第11話前編 魔導士
呪術のイメージアップが進まず、イリアナは躓いていた。
昼休みに小隊長室に帰ってきたジオラルドにイリアナは差し入れを渡した。
「ジオ、これ一緒に食べてって、ご夫人から」
夫人達はイリアナに会うと「ジオラルドと二人で食べてね」と差し入れを渡していた。
今日は出勤途中に渡された。呪術のイメージアップが進まないのに、人気を上げているジオラルドをイリアナは恨めしそうに睨んだ。
「ご夫人達をたらしこんで…」
「焼きもち?」
「違います。複雑なだけ」
ジオラルドは妬いてることに気付いてないイリアナの頭を撫でようとするとパシンと振り払われた。
「俺はリアだけだよ」
「いつかジオのファンに私が刺されたら恨むから」
「護衛をつけようか?」
ジオラルドにはイリアナを刺せる人間を思いつかなかったけど、拗ねてる恋人に付き合うことにした。
「いらない。マナ家門が護衛についたらアドニス達が絶対に黙ってないから…」
「俺が側にいようか?」
「小隊長の業務ではありません。自分の身は自分で守ります」
「隊長になったらリアをずっと側におけるかな」
「職権乱用、公私混同厳禁です」
「権力は使うためにあるんだろ?午後はどうするんだ?」
「呪術に興味を持ってる人がいるから会ってくる」
「ライヤと行くなら護衛を連れていけ」
「私が護衛」
「駄目だ。命令だ。あと」
「わかりました。ちゃんと勤務時間内に戻ります」
「気をつけて」
「公私混同厳禁です。行ってきます」
心配そうなジオラルドを残してイリアナは出ていった。
ラーナ家に戻り、騎士とライヤを連れて約束の場所に向かった。
扉を開けて部屋に入った瞬間、イリアナは嫌な予感がし、慌てて部屋から出て扉を閉めた。
扉が開かないようにイリアナの体で押さえて、騎士に命じた。
「ライヤを連れて帰って。絶対に守り抜いて」
「イリアナ様」
「命令よ。行きなさい」
「イリア?」
「ごめん。ライヤ間違えたわ。また後でね」
イリアナは微笑みライヤに手を振った。
騎士が戸惑うライヤを連れて消えていくのを見送った。
ラーナ家の騎士はイリアナの命令に逆らわない。
二人が見えなくなったので、イリアナは扉から体をどかすと勢いよく扉が開き、魔導師が倒れてきた。
腕力がないイリアナでも扉を抑えられたので、イリアナは非力な魔導師に心の中で感謝した。
イリアナは勢いよく倒れてこんだ魔道士に礼をした。
「失礼しました。場所を間違えました」
「いや、用があるのは俺達だ」
イリアナはいつか神殿育ちの魔道士達から接触があるとは思っていたが、こんなに早いとは思っていなかった。
「外でよければ話を聞きます。魔力封じの結界のある椅子に座るなんてごめんです」
立ち上がった魔導師はイリアナにニヤリと笑った。
「この人数に勝てると」
家から出てきた10人の魔導師を見て、イリアナは悲しんだ。
「せっかく呪術に興味を持ってくれる人に会えると思ったのに。期待を返して欲しい。これで、ライヤのモチベーションが下がったら許さないから」
イリアナに小さな呟きは誰にも聴こえなかった。
イリアナは気を取り直して仕事をすることにした。
「穏便に話し合いたいですが必要なら武力行使も厭いません」
「魔力持ちの保護をしてるらしいな」
「ええ」
「他国の魔女が俺達の国を侵略しようとしてるだろ?」
「ありえません」
「魔力を封じて、無理矢理国に従わせているのに?」
『逆恨みで、魔封じをかけた子に害がいかないように手をまわさないとかな。今度呪いをかけるときは極秘にしてもらおう』
「よく知っているんですね。私、強制はしてません。ただ選択肢の提示をしてるだけです。魔力があるから家族と離されるなんて理不尽です」
「呪術を広めて俺達魔道士を貶めようとしてるんだろ!?」
「ありえません。でも魔力があるから魔道士にならないといけないなんておかしいです。生き方は己で決めるものです」
「何を綺麗事を。今更遅いんだよ!!」
魔導師達は神殿で育った。
家族など知らずに全ては神のためと教え込まれた。
神から恵みの力を与えられた。神の教えが全てと。神のために生きよと。魔力があるために、全てを奪われ育てられた魔導師だった。
彼らはイリアナのやることは許せなかった。
「過去は変えられません。でも未来は変わるんです。貴方達は国を恨んだことはありませんか?神殿で礼拝にくる他の子供を羨ましいと思ったことはありませんか?」
魔導師はイリアナを睨んだ。
「魔力持ちは神殿で育つのがならわしだ」
「きっとレオナルド様がいずれ変えてくれます」
「その顔で王子をたらしこんだか」
「レオナルド様はそんな簡単な方ではありません。私の呪術師に手を出したら殺しますのでご覚悟を」
「少し痛い目に合わせるしかないか」
「お相手します」
イリアナに杖を向けてくる魔導師に、剣を抜いた。
イリアナは話しても聞かない魔道士達の杖を斬ろうとしたが、一人の魔道士がニヤニヤしながら腕の中の子供を見せて杖を突きつけていた。
「お前が動けばこいつを殺すよ」
「卑怯よ」
「魔道士なんてそんなもんだろ?」
徹底的に礼儀作法を鍛えられ、清らかさを求められる神官達の卑劣さにイリアナは眉をしかめた。
「本当に神殿育ちなの!?いえ、それはいいわ。望みは?呪術師を殺しても無駄よ」
「呪術師を追い出して、今まで通りにすればいい」
「私は王家の命令で動いています。そんなことできない。霧を」
イリアナはランに部屋中に霧で覆わせた。
魔道士を峰打ちしながら、子供を保護した。
子供を抱きあげたイリアナは意識を失った。
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イリアナは目が覚めると魔封じの結界の中で縛られていた。
イリアナは体を襲う気持ち悪さに動けなかった。
『やられた。
子供は神殿側だった。
抱き上げた時に大量の魔力を流されたんだ。魔封じの結界だから、魔力を解放できない。
気持ち悪い』
顔色の悪いイリアナを見て魔道士が笑った。
「目が醒めたか。気分はどうだ?」
「最悪です。女性を縛り付けるなんて最低です」
「嬢ちゃん次第だよ」
「私はイリアナ・ラーナです。母国のためにレオナルド様の命令に逆らうことはできません」
「そんなこと言えなくなる」
魔道士の振り上げられた杖にイリアナは身構えた。
非力な魔道士に杖で殴られ、イリアナは力を抜いた。
急所を狙わず、弱い力で殴られても、イリアナにとっては問題なかった。
問題なのは魔力酔いだけである。
『気持ち悪い…。
縄を解きたいけど、体を動かせない。動いたら吐く…………。吐物と放置とか絶対に嫌』
痛みに涙し、許しを乞うイリアナを期待していたのに、震えるだけで反応しないイリアナが魔道士達はおもしろくなかった。
魔道士がイリアナの剣を奪った。
剣を向けられたイリアナは、初めてまずいと危機感を持った。
『負けたくない。でも気持ち悪い。
もし私が死んでも、きっとアル達がアマルやライヤ達を守ってくれる。
アルが女装して族長に交渉すれば問題ないよね。
顔、そっくりだもの。
アル、後は宜しくね』
この時アベルトは寒気に襲われていた。
まさか死を覚悟した姉に女装姿を思い描かれているとは思わなかった。
イリアナは気持ち悪さに震えながら、痛みを覚悟して目を閉じた。
いつまでも痛みはなく、しばらくすると聞こえるはずのない剣が交わる音を聞き、目を開けた。
イリアナの目の前にはアドニスの背中があった。
「アド、気持ち悪い。ここから出して」
アドニスはイリアナの縄を切り、肩に抱えあげた。
気持ち悪いイリアナはアドニスの抱え方に吐きそうだった。
目の端にリックとジオラルドが魔道士達を捕らえているのが見えたイリアナはジオラルドに手を伸ばした。
「ジオ、」
ジオラルドは傷だらけのイリアナに眉を顰めた。
アドニスが投げたイリアナの体を受け取り抱き上げた。
ジオラルドはアドニスとリックがイリアナを傷つけた魔導師を殴っているのは見ないフリをし、捕縛はアドニスとリックに任せることにした。
「そと、そとにつれてって」
ジオラルドはイリアナを連れて外に移動した。
イリアナは外に出て魔力を放出し、ついでにジオラルドの魔道具にも魔力をこめた。
イリアナは他人の魔力を大量に取り込んだので、だるさは抜けないが、吐き気は治まり、動ける程度に回復した。
「ジオ、ありがとう。おろして」
イリアナはジオラルドの据わった目を見て固まった。
「ラーナ、俺は護衛を連れていけと言ったよな?」
「連れていました。ライヤを連れて逃しました」
「何人?」
「1人」
「ライヤとラーナの護衛として最低二人は必要だよな?」
「私もですか?」
「当然だ」
「騎士なのに?」
ジオラルドは何もわかってないイリアナにため息をついた。
「いいや。今夜ゆっくり話そう」
「今夜?」
「明日は隊長から話がある。俺はジオラルド・マナとして話がある」
「体が辛いから今日は家で休ませてほしい、うん。わかった。言う通りにします」
イリアナはジオラルドに逆らってはいけないと勘が告げていた。
その場をアドニス達に任せてイリアナはマナ侯爵邸に連れて行かれた。
イリアナは休ませてもらえない状況に泣きたくなった。




