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過酷バイトはもう嫌や! 働きたくない凡人女子高生、億り人おじさんと始める『一億円逆算投資戦略』  作者: しばたろう
女子高生編

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14 神様、志望校に受かりますように!S&P500へのお年玉投入と志望校出願戦略

 1月。

 今年も我が家の恒例行事として、新年の挨拶回りの時期がやってきた。

 元旦はお父さん方の田舎へ。そして2日目は、お母さん方の実家である神崎家へ。


 もうすぐ受験本番を控えているため、出発前に両親から「遥は直前やし、家で勉強しとく?」と聞かれたけれど、せっかくの正月だし、何より息抜きも必要。わたしは二つ返事で同行することにした。大好きなおじいちゃんやおばあちゃんの顔を見たいし……あと、そう、お年玉。これ、投資家(仮)にとっては一番大事な年次インカムゲイン(現金収入)やからね。


 ちなみに、遡ること大晦日の夜は、去年同様、友人たちと多田神社へ初詣に行ってきた。

 去年、わたしが予測していた通り、冬のこの時期になって焦り出した友人たちは、半泣きになりながら「志望校に受かりますように……!」と神様に懸命の祈りを捧げていた。

 そんな必死な彼らの横で、わたしはといえば。

(神様、去年も言いましたけど。──という枕詞を頭の中でバシッと付けてから──どうぞ、わたしを関関同立の経済学部に受からせてください)

 と、二礼二拍手しながら拝殿の奥に向かって鋭いガンを飛ばしておいた。やるべき準備はしてきた。あとは神様、あんたの出番やで、という無言のプレッシャーである。


 お正月、神崎家の本家に到着すると、おじちゃんもおばあちゃんも、親戚の皆さんも口々に「受験、いよいよやな! がんばれよ!」「体調崩さんようにな」と温かい励ましの言葉をくれた。そして、お年玉の入ったポチ袋を次々と手渡してくれる。

 ありがたい。心の底から感謝である。いただいた原資の分、遥、受験もその先も全力でがんばります。



 おじいちゃん、おばあちゃん、そして親戚一同が勢揃いし、テーブルの上の豪華なおせち料理やカニ鍋を取り囲む、にぎやかな夕食の時間。

 部屋の中は親戚たちの楽しそうな笑い声と、お鍋から立ち上る白い湯気で満ちていて、みんなお酒やごちそうを幸せそうに口に運んでいる。


 そんなお祝いムードの喧騒のなか、わたしは隣の席に座る篤史おじちゃんの袖をくいっと引っ張り、周りに聞こえないようにひそひそと声を潜めて打ち明けた。


「おじちゃん、おじちゃん。わたしな、今年ももらったお年玉で、なんか新しい株を買ってみたいんやけど……。なんかおすすめの銘柄とかある?」


「そうやなあ」

 おじちゃんは持っていた箸をぽんと置き、優しく微笑んだ。

「遥も去年、18歳になって法律上の大人(成人)になったしな。そしたらまずは、『NISA口座』を作るところから始めよか?」


「にーさ?」

 NISA口座。日経新聞のマネー欄なんかで、たまに大きな文字で見かけるワードだ。確か、非課税がどうのこうの書いてあった気がするが、詳しい中身までは知らない。


 そんなわたしの「?」が浮かんだ顔を瞬時に察して、おじちゃんが分かりやすく説明を続けてくれた。


「普通な、株を買って値上がりして売ったり、配当金をもらったりして利益が出たら、その儲けに対して約20%の税金がかかるねん。でもな、国が作った『NISA口座』という特別な箱の中で買った株の場合、そこにかかる税金がなんとゼロ、まるまる非課税になるんや」


「20%ってめちゃくちゃデカいなあ! 100万円儲かったら、本来なら20万円も取られる税金が、1円も取られずに済むってことやんね?」


「そのとおり。計算が早くてよろしい。で、大人への第一歩を踏み出す遥は、そのNISA口座を使って、まずは『S&P500』のインデックスファンドをコツコツ買ったらええぞ」


 えすあんどぴーごひゃく。これも日経新聞の国際面や相場欄でよく見かける単語だ。やはり、名前しか知らない。


「S&P500のインデックスファンドっていうのはな、これ一本買うだけで、アメリカを代表するめちゃくちゃ大手の優秀な企業500社株を、ちょっとずつ詰め合わせにして丸ごと買える便利な商品なんや。アップルとか、アマゾン、それに遥が大好きなマクドナルドやスターバックスも、ぜんぶその500社の中に入ってるぞ」


「へえーっ! それ、めっちゃええなあ! よく知ってる会社が入ってると、なんか親近感がわくわあ」


「やろ? それに、個別株のソフトバンクよりもさらに値動きが大きくて、世界全体のニュースや話題、事件事故にダイレクトに反応する。これを持って毎日チャートを眺めてたら、世界経済の動きにも、自然と興味を持てるようになるしな」


「それ、これからの経済学部生になる(予定の)わたしに、最高にピッタリやん……! よし、決めた。それ、買う!」


 世界を股にかける資本家へのルートが見えた気がして、わたしは大きく息を吸い込んだ。そして、テーブルの真向かいの席で、お酒を飲みながらおせち料理の黒豆をのんびりつついているお父さんに向かって、高らかに声を張り上げた。


「お父さん! わたしお年玉でS&P500買うから、NISA口座作って!!」


 お父さんは、ちょうどおせちを口に放り込んだ瞬間のポーズのままピキッと動きを止め、まさに鳩が豆鉄砲を食ったような、マヌケな顔をしてわたしを凝視した。

「な、なんや? えす、ぴー? に、にーさ……?」


 すると、フリーズしたお父さんの隣でお重を片付けていたお母さんが、去年と同じ、呆れた苦笑いを浮かべた。

「ちょっと遥。あんたまた、正月早々、兄さんから何やら入れ知恵をされたようやねえ……」


 おじちゃんは「お、やっぱりバレたか」といたずらっぽく笑いながら、うんと深く頷くと、

「細かい手続きとかメリットは俺から分かりやすく画面見せて説明するわ」

 と、手元のスマホ画面をお父さんたちの前に差し出しながら、穏やかに話し始めた。


 こうして、去年のソフトバンク株騒動とまったく同じデジャヴのような流れで、神崎家のリビングにて「即席NISA口座開設説明会」の幕が華やかに切って落とされたのだった。

 


 正月が明けると、いよいよ私立大学受験の願書提出の締め切りが目前に迫ってきた。

 ギリギリまで悩んだけれど、結局わたしは、我が家の最高頭脳である舞香ちゃんにもとことん相談に乗ってもらいながら、最終的な受験校を決定した。


 大本命は、関西大学経済学部。


 同志社大学は、京都の今出川キャンパスへの通学が往復3時間近くかかって大変だし、そもそも関関同立の中では頭一つ抜けて偏差値が高く、ここから逆転特攻を仕掛けるのはさすがにリスクが高すぎると判断して、見送ることにした。

 

 残る関大・関学・立命館の経済学部は、いずれも偏差値55でレベルとしてはほぼ同じ。であれば、一番大切な「通いやすさ」という立地戦略で選ぶことにした。

 

 まず立命館大学の経済学部は、「びわこ・くさつキャンパス」(どこやねん!?)にあるそうで、さすがに毎朝そこまで通うのは物理的に不可能やと早々に辞退。

 

 残るは関西学院大学と関西大学だ。関学はおしゃれなイメージがあって女子高生としてはめちゃくちゃ憧れるけれど、キャンパスが兵庫県にあり、ちょっと遠い。

 その点、関大の千里山キャンパスなら、石橋阪大前駅から十三経由で約40分。駅を降りたら目の前がキャンパスという最高のアクセスの良さだ。

 

 そうして、関関同立は、最終的に関大一本に絞ることにした。

 あとは、すべり止めとして、甲南大学の経済学部も受ける。

 

 冬休みの静けさが嘘のように始まった新学期。久々に学校へ行ってみると、目前に迫った共通テストを受ける子たちは、すでにピリピリとした凄まじい臨戦態勢に入っていた。教室の空気の重さが、これまでとはまるで違う。


 いよいよ、本当に受験が始まるのだ。

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