第5話 旅立ち
イリアナがレオナルドに謁見の申請をすると、その日の午後に呼び出しを受けた。
「イリアナから謁見を望むなんて初めてだね。礼はいらないから、用件はなんだい?」
「お時間をいただきありがとうございます。私、兵力の向上にお役に立ったと思うんです」
「そうだね。期待以上だ。望みは?」
イリアナはレオナルドに成果の報酬をねだるのは非常識だとわかっているが、使えるものはなんでも使う気満々だった。
レオナルドは企んでいそうなイリアナの様子に目を細めた。
「緊急時は呼び戻していただいて構いません。1年間、時間を下さい。魔法を調べる旅に行かせてください。私の仕事はリック達に引き継ぎ、ラーナ家の騎士達にはレオ様に従うように命じ、きちんと言い聞かせます」
「調べたことは、報告してくれる?」
「お望みとあれば。道中、他国の軍事も調べてきます。レオ様のお役に立つように精一杯努めます」
「一人で行くの?」
「許されるならアドニスを同行させたいです」
「彼は私の許しがなくても追いかけるだろうね。アマルは?」
「アマルが望むなら同行させます」
「ジオはいいの?」
「はい。彼には役目があります」
「可哀想に。私との約束は覚えてる?」
「成人しましたら婚姻します。ジオラルド様が望んでくれるなら、ジオラルド様と、拒まれるならレオ様の選んだ方と」
「ジオじゃなくてもいいの?」
「ええ。元侯爵令嬢ですので、務めはわかっています」
「報われないな。旅券は出してあげるよ。うちの魔法の研究が進むのは、歓迎する」
「ありがとうございます」
「イリアナの働きは評価しているから、特別任務にしてあげる。知られたくないんだろ?」
「さすがレオ様。ありがとうございます」
「団長達にも説明してあげる。いつ発つの?」
『レオ様のサービスが多すぎて怖い』とイリアナは思ったが顔には出さなかった。
「準備ができ次第すぐに」
「あとで届けさせる。時々、様子を見にいこうかな」
「危険なことは控えていただきたいんですが、」
「転移魔法って便利だよね」
悪魔みたいになんでも利用するレオナルドなら心配はいらないかと、御身を心配するのはイリアナはやめた。レオナルドからの条件は予想外だったが、イリアナにとってセインが敵わないというレオナルドに敵うはずがないので、考えるのは無駄だと思考を放棄した。
イリアナはアドニスとリックとイワンを呼び出した。
「他言無用よ。旅に出るわ。アドニスは付いてきて。リックとイワンには私の代わりを任せたい。託していい?」
「お任せください」
「ありがとう。信じてるわ」
アドニスとリックとイワンはイリアナからの命に跪き、快く引き受けた。
「気をつけて。楽しみにしているよ。もちろん話したりしないから安心して旅立つといい」
「隊長、ありがとうございます」
イリアナは愉快に笑う第一騎士団長に、旅の目的に気付かれている気がしたが何も言わず、激励の言葉を受け退室した。
ジオラルドに話すと止められる自信があるため、何も言う気はなかった。
もう一人話せば反対しそうなアベルトに手紙を残した。
家に帰り、出迎えたアマルとイリアナは視線を合わせた。
「アマル、私は旅に出るけどどうする?」
「俺も行く!!」
「野宿だし、安全とも言えないけど」
「俺の居場所はイリアの所」
「そっか。じゃあ、これから買い物に行くから、アマルも来てくれる?」
笑顔のアマルの返答にイリアナは頷き、必要なものをアマルに教えるため買い出しに出かけた。
値段の交渉をするアマルを見守りながら、イリアナは頭の中計画を立てた。
行き先は第一騎士団長に聞いた魔法が盛んな国々である。
買い物が終え、明日旅立つための準備を整えたイリアナはふと思いついた。
イリアナはアマルに早めに休むように伝え、ジオラルドが訓練の指導をしている訓練場に向かった。
死角で、騎士達に檄を入れているジオラルドを気配を消しながらイリアナは見つめた。
「多少は頼もしくなって良かった。まぁ、ジオは心配だけどリック達がいるから平気よね」
イリアナは小隊長室で最後の引き継ぎの確認を終えた。
就業時間も近いので、ぼんやりとイリアナは小隊長質でジオラルドを待つことにした。
小隊長室に戻ってきたジオラルドがいるはずのない、イリアナを見て驚いた。
貴族なのにわかりやすいジオラルドの反応にイリアナは笑う。
「今日、休みだよな?」
「顔を見たくて、来ただけ。満足したから帰る。またね」
「え?帰るの?」
「うん」
「待って。俺ももう帰る」
イリアナはジオラルドの机の上の書類は見なかったことにして、部屋を出て行く足を止めた。
ジオラルドに誘われるまま、食事を共にした。
素直に誘いに応じるイリアナに不思議そうなジオラルドの顔は気づかないフリをして、イリアナは家まで送ってもらった。
別れ際にイリアナはジオラルドに抱きついた。
『ジオ、ちゃんと探してくるからね』と心の中の決意は口にはしない。
「リア?」
不思議そうな顔をするジオラルドにイリアナは笑った。
「ありがとう。またね」
「ああ。また明日な」
手を振ってイリアナはジオラルドと別れた。
イリアナは離れていくジオラルドに背中を見えなくなるまで見送った。
「次に会うのは一年後。
立派になってるといいんだけど。
アルとセイン兄様がいれば平気よね」
イリアナの呟きは風邪に消され、ジオラルドには届かなかった。
翌朝、イリアナはアドニスとアマルを連れて旅立った。
アマルの将来の夢は、イリアナの側近と聞いた知ったイリアナはやめたほうがいいと説得しても、揺るがないのであきらめた。
どんな夢でも叶えられるように旅をしながらアマルを鍛えることを決めた。
イリアナは久しぶりの解放感を感じていた。
帰ったら怒りそうな人物達のことは考えず、上機嫌に足を進める。
楽しそうなイリアナの様子にアドニスが苦笑していることに気付かず、目的地を目指すイリアナだった。




