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傷心令嬢の鬼ごっこ  作者: 夕鈴
第二章

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第2話 魔術塔

イリアナには調べたいことがあった。


イリアナは魔法に詳しい第一騎士団長に聞いてみることにした。

第一騎士団長から貰った魔法道具はすごかった。そしてセインとレオナルドには聞けなかった。

反対されることも見透かされることもわかっていたから。


朝早くに訪れたイリアナを第一騎士団長は快く迎えた。


「隊長、魔法に一番詳しい方を教えてほしいんですが」

「知りたい分野は?」

「禁呪を調べたいんです。代償として失ったものを戻す方法を」

「ラーナ、事情があるんだろ。話してみなさい」

「隊長の胸にとどめていただけますか?」

「事と次第によるけど、必要以上に他言はしない」


イリアナは第一騎士団長もジオラルドを大事にしていることを知っていたので、話すことにした。

自分の魔法の代償にジオラルドの左腕をもっていかれたことを説明した。


「代償は戻らない。これを貸すから魔術塔に行ってきな。自分で調べたいんだろう」


笑っている第一騎士団長からイリアナはカードをありがたく受け取った。

どうして笑われているのかわからなかったがイリアナは気にしなかった。


仕事が終わったイリアナは魔術塔に向かった。

借りたカードを見張りの兵に見せると中に通された。渡されたのは許可証だった。


魔術塔の中には誰もいなかった。書庫を探して歩いていると凄まじい魔力を感じる部屋があり足を止めた。

部屋の中から人が出てきた。イリアナは書庫の場所を聞くために近づくことにした。


「ラーナ様」


呼ばれた声と人物にイリアナは戸惑った。

魔力持ちの赤子を出産した夫人だった。

自分のしたことを思うと書庫の場所を教えてほしいとは言えなかった。


「お久しぶりです。あの子はここにいるんです。魔力が多すぎて魔封じの結界に」


自分に笑顔で語りかける夫人への戸惑いよりも、夫人の言葉が気になった。


魔力が多すぎて魔封じ?


「中に入ってもいいですか?」

「ええ。会ってあげてください」


部屋に入ると魔法陣の中に子供が座っていた。

魔力が溢れないように魔封じの結界に閉じ込められている子供を見て固まった。

魔力を溢れさせない方法など簡単だった。

イリアナは結界から女の子を抱いて出た。結界はイリアナの魔力よりも弱かったので自由に出入りできた。

小さい女の子のおでこを触り体の魔力を抜いていった。半分くらい魔力が抜けたので茫然としている夫人に女の子を渡した。


「魔力を抜いたので当分は魔封じしなくても平気です。」


夫人が愛しそうに女の子を抱きしめた。


「ありがとうございます」


「なにをしている!!お前はまた」


厄介な人物に会ってしまったことにため息をつきたくなった。恨まれているのはわかっていても面倒な事は避けたかった。

イリアナは怒る父親に笑顔を作って挨拶した。


「こんにちは。お元気そうでよかったです。魔力を抜いたので結界から出ても大丈夫ですよ」

「魔力を抜く?」


男はイリアナの言葉に訝し気な目で見つめた。女の子の父親なので一応説明することにした。


「魔導士は魔力を送ることができます。その逆に魔力を抜くこともできるんです。魔力を封じるのではなく使えばいいんです。」


夫人はイリアナの言葉に目を輝かせた。我が子が結界から出て自由に過ごすのは母親の願いだった。


「ラーナ様、私にもできますか?」

「魔石は作れますか?」

「ええ。」

「一つ作ってください」

「おい。おまえ」

「私はラーナ様を信じているので黙ってて」


イリアナは信頼されることに戸惑いながらも、母親が父親を静かにさせたことを感心していた。

夫人が魔石を一つ作った。


「この子に手を当てて魔力を吸収してみてください。さっきの魔石を作ったのと同じくらいの量を」


夫人が子供に手をあてて、念じた。

イリアナは静かに見守っていた。


うん。いい感じ。この人魔法のセンスあるな。


「魔力を抜いた分だけ自分の体に魔力が入ってきます。自分の許容範囲をこえないように注意してください。魔封じの道具があればいいんですが。」

「おい、魔封じの道具がいるのか?」

「ええ。あればいいんですが」


父親が慌てて部屋を出て行った。

どうしたんだろう・・。

しばらくすると戻ってきた。見覚えのある紐を見せられた。


「これでいいか」


イリアナは渡された紐を赤子の手に結びつける。


「これをつけたら魔力がたまりにくくなると思います。ただこの子は魔力に対する感受性が高そうなのでもっと強力な方がいいかもしれません。もう少し大きくなれば自然にコントロールできると思うんですが」


母親はイリアナの言葉に目を丸くした。


「ラーナ様、この子はいつかこの部屋から出られる?」


魔力さえ抜ければこの部屋にいる必要はなかった。


「大きくなれば体の許容範囲も増えますし自分でコントロールできますよ。魔力を抜いてあげる時はこの紐は外してください」


ずっとこの部屋で過ごすことしかできなかった子供にイリアナは同情した。


イリアナは一旦紐を解いて下に置いた。赤子の魔力をもう一度抜いた。

過剰な魔力がイリアナの体に入ってきたため気分が悪くなった。イリアナは我慢してギリギリまで赤子の魔力を抜き、再び赤子に紐を結んで。


「魔力を抜いたんでお腹がへると思います。1日はこの結界からでても大丈夫です。一緒に寝てあげてください」

「ラーナ様」


夫人の目から涙がこぼれた。

もしかしたずっとこの部屋から出られないと言われてたのかな。

この子たちがきてから結構たつよね・・?

この国の魔導士無能すぎるような・・。

余計なことを言えばレオナルドから無茶ぶりされる気がしたのでイリアナは考えることを放棄した。


イリアナは魔力を消費するためにこっそり夫婦に体力回復の魔法をかけた。


「ありがとう」

突然感謝の言葉を述べた父親の言葉にイリアナは驚き目を見開いた。慌てて笑顔を作って礼をした。


「いえ、では失礼します」

「ラーナ様、なにかご用があったんでは?」

「急ぎではないので、この子と過ごしてあげてください。失礼しますね」


部屋をでるとなぜか父親がイリアナのあとを追いかけてきた。


「なにかご用ですか?」

「すまなかった」

「気にしないでください」

「私は君に」


父親の顔が罪悪感に染まっていた。イリアナは恨まれて当然だと思っていたので戸惑った。イリアナは終わったことは気にしないことにしていた。何を言っても駄目そうなのでかわりにお願いをすることにした。


「わかりました。書庫に連れてってもらえますか?それで許します」

「わかった。何を調べたいんだ?」


イリアナは父親がなにか研究していることを思い出した。


「もともと魔法や薬が効きにくい知り合いがいるんです。最近体の一部に全く魔法が効かなくなったんです。どんなに魔法を紡いでも全く効かないんです。体の動きも悪くなってどうにかしたくて」

「魔法が全く効かない?」

「はい。その一部だけはだめなんです」

「他のところは紡げるのか?」

「普通の人の倍以上の力がいります。あんなに魔法をかけずらい人がいるなんて、彼が初めてです」


父親に案内されて書庫についた。


「もしかしたら無効化してるわけではないか?」

「魔法が使えないのに?」

「時々無意識に使いこなしてる人間がいる。一生自分が魔力持ちと気付かず生きる人間もいる」

「どうすればいいんですか?」

「試しに魔力を抜くか。でも体にしみついた魔力は抜けずらいかもしれんな。魔力を注いで嬢ちゃんが間接的に操るか?」

「どういうことですか?」

「少しずつ魔法が効かない部分に魔力を注いでみたらいつかは反応するかもしれない。体に魔力が馴染めばもしかしたら魔法が効くかもしれない。わからんが。」

「ありがとうございます。試してみます」

「なにかあるなら相談にのる。子供達共仲良くしてやってくれ」


好意的な父親の様子に戸惑ったがイリアナにはありがたい申し出だった。魔法の相談ができる相手が欲しかった。


「ありがとうございます。助かります。今日は大丈夫なので家族で過ごしてあげてください」


イリアナの言葉に頷いて父親は書庫から立ち去った。


イリアナは書庫の本を見て回るも残念ながら禁忌関係の本は無効化の本も見つからなかった。

目につく本を手に取るけど全く駄目だった。相当な時間がたっていることに気付いて今日はここまでにして帰ることにした。

小隊長室に荷物を取りに戻るとジオラルドがいた。


「仕事ですか?」

「いや、待ってただけ。」


イリアナはジオラルドの左手に抱きつき魔力を送った。

集中するも魔力は弾かれた。

腕から手を離して正面から抱きついた。

魔力を抜くイメージするも全く魔力がみつからなかった。

イリアナは突然気持ち悪さに襲われ慌てて魔石を作った。自分が体に魔力を貯めすぎていたことを忘れていた。いくら魔石を作っても状況は変わらなかった。一気に魔力を使うため体力と精神力回復の広範囲魔法を使った。

魔力を消費したことで体は楽になったが、眠気に襲われた。

イリアナは1日で大量の魔力を操りすぎた。他人の魔力は馴染みにくくて扱いにくい。目の前で自分を心配そうに見つめるジオラルドに声をかけた。


「ジオ、眠い」

「眠い?」

「ごめん。寝てから帰るから今日はこれで」


イリアナはジオラルドから腕を離して自分の机にうずくまって意識をとばした。

ジオラルドは慌ててイリアナを抱き上げてマナ侯爵邸に帰った。

医者はイリアナを眠ってるだけと診断した。


イリアナは目を開けるとマナ侯爵邸のジオラルドの部屋にいた。


「リア?」


イリアナの手を握り深刻そうな顔で自分を眺めるジオラルドに戸惑った。

イリアナはただ寝てるだけと自分のことはわかっていた。


「おはようございます。すっきりしたから帰るね」


「もう遅いから泊まっていけ。アマルには仕事って言っておいたから。」


確かに、結構眠った気がする。アマルが待ってなくてよかった。


「何があった?」


眠っただけなのに、心配そうに見つめるジオラルドの頬に手をあてて苦笑した。


「疲れてただけだから。自己管理不足で恥ずかしい。ジオ、寝ないと。ずっと起きてたんでしょ?」

「母上達は別邸に泊まるって。邪魔しないから二人でゆっくりしろって」

「はい?」

「明日は休養日だから大丈夫だよ」

「私が倒れることはよくあるから気にしないでほしい」

「無理。」


真顔で即答したジオラルドにイリアナは諦めた。


「ジオ、もう寝ようよ。私、部屋に戻るから。おやすみ」


ベッドから出ようとするイリアナの腕がジオラルドに捕まれた。


「手は出さないから、」


言いたいことがわかったイリアナは自分を心配そうに見ているジオラルドの好きにさせることにした。


「うん。一緒に寝よう」


イリアナの隣に横になって伸びて来る腕に身をゆだねた。

ジオラルドは大人しく自分の腕におさまるイリアナに安心して眠りについた。


イリアナはジオラルドの寝息を確認して目を開けた。


ジオは寝つきが早い。もうぐっすり眠ってる。

もう一度ジオの左手に魔力を注ぐけど駄目・・・・。

魔力の気配も感じられない。でも毎日やったら変わるかな。

どうかこの手がもとに戻りますように。

左手以外なら魔力は送れるかな・・。


ジオラルドの胸に手をあて魔力を送ると、魔力が送れた。

ただ送った魔力を抜こうとするとうまくいかなかった。


イリアナはジオラルドの頬をつっついて、起きる気配がないことを確認した。

よく寝ているジオラルドに唇を重ねてゆっくり魔力を送っていった。体に巡るように魔力を送ってもその後の魔力の行方がおえなかった。

魔力を抜くイメージをしれもうまく魔力が見つからないことに諦めて唇をはなした。



うーん。うまくいかないな。

ジオごめん。でも絶対なんとかするから。

ジオラルドの顔を見るとイリアナは目があいてることに固まった・・。


「ごめん。起こして」


ジオラルドの顔がとろんと熱をおびていることに嫌な予感を感じていた。イリアナにとって寝起きの恋人は危険だった。


「リアから誘ってもらえるなんてな」


この姿勢は確かに押し倒してるように見える光景である。

嬉しそうに自分を見つめるジオラルドに軽く口づけて身をゆだねることにした。


何度か体を重ねたけど、この国って身持ちが固いんだよね?

これ大丈夫なの?私達、婚前交渉してるけど。

イリアナはだんだん考える余裕がなくなって意識を飛ばした。


次の日イリアナが起きると昼だった。ジオラルドはイリアナが起きあがるとすぐに目を醒ました。


マナ侯爵邸で寝坊するなんて恥ずかしい。使用人の生ぬるい視線がつらい。ジオは嬉しそうだけど。

ジオはいつも機嫌がいいんだよね。時々怖くなるけど。


「ジオ、体は平気?」

「満足」

「バカ」


機嫌よく笑うジオラルドに体に不調はなく魔力酔いもしていない様子に安堵した。

イリアナにはジオラルドの体のことがわからなかった。

イリアナはジオラルドの顔が近づいてくるので、慌てて離れた。

これは絶対受けいれてはいけない口づけだった。また押し倒されるわけにはいかなかった。


「もう帰るね。また仕事でね」


イリアナはジオラルドの頬に口づけ、赤い顔で照れ笑いしてる可愛い恋人に手を振って後にした。

イリアナは生暖かい視線の溢れているマナ侯爵邸から離れたくてたまらなかった。


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