い。できれば楽で、時給が良いところ。

 そんな下心全開で、わたしはまず、駅前のオシャレなカフェの店員に応募した。人生初のバイト面接。受かったらエプロンつけて微笑むんだ、と意気揚々と面接に向かう。


 しかし、現実は甘くなかった。

 店長から笑顔で矢継ぎ早に言われたのは、こんな質問だった。


「週に最低四日は入れますか?」

「土日は両方とも出勤できますか?」

「一日最低四時間は入れますか?」


 ……ガチだ。これ、ガチのやつだ。

 もしこの条件で働いてしまったら、わたしのきらめく高校生活のすべてをバイトに捧げることになる。

 わたしは、学校帰りの空いた時間に「ちょっと週一、二回働ければ良いかな~」と思っているくらいで、そこまで人生をガチるつもりは毛頭ない。


「あ、ちょっとスケジュールの調整が……」


 愛想笑いを浮かべながら、あえなく退散した。

 その後も諦めきれず、ファミレス、ファーストフード、コンビニと次々に申し込んで面接を受けたが、どこも最初のカフェと同じような条件を突きつけられた。世間の厳しさをこれでもかと痛感させられたまま、見事に全敗を余儀なくされた。


 完全に、バイトをなめていた。

 バイトと言えども、時間と体力を全て捧げる本気の人しか始めることができないし、今街で見かけるバイト店員たちは、そういうハードルを越えてきた本気の人たちばかりなのだ。


 しかし、わたしは諦めない。執念の女子高生である。

 長期のシフト制バイトが無理であれば、単発の「短期バイト」がある。幸い、今はスマホのアプリで登録しておけば、面接なしで一日単位の短期バイトを紹介してもらえる便利なサービスがある。

 早速登録して探してみると、案外、あっさりと仕事が見つかった。


 最初に挑戦したのは、パン工場の派遣バイトだ。

 時給一二〇〇円。休日の丸一日を使って働けば、日給九六〇〇円。

「一万円弱か、悪くないやん」と軽い気持ちで現場に向かったが、結果はさんざんだった。


 任されたのは、トレーにぎっしり乗せられたパンを、ひたすら巨大な窯に入れて焼く作業。

 言うまでもなく、完全なる立ちっぱなし。開始二時間で腕も足も悲鳴を上げ始めた。しかも衛生用の白い防護服を全身に着込んでいるから、サウナ状態で汗だくだ。

 おまけに最悪なのは昼休みである。休みの前後で、あの面倒くさい白い服を脱いだり着たりする作業に時間を取られ、満足に休めた心地がしない。

 そして、なにより、究極につまらないのだ。ただの単純作業。時間が過ぎるのって、こんなにも遅いんだと絶望した。時計の針が、一分進むのすら永遠に感じられる。


(こんな大変な作業で、時給一二〇〇円は安すぎやろ……!)


 このパン工場、絶対にめちゃくちゃ儲かっているくせに労働者を搾取しているか、あるいは、このアプリの裏側で怖いお兄さんが中間マージンをガッツリ引き抜いているに違いない。

 あと、現場の社員の、太ったおっさんが妙にすり寄ってきて話しかけてきたのも、キモかった。


 これを日々、黙々と作業している人たちがいる。本当に頭が下がる。

 だが、わたしには、無理だ。


 次に挑戦したのは、別のファミレスの皿洗いバイト。時給一一五〇円。

 パン工場よりはマシかと思ったが、こちらも立ちっぱなしで、八時間ひたすら汚れた皿を洗い続ける地獄だった。洗剤のせいで手はガサガサになるし、やっぱりキツくて、死ぬほどつまらない。

 そして恐怖のデジャヴというか、ここでも現場の社員の太ったおっさんが、なぜかニヤニヤとすり寄ってきた。うん、キモい。


 心の中で激しいツッコミが暴れ回る。

(なんで、社会の『おっさん』は、どいつもこいつも漏れなく太っているんだ?)


 そういえば、多分同じくらいの年齢であるはずの篤史おじちゃんは、全然太っていない。中肉中背。

 もしかして世間一般で見たら、おじちゃんの方が圧倒的な少数派(マイノリティー)なのだろうか。


 いずれにしても、ここ一ヶ月ほどの間で、わたしは「お金を稼ぐことの厳しさ」というものを、脳天から爪先まで、嫌というほど思い知らされた。

 パン工場と皿洗いの二大地獄をくぐり抜けたわたしは、疲れ果てた身体で一つの、確固たる結論に達した。


「……わたし、働きたくない」


 神崎家の自室のベッドに大の字で倒れ込み、天井を見つめながら、わたしは固く心に誓うのだった。

 


 そんな、ある休日のこと。

 わたしは神崎家のリビングのソファーに腰掛け、少し寂しくなってきた自分の財布を開いていた。

 パカッと開いた革の中身を眺め、今後の友達との約束をカレンダーで確認して、肺の底から重いため息を漏らす。


 すると、近くのパーソナルチェアで同じくのんびりくつろいでいた篤史おじちゃんが、新聞から目を離して、

「どうしたん、遥?」

 と優しく問いかけてきた。


「お小遣いが、ちょっと底をつきそうになってきて……」

 わたしは再びため息をつく。

「これじゃあ、お友達とお茶もでけへん」


 哀れな居候の訴えを聞いても、おじちゃんは、

「そしたら、少しお小遣いあげようか?」

 とは決して言わない。

 きっと、我が家の頑固な両親から『勝手にお小遣いをあげたりして、これ以上甘やかさないでね』と固く釘を刺されているに違いないのだ。 おじちゃんはそういう筋は通す人だ。


 だが、おじちゃんはふっと不敵に微笑むと、予想外の質問を投げかけてきた。

「遥、マクドナルドはよく行くか?」


「マクド? 行くよ、しょっちゅう。キューズモールの中にもあるし」


「そうか。そしたら、ちょっと待っとき」

 おじちゃんはそう言って立ち上がると、自室へ向かい、何やら小さな紙の束を持ってリビングに戻ってきた。


「遥、これ、あげるわ」

 目の前に差し出されたのは、ハンバーガーやポテト、シェイクのカラフルな写真が印刷された、チケットらしき薄い冊子だった。


「え、これ何?」

 受け取って表紙を見る。


「マクドナルドの株主優待券や」


「かぶぬし、ゆうたいけん……?」

 十七年の人生で、完全に初めて聞くワードだった。


 手の中でペラペラとめくってみる。

 よく見ると、中は「バーガー類お引換券」「サイドメニューお引換券」「ドリンクお引換券」という三種類のミシン目がついた券が1シートになっていて、それが六枚綴りの冊子になっていた。


「平たく言えば、マクドナルドの無料券や。それ一枚で、それぞれ好きなバーガー、サイドメニュー、ドリンクと交換できる。三枚まとめて出したら、バリューセットとも交換できるぞ」


「すごっ!」


「すごいやろ?」

 おじちゃんは自慢げに胸を張る。


「交換って……まさか、ビッグマックとかでもええのん?」


「もちろんや。倍ビッグマックでも、期間限定のガッツリした高いやつでも、どれを選んでもタダや。サイドメニューも、ポテトのLサイズでもええんやで」


「神チケットやん……!」

 わたしは思わずリビングで興奮して叫んだ。

 マクドで値段を気にせず一番高いセットを頼む。それは高校生にとって、この上ない至高の贅沢、一種のステータスだ。


「いつもは舞香にあげてたんやけど、今回は遥に差し上げます」


「おじちゃん、ほんまにありがとう! 一生ついていくわ!」


 世の中にこんなチートアイテムが存在するなんて。

 この神チケットがあれば、わたしの放課後の交友活動は劇的に救われる。


 しかし、喜びの波がひと段落したところで、先ほどおじちゃんが口にした聞き慣れない言葉が、妙に頭に引っかかった。


「……なぁ、おじちゃん。さっき言ってた『かぶぬしゆうたい』って、一体なぁに?」


 財布に六枚の神チケットを大事に仕舞いながら、わたしは素朴な疑問をおじちゃんにぶつけてみた。

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