第38話 婚約者探し2
イリアナは今日も第二騎士団の訓練指導をおえたので家に帰ろうとしていた。
小隊長補佐官になってから、街の見回り当番が減った。
私の執務、訓練指導と時々書類ってどうなんだろう・・。
イリアナは疲労が貯まっている自覚は持っていた。
仕事の後に毎日伯爵領まで行き、伯爵と領民に治癒魔法をかけたり調べたり、アドニスの手を借りても体力的に厳しかった。
治癒魔法はイリアナ自身にかけることはできなかった。
次の休養日は寝て過ごそうかな。
「ラーナ!!」
イリアナはジオラルドの声に足を止めて振り返った。
「マナ様、なんですか?」
「セインから合格が出た」
イリアナはすっかり忘れていた。セインにジオラルドのエスコートを仕込んで貰っていたことは。
ジオラルドは跪いて、イリアナの手をとった。
「今度の休養日、俺と過ごして貰えませんか」
うーん。言葉はいまいちだけど、まぁいいか。
容姿がいいから微笑むだけで、言葉のいまいち感はかき消されるかな。
照れた感じは母性を刺激しそう。
誰にしような。
第二王子のエスコートを受けていたイリアナの評価基準はは厳しかった。
イリアナは柔らかい笑みをまとって頷いた。
「喜んで」
「ありがとう!!」
嬉しそうに笑うジオラルドの返答にまた評価がさがった。
駄目だ。セイン兄様、本当に及第点出したの!?
途中で面倒になって放棄してないよね?
セインはジオラルドに最低限は仕込んでいた。
さすがのセインもイリアナの求めるレベルの高さに気付いていなかった。
イリアナは待ち合わせ場所と時間を告げて立ち去った。
イリアナは茶髪のご令嬢とジオラルドを二人で会わせることを計画した。
二人に噂がたっても問題ない。
伯爵令嬢の手腕で、外堀埋めまくって縁談までいったら大歓迎だった。
イリアナは自分の婚活のためには手段を選ばなかった。
イリアナの婚活にとってジオラルドは邪魔だった。
イリアナの名前で予約してある席にジオラルドが座っているのを確認した。
茶髪の伯爵令嬢がきたので執事姿でイリアナは近づいた。
「本日は急なお誘いにも関わらずありがとうございます。」
イリアナはご令嬢の手をとり、席までエスコートした。
「ジオラルド様、お連れしました。」
「本日はありがとうございます」
礼をして二人の傍を離れようとするイリアナの腕はジオラルドに捕まれた。
「なんで、」
「お美しいご令嬢の前だからといって動揺しないでください。きちんと務めを果たしてください。」
その態度は!?セイン兄様に仕込まれたんだよね?
優雅にジオラルドの手を振り払い、笑顔でちゃんとエスコートしなさいと脅した。
イリアナの笑顔にぼんやりしているジオラルドから離れた。
ジオラルドに見惚れてる令嬢を見てイリアナは安心した。
このやりとりで令嬢が引かなくてよかった。イリアナはジオラルドには今回で決めてほしいと思っていた。
イリアナは離れた場所で二人を見守っていた。
ジオラルドは色々残念だけど、令嬢は嬉しそうだから良いことにした。
ジオラルドを容姿端麗に産んだマナ侯爵夫妻にはじめて感謝を覚えたイリアナだった。
「君は、」
部屋の隅で控えていたイリアナは声をかけられたことに驚いて振り向いた。
服についている伯爵紋を見てイリアナの目が輝いた。
イリアナは執事服でおめかしできてないことを悔やんだ。。
イリアナは恥じらいの表情をつくって、伯爵に柔らかに微笑んだ。
「すまない。いや、亡くなった妻の面影があって」
イリアナは後妻におさまることを決めた。
これ、いける気がする。
潤んだ瞳をつくって伯爵を見つめた。
「奥様・・。こんな旦那様に愛された奥様は幸せですね」
「君は」
伯爵の頬に添えられる手を受け入れて、そっと手を重ねて伯爵を見つめた。
「奥様が羨ましいです」
「リア!!」
伯爵の手が離れた。
イリアナは聞き覚えのある声にため息が溢れるのを我慢するのはつらかった。
もう少しだったのに・・。
イリアナは自分の目の前にいる伯爵が少年趣味の危ない人物だとは知らなかった。
「ごめんなさい。仕事中でした。またお会いできることを願っています。ジオラルド様、申し訳ありませんでした。」
伯爵がジオラルドに礼をとるとジオラルドは凄い目で睨んでいた。
睨むジオラルドは気にせずにイリアナは大事なことを聞いた。
「ジオラルド様、すみませんでした。ご令嬢は?」
「帰った」
「嘘!?」
本当にいない。なんで!?
全然エスコートできてないじゃない!?
視線が集まるのを感じて伯爵を睨んでいるジオラルドを宥めて移動することにした。
「お側を離れて申し訳ありませんでした。帰りましょう。ジオラルド様、理由もなく睨むなんて立場を考えてください。お咎めは屋敷で。お願いします」
「わかった」
ジオラルドはイリアナに弱かった。困った顔をしたイリアナに苦笑して伯爵から視線をそらした。
「伯爵、申し訳ありませんでした。失礼致します。」
イリアナは顔が真っ青な伯爵に礼をしてジオラルドと共に立ち去った。
店から出て路地裏に移動した。
「ご令嬢はどうしたんですか?」
「俺はもう決めた人がいるって伝えた」
「あら?余計なお世話でしたね。失礼しました。おめでとうございます。私はこれで」
イリアナはジオラルドが自分で令嬢を選んだなら用はなかった。
ジオラルドに腕を掴まれている状況の意味がわからなかった。
「なにか御用ですか?」
「今日は俺と過ごしてくれるって言ったよな?」
「過ごしたじゃないですか。」
「足りない。」
「婚約者を決めたのなら私と過ごすべきではありません。立場をわきまえて下さい」
「俺と結婚してくれる?」
「は?ありえません。なにを世迷い事を。待って、まさか令嬢に私の名前を伝えてませんよね!?」
「伝えたけど…」
「ありえない。嫌がらせがはじまる。なんてことしたのよ!?」
「素晴らしいご令嬢なんでしょうって褒めてたよ」
「令嬢の言葉を信じてはいけないのよ。社交界で噂になる。もう駄目。」
「ラーナ、俺との結婚を真剣に考えてよ。苦労はさせないように頑張るから。もちろんアマルも、つれてきていいから」
「貴方のせいで苦労してるのよ。私のためなら、ご令嬢に謝罪してプロポーズしてきて」
「それは…」
「貴方は、侯爵家を支えてくれる令嬢を娶るべきです。貴女に社交はできません」
「ラーナ、頼むから」
イリアナは頭を抱えたくなった。
うーん。なんでジオはそんなに私にこだわるのかなぁ。
身分で諦めてくれない。興味が全くないって言ってもだめ。
それなら、
「私、そんなに長く生きられないんです。だから余計に頷けません」
「は?病気?リア、大丈夫なの?」
イリアナはジオラルドの真っ青な顔に昔を思いだした。
私が木から落ちたときもこんな顔してたな…。
昔から優しい人だった・・。
「はい。」
「うちの医師に見てもらおう。間違いかもしれないし」
「病気じゃないんです。」
「リア?」
「魔法には代償が必要な時があるんです」
「まさか!?なんで、そんなこと」
「だって長く生きたい理由なんてない。ただ私は契約のために生きてるだけ」
アマルには、今はセイン兄様もヒューゴもいる。
出会ったころの危うい感じもなくなった。
それにあの子は賢いから一人でもなんとかなる。
レオ様もセイン兄様を良心的に接してくれてる。
無茶な仕事をさせてる様子はない。
アベルトも大丈夫。
病気も治したし、あの子は賢いからきっとうまくやる。
お母様もラーナ領の皆もアベルトに任せれば大丈夫。
ジオラルドは虚ろな瞳で消えそうなイリアナを抱きしめた。
「リア、俺はリアが生きてて良かった。契約でも、どんなにつらくても」
「私は武門の妻に必要な生き汚たさは持てません」
武門の妻はどんな状況でも生きて夫の帰りを待つ。
預けられた家を死ぬ気で守らなきゃいけない。
無理。なにより、
「私は貴方の気持ちに答えられません。」
「答えなくていい。お前の殿下を想ったままでいい。生きててくれれば。側にいてくれれば尚更」
「想い合わなくてもいいなら誰でもいいじゃない。貴方に想いを向ける令嬢と添い遂げればいい。離してください」
「ごめん。つい」
イリアナはジオラルドに抱きしめられてることに気づいてジオラルドの胸を押した。
欲しい腕はこれじゃない。色々考えてたら気づかなかった。
イリアナは社交の表情を作るのさえ面倒で無表情のままジオラルドに向き合った。
「私が貴方の手をとることはありません。失礼します」
イリアナは茫然としているジオラルドを残して立ち去った。
明日からの対策をねらないといけない。
セインは頼れない。
イリアナはセインを巻き込みたくなかった。
王宮に近づきたくない。
遠征に行きたい。二年くらい帰ってこれないものに。
隊長に無理もとで泣きついてみようかな。
これを乗り切らないと私の縁談も遠ざかる。
時間がないのに。慎重に動かないと。
まず、令嬢達にアルが私とバレたらまずい。
いっそ体調不良で休み?体調管理ができないなんて、騎士の恥。それに絶対にセイン兄様に怒られる…。
イリアナは心身ともに疲れていた。
今日のことがきっかけでジオラルドが余計にイリアナに付きまとってくるとは思っていなかった。
イリアナは弱った女の姿が男心を刺激することを知らなかった。




