第51話 開戦4
イリアナはジオラルドの馬に相乗りしている。
魔法に集中すると、馬の操作ができないためである。
まさかイリアナが突然飛び出すことを心配したジオラルドが相乗りを提案したとは気づいていなかった。
イリアナは偵察から戻ってきたランを確認して敵兵が近づいてくるのを確信した。
イリアナは集中して、魔力を張り巡らせた。
味方にも現れた敵にもキラキラと輝く粉は見えなかった。
敵兵の後方からいくつか粉袋が投げ込まれた。
「ラン、あの粉袋、一つ回収できる?」
「任せて」
粉袋が地面に撒き散り両陣営に、粉がまき散る。
味方の兵のローブとマスクに粉がついた。
敵兵たちがキラキラ輝くと同時に大声を張り上げ興奮し剣をふるいだした。
味方からは、徐々に悲鳴が聞こえてくる。
兵達のローブに積もっていた粉が少なくなっていた。
吸収されてる・・?
肌に触れると、効果が出るのかもしれない。
ただ誰かが発動させてる。
発動させるとキラキラ光るのかな。
セイン兄様かレオ様きてくれないかなぁ。
私、解析得意じゃないのに。
イリアナは試しにレオナルドからもらったペンダントを握って念じてもなにもおきなかった。
何も起きないことに安堵する気持ちと落胆する気持ちと半々だった。
ランが袋を持ってイリアナの肩に帰ってきた。
「ありがとう。ラン、近くに魔術師の気配ある?」
「ないわ」
「だよね。発動させてる術者がいるはずなんだけど、使い魔かな」
「気配はないけど」
「魔道具?うーん。誰か杖を持ってないかな。杖同士なら繋がるから遠隔操作できるかも。あれかな?ラン、あの杖をこっそり奪ってってイワンに伝えてくれる?奪えたら陣には、入れずに外に隠して置いといてって」
「行ってくる」
ローブのおかげなのか前よりは悲鳴が少なかった。
でも、戦況は五分だった。
第二部隊が合流して討伐した。
敵兵は逃げていったのを確認しイリアナは声をかけた。
「マナ小隊長、門の前を調べてもいいですか?」
「駄目だ」
「少しだけ。」
「魔法の粉が散ってるかもしれない場所に許可できるわけないだろ」
「結界をはります。」
「少しだけだ」
ジオラルドは放っておいてイリアナが一人で動くことを危惧して許可を出した。
イリアナはランに自身を結界で覆わせた。
地面には粉は散っていない。
投げこまれた粉袋の、ゴミもない。
魔法の残り香さえもなかった。イリアナは杖を見つけてイワンに感謝した。
イリアナは杖を拾って魔封じの袋に入れた。イリアナには違和感と腑に落ちないことだらけだった。
「マナ小隊長、ここに魔術に詳しい方はいますか?不明点が多すぎて説明できません」
「うちの隊長は魔術に詳しい」
「この杖、もしかしたら相手の魔術師とつながってる可能性があるんですがどうしますか?」
「ラーナ、見学だけって言っただろ。」
「偶然落ちてたんです。これ見えますか?」
イリアナは手の上にある袋をジオラルドの目の前に見せた。
「見えない」
「私の手の上に小袋があります。この袋がいくつか投げ込まれていました」
ジオラルドはイリアナが何もするなという命を全く分かっていないことに悩んだ。
見えないけど粉の回収もアウトだ。結界を貼って近づけた意味をイリアナはわかっていない。見えずとも手の上にあるのが魔法の粉なら危険物である。杖もイリアナの仕業だとわかっていた。
さすがにジオラルドも庇いきれなかった。
「あとで隊長に時間を作ってもらうよ。」
「杖の前では余計な話をしないほうがいいです。敵に聞こえるかもしれません」
イリアナは敵の魔導士に聞かれても問題のない内容をジオラルドに説明をした。
そこまで分析できてどうして自分の行動が危険かわからないのだろうか・・
ジオラルドは不満な顔のまま、イリアナに尋ねた。
「ランって誰?」
イリアナは自分がやらかしたことに気付いた。詮索されて影で調べられても困るので、自白することにした。
「杖の前では言えません。ちゃんと話しますから隊長には話さないで下さい。私しか知りません」
イリアナの激しい動揺にジオラルドは説明する気があるならいいとした。どこから教えればいいか困っていた。今度、イリアナの能力についてセインに聞きに行くことを決めた。ジオラルドはイリアナに聞いても駄目な気がしていた。本人の力量がわからなければ仕事を任せられないし監視もできない。
「わかった」
「あと試したいことがあるので兵が着てたローブと同じものがほしい。ごめんなさい。嘘です。隊長に説明します。余計なことしないでテントで待ってます」
ジオラルドはイリアナが上司の命令を全く理解できていないんだと改めて認識した。
静かに見つめられたイリアナは失言に気づいた。確認してから動くという行動はイリアナには難しかった。
ジオラルドは軍議に行ったのでイリアナはテントで留守番だった。
軍議から戻って来たジオラルドと一緒に捕虜のもとに行った。
捕虜は全員、首から魔石をさげている。魔石を取り上げようとすると発狂した。
黒い魔石を外すと落ち着きを取り戻す。
イリアナが捕虜の話を聞くと旅人や名前も知らない村人ばかりだった。
全員途中で記憶がなくなっていた。
一人だけ魔導士の名前を出すと悲鳴をあげた。
「マナ小隊長、やっぱり彼らは兵じゃない。魔石に操られてます。この戦争の敵は国ではないかもしれません」
魔石を魔封じの袋にいれて第一騎士団長のもとに移動した。
「隊長、申し訳ありません。あの捕虜たちは間者にできません。魔石に操られてる間は記憶がありません。」
イリアナは袋にいれた魔石を第一騎士団長の机の上に置いた。
「兵の中に隣国出身者はいませんでした。浚われて、魔石をつけて操られています。浚われた記憶もないんです。」
ジオラルドは捕虜のことよりイリアナが持っている危険物を手放させたかった。
「ラーナ、小袋のことを」
ジオラルドに言われてイリアナは第一騎士団長の前に小袋を出した。
「これです。見えます?」
「見えないな。この紙の中心に置いて」
指さされた魔法陣の中心に小袋を置いた。
「私が預かろう。御苦労だった」
第一騎士団長はイリアナの行動を注意すべきか賞賛するべきかわからなかった。
罰則は帰ってから考えることにした。
イリアナは難しいことは上司に任せて天幕に戻った。ジオラルドはイリアナに中にいることを命じて出て行った。
送ってもらったイリアナはほとんど仕事をせず、小隊長の仕事を増やしていることに悩んでいた。
イリアナは体を拭いて着替えた。水浴びしたいなんて我儘が言えないことは知っていた。
しばらくするとジオラルドが食事を持ち帰ってきた。
ジオラルドの物言いたげな目にイリアナはため息をこらえた。
ランのこと忘れてくれてないよね・・。
うん。仕方ない。
知られて困ることでもないか。どうせ私はレオ様の手駒だし。
「ラン、結界をお願い。マナ小隊長、絶対に誰にも言わないでくれますか?約束してくれないなら話せません。」
「わかった」
「今、私の肩に聖獣のランがいるんです。鳥の姿で風と霧、幻術を使います。私の催眠術はランの力を借りています。この子の存在、知られたくないんです。誰にも話してませんが、レオ様は気付いていると思います。聖獣持ちにはランの魔法は使えません。」
ジオラルドは聖獣の存在は知っていた。まさかイリアナが使役しているとは思わなかった。
イリアナが使える魔法は治癒魔法だけと聞いていた。霧・・・?シュナイダー王国戦は風と霧に苦労させられていた。
「あの時、霧が襲ってきたり、セインの陣が見つからなかったのは」
「ランの力です。風と霧の魔法は私が使えることにして報告してもらっても構いません。ただランの存在だけは」
イリアナは第二王子から授けられたランを危険な目に合わせたくなかった。
「ああ。言わない。知られたらまずい。ラーナもランも狙われる」
「ありがとうございます。ランもありがとう。結界を解いていいよ」
ジオラルドの持って来た食事を食べた。
あらかじめ量が減らしてあるジオラルドの気遣いにイリアナは無意識に笑っていた。
自分の笑みに見惚れているジオラルドに気付かずに食事を続けていた。
イリアナは食器を返したあと眠りについた。
イリアナはやっぱり声が聞こえて目を醒ました。ジオラルドの腕の中で眠っていたのでアマルが恋しかった。
アマル元気かな。一人で眠れてるかな・・。
「おいで、おいで」
イリアナの思考を声が邪魔した。
どうしよう。声が気になる。
勝手に動くなって言われてるけど・・。気になる。うん、決めた。
イリアナはジオラルドに抱きついて体力と精神力回復の魔法をかけようとしたがうまくかけられなかった。イリアナはさらに集中して魔法をつむいだ。
やっと魔法がかかった。疲れた。こんなに魔法がかかりにくい人は初めてだ。
イリアナはジオラルドの近づいてくる顔にまずいと思って体をおこそうとすると引き寄せられて失敗した。
寝ぼけて口づけされそうになっているので手をあてて防いだ。
不満そうに見られるけど、当然よ。
「寝ぼけないでください。相手を間違えないでください」
「寝ぼけてないし、間違えてない。」
「婚前交渉しないと約束しました」
「俺ならいいよ。遠慮しないで、」
「バカ言ってないでください。マナ小隊長、声が聞こえるんです。行ってもいいですか?」
ジオラルドのとろんとした顔が真面目な顔に変わった。
最初から真面目な顔をしてよ。
寝ぼけて人を襲わないでよ。それに襲うなら私以外にしてほしい。
「声?」
「おいでって女の人の声が」
「俺には聞こえない」
「どうすればいいか教えてほしくて」
「起こしてたのか。悪い。勘違いした。一人で行かなかったのは成長したな」
頭を撫でられる手にイリアナは複雑だった。
私、どこまで駄目な子って思われているんだろう・・。
「見回ってくる」
起き上がったジオラルドに同行するためイリアナも制服を羽織った。
「寝てて、わかった。おいで」
ジオラルドはイリアナの瞳が不安に揺れてる気がして同行を許した。
イリアナは魔力の気配を探しながら歩くけど、なにも感じない。
捕虜たちもすやすやと寝ている。やっぱり私にだけ聞こえている。
砦の中はとくに変わりはなかった。
テントに戻ると声は聞こえなくなっていた。
ジオラルドはイリアナの言葉を疑ったことはなかった。
イリアナは砦の兵に嘘をついていると思われていることを気付いていた。
ジオラルドがイリアナの言葉を信じてくれることに助けられていた。
イリアナはジオラルドの評価を見直すことにした。
声が聴こえなくなったことを話すとよかったなというジオラルドに促されイリアナは再び眠りについた。




