第9話 復帰
朝、イリアナは小隊長室でジオラルドを待っていた。
ジオラルドはいつもより早く出勤したイリアナに驚いた。
アベルト達に夜遅くまで説教されただろうイリアナはギリギリに出勤してくると思っていたから。
ジオラルドの様子など気にもとめず、本題に入った。
「ジオ、左腕は?」
「動きが鈍いけど支障はないよ」
イリアナはジオラルドの腕に魔力をこめた魔道具をつけた。
「ジオこれをつけても、かわらない?」
ジオラルドには魔道具は使えないのになぜか左腕を動かすと腕が軽かった。
ジオラルドの驚く顔を見て、イリアナは笑った。
ロートにジオラルドのための魔道具を作らせていた。
動きにくい腕を魔道具で動かせるように。
「これ予備。ちゃんと魔力をこめてあるからすぐに使える。定期的に魔力をこめればいくらでも使えるから。魔道士なら誰でも魔力をこめられるわ」
「リア?」
「私じゃなくても大丈夫」
リアが旅立ったのはまさか俺のため?
私じゃなくてもって。
またいなくなるのかよ…。
「リア、俺の腕のことは気にしないでいいから、側にいて」
「ジオ?」
「気に病まないで。気にしなくていい。それにリアのおかげでこんなに軽くなった。だから、俺の腕のために旅立つのはやめて」
「違うわ。ジオのためじゃないわ。私の魔導士としての」
「リアは魔導士よりも騎士を選んだんじゃないの」
「それは・・。でも」
ジオラルドは気まずい顔をするイリアナの手を握った。
「誕生日おめでとう。俺と結婚してくれる?」
「私が奪ったのに」
「違うよ。俺はリアの魔法のおかげで生きてる。リアは俺からなにも奪ってない。」
「ジオ…」
「リア、騎士団もマナ侯爵家も大丈夫だから。」
イリアナは寂し気に笑った。
「相応しい人を見つけたんだね。おめでとう」
ジオラルドはイリアナを抱きしめた。
「勘違いしないで。俺が結婚するのはイリアナだけだ。マナ侯爵家は掌握した。第一騎士団も。社交もちゃんとこなしてるよ。」
「ジオ?」
「リアは側にいてくれるだけでいい。リアのやりたいことは助けるよ。」
頼もしく笑うジオラルドのにイリアナは目を丸くした。
「どうしよう。ジオが違う人みたい」
「惚れた?」
「そうね。初めて逞しく感じたわ。私、危険なことをする。もしかしたらマナ侯爵家にも迷惑がかかるかも」
「構わないよ。権力を使って支えるよ。ライヤ達にもリアにも手出しはさせない。アベルト達と一緒に。」
ライヤ達になにかあればイリアナが死ぬ。
そんなことジオラルドは許せなかった。
一年前のジオラルドとの違いにイリアナは戸惑った。
「ジオ、具合悪い?」
「悪くない。リア、約束覚えてる?」
「約束?」
「成人したら結婚して一緒に暮らすって」
「ジオが望むなら」
「いつ結婚する?」
「任せる。きちんと用意ができたら。」
「リアがドレスを選んで、日付を決めてくれればいつでも。準備も俺がやるしリアは隣にいてくれればいい。招待客も覚えなくていいよ」
「ジオ?」
「結婚したらアドニスをリアの専属にする。未来のマナ侯爵夫人に護衛は必要だ。イリアナとアマルに無礼を働く者も処分した。」
「ジオ、ごめん、ついていけない。」
「アベルトに力をかりて、リアを迎える準備を整えた。リアの側はラーナ家門でまとめる。うちはラーナ家門をそのまま受け入れるよ。」
「ジオ、意味わかってる?」
「ああ。2つの家門が切磋琢磨すれば摩擦はでる。でも力は強くなるだろ?そこは上手く纏めるよ。」
「私、マナ侯爵夫人をできるよ」
「マナ侯爵家をおさめるのは俺だ。」
自信満々のジオラルドにイリアナは笑いだした。
「それなら、私はいらないね」
「いるから!!俺はリアがいるだけでモチベーションがあがるから。それに俺はリアからしか魔力は受取らない」
「え?」
「そうしたら、リアは俺の側を離れられないだろう?」
「ずるい」
「貴族なんて、そんなもんだろ?。俺に捕まる気になった?」
「逃してくれるの?」
「まさか。」
「ずるい」
「俺の諦めの悪さ知ってるだろ?名残惜しいけどここまでだな。今夜空けといて」
ジオラルドはイリアナを腕から解放し頭を軽く撫で部屋から出ていった。
イリアナはジオラルドの様子にぼんやりしたあと、すでにレオナルドとの謁見時間が過ぎていることに気づき慌ててレオナルドの部屋を目指した。
レオナルドは遅れたイリアナに愉快に笑うだけだった。
イリアナは分厚い報告書を二部渡した。
他国の軍事についてはアドニスがまとめ、魔法や他の情報はイリアナがまとめた。
「まさか伝承の呪術師を見つけるとは・。取り込めそう?」
「族長は呪術師の安全と尊厳を守るなら前向きに検討すると。一年間は様子見だそうです」
「私も呪術は伝承程度しか知らない。イリアナは呪術師はこの国に必要?」
「はい。呪術師は子供の頃から仕込めば、本人の努力で誰にでもなれるそうです。魔法よりよっぽど国に貢献できます。魔封じの技術だけでも優遇する価値はあります」
「魔封じは解けるの?」
「施した呪いの程度によります。高位の呪術師なら解呪はできると」
レオナルドはイリアナの考えが読めた。
「呪術師を上手く使えば、魔力持ちの管理を神殿ではなく国ができるか。」
「はい。呪術で魔力を封じれば、家族と引き離す必要はありません。魔道士を目指す者には解呪し私がレオ様のために育てましょう」
「呪術ね。面白い。」
「ただレオ様、呪術師は」
「私が呪術師の価値を国民に認めさせればいいんだろう。」
「あと、いずれくる呪術師達の安全を。人は自分と違うものを排除したくなりますから」
「一度、連れてきた呪術師と話してから決める。イリアナは騎士団を抜けて、魔力持ちと呪術師の保護に当たりたいんだろう?」
「許されるなら。」
「呪術師と話してから決めるけど、イリアナの結婚で恩赦を与えるよ。魔力隠蔽者は呪いを受けるなら見逃そう。魔力さえ暴走しないなら問題はないから。イリアナの結婚はジオと相談して私が進めるよ。」
「わかりました。」
レオナルドは魔力持ちへの誓約書を作った。
呪いを受ける。
解呪を望むならの必ず国に申し出る。
解呪をしたあとは魔道士として訓練を受ける。
ザビ王家に敵対しない。
誓約を破れば、罰が与えられる。
ただこの誓約を守れば自由が与えられる。
イリアナは魔力持ちを保護して、呪術を国民にひっそり広めることをレオナルドから許された。
イリアナは特別任務扱いになった。
イリアナとジオラルドとの結婚は一年後。
呪術師達を国に受け入れてからとなった。




