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傷心令嬢の鬼ごっこ  作者: 夕鈴
第二章

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第7話中編 旅

占い師の示した方角に進むと小さな集落があった。


「ほら、アド!!きっとここよ」

「イリアナ様、油断は禁物です。見張られてます」

「自己紹介すればいいかな?」

「落ち着いてください。とりあえず、中に入りますか」



そこは呪術師の集落だった。


イリアナ達の言葉に反応してくれる呪術師はいなかった。

気配を消して呪術師についていき、集落や呪術について調べた。

ここは迫害された呪術師が作った集落だった。

呪術は(まじな)い。呪力をつかって使用するらしい。医師としての役目も担っていた。

時々、村人が呪術師の力を頼りに訪ねてきていた。村人からこの集落についてイリアナは聞きだした。


イリアナは警戒の強い呪術師を必死に口説くことにした。

呪術の一つに体に(まじな)いを書くとその間は自身の魔法を無効化できる。

イリアナはジオラルドが魔法が効きにくいのは無意識に無効化魔法を使っていると考えていた。 

呪術によってジオラルドの魔法を封じればイリアナの魔法が効く。ジオラルドの左腕を治せるかもしれないと思っていた。

左腕が治らなくても魔法が効くなら魔道具が使えるようになる。

そうすれば腕を動かせる可能性があった。

ジオラルドは魔道具も使えなかった。


それに、呪術が効いてる間は魔力を封じられる。 

魔力持ちの赤子の魔力を封印できれば、神殿に預けられることもなくなる。

イリアナにとってはどうしても身につけたいものだった。

ただ現実は甘くなかった。

呪術師に魔道士はなれない。

イリアナは生粋の魔道士だった。

呪術師は幼い頃から修行が必要だった。

感受性の高い子供の頃からの修行が…。

途方にくれたイリアナは呪術師を口説くことにした。

呪術師は集落で生涯をおえる。

閉鎖的な集落で過ごす子供に外の世界の素晴らしさを語って外の世界に興味を持ってもらうことにした。

胡散臭い目で見られようとも気にせず、楽しそうに語った。

呪術師の素晴らしさも語った。


「外の世界は楽しく素晴らしいです。でも呪術師はもっと素晴らしい。あなた達の力は沢山の人々を救います!!私と一緒に救世主になりませんか?私に力を貸してくれるなら何があっても守ります。あなた達の尊さがわからない愚か者は私が斬ります。生活の補償もします。給金も払います。」



イリアナの言葉は全く聞いてもらえなかった。

それでも、諦めなかった。イリアナは毎日精神回復の歌を歌い続け、集落で奉仕を続けた。呪術は精神的に疲れるから、イリアナの歌は徐々に呪術師の興味をひいた。

呪術師を馬鹿にする旅人も隣の村の村人達も叩きのめした。

もちろんアドニスとアマルもイリアナを手伝った。

集落に勝手に住みつき、一月たつ頃にはイリアナ達の言葉に耳を傾ける呪術師が出てきた。


集落の呪術師達は外の世界に興味を持っても、本当に守ってもらえるか不安だった。

呪術師は迫害の対象だった…。

そんな彼らの不安を取り除いたのはアマルだった。


「俺は孤児だけど、イリアはずっと大切にしてくれた。産まれもわからない薄汚い俺を弟だって。俺が望むならずっと、側にいてくれるって」


呪術師達はイリアナがアマルを大切にしてるのは身を持って知っていた。

一度アマルにイタズラを仕掛け、イリアナに殺されかけた子供がいたから。

「アマルに危害を加えるなら殺します」と言った口で呪術師の勧誘をしていた。

そんなイリアナの言葉を呪術師達が耳を傾けるようになったのはアドニスの涙ぐましいフォローのおかげである。

アドニスはイリアナの操縦方法も、フォローも心得ていた。

他にイリアナを操縦できるのはセインとアベルトだけである。



族長はイリアナの話に耳を傾けるようになったが、夢のような話に判断を決めかねていた。

族長はイリアナと一緒に行きたいと強く願った二人の兄妹を預けることにした。


「イリア。私にはお前の話は信じられん。迫害を受けた我らが歓迎されるなど」

「最初は摩擦があるかもしれません。でも迫害なんて絶対にさせません。それに貴方達の手が必要です。このまま失われていくのは惜しいです。族長もこのまま集落に籠って過ごすことが最善とは思っていませんよね?」

「このままだと呪術は伝承者をなくし、消えゆくと」


この集落には子供が少ない。集落間での婚姻のため無事に生まれないことが多いことは問題視されていた。


「そんなの勿体ないです。私には力があります。権力者の後ろ盾も。力をかしてくれる騎士も。もう一度、世界に目を向けてみませんか」


「条件がある」

「条件とは?」

「一年間そなたに二人の呪術師を預け様子をみよう。一年後、帰ってきた二人を見て決めよう。ただしイリアには呪を施す。儂に命を握らせろ」

「その呪により、魔法の発動への影響はありますか?」

「儂が発動させなければ、なにも変わらん。ただ発動させれば命はない」

「構いません」

「イリアナ様」

「アド、口出し不用よ。」

「解呪はできるんですか?」

「アド、命令よ。黙りなさい」

「二人の無事を確認したら解呪してやろう」

「わかりました。よろしくお願いします」




一年預けて二人の話を聞いて、イリアナの話が本当か確かめると。

その代わりイリアナに呪をかけることが条件だった。

一年後、二人が無事に集落に戻らなければ、イリアナの呪を発動させると。

イリアナは族長に呪による魔法への影響がないことを確認して、呪を受けることを了承した。

族長に命を握られることを、笑顔で即答で了承したイリアナに驚きながらも、族長はイリアナの左胸に呪を施した。


イリアナはアドニスとアマルにも、呪いをと言われないことに安心していた。

兄妹を守る覚悟は決めてあり、自分の命で借りられるなら安いものだった。

国の魔力持ちの子供を救えなくても、最悪はジオラルドだけでも救えるなら構わないと思っていた。


アドニスはイリアナが、止めてもきかないことを知っていたのでアベルトに報告することを決めた。

アマルも、イリアナが決めたら譲らないことを知っていたのでセインに話そうと決めていた。


イリアナは二人に口止めを忘れたことで恐怖のお説教を味わう未来を知らなかった。



イリアナは呪術師の兄妹を連れてザビ王国に帰ることにした。

道中、外の世界の楽しさを知ってもらうため観光に連れ回した。

兄妹達はイリアナが全力で自分達を楽しませようとする姿を微笑ましげに見ていた。

兄のライヤは18歳、妹のサーラは12歳。

両親は幼い頃に亡くなり族長に引き取られ育てられた兄妹だった。

二人は呪術師として優秀だった。

族長の息子よりも優秀ゆえに、イリアナの話は助け舟だった。

ライヤは次期族長を目指す気はなかった。

だから、いつか集落を出たいと思っていた。

年下の美少女が語る呪術師の無限の可能性の話は面白かった。

イリアナに呪術師のことを 教えたのはライヤだった。


「ライヤ、私を弟子にしてください。なんでもするから」

「イリア、魔道士は呪術師になれない。」

「ライヤに魔力を封じて貰えば目指せる?お金は払いますよ」

「イリアの年齢だともう遅い。魔法が使えるんだからいいだろ?魔法を捨ててまで呪術師になりたいっておかしいよ」

「え?私は魔法よりも呪術のほうが尊いと思う」

「なんで?呪術師より魔道士のほうが上だろ?」

「違う職業なんだから上も下もないわ。肉屋とパン屋を比べてるようなものよ」

「は?」

「私は魔法より呪術のほうが未来への可能性は大きく尊いと思う」

「なんで?」

「呪術って、幼い頃から努力すれば誰でも使えるでしょ?使える人が多ければ、役にもたつし、生活の一部にもなる。発達もしていく。でも魔術って魔力がないと使えない。一部の人間にしか使えないものに意味はないわ。ライヤの呪術は継承を続ければたくさんの人を救える。私の魔法は私が死んだら終わり。私、一人で救える命なんて少ないもの。だから私は魔法を捨ててでも呪術師になって、呪術を広めたい。私のやりたいことには呪術が必要なの。」

「イリア?」

「ライヤ、力を貸して。貴方は何があっても守る。呪術が必要なの。もちろんサーラも守るわ。嫌な思いをさせないように精一杯努力する。こんなに、素晴らしい力があるのにこの村で終わるなんて勿体無い。二人は私が絶対に幸せにするから力を貸して」

「兄さん、私はイリアと行きたい」

「サーラ?」

「イリアが私は変わり者じゃないって。私のこと好きって。私と友達になってくれたの」

「人はみんな違って当然よ。私は優しくて、好奇心旺盛で可愛い友達は大歓迎よ。」

「イリアは私が行きたいなら連れてってくれるって。呪術師以外になりたくなっても、応援してくれるって」

「イリアは呪術師がほしいんじゃないの?」

「一つだけどうしても魔封じの呪術をかけてほしい人がいるの。それだけ叶えてくれるなら、あとは他の方法を探す。サーラが外の世界に興味があるなら連れ出すわ。こんな可愛いのに廃れた集落で終わるなんて勿体無いもの。それに私は自分とアマルの友達には優しいのよ。」


ライヤは呪術師がほしいのに、サーラに呪術を求めないイリアナに首を傾げた。


「イリア、お前大丈夫なの?」

「ええ。それにライヤがいるもの。私はライヤが呪術が好きなこと知ってる。努力していることも。ライヤの呪術は誰よりも綺麗だもの。研究したいなら、お金も場所も用意する。ライヤ、何が不満なの?あなたの望みは私が叶えるから一緒に」

「イリアナ様、ストップ。これでも国に帰れば婚約者がいるから勘違いするなよ。」

「アド?」

「男には色々あるんです。」

「婚約者?」

「私も色々あるのよ。でもあなた達のことはしっかり守るしサポートするから安心して。」


ライヤは呪術が好きだったけど天才ではなかった。ただ妹を守るために誰よりも早く一人前になりたくて、努力しただけ。

族長の息子より優秀なのは努力の結果なのに誰も気づいてくれなかった。

初めて自分を認められた気がした。


アドニスからイリアナの過去を聞いたライヤは彼女の手を取ることを決めた。

自分より幼かった少女が母国のために、決意を決めて一人で隣国に旅立った。

族長に引き取られても、ライヤ達は家族ではなかった。

ライヤはイリアナと自分を重ねた。

アドニスがライヤに語ったイリアナのことに嘘はない。

ただイリアナが投げやりに旅立ったことは話していなかった。


サーラは集落にはいないタイプの、明るく気が効く年下のアマルに心を奪われた。

呪術師は寡黙で、執念性格が多い。

明るくサッパリした性格のイリアナも気に入っていた。

サーラは集落で変わり者と言われていたのでイリアナ達の側は居心地が良かった。

二人はイリアナについていくことにした。

族長がイリアナに呪をかけたことは知らなかった。



イリアナは集落と外の世界の常識の違いをライヤ達に教えつつ、観光しながらザビ王国を目指していた。

狭い集落しか知らないライヤ達には見慣れないものばかりだった。



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