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傷心令嬢の鬼ごっこ  作者: 夕鈴
第二章

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第3話 婚約式

出勤するとイリアナは満面の笑顔のジオラルドに抱きしめられて目を丸くしていた。


「リア、婚約。合格がでた」


朝、会った第一声がこれ?

合格がでたから婚約しようってことかな・・。

ここで言う?

二人っきりの小隊長室だからいいのかな。

人目のないところで言っただけマシかな。ジオは人目を気にしないから・・・。

廊下で言われたら大変だったもの。


「本当?」

「ああ。もちろん」

「せめて、職場じゃないところで聞かせてほしかった。」

「ごめん。俺、嬉しくて」


色々言いたいことはあったけど、嬉しそうなジオラルドを見てイリアナは堪えた。。


仕方ないか。嬉しそうだし。いつ特訓してたんだろう・・。

イリアナはジオラルドが仕事の後にセインの下に通っていたことを知らなかった。

主に指導をしたのは執事長ということも・・。

セインの指導は信頼していたが念の為確認することにした。


「ちゃんと私と結婚する意味わかってる?」

「ああ。うちは力があるから後ろ盾いらないし、武門一族だから伝手もいらない」


いらなくはないんだけど・・。

セイン兄様達の合格本当に出たのかな。

セイン兄様途中で面倒になったわけじゃないよね?。


「お疲れ様」

「手続きをしてもいい?婚約式の日取りを」


浮かれてるジオラルドに駄目とは言えなかった。


「任せる。」

「ありがとう」


イリアナは抱きしめられているジオラルドの腕から抜け出した。そろそろ仕事の時間である。


この人、放っておけないし仕方ないか。


イリアナは不満そうに見るジオラルドを無視して仕事をはじめた。

いつも以上に浮かれたジオラルドの様子に第一騎士団の視線はイリアナに集まった。


私の所為じゃないから。小隊長なんだから公私混同しないでよ。

自分の感情コントロールはしっかりしてよ!!

騎士団の人、ジオの機嫌を全部私の所為だと思うのやめてくれないかな。

不愉快なんだけど・・。


イリアナはジオラルドへの自分の影響力を知らなかった。

この日の訓練はいつもより厳しかったが、周りのイリアナへの生ぬるい視線は変わらなかった。



翌日、イリアナはジオラルドから招待状を渡されてめまいがした。

渡されたのは婚約式の招待状だった。

正式な婚約を決めるとお披露目をするのが慣習である。


まさか婚約式が1週間後なんて思わなかった。準備を進めるのに時間がなさすぎる。

殿下との婚約式なんて半年前から準備したのに・・。

1週間前に招待状を送るなんてバカじゃないの。

せめて2月前には送るものよ。

イリアナは渡された招待状の日付を見てぞっとした。

私、招待される立場じゃないんだど・・。招待客として参加なら気が楽なんだけど。


イリアナは何度も招待状の中身を確認した。残念ながら何度見てもジオラルドとの婚約式と日付が書いてあった。

仕事の後にマナ侯爵邸を訪れたイリアナは倒れたくなった。


全然準備が進んでない…。招待客リストを頭に入れるだけでも頭が痛いのに。

任せるって言わなきゃよかった。


準備におわれたイリアナは気付くと婚約式の当日を迎えていた。


何度もマナ侯爵家に殺気を覚えた私は悪くない。

見かねたセイン兄様が手伝いに来てくれなければこの日を迎えられなかった。

今思うと迎えないほうがよかったのかな・・・。

私に不満のあるマナ家門からの挑戦だったのかな・・。

幸せなはずの婚約式にイリアナは全然幸せじゃなかった。

心身の疲労で判断がおかしくなっていた。


イリアナはマナ侯爵邸でジオラルドの隣で笑顔で対応する。

嫌味を言う貴族をイリアナは笑顔で受け流していた。ジオラルドは全く気付いていなかった。


セイン兄様、本当に合格だしたの!?


「ラーナ様」

「お久しぶりです」


イリアナは侯爵令嬢時代の知人に挨拶された。第二王子との外交で面識のあったご令嬢である。

イリアナは彼女が苦手だった。


この方はいつも直球で聞いてくるのよね・・。

いつも殿下が笑顔で受け流してたな。


「まさかマナ様の手を取るとは思わなかったわ。」

「なにがあるかわかりませんね」

「あんなに仲が良かったのに。マナ様、貴方のタイプじゃないでしょ?」


隣に本人いますから。お願いだから空気読んで。この場所でタイプじゃないとはいえない・・。

私、頼りがいのある人が好き。あと穏やかに笑う人。ジオラルドのことは好きだけどタイプではない。

イリアナは笑ってごまかすことにした。


「捕まったので諦めました」

「潔いのね。意外だわ。」

「色々ありましたから。本当に・・」

「ご令嬢達に嫌がらせされたら相談してね。力になってあげるから」

「お気持ちだけで」

「貴方らしいわ」


侯爵令嬢が去っていった。


昔から呆れるくらいに自由な方なのよね…。

悪気がないのが伝わるから憎めない人。


イリアナは自分がジオラルドに、けしかけた令嬢達に祝福されるのも居心地が悪かった。

令嬢達がイリアナに近づくのは思惑があった。


「ラーナ様、おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「良縁に恵まれて羨ましいわ。」


これたぶん良縁じゃない。

地獄への片道切符だったらどうしようかと思う・・。


「できれば、あなたのお身内と」

「ずるい、抜け駆けです」


「セイン兄様にお話しておきますね」


イリアナの後見役はセインがつとめている。

セインはレオナルドの側近でありシカク家の人間。

優秀なセインは公爵位を持たなくても人気があった。

優秀で容姿端麗なセインに憧れる令嬢達の目がギラギラしていた。セインはわかっているのに相手にしていない。


エレイン様は元気かな。

笑みをたやさず隣にいるイリアナの新しい婚約者は全く頼りにならなかった。


やっぱりマナ侯爵家は怖い。あらたに婚約を決めてから1週間で婚約式の日を迎え、心身の疲労でイリアナはおかしかった。

婚約式まで一週間しかなかったのは、また婚約破棄されることを恐れたマナ侯爵家の暴走だった。


イリアナには幻が見えてきた。

イリアナは自分が幻が見えるまで病んでるとは思っていなかった。


「リア」


声まで聞こえてきた。相当疲れている。弟のアベルトがここにいるはずがない。


「イリア」


エレイン様の幻覚まで見えてきた。走馬灯・・。

それなら殿下に会いたい・・。


「ジオ、私、もう死ぬのかな」

「リア!?」


「イリアナ、本物だよ。幻覚じゃない」


セインは慌てるジオラルドは無視して虚ろな目をしている従妹の肩を叩いた。

さすがのセインもイリアナが心身共に疲弊しているのでおかしいことを言わないように近くに控えていた。


本物・・・?


「アル?」

「久しぶり」


アベルトの声にイリアナはジオラルドの腕を離してアベルトに抱きついた。


「アル」

「元気そうでよかった。」

「アル、大丈夫?」

「お蔭様で。あとでゆっくり話をしよう。リア、逃がさないから」


イリアナは悟った。魔法でアベルトの体を治したことを気づかれたことを。イリアナはアベルトの声に寒気がして体を離した。

アベルトはイリアナの様子は気にせずジオラルドに礼をした。


「はじめまして。アベルト・ラーナと申します。姉がお世話になってます。妻のエレインです。」


イリアナはアベルトの言葉に固まった。


エレイン様が妻・・?

セイン兄様、どーゆーこと?

セインを見ると驚いてないのでイリアナはセインが二人の結婚を知っていたと確信した。


アベルトは未成年だけど領主である。

特例で未成年の婚姻が許される時がある。跡取りが一人もいないとき。

ラーナ家直系は父が亡くなり、イリアナもいなくなったから残ったのはアベルトだけである。

血が途絶えないように早めの後継つくりを求められる。

領主一族の特例。

それでもイリアナはアベルトが結婚したなら教えてほしかった。

心が死んでいても姉として弟を祝うつもりはあった。


「挨拶に行かずに悪かった。ジオラルド・マナだ。イリアナを嫁にもらいたい」


アベルトとジオラルドが見つめ合っていた。


「俺達、イリアナの側近として働いてもいいですか?」 


イリアナは隣のアベルトの腕を掴んだ。

アベルトの言ってる意味がわからなかった。

返答としてもおかしい。


「アル?」

「ラーナ領は新領主に引き継いだ。いずれ母上もつれてくる。」

「亡命するってこと?」

「そう。殿下なしのリアなんて見てられない。お前の無茶を止められるの俺しかいないじゃん」

「無茶してない」

「信用できない。」

「ひどい。お姉様なのに」

「姉が頼りないと弟はしっかりするんだよ。俺なしでリアが侯爵夫人なんてつとまらないよ」

「王妃教育受けたのに」

「それは殿下の妃だからだよ。リアの婚約者は殿下ほど頼りになるの?」

「全く。」

「俺を見て幻かと思うほど追い詰めらてたんだろ?顔みればわかるよ」

「アル」


アベルトとイリアナの間に言葉はいらなかった。

アベルトはイリアナの目を見るだけでイリアナの言いたいことがわかった。



アルはじっと見てるといつもわかってくれた。

アルって洞察力が凄いのよね。ラーナ家の血よりもシカク家の血が濃いのかな…。


イリアナ達の母親はシカク公爵の妹だった。


「リア、昔と一緒だ。リアの苦手は俺が補うよ」

「私はアルの目と足になる。アルの行けないところは代わりに行くよ」

「これからは一緒だ。家は俺が選んでいい?」

「私、邪魔でしょ?」

「イリア、私は大歓迎よ。三人で暮らしましょう」

「弟が増えたの。神殿嫌いだけどものすごく優秀。」

「母上をいれて5人だな。あとで屋敷を探しにいくか。金なら十分あるから」


仲睦まじい双子の会話にジオラルドは嫌な予感がした。


「リア、待って、それならマナ侯爵邸にくればいい。部屋はたくさんあるから」

「結婚するまでは自由にさせて」

「結婚したらちゃんと来るんだよな?」

「覚悟は決めます」


ジオラルドはイリアナをアベルト達に取られる気がしてならなかった。


「俺は義兄と認めないんでよろしくお願いします。」

「アル?」


「視線を集めているからそろそろやめたほうがいい」


セインの声にイリアナは周りの視線を集めていることに気付いた。

婚約式でこの話題はまずい。家族と婚約者が仲が悪いなんて思われてはいけない。


「認められるように努力するよ。」


イリアナはジオラルドの答えに泣きたくなった。

違う。ジオ、その答えは求めてない。


「アベルト、エレイン様、母国よりお祝いに駆けつけてくれてありがとうございます。」

「このたびはおめでとうございます。」


エレイン様もお祝いしてくれないみたい。この後は家の繁栄の言葉をつづけるのが定例なのに。

苦笑しているセインはイリアナを助けてくれる様子はない。


アベルトが亡命・・。

イリアナはアベルトが頑固なことは知っていた。

イリアナはアベルトと一緒にいられるのは嬉しい。

元気になったアベルトと出かけることは小さい頃に諦めたイリアナの夢の一つだった。


ラーナ家は異様に騎士達に好かれていた。

アベルトが亡命するということは、


「ジオ、どうしよう。ラーナ領の騎士が押しかけてくるかもしれない。」

「乗っ取られるかな」

「否定はできない。ごめんなさい」

「頑張るよ」


アベルトの隣からジオラルドのもとに戻って顔を青くしているイリアナの頭をジオラルドは撫でるくらいしかできなかった。

しばらくするとイリアナの顔に生気がもどった。


「これは、私が頑張ってラーナ家を復興させてもらったほうがいいかな」

「え?成人したらすぐ結婚」

「それはレオ様のお考え次第。優秀な騎士が増えるなら、説得できるかな。」

「リアは俺と結婚したくないの?」

「一緒にいたいけど、結婚は・・・。レオ様の命がなければ遠慮したい。やっぱりマナ侯爵家駄目みたい」

「うちをリアの好きにしていいよ」

「きっと怖いことがおこると思う。」

「俺はリアさえいてくれればなんでもいい」

「そんな次期マナ侯爵は許されません。私、頼りになる方が好きなの。頑張って。お願いだから」

「リアのためならなんでもするよ。家はリアの好きにしていい。リアたちが望むなら騎士たちをうちで受け入れてもいい。リアがやりやすいように俺を利用すればいい」

「ジオのバカ」

「今更だろ?俺はお前がいないと駄目だから」


アベルトは二人の様子にため息をついた。


「セイン、この二人大丈夫なの?」

「殿下ほど落ち着きはないよな。できるかぎりフォローするよ」

「やっぱり、リアには俺がいないとな」


この混乱をおさめたのはレオナルドだった。

レオナルドが祝いに現れたことでイリアナ達は王太子に祝福された婚約者になった。

イリアナは珍しくレオナルドに感謝した。

レオナルドは今までジオラルドの初恋を楽しんできたので気まぐれで祝福に現れた。

婚約式でも相変わらずのイリアナ達をみて愉快に笑っていた。


レオナルドは気まぐれで出席した婚約式で嬉しい誤算があった。

ラーナ家当主のアベルトとの出会いだった。

レオナルドは、アベルト達の亡命を歓迎した。

レオナルドはイリアナが望むなら爵位を授けてもいいと思っていたけど、イリアナ自身は自分の功績に全く気付いていなかった。


婚約式を無事に終えてもジオラルドは全く安心できなかった。

またちゃんと生きようと決めたイリアナは手強いことを知らなかった。

イリアナもジオラルドと同じように決めたら揺るがず手段を選ばない人間だった。



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