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過酷バイトはもう嫌や! 働きたくない凡人女子高生、億り人おじさんと始める『一億円逆算投資戦略』  作者: しばたろう
女子高生編

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13/15

13 わたし、経済学部を目指します!模試の結果と凡人の戦い方

 夏休みが終わりに近づく頃、いよいよ『河合塾 第2回 全統記述模試』の日が訪れた。

 模試を受ける際には、いつものごとく志望する大学と学部を記載する欄がある。わたしは迷うことなく、関関同立それぞれの「経済学部」の名前をシートに書き込んでいった。


 投資家(仮)としてお年玉でソフトバンク株を買い、受験対策の活字慣れとして、日々リビングで日経新聞をめくるようになったわたし。最初は呪文のようだった専門用語の霧が晴れていくにつれ、経済というものが少しだけわかってきて、わかってくると、その面白さも少しずつ実感できるようになっていた。


 一見バラバラに見える世界中の出来事が、すべて「お金と人間の心理」という一本の目に見えない糸で繋がっている。

 その糸を綺麗に紐解いていくと、仕掛け人たちの意図が見え、巡り巡って自身の利益へとダイレクトに繋がっていく。なんてエキサイティングで、なんて実利的な世界なんだろう。


 経済学部に行けば、ただの消費者(あるいは社畜予備軍)から、世の中を上から見下ろす「仕掛け人・投資家」の視点へとレベルアップできるのではないだろうか?


(であるならば、学問として、経済というものを大学で4年間ガチで勉強するのも悪くない)

 心からそう思ったのだ。


 少し前の夕食の場で、おじちゃんと舞香ちゃんに「経済学部を目指す」という話を打ち明けたときも、二人はわたしの選択を大いに喜び、背中を押してくれた。


「経済学は実学やから就職活動にもめちゃくちゃ強そうやし、何より、遥の『資本家への道』の確かな道標になるやろうからな。ええ選択やと思うぞ」

 とおじちゃんが頼もしく頷けば、

「遥にしては、ずいぶん堅実な学部を選んだね。正直、遥のことやからもっと突拍子もない奇抜な学部を選ぶかもって、ちょっと心配してたんよ?」

 と舞香ちゃんがクスッと笑いながら、でもどこか安心したように言ってくれた。


 そんな温かいエールを背中に受け、経済学部現役合格を明確に見据えたわたしは、この夏のすべてをぶつけるように模試の試験問題へと全力で取り組んだ。

 結果が出るのは、およそ一ヶ月後。

「人事を尽くして天命を待つ」

 やりきった充実感のなかで、わたしはそんな古風な心境に浸っていた。



 そして季節は進み、10月。待ちに待った模試の結果が返ってきた。

 前回の春の時のように「B判定くらい出てるやろ」などという根拠のない自信はもうない。机の上に静かに封筒を置き、ゴクリと息を呑んで、かつてないほど謙虚な気持ちで結果用紙を開いた。


 そこに印刷されていたアルファベットは、前回とは明らかに違っていた。


 同志社大学 経済学部 ──【 D 】判定

 立命館大学 経済学部 ──【 C 】判定

 関西大学 経済学部 ──【 C 】判定

 関西学院大 経済学部 ──【 C 】判定


「……っよし!」

 小さく拳を握りしめる。よかった。前より確実に、判定のステージが一段上がっている。

 嬉しくて飛び上がるというよりかは、「ほっとした」という感想のほうが強かった。


 もちろん、この夏休み、やれるだけの努力を続けてきた自負はある。しかし、自分の勉強法が本当に合っているのか、この暗闇を走るような努力の先に光はあるのか、ずっと不安で仕方がなかったのだ。


 安堵と喜びが限界突破したわたしは、模試の結果用紙をバタバタと旗めかせ、意気揚々と舞香ちゃんの部屋へと突撃した。ノックの音も軽やかだ。


「舞香ちゃん! わたし、やったよ! わたし、ほんまに頑張った!!」


 一人で鼻息荒く大興奮しているわたしを見て、舞香ちゃんは苦笑しながら、手からするっと結果用紙を取り、眼鏡の奥の目で内容を確認した。


「……すごいやん。合格圏内が見えてきたね。遥、この夏ほんまに毎日頑張ってたもんなあ。この調子、この調子!」


 受験の神様のような舞香ちゃんに努力を認められた瞬間、言葉にできないほどの絶対的な安心感が、わたしの心を満たしていく。


「うん、ありがとう……! ぜんぶ舞香ちゃんが適切なアドバイスをくれたおかげやわ」


「何言うてんの。これは遥が自分で掴み取った結果。ここからが本当の追い込みやから、この調子で気張っていきなね」


 舞香ちゃんの温かい祝福に、わたしのモチベーションはさらに跳ね上がった。


 次の週末。

 神崎家にやってきた両親にも、ここぞとばかりにどや顔を炸裂させながら模試の結果を突きつけてみせた。


「はあ……たいしたもんやなあ。あの遥が、関関同立でC判定出すなんて……」

「遥、ほんまによう頑張ったなあ。お母さん、びっくりしたわ」


 リビングのソファで、両親二人して穴があくほど用紙を見つめ、感心しきりである。


 そうでしょう、そうでしょう。もっと褒めてくれてもええんやで。あなたたちの娘は、やればできる子なんです。ぜひ、この模試結果は額縁に入れて玄関に飾っておいてください。

 


 しかし、両親の前でひとしきりどや顔を披露し、ほとぼりが冷めて冷静になってみると、ある残酷な事実に気がついた。


(ちょっと待って。よくよく考えてみたら……C判定って、合格ラインのギリギリ『ボーダーライン』ってことやんな? つまり、本番の勝負は五分五分ってことやんな?)


 その瞬間、脳内に鳴り響いていたファンファーレはピタリと止まり、わたしは一気に冷酷な現実へと引き戻された。

 もう秋も深まってきたこの時期において、まだ合格できる確率が半分だなんて。


 急激に押し寄せてきた不安に耐えかねて、わたしはまたもや舞香ちゃんの部屋へと駆け込み、弱音を吐き出した。すると舞香ちゃんは、わたしの目を真っ直ぐ見つめて、諭すようにこう言ったのだ。


「遥、そこまで弱気にならんでええよ。ここまでの自分の伸び代を信じなさい。現役生はね、受験当日、それこそ試験が始まるその瞬間まで学力が伸び続けるんよ。夏にあれだけ基礎を詰め込んだ遥なら、ここから過去問を解けば解くほど知識が繋がっていくから。五分五分の壁なんて、すぐに突き破れるよ」


 ……また、舞香ちゃんに最高の勇気をもらってしまった。

 そうや、くよくよと悩んでいる暇なんて1分1秒たりともない。今のわたしにできるのは、前進あるのみや。


 一方、高校の教室に目を向けると、周りの友人たちはかなりの苦戦を強いられているようだった。

 夏休みまで部活で泥だらけになっていた友達は、返ってきた模試の用紙を机に叩きつけながら頭を抱えていた。


「部活引退して速攻で模試とか、マジで無理ゲーすぎるやろ……」

「あかん、これ『関関同立行きたい』とか気安く言うてる場合やないわ。志望校下げよかな……」


 そんな悲鳴がそこかしこから聞こえてくる。

 だがその一方で、名の知れた国立大学で、平然とA判定やB判定を叩き出しているクラスメイトも確かに存在した。部活を最後までやり切っていたはずなのに、だ。


 世の中には、本当の天才がいる。あるいは、他人の何倍もの密度で机に向かえる並外れた努力家なのだろう。


 そういう異次元の子を間近で見ると、わたしは自分がなんてちっぽけな凡人なのかを、嫌というほど思い知らされる。

 けれど、同時にわたしは、この数ヶ月間でとても大切なことを学んでいた。


 凡人であっても、早くから「事前準備」を始め、コツコツと「時間」を味方に付けさえすれば、後から猛追してくる天才たちとも十分に渡り合えるのだということ。


 受験勉強にしろ、資産形成にしろ、きっと全部同じだ。

 一発逆転の魔法を持たない凡人には、凡人にしかできない、時間を資産に変える手堅い戦い方がある。

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