第55話 帰国
本陣の館はリックとイワンが制圧した。
主犯の魔導士が死に、統制を失った組織は壊滅した。
イリアナの不在が騒がれたのは本陣を制圧したリック達がイリアナの不在を第一騎士団長に報告したからである。
魔導士に操られる心配のないジオラルドがイリアナの捜索を命じられていた。
イリアナの捜索をジオラルドに命じた第一騎士団長に思う所はあったけど我慢した。この戦でイリアナは余計なことを言ってはいけないことを学んだから。
砦に戻りリック達から解放されたイリアナは救護テントに連れていかれた。
イリアナは放っておくつもりだったけどジオラルドが許さなかった。
イリアナは汚れていたので水浴びできれば満足だった。
こんな傷くらいでヒューゴもジオも大げさよね。
ただイリアナの体は小さい切り傷だらけだった。ジオラルドに知られたくないので、カレンに手当てを頼んだ。
治療をおえたイリアナは迎えにきたジオラルドと一緒に天幕に戻った。イリアナを天幕に送るとジオラルドはまた出て行った。
ジオラルドこそ休むべきなのに、立場が許さなかった。イリアナは俺が心配なら天幕で大人しくしていてほしいと頼まれたら何も言えなかった。自分が問題児の自覚はあった。
せっかくなのでイリアナは兵士達の体力と傷の治癒のために最後の魔力を振り絞って歌った。
報告はジオラルドに任せていた。イリアナには戦争は難しかった。
報告すべき内容と隠すべき内容との選択もわからなかった。
イリアナは椅子に座ってジオラルドの帰りを待っていると眠気に襲われ意識を失った。
目を醒ましたイリアナは見慣れい天井を見て首を傾げた。
「リア!!」
声の主は横でイリアナの手を握っているジオラルドだった。
イリアナがゆっくり起き上がるとジオラルドに抱きしめられた。
状況がわからず、周りの視線を感じてジオラルドの胸を押した。
「はなして。みんな見てる」
「ごめん。隊長は大丈夫って言うけど心配で。3日も目を醒まさないし」
情けない顔をしたジオラルドの話を聞いてイリアナは魔力切れをおこして倒れたことがわかった。
「魔力切れです。もう動けるし魔法も使えます」
「魔法は使わなくていい。騎士団は引き上げたから俺達も戻ろう」
引き上げたのに、小隊長がここにいる理由がわからなかった。
「すみません。え?なんでここにいるの?」
「隊長がリアが勝手なことをしないようにしっかり連れて帰ってこいって。帰ったら隊長から話がある」
ジオラルドの言葉にイリアナは衝撃を受けた。騒ぎになったので、単独行動を責められることはわかっていた。
「罰則が。早朝トイレ掃除・・・」
この世の終わりのような暗い顔のイリアナにジオラルドは笑った。
「トイレ掃除なんて罰則はないから。功績が大きいからそんなに大きな罪には問われないだろう。今回の功績は譲らずに受け取れよ」
「ジオの功績でいい。」
ジオラルドはイリアナに功績を辞退されるとまずいことを知っていた。功績で相殺しないとイリアナは罰則だらけでどうなるかわからない。自分の上司は厳しい罰を突然与えることを知っていた。必ず本人に一番辛いものを選ぶことも。
「俺のためを思うならリアが受け取ってくれるほうが動きやすくなるんだよ。俺に恩を感じるなら個人的にお礼をして」
「お礼?」
ジオラルドは首をかしげるイリアナを見つめた。
「たまにでいいから休養日を俺と過ごして」
「たまにでいいの?」
「できればずっと」
この人は仕方がないな。
ここで結婚って言わないところが抜けてるよね。イリアナはクスクスと笑い出した。
「アマルが一緒でいいなら。たまには二人でね」
ジオラルドが嬉しそうに笑う顔にイリアナの心が温かくなる気がした。
アマルとジオと一緒なら幸せになれるかな。
「アマルの訓練見てくれる?」
「任せろ」
一緒にいるだけで笑顔が自然に出るってたまらないな。
荷物はジオラルドがまとめていたのですぐに出立した。
イリアナは急いで駆けるつもりだったが、病み上がりだからとジオラルドが許さなかった。
休憩するために馬をつないで岩の上に座った。
イリアナは食欲がなかった。
隣で携帯食を食べているジオラルドの視線が痛かった。
水分しかとらないイリアナをジオラルドは心配そうに見つめていた。イリアナはジオラルド達が食事に厳しい理由がわからなかったので曖昧に、微笑んだ。
「リア、調子悪い?」
「魔力切れの後って食欲が出ないの。魔力持ちは数日食べなくても問題ないから気にしないで」
ジオラルドは馬に戻って荷物を解いた。
「ほら」
ジオラルドは果物をイリアナに差しだした。
「少し口にいれないと。」
イリアナは首を横にふった。
体は動いても、だるさはぬけなかった。
魔力は自然に吸収される。
魔導士は魔力を生命維持にも回せるから食事は無理にとる必要はない。
ジオラルドは食べる気のないイリアナに強硬手段をとることにした。
果物を一口、口に含んで口づけした。
目をまるくするイリアナの様子は気にせず強引にイリアナの口に果物を流し入れた。
ジオ、強引、甘い?。
え?
イリアナは口の中の果物をゆっくり噛んで飲み込んだ。
「ジオ、あと自分で食べる」
残念そうな顔をしたジオラルドから果物を受け取りおそるおそる口の中にいれると甘みが広がった。
ポケットから携帯食を取り出し口にいれると素っ気ない懐かしい味がした。
「味がする」
「リア?」
「ずっと味がわからなかったの。でもちゃんとわかるの」
ジオラルドは迷子のような顔をするイリアナを抱きしめた。
「よかったな。」
良かった?良かったのか。そっか。イリアナは味覚を取り戻せたことは良いことなのかと一人で頷いた。イリアナは重大な事実に気づいた。
「これでアマルに美味しいって言える。ずっと言ってあげられなくて、それだけが心残りで」
「心残りって。いいや。」
イリアナは優しそうに笑うジオラルドの笑顔が好きだと思った。
「一緒にいてね」
「嫌がっても離れないから」
ジオラルドの頬への口づけるを受け入れたイリアナはジオラルドをじっと見つめた。。
「ジオ、困ったことが」
「なに?」
「もう食べたくない」
「雰囲気台無しだな。いいや」
食べかけの果物と携帯食を見つめるイリアナに苦笑してジオラルドは食べはじめた。
王都に着いたのは夕方だった。
第一騎士団長室に入ると第一騎士団長が二人を笑顔で迎えた。
「ジオ、ラーナお帰り」
「「ただいま帰りました」」
「ラーナ、体は大丈夫か?」
「すみません。魔力切れでした。」
「だろうね。君が倒れてジオも倒れそうだったから気をつけなさい。ジオに叱られた?」
イリアナが余計なことを言う前にジオラルドが返答した。
「俺がしっかり言い聞かせましたが、体が勝手に動くようで。ラーナは戦場に連れてくのはもう」
第一騎士団長はジオラルドの言葉を遮った。
「お疲れ様。貴重な魔導士の力は必要だ。危なっかしいならジオが見てればいい。戦場に行けない方法もあるけど、それはジオ次第だな。ラーナ、罰則は早朝2週間トイレ掃除だ」
イリアナは第一騎士団長の言葉に茫然とした。
ジオラルドにそんな罰則はないって聞いていた。
「隊長、そんな罰はうちの団になかったはずでは」
「第二騎士団にラーナが一番嫌がる罰を聞いてきた」
泣きたい。小隊長助けて・・・。
「あのラーナが泣きそうだから一番だろ?」
泣きそうなイリアナに第一騎士団長は愉快に笑った。
ジオラルドも公私混同してイリアナを庇っている自覚はあった。
「まだ目覚めたばかりで不安定で、ラーナ、しっかりして。リア、手伝うから泣かないで。隊長の前だから、戻ってきて。小隊長補佐だろ。仕事中だ。」
仕事中…。
イリアナは深呼吸した。
顔をあげると楽しそうにみている隊長と目が合った。気を引き締めないといけない。今は仕事中だもの。
「わかりました」
「切り替えたか。今回主犯を倒したのはラーナだ。小隊長にしてもいいし、第二騎士団に戻してもいい。報酬はなにがいい?」
罰の免除が良かったけど願えないことはわかっていた。
イリアナはジオラルドを見た。
私がいないと駄目なんだよね。小隊長としてはポンコツなのよね・・・。
「第一騎士団小隊長補佐のままで構いません。落ち着いたらマナ小隊長と一緒に1週間お休みをください」
「ジオも?」
「マナ小隊長を残して1週間もお休みはもらえません。全部一人で仕事をして倒れたら困ります。」
イリアナからの予想外の申し出に第一騎士団長は愉快に笑った。
「二人に抜けられるときついんだけど」
「ご謙遜を。隊長なら片手間で動かせますのに。アドニスを貸してもらえるなら頼んでからお休みをいただきます。」
第一騎士団長はジオラルドを見て、意地の悪い質問をした。
「ラーナの頼りになる騎士の一番はアドニスなのか?」
イリアナは自信満々に言った。
「一番は第二騎士団小隊長、二番はセイン様、三番はアドニスです。揺るぎません」
騎士として頼りになる順位は不動だった。ただ騎士として一番信頼しているのはアドニスだった。
「お前の小隊長への信頼すごいよな。ジオ、頑張れよ。お前も休みほしいの?」
イリアナの第二騎士団小隊長への信頼をジオラルドはよく知っていた。挫ける時期はすでに終わっていた。ジオラルドで遊びたかった第一騎士団長の思惑は外れた。
「俺は補佐官がいないと仕事ができないようなので。俺の補佐官に従います」
「ラーナに弱いな。公私混同するなよ」
「気をつけます。」
「今日はゆっくり休みなさい。」
礼をして退室しイリアナは家を目指した。なぜかジオラルドが隣を歩いていた。
「ジオ、一人で帰れる」
「アマルに挨拶しようかと」
「紹介してなかったね。話したことないのによく知ってるね」
「セインに色々聞いてたから、でも先に」
ジオラルドに握られた手をひかれてついた場所にイリアナは目を見張った。後でこっそり一人で行く予定の場所だった。
ジオラルドは気まずそうにイリアナを見た。
「リアがここにいるのを何度か見かけて。さすがに一人で寝るのは危ないし」
「まさか…。」
「ごめん。見つけたのは偶然。一度見つけたら放っておけなくて」
「知ってた?」
「どれをさすのかはわからないけど、リアが第二王子殿下と一緒に死にたかったのはな。」
イリアナはここに第二王子が眠ってることをジオラルドが知っていることに呆然として表情が抜け落ちた。
しかも会話を聞かれるほど近くにいたのに、全然気づかなかった。殿下との話も聞かれてた…。
イリアナは恐る恐る尋ねた。
「セイン兄様には」
「言ってない。ここでの話はセインにしてない。まずいことをしている自覚はあったし」
セインに知られてないことに安堵したイリアナは思考を巡らせた。
ランの幻影効かなかったのか。対策を考えないといけないな。
イリアナは第二王子の封印に手を当てると破られた感じはなくほっと息をついた。
イリアナの行動を静かにジオラルドを見ていた。
封印の確認をしたイリアナはいつもの場所に座った。
イリアナは第二王子との会話を聞いても自分に結婚を迫ってきたジオラルドに驚いた。
「すごいね。あんな私を知っても好きでいられるなんて。空っぽだったのに」
「どんなリアでも愛せる自信はあるから」
イリアナはジオラルドの手を引いて第二王子の上に重ねた。
「ジオ、殿下はここにいるんです」
イリアナは首からお守りを外して一緒に置いた。
「第二王子殿下、ジオラルド・マナと申します。イリアナを支えてくださりありがとうございます。これからは俺も仲間にいれてください」
「殿下、ただいま帰りました。」
「イリアナにはこれからは俺も側にいます。安心して見守ってください」
イリアナは第二王子も当たり前のように一緒にいることを受け入れてもらえるのが嬉しかった。
「殿下、大事な人が増えました。でもリアは殿下を愛しています。これからもリアの気持ちは変わりません。リアはジオが傍にいてくれるから大丈夫です。あの時の殿下の言葉は守れそうです。これからどんなに大事な人が増えても殿下への気持ちは変わりません。また来ますね。今度セイン兄様も連れて来ます。今まで独り占めしてごめんなさい。」
イリアナはお守りを首からさげて立ち上がった。
家に帰ってアマルを抱きしめた。
アマルは不思議そうな顔をしたあと嬉しそうに笑っていた。
ただアマルとジオラルドの相性が悪かった。
イリアナはアマルとジオラルドの訓練を見守っていた。
アマルはジオが相手だと訓練に私より身が入るみたい。
男同士のほうが戦いやすいのかな。
イリアナは二人が自分の取り合いをしていることに全く気付いていなかった。




