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傷心令嬢の鬼ごっこ  作者: 夕鈴
第一章

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第54話 開戦7

ジオラルドはイリアナを探していた。

女と対峙するイリアナを見つけた。魔導士の勝負は安易に近づくと邪魔になるので、離れた場所で見守っていた。女が倒れイリアナが座り込んだので、様子を見ながらゆっくりと近づいた。イリアナの体にどんどん傷が増えていくので、慌てて前に立って、感に任せて剣を振り降ろした。

ジオラルドの腹部に何かが刺さり血が溢れた。イリアナの体に傷が増えていないことに安心して目を閉じた。




目を閉じているジオラルドを見てイリアナは息をのんだ。

動かない自分の体に魔力を巡らせて無理やり動かした。

イリアナは倒れたジオラルドの服を切って傷をみた。

腹部の深い切り傷から血があふれていた。

ジオラルドに治癒魔法をかけるも効かなかった。

傷口を押さえているイリアナの手の下から血がどんどん溢れでる。

イリアナが魔力を紡ぐけど全く反応しなかった。



魔法が効きにくいのに、なんで庇ったのよ。

ジオがこんな傷をおうなんて、きっと私を庇ったから。

私が斬られるはずだったのに。

見えないのに幻影に突っ込んでくるなんて何考えてるのよ。

血止めの薬をかけても効果はなかった。

薬も魔法も効かないなんて、治療ができない。

私のかわりに斬られて、リアが無事で良かったって笑ってる場合じゃないわよ。


イリアナは穏やかに眠っているジオラルドに涙が出てきた。

人に生きてほしいと言うなら、自分も生きてよ。

男なんて自己満足の塊。

生きて幸せになってなんて傲慢。


「ジオ、起きてよ。なんで満足してるのよ」


もう一度魔法をかける。


「傍にいるって言ったのに。騎士なら自分の言葉に責任を持ちなさいよ。死んだら許さない。」


セイン兄様ごめんなさい。


イリアナは短剣で左腕を斬り血をジオラルドの傷口にかけた。

魔法を紡ぐ。どうか、お願い。

また亡くすなんて耐えられない。笑った顔も情けない顔も、もう見れない。また暖かい腕を亡くすなんて。


「起きてよ。お願いだから、目を開けて。お願い、じお、置いてかないでよ」


お願いだから効いて。血、止まって。私の命を全部使ってもいいから助けて。やっぱりだめだ。紡げない。

あきらめない。後悔するのはもう十分。イリアナは何度も魔法を紡いだ。


「起きないなら、許さない。忘れちゃうから。約束も守らない。これからもアマルと寝るし、婚前交渉もする。他の男の人も誘惑頑張るもん。ジオの嫌がることいっぱいするから。嫌なら起きてよ。なんで勝手なのよ。傍にいるって、俺は置いていったりしないって言ったのに。ジオなんて・・・・・」


「やめて、泣かないで」


「うるさい。男なんて大嫌い。勝手に自己満足して。勝手に守って満足して死ぬなんて傲慢よ。一緒に死んでって連れてってくれるほうがいい。好きとか愛してるとか言いたいことだけ言ってなんなのよ。そんな遺言を残す暇があったら呼んでよ。僕のかわりに守ってなんてふざけないでよ。ちゃんと自分で守ってよ。ジオだってあんなに結婚しろって迫ったのにこのざまはなんなの。人の婚活をあんなに邪魔して、いなくなるなら放っておいてくれればよかった。なんで、もう」


必死で魔法を紡ぐイリアナの頬に冷たい手がふれていた。イリアナが目を開けると、


「リア、ごめん」


ぼやける視界にジオラルドの瞳がうつった。

頬にあてられた手にイリアナは手を重ねた。


「なんで」

「聞こえた。全部。心配かけて悪かった」

「じお」

「体が動かないんだ。泣かないで。涙、ぬぐってやれない。お前を残して死んだりしないから」

「人のことより自分の心配して。ジオに拭いてもらう理由はありません」


イリアナは袖で涙を拭った。

イリアナの袖は血と泥で汚れていた。おかけでイリアナの顔は汚れてしまった。


「擦るなよ」

「きかない。嫌なら早く動けるようになって。バカ、なにしてるのよ。傷ふさがってないのに」


起き上がろうとするジオラルドの肩をイリアナが慌てて抑えると腕を引かれて抱き寄せられた。


「これからもずっと一緒にいる。約束する。死ぬ時はリアも連れてく」

「できない約束はしないで」

「俺は死なないから」

「死にかけたのに」

「でも生きてる」


体が痛いのに無理して笑うジオラルドにまたイリアナの目から涙が流れた。子供のように泣きじゃくるイリアナの頭をジオラルドは腕に力を入れて、無理矢理動かしてゆっくり撫でた。


「俺はリアと一緒に生きるよ。お前の殿下と違って俺を忘れて幸せに生きてなんて言えない。お前の殿下のように心は支えてやれない。でもずっと一緒にいる。リアが泣くなら抱きしめる。殿下のところには一緒に祈りにいくよ。殿下のそばで寝るなら俺もそこで寝る。頼りなくても俺はずっと傍にいる」


「破ったら許さない」

「破らない。だから俺と生きて」


イリアナは涙を拭いて、情けない顔のジオラルドの瞳を見つめた。


殿下、ごめんね。このどうしようもなく手のかかる人を放っておけない。

もうなんにも興味なんてわかないと思ってた。でも傍にいたいって思った。目を開けないジオを見て胸が痛くてたまらなかった。ちゃんと生きて、楽しい話ができるようになってからいくね。ちゃんと待っててね。待っててくれる?

髪をゆらしたそよ風がリア、ゆっくりしてきて。僕は待ってるから。って言ってくれる気がした。イリアナはお守りを握りしめた。


「ちゃんと生きます。だから傍にいて」

「ああ。帰ったら結婚しよう。」

「それとこれは話が別。」

「嘘だろ!?」

「ジオが元気になったら考えます。」


イリアナはジオラルドの腕を解いて体をおこした。

隣で起き上がる気配に睨みつけた。


「ジオ、人を呼んでくるから、じっとしてて。」

「もう傷も塞がってるし、痛くないんだよ。左腕は動きづらいけど」

「え?」


ジオラルドの傷は塞がっていた。傷跡は残るも治癒してあった。

イリアナがジオラルドの左手をとると、ジオラルドに抱きしめられた。


「ジオ、左手みないと」

「いい。これ以上は魔力を使うな。やっと抱きしめられるんだ。」

「今までと変わらないじゃない」

「違うよ。やっとリアの瞳に俺が移った」


意味がわからず、イリアナは顔を上げるとジオラルドの顔が近づいてきて口づけられた。


「リア、愛してる」


優しく微笑むジオラルドにイリアナは負けを認めることにした。

気のせいと見ないふりをしていた自分の感情を認めることにした。


ジオの言葉が嬉しい。胸がぽかぽかする。

殿下と一緒にいるみたい。

でも悔しいから。

イリアナは背伸びをしてジオラルドの頬に口づけて笑いかけた。

赤面するジオラルドに満足したイリアナは帰ることにした。



砦に帰ると全身が泥と血で汚れるイリアナにカレンが悲鳴をあげた。イリアナの怪我ではないことを伝えると強く抱きしめられてカレンが号泣した。イリアナは戸惑いながらもカレンの背中に腕をまわした。


制圧された本陣にイリアナの姿がなく心配をかけていた。

イリアナはリック達に館を離れることを伝えていなかった。

イリアナ不在にリック達が騒いだため大きな騒ぎになっていた。


イリアナを見て安心した顔をしたリックとイワンに怒る気は起きなかった。二人はカレンを引き剥がしてイリアナの前に跪いた。


「リック、イワン、心配かけてごめん。ありがとう」

「イリア様」

「姫様」


二人の屈託ない笑顔にイリアナは息をのんだ。

私、この二人のこの顔を見たのいつ以来かな。


「これからも頼りにしてる。よろしくね」


「もちろんです」

「いつまでもお傍に」


イリアナは跪いてる二人の肩を叩いて立ち去った。泣きそうな二人の様子に苦笑するしかなかった。イリアナの護衛騎士は優秀で頼りになるけど、時々涙もろかった。イリアナはそんなところも好きだった。

三人の様子を周りの騎士達が見ていることなど気付いてなかった。



イリアナは1日の約束は守ったのに、ここまで騒ぎになってしまったことにため息をついた。

でも無事に終わったことには変わりない。


この戦いは終わった。後は休んで帰るだけだった。

この時のイリアナは自分が魔力を使い果たしたことを伝え忘れて騒ぎがおこるとは思っていなかった。


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