第53話 開戦6
兵士達が連れさらわれた翌日イリアナは第一騎士団長に呼び出された。
「ラーナ、行きたい?」
イリアナはあの魔道士を追いたかった。セインに危険が迫るなら早く片づけなければいけなかった。
「はい。行かせてください」
「覚悟があるか?」
「術者を殺すのが一番です。私が斬ります」
「負けない自信はある?」
「はい」
イリアナはためらわずに頷いた。お荷物のイリアナとしてはできることがあるならこなしたかった。
「リックとイワンを連れていけ。ただ無理なら帰ってこい。殿下よりお前は絶対に生きて帰らせろと言われている」
イリアナは自分が戦いから外されていたのはレオナルドの命令があったからだと納得した。
そのイリアナを行かせるのは、緊急事態とうことも。
兵が浚われ、士気も下がっている。味方同士が戦いあう可能性もある。早めに片付けないといけない状況だった。
「わかりました」
ジオラルドは上司の意図がわからず確認した。
「隊長、本気ですか?」
「ラーナは集団行動できないだろ?行動がよめなくて使いにくい。ジオもいきたい?」
正直に言えばついて行きたいけど、立場が許さなかった。それにジオラルドよりリックとイワンの方が強い。護衛としては二人よりも役不足なことをわかっていた。
「隊長の指示に従います」
第一騎士団長ジオラルドの様子を興味深く見ていた。公私混同しなかったことは評価した。
「ラーナ、1日だけ自由に行動していい。どんな結果でも1日たったら帰って来い。お前が戻らなかったら本陣を攻める」
本陣を攻めるのは味方同士の殺し合いがはじまるということだった。
「明後日までに帰ります」
「これを」
第一騎士団長の差し出す数本の紐を受け取った。
魔封じの紐だった。
身に付けていれば魔石に操られない。
ただそれをつけると魔法がつかえなくなる。
「リックとイワンに渡します。行ってきます」
荷物をとるためイリアナは天幕に戻った。
荷物を確認しているとジオラルドが戻ってきた。
「ラーナ」
イリアナは心配そうな声に顔をあげた。
「もう殿下に騙されたりしないから安心してください」
ジオラルドはイリアナの肩を掴んで見つめた。
「ちゃんと生きて戻るんだよ。捕まっても絶対に助けるから、自害はするなよ。ちゃんとアマルのところに帰るんだ」
ジオラルドの必死な様子にイリアナは戸惑った。
「マナ小隊長?」
「頼むから」
ジオラルドは泣きそうな顔をしていた。遠征に来てはじめて見る顔だった。
さっきまであんなに頼もしかったのに。隊長に涼しい顔で命令に従うって言ってたのに。
「いつも冷静じゃないと」
「リアのことは別。心が追いつかない」
「私、強いから安心してください。人の心配より自分の心配してください」
「俺はリアと生きるって決めてるから絶対死なない。お前を置いていかないよ」
勝手に決めないでと思いながらも、死なない。置いていかないか・・。
ジオラルドの言葉を何度か心に噛みしめた。
「ぶれませんね」
「帰ったら結婚しよう」
泣きそうな顔でまたプロポーズをするジオラルドにイリアナは笑っていた。
今回はジオラルドに本当に助けてもらったから。
私、問題児扱いだし・・。
「結婚はしませんが食事くらいならお付き合いします」
「約束だからな」
「行ってきます」
リック達と合流したイリアナは二人に魔封じの紐を身につけさせた。
イリアナの分は魔封じの袋にいれた。残りは3本あった。
第一騎士団長に教えてもらった兵達が消えた館に向かった。
イリアナはリックとイワンに兵達の魔石を外して魔封じの袋にいれるように命じた。
無理なら気絶、魔石はその辺に捨ててもいいとも。
二人が正面突破してる間にイリアナは館の中に潜入した。
ランに幻影を頼んでありイリアナの姿は霧に包まれ見えないはずである。
イリアナは魔力の気配のある部屋に向かうと、子供と大人が数人で魔石を生み出していた。
第一騎士団長にもらった不思議な粉をかけると魔石が消えた。
粉の効果に感動したかったがそんな場合ではなかった。
一心不乱で魔石を作る人たちを見つめた。
侵入者のイリアナには全く目をくれずに魔石を作り続けていた。
イリアナはマスクをして眠り粉を撒いた。
全員が眠ったのを確認し、魔石を風魔法でランに集めさせ、不思議な粉をかけ魔石を消した。
魔法の気配がしたのでイリアナは後ろに飛んで躱した。
杖を向ける魔導士に剣で峰うちをし気絶させた。
魔導士は動きが遅いから先手必勝がイリアナの流儀である。
近くにあったロープで魔導士を縛り杖を折った。
杖を持つ魔導士は杖がないと魔法が使えないことが多い。
杖さえなければ戦えないけど念の為拘束した。
魔導士は魔石を身に付けていなかった。
操られてないなら話しを聞けばよかったかな。まぁいいや。時間もないし。
イリアナは魔力を探知しながら魔導士を気絶させて杖を折っていった。
魔術塔の魔導士たちが知れば貴重な杖の扱いに悲鳴をあげただろう。
イリアナはそんなことは全く思いつかなかった。イリアナもセインも杖など必要としなかったから価値などわからなかった。
イリアナを襲ってくる兵を見て方針を変更した。
ランの魔法が効いてないことに気付き片っ端から気絶をさせることにした。
魔石の回収は後にすることにした。
イリアナは兵達の様子にこのレベルならリック達でも簡単に鎮圧できると判断した。
屋敷内に魔術師の気配はなく前にあった女もいなかった。
浚われた兵達をいなかった。イリアナはリック達に任せて館を後にした。
「ラン、あの魔導士を探せる?」
「靄がかかって自信がないけど、こっちかな」
ランについていくとイリアナは女を見つけた。
前には浚われた兵達が進軍していた。イリアナが兵達は第一騎士団に任せることにした。
イリアナは女に斬りかかるが躱された。
イリアナは躱せるとは思わず驚いた。
「今日は一人なの?」
「はい」
女を置いて兵は進軍して行った。
「私の手を取る気になった?」
「いいえ」
「仕方ないわ。ちょっとお仕置きが必要ね」
幻影兵がイリアナに襲いかかる。
イリアナは幻影兵の剣に手ごたえを感じ目を見開いた。
幻影兵が攻撃できるとは思っていなかった。
嘘?攻撃できるの?
有幻覚ってこと!?
斬ると消えるなら斬るしかない。
なにか言ってるけど気にしない。
絶対に顔を見てはいけない。これは幻影。本物じゃない。
幻影の顔はイリアナの知り合いだった。イリアナは一心不乱に剣を振った。
「すごいわ。知り合いを簡単に斬るのね。これも?」
お父様と殿下?。この二人は違う。イリアナは迷いもなく切り捨てる。
お父様はこんなに弱くないし、私の殿下は剣が苦手だから斬りかかってこないもの。
迷いなく斬ったイリアナに女は驚いていた。
「たすけて、おねがい、ころさないで」
幻聴がきこえるけど、気を取られたらだめ。心を支配されたら負けるから。
女に近づけなかった。
遠くで兵達が戦う音が聞こえてきた。
「味方同士が戦いあってるわ。あなた、心が乱れないのね」
絶え間なく幻影兵が襲ってくるので剣で応戦していた。
「投降する気はありませんか?貴方を殺したくありません」
「長生きしたいわけじゃないもの」
「世界の頂点にたちたいのに?」
「それは私の夢じゃないわ。私は代わりに叶えるだけ」
「あなたの夢は?」
「復讐よ。魔導士を見下す連中への」
「貴方をみて貴方の大切な人はどう思いますか?」
「喜んで応援してくれるわ」
イリアナは説得は無理だと諦めた。女の瞳に気付いた。イリアナとそっくりだった。
狂ってる。たぶんこの人も私と同じだ。世界を呪ったことがある。
イリアナは妖艶に微笑む女を見て決めた。
この人の願いがイリアナと同じならためらう必要はなかった。
「私が貴方を終わらせます」
「魅力的な誘いだけど、やりたいことがあるから。命さえあれば操り人形にできるもの。可愛がってあげる」
イリアナは殺す方法を考えた。
この人は魔石を身に付けてるから魔力切れはおきない。
幻影兵が多すぎて近づけない。
ありがたいことにここにはイリアナと女の二人っきりだった。
イリアナは奥の手を使うことにした。
滅びの歌を歌うことにした。
治癒魔法とは反対。歌を最初から最後まで聞いた人は安らかな死を迎える。
ただ歌っていると相手の記憶が入ってくる。イリアナは必至で剣を振り回した。
足が斬られたけどイリアナは気にせず歌いながら剣を振り回していた。
イリアナの中に女の記憶が入ってきた。
女は魔法が軽視される国に生まれた。小さい頃から魔女と恐れられた少女が恋をした。
魔導士だからと、相手にされなかったけど、少女をなぐさめて隣で支え続けた少年がいた。
二人は恋におち子供を授かった。子供はある日、奪われる。雨乞いの生贄に。苦しい。痛い。
のまれちゃだめ。
イリアナは滅びの歌を紡ぎ続ける。
子供を奪われた彼女は絶望したけど夫の愛で狂わなかった。双子を授かり幸せな日々が続いていく。子供は大きくなると魔導士となり王宮で働いた。一人は戦地でもう一人は魔力切れで亡くなってしまった。弱い魔導士、役たたずといわれた彼女の息子たち。
夫は役立たずの魔導士の親として殺された。亡くなった息子は盗賊から子供を守ろうとして殺された。子供の親は弱い魔導士のせいで子供は死んだと夫を刺殺した。
彼女は絶望した。昔、彼女の息子が語ったどんな魔導士も胸を張っていきれる世界をつくりたいという夢をかなえなきゃ。でも許さない。
イリアナの体がふらついた。最後まで歌い終えると女が倒れた。
イリアナの体から力が抜けて剣がおちた。
この魔法の後は力が入らない。イリアナは足に力が入らず座り込んだ。
術者が死ねば幻影兵も消えるはずである。襲ってくる幻影兵にイリアナは茫然とした。
体が動かずよけられないため、目を閉じて痛みを覚悟した。
しばらく待つも痛みは襲ってこなかった。
目を開けると目の前の幻影が消えていた。
「リア、よかった」
バサッと倒れる音がした。
目の前には血を流して倒れているジオラルドがいた。
なんで、ここに、違う。
「リアが無事で良かった」
イリアナには満足そうに笑って目を閉じるジオラルドがいた。




