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過酷バイトはもう嫌や! 働きたくない凡人女子高生、億り人おじさんと始める『一億円逆算投資戦略』  作者: しばたろう


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01 往復4時間通学はもう嫌や!夢の居候生活と、謎多きおじちゃんの「豚の貯金箱」

 高校2年のゴールデンウィーク明け、わたしは初めて学校をサボった。

 いわゆる、五月病というやつだ。


 こんな話をすると、これだから最近の若い者は、と、大人たちからお小言をもらうかもしれない。

 だが、わたしにも言い分はある。まずは聞いてほしい。


 わたしの通う大阪府立箕面高校普通科は、偏差値62のそこそこの進学校だ。

 上を見れば北野とか豊中みたいなガチの天才が集まるトップ校があるけれど、箕面高校も地元じゃ『あそこ、頭ええ学校やんね』とギリギリ言ってもらえる、コスパの良いポジションにある。

 実際、この高校は気に入っている。校風が自由で、みんなおしゃれで可愛い。友達だって良い奴ばかりだ。

 しかし、問題はそこではない。

 通学時間だ。


 わたしの実家は、大阪の最北端、豊能町の山奥にある。

 まだわたしが生まれる前、若かりし父が「緑豊かで子育てに最適、しかも梅田まで直通電車が出る」という未来に家族の夢を乗せて、35年ローンを組んで建てた、自慢の庭付き一戸建てだ。


 ……ただ、そのマイホームの立地が、娘の高校通学においてだけは、ちょっとしたトラップになってしまった。


 地図で見れば箕面高校なんてすぐ隣のはずなのに、間に険しい北摂の山々がそびえ立っているせいで、直通のバスも電車も一本もない。

 結果、毎朝の通学ルートはこうなる。


 まず実家から坂道を歩いて能勢電鉄に乗り、一度わざわざ兵庫県の川西能勢口まで南下する。そこから阪急宝塚線に乗り換えて満員電車に揺られながらさらに南下し、ハブ駅である石橋阪大前で箕面線に乗り換えて、今度は一転して北上する。


……いや、なんで一回兵庫県に島流しにされてんねん。


 乗り換えの待ち時間や駅からの徒歩も含めて、片道約2時間。往復で4時間。

 高校1年生の1年間、わたしはこの地獄の耐久レースに耐え抜いた。夏は駅に着くだけで汗だくだし、冬なんて妙見口の駅ホームで本当に凍死するかと思った。野生のイノシシと電車が衝突して遅延したときは、山を丸ごと恨んだ。


 だけど、2年生になってゴールデンウィークの連休を実家でダラダラ過ごした瞬間、わたしの限界のダムが決壊した。

 3日学校をサボったら、当然のように親と大喧嘩になった。


 家出寸前まで話がこじれた結果、ひとつの妥協案が浮上した。

 それが、わたしがおじちゃんの家に居候するというプランだった。


 おじちゃん、つまり母の兄である神崎篤史(かんざきあつし)は、阪急宝塚線「石橋阪大前駅」のすぐ近くにあるマンションに棲んでいる。

 おじちゃん宅からわたしの通う箕面高校までは、阪急箕面線でたったの2駅。電車一本、ドア・ツー・ドアでもわずか20分だ。もはや奇跡と呼んで差し支えない。


 おじちゃんは、良い人だ。小さい頃はよく可愛がってもらった記憶がある。

 しかも、わたしはおじちゃんの子供、つまり従姉妹の舞香(まいか)ちゃんが大好きだ。少し歳上で、綺麗で、優しくて、頭の良いお姉ちゃん。


 わたし的には、これ以上ない文句なしの条件だ。

「兄さんに迷惑をかけたくない」と最後まで渋っていた母も、わたしの「このままやったら学校辞めて引きこもる!」という脅しに折れ、おじちゃんも「部屋は余ってるから構わんよ」と快く承諾してくれた。


 こうして晴れて、わたしはおじちゃん宅に居候することとなった。

 

 毎朝7時半に起きても学校に間に合う天国のような生活。

 これでわたしの華のJKライフは救われた。

 ただのラッキーな居候生活だと思っていた。


 しかし、話はそれだけではなかった。

 この居候生活によって、わたしの人生が大回転しだすとは、このときのわたしは、まだ思いもしなかったのだ。

 

 

 次の週末。

 わたしの私物を詰めた段ボールを車に積んで、我が家は、おじちゃんのマンションを訪れた。

 

「遥。よくきたな」

 おじちゃんが出迎えてくれる。

 

「篤史おじちゃん、お世話になります」

 わたしはぺこりとあいさつする。

 

「兄さん。ほんま、迷惑かけるねえ」

「かまへん、かまへん」

 親たちがそんなやりとりをしていると、

 横から、舞香ちゃんがひょっこり顔を出した。

「あらあ、遥、しばらく見ないうちに、大きくなったなあ」

「何言うてるの?今年の正月に、会ったばっかりやん」

 そんな軽口を叩きながら、わたしたち家族3人は、まずリビングを通り抜けて仏間へ向かった。

 モダンな仏壇の中央には、佳織(かおり)おばちゃんの遺影が飾られている。おじちゃんの奥さんであり、舞香ちゃんのお母さんだ。


「お義姉さん、今日から遥がお世話になります」

「お世話になります」

 

 母の後に続いて、わたしもパチンと手を合わせた。写真の中のおばちゃんは、記憶の中にある通り、優しく微笑んでいる。

 佳織おばちゃんが亡くなったのは、舞香ちゃんが今のわたしと同じくらいの頃で、原因は病気だった。

 おじちゃんと舞香ちゃんが二人きりで、必死に支え合って闘っていたことだけは、今でもよく覚えている。


 ...ただ、その過酷な経験が、舞香ちゃんの人生のルートを決定づけた。

 自身の母の闘病生活を懸命に支えてくれた医師や看護師たち。その圧倒的なプロの背中を見て、舞香ちゃんは「わたしも人を救う側になる」と医師を志したのだ。


 この時、舞香ちゃんは豊中高校の2年生。それから猛勉強し、一年の浪人を経て医学部へ進学。今では大阪医科薬科大学に通う、現役の医学部生だ。

 

 本当に、努力の人なのだ。

 


 その日は、みんなで夕食を囲んだのち、両親は帰っていった。


 その後、わたしは舞香ちゃんの部屋に突撃し、さっそく女子会を開くことになった。

 明日からの超最短通学、そして大好きな舞香ちゃんと一つ屋根の下で暮らせる喜びから、わたしのテンションはマックスになっていた。


「舞香ちゃん、医学部ってやっぱり勉強大変なんやろ~?」

「うーん。まだ1年生やから、今のところはなんとか大丈夫かなぁ。でも大変なのはこれからやから、ちょっとゾッとするわ」


 そんな話をしながら、わたしはベッドの上でゴロゴロしつつ、興味本位で前から気になっていた質問をぶつけてみた。


「大阪医科薬科大学って私立やんな? 学費って、やっぱりめっちゃ高いんやろ?」

「そうやねん。学費だけで6年間で3千万円近くかかるから。やから、お父ちゃんが『私立でもええで』って言ってくれた時、正直、めっちゃびっくりしたわ。え、うち、そんなお金あったん?って」


 そうなのだ。

 おじちゃんと舞香ちゃんの暮らしは、なんというか、極めて「庶民的」なのだ。

 おじちゃんは関西の大手企業に勤めているから、それなりのお給料はもらっているんだろうなとは思う。だけど、まったく贅沢をしている素振りがないのだ。

 服はいつもユニクロ系だし、乗っている車も国産のコンパクトカー。家の中もすっきりと片付いてはいるけれど、高級家具の類は見当たらない。


 大手企業勤めと言っても所詮はサラリーマン。だからそんなに派手な暮らしはできないものよね、と勝手に納得していた。それなのに、家一軒が建つレベルの授業料をポーンと出すのだから、意外なんてレベルではない。


「『豚の貯金箱、割ったったわ』って、お父ちゃんは冗談っぽく言うてたけどね。きっと、コツコツ貯めててくれたんやろね。詳しくは聞いてないけど」


 舞香ちゃんは愛おしそうにフフッと笑った。


 平凡を絵に描いたような篤史おじちゃん。

 もしかして、実はとんでもなく凄い人なのかもしれない。


 おじちゃんの底知れなさに小さな好奇心が芽生えたものの、この時のわたしはまだ、その「豚の貯金箱」の中身が、想像を絶するガチの資産であることには、まだ気づいていなかった。

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