第47話 出陣
イリアナ主催の護身術教室は予想よりも人が集まっていた。
イリアナは休養日なのに手伝いに来てくれた第二騎士団の仲間に頭が上がらなかった。ヒューゴ達が来なければ手が足りなかった。
ヒューゴ達は遠慮しているイリアナに好きでやってるから隊長経由でお礼はいらない。休みだから大人に甘えろとイリアナの肩を軽く叩いた。
第一騎士団のバカな騎士達との違いにイリアナは感動した。
イリアナは感情が戻ってきてるのか、壊れてるのか自分でも判断がつかなかった。
子供達も可愛いく素直で楽しかった。
こんな平穏な訓練はイリアナにとって久々だった。
アマルも参加させていた。体術は同じくらいの背丈の相手との方が練習に丁度よかった。
体術はアマルはイリアナが相手だとやりずらそうだった。
訓練とはいえ、アマルはイリアナを投げ飛ばせるほど割り切れなかった。騎士に育てる予定ではないので、イリアナはアマルをそこまで厳しく鍛えるつもりはなかった。ただせっかくなので護身術教室の話をすると興味を持ったので参加させることにした。
無事に護身術教室は終わりを迎えた。久々に充実した仕事を終えてアマルとヒューゴ達と外で食事をおえて帰路についた。
第二騎士団の騎士達はアマルの事を知っていた。騎士のラーナが人気がでてからはアマルと一緒に暮らしていることは広まっていた。イリアナは今はセインやアドニス達も傍にいるのでアマルに何があっても守り切れると思い隠すことはやめた。
翌日、せっかく癒されたイリアナの心にまた嵐が吹き荒れていた。
イリアナは書類を出しにきた騎士に書類を返した。
「これでいいと思ってるんですか?」
「今までは」
「昔とは違います。やり直してください」
「ジオラルド」
騎士のジオラルドに助けを求める視線にイリアナは睨みつけた。
「書類は私が目を通してからマナ小隊長に目を通していただきます。お返しします。期限が過ぎたら減俸処分ですので」
「お前」
「私は小隊長補佐官です。上司の命令は絶対です。強さも年齢も関係ないのでさっさと仕事をしてください。文句があるなら私の上官になってください」
「覚えてろよ」
騎士に返した書類に急ぎの物も重要なものもない。
イリアナは重要な書類は信頼できる人間にしか回さなかった。
退室して行く騎士に呆れていた。
あんなに簡単な雑務をせずに提出してくるなんてありえない。
イリアナは書類の提出時間を決めた。そして誰にどの仕事をまわしたかも把握していた。カレンが騎士達の能力表を作ってくれたのでありがたく使わせてもらっていた。
不在の時はリックとイワンに頼んでいた。
書類仕事に関してはカレンとリックとイワンにイリアナは感謝していた。おかげで滞りなく仕事が回っていた。
騎士達はイリアナの事よりもリック達の指示には素直に従っていた。イリアナはリック達の手腕に感心していた。
第一騎士団の騎士達がアドニス達を恐がっていることにイリアナだけは気づいてなかった。
今日の仕事も終わったので帰るために立ち上がった。
愚かな騎士の事や婚活の事、イリアナは苦行の多さにため息がつきない日々だった。
「ラーナ、ラーナ」
帰り支度をしていると呼ばれてることに気付いてジオラルドに視線を向けた。
「なんでしょう」
「夜、出かけないか?」
「お断りします」
「一人で平気か?今日は、」
ジオラルドの心配そうな顔が不思議だった。
ジオラルドの誘いはいつものように軽い感じではなかった。言葉を濁して切なそうに見つめる様子にイリアナは首を傾げた。日付を気にする様子に、イリアナは日付を見て思い出した。
今日って殿下を弔った日…。
なんで知ってるんだろう。偶然だよね。どうでもいいや。
第二王子の命日は別の日なためイリアナは忘れていた。イリアナは第二王子のところに行くことにした。
「お気遣いありがとうございます。失礼します」
言いたいことがありそうなジオラルドを無視して帰った。
イリアナはアマルが寝たのを確認してから第二王子の下に出かけた。いつもの場所に座りこんだ。
「殿下、早いですね。もう国が滅んで1年たつんです。シュナイダー王家が滅んで。
私は殿下のお兄様の死を願ったっていったら怒りますか?でも亡くなっても心は晴れません。
殿下が隣にいた頃みたいに、空の美しさも風の気持ちよさも感じないんです。やらなきゃいけないことはあるのに、やりたいことはない。幸せだった思い出はあるのに、どんな風に生きていたか思い出せないんです」
夜空の星を見てもなにも感じない。殿下と見た星空は眩しくて、明日への活力がわいたのに。時々感情が揺れ動くことがあっても、昔みたいにはなれない。
このまま好きでもない人と結婚して子供を産んでレオ様のために生きていく。子供を愛せる気もしない。仕方ないか。約束したし。気分が沈むのは仕方がない。
イリアナはそのまま眠りについた。
翌日イリアナはレオナルドに呼ばれた。
執務室に入室すると両騎士団長と両小隊長、セインがいた。
「昨夜、国境が攻められた。砦は突破されていないが増援を送る。相手は魔導士を連れていると予想される。兵達が幻覚に襲われている。第一騎士団を派遣する」
「魔導士がいるならうちが適任ですね、準備してすぐに出立します」
「イリアナ、わかってるな」
「はい。お任せください」
礼をして立ち去ろうとするとセインに腕を掴まれた。第一騎士団長はイリアナに後から来なさいと声をかけて退室して行った。
イリアナはレオナルドとセインの残る執務室に残され戸惑った顔をしていた。
セインは真剣な顔でイリアナを見つめていた。
「セイン兄様?」
「リア、使うなよ」
イリアナはセインが自分を心配していることに気づいた。
「約束通り禁呪は使いません。」
「幻覚使いが相手だ。殿下が見えてもついていくなよ。ちゃんと生きて帰ってこい。わかったな」
「はい。セイン様」
「イリアナ、君の力はまだまだ必要なんだ。わかってるよね?」
「はい。レオ様お任せください」
二人に礼をしてイリアナは退室した。
まだまだ駒として使い道があるから死ぬなってことか。
この国に治癒魔導士は私だけだから仕方ないか。
死ぬ気はなくても、生きる気もないからなぁ。
駒として役目は果たさないとか。
訓練場に向かうと第一騎士団員が集まっていた。イリアナは礼をして自分の配置についた。
第一騎士団長の話も終わり2時間後に出立なので家に帰って荷物を整えた。
アマルに行ってくると伝えて、最後に第二王子の所を訪ねた。
「殿下、長い仕事に行ってきます。帰ってきたらまた来ます」
イリアナはそのまま集合場所に向かった。
第一騎士団長の命令でイリアナはリックとイワンと一緒に先鋒を任された。
全体での行軍は時間がかかるものである。
イリアナ達が半日馬で走ると砦が見えてきた。門の前で挨拶する中に招き入れられた。
「第一騎士団小隊長補佐のラーナと申します。先駆けとして到着しました」
イリアナは砦の隊長に挨拶し、詳しい話を騎士から聞いた。
陛下からは防衛のみを命じられていた。
攻撃は夜。幻聴も夜に聞こえるらしい。
リック達を砦に置いてイリアナは周囲を散策しにいった。
魔導士が魔法を解かないと幻聴は消えないので探しにいくことにした。
「ラン、幻覚ってランの力で払える?」
「解呪は専門外よ。幻覚返しはできるけど」
「幻術の魔導士なんてはじめて聞いた。私はランがいるから、かからない?」
「わからないわ。属性にもよるし、油断は禁物よ」
「わかった。もし魔導士を見つけたら教えて」
イリアナは気配を感じて短剣を投げた。慌てて姿を現した兵に斬りかかって気絶させた。
隣国の兵だった。イリアナはイワンを連れて来なかったことを後悔した。
兵を抱え上げてイリアナは砦に戻ることにした。
重いけど大事な捕虜だった。捕虜の足を引きずってしまうのは体格差があるから仕方なかった。
一度砦に戻って増援を呼びに行くという選択肢はイリアナにはなかった。
イリアナは第一騎士団を視界に捉えた。
「隊長、すみません。これも連れてってください」
「ラーナ、お前・・」
第一騎士団長は聞き慣れた声に呆れた視線を向けた。
イリアナは視線の意味は捕虜を軽々かつぎあげられない自分の力のなさかなと見当違いのことを思っていた。
「気絶させてます。拷問は砦で。」
馬から降りてきた騎士に捕虜を渡した。
彼はイリアナにとって文句を言わずにきちんと業務に取り組んでくれる貴重な騎士だった。
「ありがとうございます。お願いします」
「ラーナ、お前一人で」
眉間に皺を寄せたジオラルドの声にイリアナは視線を向けた。
「このあたりの魔法の気配を探ってきます。軍議までには戻ります。単独任務慣れてるので心配無用です」
イリアナの言葉に突っ込みどころは、満載だった。一礼して立ち去ったイリアナに呆れた視線が集まっていることは当人だけが気付いていなかった。
動き出した騎士団とは違う方向にイリアナは進んで行った。
周辺に魔法の気配がないことを、確認して砦に帰ることした。




