↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傷心令嬢の鬼ごっこ  作者: 夕鈴
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/86

第52話 開戦5

次の日は襲撃はこなかった。

夜になるとイリアナにだけ声が聞こえてきた。


「おいで、いらっしゃい」


ジオラルドには声は聞こえていない。イリアナ以外に呼びかけられる声が聞こえたという報告はなかった。


「マナ小隊長、リックとイワンを連れていくので、出かけて来てもいいですか?」

「なんで?」

「やっぱり、声が聞こえるんです。深追いしません。調べるだけ」

「俺が行くよ」

「駄目です。貴方は私の護衛として動く立場じゃない。」


指揮官の一人であるジオラルドが許可なく砦を離れるのはまずかった。

ジオラルドは声が聞こえるとイリアナが起きることに気付いていた。

魔導士は集中力が命と聞いていた。イリアナが倒れるのはまずかった。危なっかしくても第一騎士団長はイリアナの報告を頼りにしていたし役に立っていた。イリアナのおかげで砦の中で幻聴が聞こえることはなくなった。

イリアナが呼ばれているなら罠の可能性が高い。でも放っておいてイリアナが飛び出していく可能性も否定できなかった。


「リックとイワンがあれば私の身に危険はありません。」


イリアナの顔を見て止めても聞かないだろうとジオラルドは諦めた。


「深追いはするなよ。ただもし攻撃されたら」

「殺します。」


迷いもなく即答したイリアナを信じることにした。


「1時間。それ以上戻らないなら捜索隊を出す」

「わかりました。行ってきます」


イリアナは寝ているリックとイワンを起こした。

何も言わずに剣を持ってついてくるところは昔から変わらない。

声の方に馬を進めると青い髪の女性がいた。


「出て来て。貴方に危害は加えない。ずっと呼んでた。会いたかった。」


イリアナは馬から降りる。女性はイリアナだけを見ていた。


「あなた、孤独で世界を恨んでるでしょう。手をかしてあげる。」


イリアナは差し出される手を静かに見つめた。


「なんのことかわかりません。呼んだ目的を教えてください」

「あなたと一緒よ。力のある魔導士が国に使われるなんておかしいわ。私達が頂点にたつの。そしたら不幸なことはなくなる」


女性は妖艶に微笑んだ。


「魔導士を集めて世界を征服ですか?」


「うふふ。頭が良い子は好きよ。そう。愚かな人間に使われるのに疲れたでしょ?魔導士って理由で管理されて。将来産まれる貴方の子供も同じ運命をたどるの。私はこの悲劇を終わらせるわ」

「あなたの世界に幸せがあるとは思いません」

「魔導士を呼ぶためにあの程度で済ませてたけど、後悔するわ。貴方は私の手を必ず取る」


イリアナは女を睨んだ。


「見ず知らずの人間を魔石で操って戦わせるなんて非道なことをする方の手はとりません」

「あら?ちゃんと理由はあるのよ。あの人たちは魔導士を見下していた。魔力を隠していた人間を売ってお金を稼いでたの。」

「この国になにか恨みがあるんですか?」

「この国の王太子は優秀な魔導士を集めてるって聞いた。仕掛けたら手に入るかなって」

「私がかかって満足ですか?」

「貴方も魅力的。でもまだ物足りない。どんどん出てこないといけない状況を作るわ。まだ兵はたくさんいるもの。魔力のない人間は敵わない。2日後楽しみにしていて。」


イリアナは女性がセインやレオナルドのことも狙っていると気づいた。


女性が消えた。

女性のいた場所に落ちていた魔石が砕け散り消えた。


イリアナ達はテントに戻った。


「リック、イワンありがとう」

「いつでもお召しください」

「もう休んで。二人がいてくれて助かった」


リック達は満足げに頷いて帰っていった。

昔のように自分を頼りにしているイリアナに嬉しかった。イリアナの信頼はイワンやリックにとって尊いものだった。


天幕で待っていたジオラルドは報告を聞くと天幕を出て行った。


イリアナは今回も戦いに混ぜてもらえなかった。

イリアナの隣にいるジオラルドを見て自分がお荷物だということが悲しかった。

敵の狙いが魔導士の確保ならイリアナに手が伸びる可能性が高い。

この戦場で治癒魔導士を失うことはさけたい第一騎士団長の考えにイリアナは気付いていなかった。治癒魔道士が敵に回る厄介さにイリアナは気付いてなかった。

イリアナは自身が思うより力をあてにされていることにも全く気付いていなかった。



小隊長がずっと私のお守りでいいのかな。

隊長の考えがわからない。

イリアナは魔力を巡らして戦いの様子を見ていた。

味方の兵達が突然陣を離れていく。

兵達の顔は虚ろでも穏やかな夢を見ているような表情だった。

イリアナは自分の目を疑った。



イリアナの目にはなぜか第二王子が見えていた。


あれは、嘘でしょ?

殿下?

おいで、おいでって手をふってる。

殿下、待って。



ふらふらと歩き出したイリアナは第二王子のもとに行こうとしたが腕を掴まれて動けなかった。

突然目が虚ろになったイリアナの腕をジオラルドが掴んでいた。


「ラーナ、」

「離して、行っちゃう、おいでって」


暴れるイリアナの肩をジオラルドは掴んだ。

「ラーナ」

「待って、やだ、邪魔しないで、」


ジオラルドはイリアナが剣に手を伸ばそうとする手をきつく掴んだ。

ジオラルドには何も見えなかった。

ただイリアナをこんなに取り乱せる人物は一人しか思い当たらなかった。


「リア、もどってこい。」


暴れてもジオラルドの腕が離れずイリアナが泣き出した。

イリアナは体術はジオラルドよりも劣っていた。


「ジオ、お願い、離して、でんかが、呼んでる、はなして」

「リア、違う。あれはお前の殿下じゃない」

「でも、殿下が、おいでって」


暴れながら泣くイリアナを押さえつけながら必死で声をかけた。


「お前の殿下はむやみに人の命を奪える人間なのか。」

「違う。」

「お前の殿下はここにはいないだろ。お前だけの墓にいるんだろ。帰ってただいまって言わなくていいのかよ」


イリアナの力が抜けた。イリアナは力なく首を横に振った。


「でんか」

「勝手に迎えにくるようなやつなの?約束したのに待てない奴なの?」

「ううん。殿下はいつも待っててくれる。」

「今、見えるのは?」


ジオラルドの言葉にイリアナは深呼吸をした。目を閉じて第二王子のことを思い出した。イリアナの第二王子遠くから手を振ったりしない。近くにきて手を差し伸べてくれる。

あれは殿下じゃない。殿下は・・・。

今は仕事中。意識を切り替えないと。ここで間違えたら殿下の大事なセイン兄様も危険な目に合う。

イリアナは泣くのをやめた。


「すみません。落ちついたんで行ってきてもいいですか?」

「理由は?」

「私の殿下を騙った偽物に後悔させてきます」

「却下。兵たちにも幻覚が見えたのかな。連れてかれたな」


ジオラルドには幻覚は見えていなかった。


「追いますか?」

「別のやつが追ってる。」

「冷静ですね。追いかけないので離してください」


ジオラルドはイリアナを抑えていた腕を離した。

イリアナは涙を袖で拭った。


「冷静さを失ったら終わりだからな。戻ろうか」

「なんで戦場だと格好いいのに普段は駄目なんでしょう」

「結婚する?」

「今ので上がった評価が急降下です。仕事中です」

「冗談だよ」

「もし頷いたら?」

「勿論結婚する。よく耐えたな」


イリアナはため息をついた。

でもジオラルドのおかげで落ち着いた。

ジオラルドの笑顔に安心するなんて、世も末かな。

優しく頭を撫でるジオラルドの手に自分の力が抜けたのは気のせいと思い手を振り払った。

相変わらずのイリアナにジオラルドは笑っていた。


イリアナは一部隊の半分が連れていかれたため人手不足のため調理班に加わっていた。ジオラルドはここならイリアナも動きようがないと預けた。

イリアナは無言で野菜を刻んでいた。周りの兵隊の顔色が悪かった。


仲間が浚われたから当然よね。

あの魔術師を殺せば終わるのかな。

きっと対策を隊長たちが考えてる。

イリアナは今は野菜を刻むことに集中することにした。



仮眠の時間なのでテントに戻るとジオラルドが書類を書いていた。


「ラーナ食事は?」

「すませました。持ってきますか?」

「いや、いらない。手伝いもいらないから先に寝てて」


イリアナはジオラルドの言葉に甘えて横になった。

食欲はなかった。魔力があるので、食事をとる必要性も感じなかった。

力を抜いたら幻影の殿下の顔が脳裏に浮かびあがった。

もういないのに。

首にかけてる遺灰を握っても恋しくて仕方なかった。

殿下。夢でも幻影でも会いたい。でもそれは私の殿下じゃない。


「ラーナ、起きてるのか?」


隣に横になったジオラルドは泣きそうなイリアナの腕を引き寄せて抱きしめた。

戦場では泣いているイリアナを慰められないけど、今は休憩中と心の中で言い訳をして。


「寂しいな。会いたいよな。リア、」

「まなしょうたいちょう」

「ジオ」

「じお」

「そうそう。泣き虫リアは素直に泣きなよ」

「泣き虫じゃない」

「昔はよく泣いてただろ?リアの泣き顔なんて見慣れてるよ」


イリアナが泣きたい場所はここではなかった。でも寂しくてたまらなかった。


「殿下に会いたい。夢でもいいから。でも本物じゃないと嫌なの」

「帰ったら会いにいこう」

「寂しい」

「俺が傍にいるよ。いつでも俺の腕を貸すよ。」


頭を撫でる手は優しかった。求めていた腕じゃなくても抱き寄せられた腕は暖かった。

イリアナはジオラルドの胸に顔をうずめてしばらくすると顔をあげた。


「また殿下が見えたらどうしよう」

「絶対に止めるよ。お前は偽物じゃ満足しないだろ。力ずくでも止めるから。」


イリアナは怖かった。偽物に捕まるなんて嫌だった。でも第二王子のことは自分でもうまくコントロールできなかった。安心しろと優しく笑うジオラルドの顔を見て静かに頷いた。


「うん」

「また薬草茶飲んでもいいよ。俺が抱くよ」


イリアナは首を横に振った。本物じゃないとだめだから。抱きしめられる暖かさにアマルを思い出した。

「飲まない。ジオは大きいね」


ジオラルドの冗談に即答したイリアナに安心した。イリアナの顔に段々生気が戻って来た気がした。ジオラルドにはイリアナが消えそうに見えていた。イリアナが寝るまで話に付き合うことにした。


「大きい?」

「アマルは体が小さいからこのあたり。最初はびっくりしたけど一緒に寝ると暖かい」


ジオラルドの顔が優しい顔から真顔に変わった。

イリアナはぼんやりしてジオラルドの変化に気付いていない。

ジオラルドにとって聞き流しせない言葉だった。


「リア、アマルと一緒に寝てるのか!?」

「うん。もぐってくるからいつも一緒」

「それは止めようか」

「なんで?」

「アマルも男だよ」


イリアナはきょとんと首を傾げた。


「もう一緒に湯あみはしないよ」

「一緒に湯あみをしてたのか!?」

「最近は別。アマルが嫌がるから」


イリアナがアマルのことを思い出してクスクスと笑い出した。


「一緒に寝るのもやめよう」

「あたたかいよ。ジオも一緒に寝たい?」

「リアとなら喜んで寝るけど、頼んだら寝てくれるの?」

「うちのベッドは小さいから3人は無理」


イリアナはジオラルドの顔がゆっくり近づき口づけされそうだったので慌てて手を間に挟んだ。


「不謹慎」

「アマルもこうゆうことを考える年頃なんだ。今は休憩中だ。アマルと寝るってどうゆうことか教えてやるよ」


イリアナは突然寒気に襲われた。ぼんやりとした頭がさえてきた。自分の体を撫でる手にゾクっと嫌な感じがした。


「ジオ、触り方がやらしい。」


ジオラルドがイリアナの様子が変わったことに気付いた。睨まれてもやめる気はなかった。


「やらしいことをしようとしてる。もしかしたら、寝てる間にされてるかもよ?」

「アマルはそんなことしない」

「リアは一度寝たら絶対に起きないだろ。俺、口づけたことあるよ」

「最低」

「嘘だけど。男なんてそんな生き物なんだよ。アマルと寝るのはやめろ。わかった。こないだみたいに優しくできないけど簡便な。危機感は体にきざみこまないとわからないか。責任とるから安心して」


訳の分からない顔をするイリアナに強硬手段をとることにした。

手を拘束されてイリアナはジオラルドに口づけられた。

ジオラルドの力が強くてイリアナは抵抗できなかった。


「力では男に敵わないんだ。どうする?続きしてもいい?」


イリアナは寒気に襲われていた。

このジオラルドは逆らってはいけないと本能が警告をだしていた。


「やめます。アマルと寝ません。だからやめて」

「リアが嫌がるならしないよ。約束な。お休み」


イリアナの腕が解放された。肉食獣のような目から解放され安心していると隣から寝息が聞こえた。

イリアナは目を丸くした。

ジオの切り替えの早さは異常じゃない。

この人、本当に私が好きなの?

気にしても仕方がないのでイリアナはそのまま眠りについた。混乱したイリアナは第二王子の幻影がいつの間にか脳裏から消えていたことに気付かなかった。

イリアナが寝たのを確認してジオラルドが目を開けた。

ジオラルドはイリアナの貞操観念への危機感の薄さに頭を抱えたくなった。無理やり口づけられ、襲われかけても気にせず隣で安眠するイリアナが心配でたまらなかった。普通なら嫌悪や怯えが見られるのが一般的である。でもイリアナが安眠できるならそれにこしたことはないと思うことにして再び眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。