第46話 牽制
イリアナは昼休憩の時間にジオラルドの視線を感じ無視することを決めた。
第二騎士団小隊長室に行くため立ち上がるとジオラルドに手を握られた。
イリアナは無視することを諦めた。
「言いたいことがあるならどうぞ。手を離してください」
「俺と結婚しよう」
「は?」
イリアナが手を抜こうとするも手が抜けなかった。
イリアナは力ではジオラルドに敵わなかった。
「好きなんだ。俺にはラーナだけなんだ」
真剣な顔で言われても、何も心が動かなかった。イリアナは迷惑そうな顔をしていた。
「職場で不謹慎です。それ、名前をかえて他の令嬢に告白してきてください。くらっとくる令嬢がいると思います。」
「ラーナ」
「身分が違うので勘弁してください。それにタイプじゃないんで諦めてください。私、お昼に行くので失礼します。」
イリアナはジオラルドを蹴飛ばそうとして、手が離されたすきをついて部屋を出た。
何も言わずに第二騎士団小隊長室でお昼にイリアナを待つ小隊長の優しさにイリアナは泣きたくなった。そっと第二騎士団の勤務表を渡してくれた気遣いにも。
「帰りたい。せめて小隊長も第一騎士団に来てほしかった」
「無理かな。さすがに親子を同じ隊には配属できない」
「バカばっかりです。マナ小隊長も含めて。どうすれば嫌われるんですか?自分より強い女なんて嫌でしょ?」
イリアナは強さが原因でエミリオに振られていた。好かれたい人には好かれないのに、関わりたくない人間に付き纏われる。
「初恋こじらせてるから無理だよ」
イリアナには本当に意味がわからなかった。二人の間に恋に落ちるような出来事はなかった。それにジオラルドとの思い出もそんなに覚えていなかった。一生懸命考えて思い出せるものだった。
「振り回した記憶しかないのに。あの人、絶対に趣味が悪い」
ジオラルドとイリアナの温度差の違いに第二騎士団小隊長は苦笑した。
「ラーナの好みは?」
「伯爵家出身で形だけの、正妻にしてくれる人」
即答するのは聞きたい答えではなかった。
「それは置いといて、好みは?」
「穏やかで、頼りになって察しがよくて、優秀な人。」
「マナも悪くないんじゃないか?」
イリアナは初めて敬愛する小隊長の言葉を疑った。
「どこにも当てはまらないんですが…。」
「ラーナの評価は厳しいな。そろそろ時間は大丈夫か?」
「お邪魔しました。」
イリアナは礼をして訓練場に向かった。
午後も騎士達を脅して、訓練させなければいけなかった。
騎士見習い達はしっかりついてくる。この団に入って腐らなかったのは、評価しよう。
最近、求める基準がどんどん低くなっている気がする。
だってここ、常識的な人少ないんだもの…。
午後の訓練が終わったのでイリアナはため息をつきながら小隊長室に戻った。途中の書類だけは仕上げたかった。
小隊長室のドアを開けるとジオラルドと女性騎士見習いが抱き合っていた。
イリアナはドアを開けた時点で二人に気づかれたので、荷物だけ取って帰ることにした。
ジオラルドに入室許可は必要ないって言われたから、ドアを開けたんだよ。
私が常識を知らないわけではない。
やっぱり女性騎士が好みだったのか…。
イリアナは心の中で言い訳して二人の顔を見ないようにして、急いで引き上げようとした。
「リア、誤解。」
「皆には内緒にします。私はなにも見てません。お幸せに」
声をかけられたので仕方なく顔をあげた。
慌てた顔をするジオラルドに、にっこり笑顔を作って礼をして部屋を退室した。
イリアナは先ほどの光景に微笑んだ。
これで私は自分の婚活に専念できる。久しぶりに気分がよくなった。
あの人から解放される!!
「ラーナ、待って、誤解、断ったから、話を聞いて」
後から聞こえる声は気のせいよね。
追いかけて来るジオラルドに気付かない振りをして足を進めていた。
「ラーナ、俺が好きなのはお前なんだよ。聞いて。頼むから」
幻聴じゃなかった・・。うるさい。
イリアナは視線を集めてるのに気づいて足を止めて、振り返った。
上がった気分が台無しだった。
「誤解されますよ。私を隠れ蓑に使うのはやめてください。愛しい方のためとはいえ、不愉快です。両者に失礼です。」
「愛しいのはラーナだけ。」
「疲れてるんですね。本命のところにもどって癒やしてもらったほうが賢明かと」
「本命はお前なんだよ。」
「お戯れを。そんな言葉に騙されません。失礼します」
「ラーナ、」
イリアナはこれ以上痴話喧嘩に関わりたくなかった。
馴染みの気配に目を向けるとイワンを見つけたイリアナは声をあげた。
「イワン、これお願いね」
「はい、お任せを」
返事と同時にジオラルドに剣を向けるイワンに笑いかけて立ち去ることにした。
お互いに訓練にもなるからいいわよね。
イリアナはイワンに任せて可愛いアマルの待つ家に急いで帰ることにした。
翌日からイリアナはジオラルドの戯言に言葉を失った。ジオラルドはイリアナの誤解を解こうと必死だった。イリアナが全く興味をしめさないので告白することにした。
イリアナはとうとう返答するのも面倒になり無視することに決めた。
ジオラルドの公開プロポーズも騎士団では見慣れた光景になっていた。イリアナには迷惑な話だった。視線を集めようと気にせず無視していた。騎士団内で噂が広まっているならやめさせる理由もなかった。ジオラルドが言ってもやめないことに気付いたのでイリアナが諦めるといく選択肢しかなかった。
言えばいうほど、言葉の価値が下がっていくのを知らないのかな。
イリアナはジオラルドを面倒に思いながらも引いていた。
しばらくするとジオラルドの公開プロポーズはおさまった。
イリアナは静かになってよかったと安心していた。
おまけ
イリアナから預かった書類をジオラルドに提出に来たカレンは今日も捕まっていた。
「カレン、どんどんラーナの視線が冷たくなっていく気がするんだが…」
「ジオラルド様、見た目はいいから、くらっとくるかなと思ったんだけど、イリアナには効果がなかったですね。」
「お前、」
ジオラルドは面白がっているカレンを睨んだ。
「イリアナ、押しに弱いし実は優しいから強引にいけば、折れると思ったけど、残念でしたね」
カレンはイリアナが自分を友人にしたのは自分の押しの強さが勝因だと思っていた。アマルやアドニス達を見ていてもイリアナは伸ばされた手はきちんと受け入れる人間だと感じていた。
カレンはリック達の事情は知っていた。押しかけてきたリック達をイリアナが大切にしていることも。
「最近なんて、視線も向けなくなったんだけど」
「イリアナはともかく牽制は成功してますよ。あそこまでされたら騎士達はイリアナにアプローチできません。騎士団内にはジオラルド様がイリアナにご執心って知らない人間はいませんから」
「お前、面白がってないか?」
「否定はしません。セイン様に頼まないんですか?イリアナの保護者ですよね」
「なんで知ってんの?」
「情報収集は常識です。」
「セインは中立。相談にはのってくれるけど、協力はしてくれない。あいつは俺よりラーナの味方だ」
カレンは愉快に笑いながらジオラルドの心に一撃をいれた。
「諦めずに地道に頑張るしかないですね。イリアナは全くジオラルド様のこと意識してませんしね。迷惑そうだし。イリアナにはデメリットだらけの縁談ですからね。でもまだジオラルド様はマシですよ」
カレンの言葉にジオラルドには痛みをこらえた顔をした。大事なことを聞くことにした。ジオラルドはカレンの観察力を評価していた。
「マシ?」
「イリアナに無視されてないだけマシですよ。仕事以外ではイリアナはうちの騎士達を見えないものとして扱いますよ。」
「見えないもの…」
「私はこれで」
カレンは虚ろな目をしたジオラルドを残して去っていった。
その夜、ジオラルドがセインを訪れた。
ジオラルドの訪問に、慣れていたたセインは話を聞いてイリアナが心配になった。




