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傷心令嬢の鬼ごっこ  作者: 夕鈴
第一章

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第56話 墓参り

セインはレオナルドの命を果たして隣国から帰ってきた。

女魔導師に捕えられていた隣国の兵を解放し、恩を売りつけてきた。

魔導師の裏にはザビ王国と隣国に戦争を起こさせたかった貴族が絡んでいたので、レオナルドに報告し、任務は終わりだった。セインは貴族に追跡魔法をかけたので、捕えるならいつでも捕縛できたがレオナルドは泳がせることを選んでいた。セインの任務は片付いた。


自分の帰国を知り会いに来たイリアナに時間を作ってほしいと頼まれ了承した。

セインはイリアナに何も聞かずに着いてきてほしいと言われたので黙っていた。

イリアナはセインが帰国したら第二王子と会わせることを決めていた。


「セイン兄様、内緒にしてごめんなさい。殿下、セイン兄様を連れてきました」


木の下に座り、地面に手をあてて、ふんわりと愛しげに話すイリアナにセインはここに第二王子が眠っていることを悟った。イリアナのこの表情を引き出せるのは第二王子だけだった。


「お久しぶりです。殿下。」


第二王子をレオナルドとイリアナが弔ったことをセインは知っていた。ただイリアナが言わなかったので聞かなかった。セインも第二王子とイリアナのことはどうしていいかわからなかった。イリアナが自分で口に出さない限りは触れるつもりはなかった。イリアナはセインの前で第二王子のことを話したのは一度だけだった。貴族との駆け引きで言葉にすることがあっても私的な場面では決して言葉にださなかった。第二王子のことばかり話していたイリアナが言葉にできないほど引きづっていることは気付いていた。セインには見守ることしかできなかった。

セインは気まずい顔で自分を見つめた従妹の頭を撫でた。


「怒ってない。必要なことだったんだろ?」


イリアナは第二王子を見つめてしばらくして静かに頷いた。第二王子の存在がなければ、自分の心は壊れていた。会いにくることで、なんとか自分を保っていた。イリアナにとって第二王子といることが一番息がしやすい時間だった。


セインは第二王子とイリアナの間に割り込む気はなかった。でも眠る場所を知ったからには定期的に会いに来ないと拗ねるだろう親友を思い浮かべて笑った。


「殿下、リアがすみません。これからはちゃんと俺も挨拶にきますよ」


セインが第二王子と一緒の時に見せていた顔で挨拶する様子にイリアナは安心した。イリアナにとってもセインにとっても大事な存在だった。イリアナは幸せな記憶を思い出した。


「いつかアルも連れてきたい。アルは怒るかな?」

「アルは殿下のことは怒らないだろう」

「そうだといいな。アルは怖いから。殿下、昔話していた四人で綺麗な場所にピクニックに行く夢を叶えたいですね。」


セインはイリアナの様子に安堵していた。イリアナが自分をここに連れてきたのは、イリアナなりにやっと前に進めたのだと思うことにした。

第二王子と話すイリアナの話に相づちをうちながら、昔を思い出していた。

夢を語り合った親友はもういない。でもセインの中には「セインなら余裕だろ?」と笑う姿がいつもあった。亡くなってもなお、セインやイリアナの心を守る頼もしい親友に自然と口角をあげた。レオナルドに仕えながら、親友の大事なイリアナとアベルトを守ろうと改めて決意した。親友はいらないと言うだろうが、セインが勝手にすることに文句は言わないだろう。

親友はアベルトやイリアナの前の穏やかで優しい包容力のある第二王子だった。セインにとっては笑顔で無理難題を突き付ける困った悪友だった。レオナルドほど自由奔放ではなかったが・・。

シュナイダー王家が滅んだことを知れば、「国民が選んだなら仕方ないよ。庇護がいらないなら自由にすればいいんじゃない?リア達が思い悩まないなら放っておくよ」と穏やかな顔をして言うような人物だった。王家として求められたら最善を尽くす。王位争いには、問題ばかりおこす兄に嫌気がさして参戦していた。一番の参戦理由はイリアナだったけど。治癒魔導士は稀で貴重だった。第一王子が即位しイリアナの力を知れば戦場に送り込むことが目に見えていた。第二王子は大事な者を守るためなら手段を選ばない人間だった。


セインは楽しそうなイリアナを見るのは久しぶりだった。無事に連れて帰ってきたジオラルドに感謝した。でもどんなにジオラルドが足掻いてもイリアナの心を占める第二王子の存在はかわらない。「ズルい奴だよな」と眠っている親友に静かに零した。イリアナはセインの言葉を聞きとれなかった。


その晩、セインはジオラルドを招いた。

お互い慌ただしく、帰ってきて私的に会うのは初めてだった。


「セイン、無事に戻ったんだな」


セインがレオナルドに頼まれた仕事をこなして帰ってきたのは3日前だった。イリアナはセインが帰ってすぐに無事の確認と話があるから時間を作ってほしいと会いにきていた。


「ああ。リアを連れ帰ってくれて感謝する」


ジオラルドがイリアナとうまくいったことは知っていた。レオナルドが残念そうに話していた。もう少し二人の追いかけっこを見物したかったらしい。

ジオラルドのしまりのない顔を見て、酒を飲むことにした。ジオラルドから聞いたイリアナの話にセインは頭を抱えた。


「やっぱり問題児だったか」

「リアじゃなければ罰則の嵐だったよ。王太子殿下のお気に入りの魔導士でなければ、牢にいれられてただろうな。降格、減俸は当然だ。俺はリアには悪いけど、騎士位剥奪されても仕方ないと思っていたよ。リアが主犯を倒したから免れたけどな。」

「リアは騎士位を剥奪されたら、ラーナの恥って自刃しそうだけどな。でも王太子殿下が許さないだろう。魔法の使える騎士は貴重だ。」

「俺は戦場なんて連れて行きたくないのに、有能すぎて悲しくなる。剣に魔法に催眠術。集団行動ができないことを覗けばうちの隊長の中でリアの価値が上がったよ。」

「集団行動ができないのは致命的だろう。アドニスを側に置いておけばいい。あいつはリアの行動を読めるから止めて、言い聞かせられる。」

「アドニスか・・。リックやイワンは駄目なのか?」

「アドニスはリアが幼い頃から面倒を見てたからな。まずリックとイワンはリアの命令に逆らわない。あいつらはリアの命令に従うことに喜びを感じる人種だ。ラーナ直系は騎士の心を掴むのが上手い。リアに魅入られてた筆頭があの二人だ。弟のアベルトもうまいけどな。」


確かにイリアナは騎士見習い達に心酔されていた。そしてイリアナの存在で第二騎士団の騎士が見違えるほど成長した。


「ラーナの騎士はリック達のようなのか?」

「あそこまではあからさまなのは少ないけどな。でも王命よりもラーナ直系の命令を躊躇なく優先するやつらばかりだよ。ラーナ直系達が王に忠誠を誓ってるから問題視されてないけどな」


ジオラルドはセインの言葉に黙った。躊躇いもなく・・。絶大な信頼をおかれているということである。悩みはじめた友人を見てセインは笑った。


「あの家は特殊だから気にするな。リアと上手くいったんだって。おめでとう」

「ああ」


しまりのない顔でにやけている友人のグラスに酒を注いだ。


「最近、話しかけても迷惑そうにされないし、ちゃんと笑ってくれる。」


セインはジオラルドがイリアナに避けられてるのを気付いているとは思ってなかった。酒を飲みながら静かに話を聞くことにした。


好きな女に違う女を進められ、避けられ、告白しても振られ続け、よくも追いかけ続けたよな。ジオラルドは第二王子とは正反対のタイプである。第二王子は餌をまいてじっくり罠にかかるのを待つタイプだった。イリアナに想われてるのに気づいても婚約を整えるまでは決して自分のイリアナへの想いを見せなかった。自分に恋するイリアナを愛でていた。セインさえ第二王子に話を聞くまではイリアナに恋情があるとは気づかなかった。

ジオラルドはまっすぐにただ追いかけるだけだった。


「リアの唯一は第二王子殿下だとわかってる。もう勝とうとするのはやめた。隊長に言われたんだ。何が一番大事か考えろって」

「お前は上司にも相談してたのかよ」

「セインが忙しくて捕まらなかったから。隊長に酒に誘われた時にな。リアさえ生きて傍にいてくれればいい。それに第二王子殿下のところにいるリアは消えそうだったから」


セインは聞き逃していけない言葉を聞いた。


「傍?知ってたのか」

「偶然な。うちの家の者がリアが森に消えて姿を表さないと報告うけて探しに行ったら見つけた」


偶然という友人を軽く睨んだ。


「それは偶然とは言わない。リアのこと家の者に監視させてたのか」

「うちのやつらが勝手に調べていたらしい。身辺調査だと。おかげでリアの婚活を邪魔できたけど」

「あの場所の事は口止めしてあるか?」

「見たものは他言無用と命じてある。」

「ならいい。」


第二王子の眠る場所を誰にも荒らされたくないのはセインも同じだった。

ジオラルドが家臣の動向を把握していないことに戸惑いを覚えたがマナ侯爵が掌握していると思うことにした。イリアナとジオラルドの組み合わせに不安はあったが今日は友人の初恋が叶ったことに祝杯をあげることにした


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