第13話 イメージアップ
魔力持ちの子供を神殿預かりにしない方法があるという噂は少しずつ広まっていった。
赤子が食事もせずに、どんどん弱るときは病気なので王太子お抱え治癒班に相談をと張り紙を色んなとこに貼った。相談窓口は詰め所の騎士か箱にとも記載した。
詰め所の騎士達はイリアナの頼みなので快く了承してくれた。ラーナ家の騎士が騎士団に所属したため第一騎士団の騎士もイリアナに服従していた。
イリアナはレオナルドに神殿とイリアナとで契約を結ぶ許可をもらった。
イリアナ自身で交渉に行く予定だったがジオラルドに止められた。
ジオラルドとアベルトがイリアナの要望を聞いて契約に行った。
マナ侯爵嫡男とラーナ家当主が、イリアナ・ラーナへの非道な行いへの責任追及に赴いた。神殿長は下位神官の魔導士達の襲撃事件など知らなかった。部下たちがもみ消していた案件だった。
ザビ教はザビ王家と手をとることで発展を遂げていた。
神殿所属の神官が名門貴族の婚約者で王太子のお気に入りに手を出したため、条件を飲むしかなかった。
なによりザビ王国でも治癒魔導士として民の人気を集めるイリアナ・ラーナへの処遇を信者にしられるわけにはいかなかった。
神殿長は提示された契約書を見て戸惑った。
互いに不干渉。
呪術師への手出しは死罪。
抗議は正式な手続きのもとで行うこと。
武力行使の禁止等が記載されていた。
契約者はイリアナ・ラーナ個人であった。
契約の内容で禁止されていることは神職として当然のことばかりだった。
二枚目に破られた場合はマナ侯爵とラーナ家に処遇を委ねると記載されていた。
神殿長はこの契約がまもれない神官は不要と思い契約することにした。また襲撃事件に関与した神官達を裁くことも約束し契約は行われた。
イリアナは自分の関与した襲撃事件の処遇は知らずに、契約を整えてくれたジオラルドに感謝していた。アベルトの関与は気付かなかった。アベルトは自分の関与で姉が疑念を抱くことはわかっていたので裏で動いていることは口止めしていた。
神殿との問題も解決した。ただまたイリアナはつまずいていた。
呪術のイメージアップがうまくいかなかった。
イリアナはアドニスと作戦会議をしていた。赤子に施す呪いは血を用いて行う。
効果に感謝はされても、呪術は怖いというイメージをもつ者も多かった。
「アド、どうすれば呪術が受入れられるのかな?」
「持病の治癒ですか?」
呪術は症状を和らげたり、病の悪化を遅らせることはできても急激にはよくはならなかった。効果は長期的に見ないとわかりずらかった。
「効果がわかりずらいわ。それに治癒しなければ騙されたと騒ぐ人がでる」
「魔除け?」
「魔除けが必要な人は早々いないわ」
アドニスは根本的な疑問を本気で悩んでる主に投げかけた。
「イメージアップ必要ですか?」
「呪術師が国に来たときに、いじめられないように」
「魔道士さえも地位が低いのに無理があると」
「なんでかなぁ。優秀な魔道士は軍隊にも匹敵するのに」
イリアナは頭を抱えていた。シュナイダー王国は魔道士は重宝されていた。ザビ王国よりも待遇は良かった。魔道士が蔑まれることなどなかった。将来的には魔導士のイメージアップも必要だが優先すべきは呪術師である。
「民より貴族に流行らせますか?」
「貴族?」
「当主のお気に入りのお抱え呪術師なら地位は保証されますよ」
「ジオと結婚した私が全員をお抱えにすればいいの?」
アドニスは時々、おかしな発想をする主を見て笑いを堪えた。ここで笑えばイリアナが拗ねることを知っていた。お抱え呪術師集団を持つ隣国から嫁いだ侯爵夫人に良いイメージをもつ人物などいない。
「イリアナ様が全員お抱えにしたら、何を企んでるのかと警戒されますよ」
「私が呪術師の素晴らしさを演説する?」
イリアナは演説が得意である。ただ演説内容が怪しすぎた。
「宗教と勘違いされますよ」
「無料診療所を作って医師として働いてもらう?」
イリアナの呟きの中で一番まともな案だった。
「悪くはありませんね。」
「国中を旅しながら、幻の呪術師とかは?」
自分の言葉を無視しておかしなことを言い出す主は放っておくことが一番だとアドニスは知っていた。
「まずは城下からせめましょう。」
「旅…」
イリアナは自分にとって楽しい案を却下されたのが悲しかった。
イリアナは旅することが気に入っていた。アドニスは公私混同しだしたイリアナに忠告することにした。
「イリアナ様、旅をしたいなら休みにして下さい。また怒られますよ」
アドニスの様子にこの案が駄目だと悟りイリアナは唯一賛同された案を採用しようとしたときに閃いた。
「呪術師の診療所とラーナ教室を開けばいいわ」
「ラーナ教室?」
「そこで仕事する。ラーナ教室なら人が集まるし、診療所の噂も広まるでしょ?」
イリアナはラーナ教室が人気があることをも噂の力も知っていた。
診療所だけなら慈善事業として取り組むならイリアナの独断でも可能だった。ただラーナ教室が絡むと話は別だった。参加する子供達の安全等を配慮しなければいけないことが多々あった。
「ジオラルド様に相談してからのほうがいいかと」
「アド、住み込みにしたら一緒に来てくれる?」
イリアナの計画がアドニスが思っているより壮大だった。まさか住み込みで診療所を開くつもりとはアドニスにも予想外だった。アドニスの中でしっかりと根回しと許可が必要になる案件になった。とりあえず勝手についてくるだろう同僚を受け入れることを許すことにした。
「はい。たぶんリックとイワンもついてきます」
「隊長の許可が出ればいいわ。大きな家が必要ね。貧民街あたりに買おうかな」
盛り上がっでいるイリアナにまずは後見のジオラルドに許可をとることを思い出させなくてはいけなかった。すぐに家を探しに行きそうな勢いだった。アドニスは行動する前に後見のマナ侯爵家と騎士団とレオナルドの許可が必要なことを知っていた。ジオラルドに許可をとれば、後の手続きはジオラルドが引き受けることも。ジオラルドの陰にはアベルトとセインがいるので任せて問題ないと判断していた。アドニスはジオラルドは評価しなくてもアベルト達は信頼していた。
「まずはジオラルド様に許可を」
アドニスがジオラルドに許可をとらないと動くことを許してくれないことにようやくイリアナは気づいた。
「これは、ラーナとイリアナどっちがいいかな?」
「イリアナ様の方ですかね。公私混同するなと言うのに利用しますね」
「利用できるものは何でも利用するわ」
企んだ顔で微笑む昔から思いつたら止まらないと成長しない主に腹心は苦笑していた。
魔道士達の様子を見に行き、魔術塔から戻ったイリアナは小隊長室でジオラルドを待っていた。
昼休みに丁度戻ってきたジオラルドに目を輝かせた。
ジオラルドはイリアナが戻ってきてると思わなかったので驚いていた。
「ジオ、相談があるの。貧民街に家を買いたい」
「うちの別邸は?」
「貧民街がいいの。そこにライヤと引っ越したい」
「リア、俺とじゃなくてライヤなの?」
ジオラルドはイリアナの言葉に期待を砕かれた。恋人が一緒に住みたいとおねだりしているのかと思っていた。
「呪術師のイメージアップの為に無料診療所とラーナ教室をひらきたいの。もちろんお金は自分で出すし、時々報告にくる。アドニスとライヤの護衛騎士も常駐させる」
ジオラルドは気付いた。
イリアナは恋人としてお願いしている。ただラーナとして報告すべき案件だった。ジオラルドは緩んだ自分の顔を戻し、警戒した。イリアナが抜けていることはよく知っていた。
「殿下の許可は?」
ジオラルドの顔がゆるんだ顔から真顔になったのでイリアナは戸惑った。
「レオ様?アドにはジオの許可を先に取れって」
ジオラルドはイリアナがやっぱりわかっていなかったことにため息をついた。とりあえず、先に話を聞くことにした。アドニスがついているなら問題ないとセイン達の言葉を信じて。
「誰と住むの?」
「ライヤとアドは決定。アマルとサーラとリック達がついてくるなら受けいれる。あとはラーナ家の騎士を通いで何人か」
護衛の配置はライヤのためだろうとジオラルドはイリアナの考えを読んでいた。
「そこに俺も入れて」
「王宮から遠いから駄目。それにマナ侯爵夫妻が悲しむわ」
ジオラルドはイリアナの言葉に眉を潜めた。王宮から離れるほど治安が悪くなる。
「危険なことは分かってるよな?それを俺が許すと思う?」
イリアナはジオラルドから視線を逸らした。多少危険が伴うことはわかっていたので巻き込みたくなかった。
「それは…」
「無料診療所とラーナ教室をやるのは止めないけど、責任者は俺にして。家も買ってやるよ。殿下から補助金も、もらえるように手を回すよ」
イリアナは悩んだ。個人資産で行う予定だったのでが確かに補助金はありがたい。
イリアナの名でやれば、問題がおきてもイリアナの首さえ差し出せばすむ話でもある。責任者をジオラルドにしたくはなかった。
「マナ侯爵家に迷惑が」
嫌そうな顔をするイリアナの頭をジオラルドは軽く叩いた。大事なことを抜け落ちる頭がマシになればいいと思いながら。自分を睨んだイリアナに視線を合わせて子供に言い聞かせるようにゆっくりと言い聞かせた。
「もともと後見は、うちだ。未来のマナ侯爵夫人の事業を俺が手伝わないわけにはいかない。それにうちの名前を使えば貴族や神殿からの横槍も入らない」
イリアナは神殿と契約を結んでも正式な抗議は禁止してない。なにが逆鱗にふれるかわからいので貴族からの干渉も予想はしていた。ただ謀なら負ける気はしなかった。ただマナ侯爵家を巻き込むと話が変わる。
「マナ侯爵夫妻に顔向けできない」
ジオラルドは見当違いなことを言うイリアナに何度目かわからない言葉を伝えることにした。
「うちは次代に任せるって。世継ぎさえ残せば好きにしろってさ」
「自由過ぎる。」
「どうする?」
イリアナはジオラルドが言い出したら聞かないことをわかっていた。
最近のジオラルドはイリアナにも容赦ない時がある。
昔のポンコツぶりが嘘みたい…。
イリアナに残された答えは一つだけだった。イリアナは頭をさげた。
「宜しくお願いします。」
「任せろ」
上司としての話は終わったのでジオラルドはイリアナに食事とらせることにした。
アマルのお弁当を嬉しそうに食べるイリアナを見ながら、休息の時間を楽しむことにした。




