第37話 婚活2
イリアナはジオラルドの婚約を整えようとしていた。ただ想像以上にジオラルドのエスコートと社交がいまいちでつまずいていた。
イリアナは第二王子とセインのおかげで、求めるレベルが高いことに気づいてなかった。
イリアナはジオラルドをセインに任せようと決めた。
セイン兄様の指導は的確。時々私も指導を入れようかな。
それにセイン兄様に任せている間は私の邪魔をされることはない。
イリアナにとってジオラルドは物凄く邪魔だった。
イリアナは公爵令嬢の誕生日パーティーでいくつか有益な情報を手に入れていた。
没落しそうな伯爵家の存在を教えてもらった。
イリアナは休養日に馬で噂の伯爵領を訪れた。
馬の世話はアマルと一緒にしていた。
イリアナは馬を連れて帰った時のアマルの顔を思い出した。
勝手に馬を買って帰ったから怒られたのよね…。
アマルは育ちのせいかお金に厳しい。
イリアナはアマルが自分の金銭感覚を信用してないことに気づいていなかった。
伯爵領は活気がなく寂れていた。
市もほとんど店が開いていない。物乞いばかりである。
働き口がなくて、若者は出ていくんだろう。
この感じだと治安も悪い。
路地裏に行くと、イリアナの想像通りやせ細った子供が数人いた。
倒れている子供は飢えていた。原因はわかっても、全員に配れるほどの食料は持っていなかった。
近くに食料を手に入れられる店もなかった。イリアナは体力と精神力の回復のために一曲歌った。
歌い終わったイリアナは子供たちに近づいた。
「お姉ちゃん?」
「神殿に行こうか。」
神殿という言葉に子供の顔が真っ青になった。
「やだ。神殿はいや。売られちゃう。せっかく逃げたのに」
「やめて、」
怯える子供たちにイリアナは柔らかい笑みを作った。
神殿が救済にならない者がいることをイリアナはよく知っていた。
「神殿に連れて行かない。どうして怖いのかお話を聞かせてくれる?」
イリアナをじっと見た子供達はしばらくすると口を開いた。
「神殿に行った子供は帰ってこない。お母さんは死んじゃったけど、俺はこの村にいたい。領主様がお元気ならってお母さん言ってた。」
「神殿にいたけど、朝、起きるとみんないなくなるの。神官様は家族のとこに帰ったって言うけど」
イリアナは子供達の頭を撫でた。
「ありがとう。」
イリアナは子供たちに携帯食を等分にして渡した。
「ごめんね。食べ物はこれしかないの」
「お姉ちゃんの分は?」
「お姉ちゃんはいらないから食べて。」
飢えてるのに・・・。
イリアナの渡した食料なんて全然お腹が膨れないことを知っていた。
こんな状況で人のことを気にするなんてすごい。
食べ物を奪いあわずに分け与えるなんて。
イリアナは保護してあげたかったけど、今のイリアナには子供達を保護する力はなかった。
この国ってバカも多いけど、子供はマトモなのよね。
渡した食料を大事に食べる子供を見て、初めて爵位のないことを後悔したイリアナだった。ラーナ侯爵令嬢だったら、この子達を領で保護することは簡単だった。
イリアナは子供達と別れて神殿に向かうと、太った神父が出てきた。
うん。慈悲など与えない、私利私欲優先タイプかな。
あの子達の話通りなら人身売買に手を染めてる…。後でいいや。
イリアナは神父の話を聞き流し、神に祈りを捧げて、立ち去り領主である伯爵家を訪ねた。
扉を叩くと、伯爵夫人が出てきた。
「貴方は?」
「こちらの御領主様がご病気と聞きまして。お役にたてればと」
「気持ちはありがたいけど、うちにはそんなお金が」
「お代は不用です。良ければお任せいただけませんか?」
「それなら」
夫人に続いて、寝室に案内された。
ベッドには痩せ細った伯爵がいた。
「最近はなにも食べられなくて、薬がやっと」
イリアナは治癒魔法をかけるが違和感を感じていた。
病気の気配がしなかった。
「奥様、お薬見せて頂いても?」
「ええ。これ」
渡された紫色の液体を見てイリアナには毒薬にしか見えなかった。
「奥様、お代を払うのでこちらを一つ頂けますか?。私が毎晩治癒魔法をかけにうかがいます。この薬と魔法は相性が悪いので、私が通う間だけは、このお薬をお休みしていただけませんか。伯爵は絶対に死なせません。」
さらに体力と精神力の回復の魔法をかけると伯爵の顔色は少しだけよくなった。
夫人はイリアナの言葉に戸惑った顔をした。
「その薬がないと、主人は」
「初対面の人間を信用できないのは、わかります。もし伯爵が死ぬなら私も自刃しましよう。約束を違えることは絶対にしません。」
「どうして、そこまで」
「私は治癒魔道士です。救える命を放っておくなどできません。どうか信じていただけませんか。」
「わかったわ。」
「私は一人で治療したいので、その間は他の治癒者を断ってください」
「神官様が主人の様子を見てくれるのだけど」
神官を信じている夫人に呆れる気持ちを我慢した。
あれは信頼してはいけない。少し話しただけでもイリアナは神官として相応しくないと感じた。
この夫人は人が良い。お人好しと愚かな人間は紙一重とイリアナは思っていた。戸惑う夫人にイリアナは笑いかけた。
「お断りしてください。伯爵様は私が必ず治します。食事と睡眠をできるだけとらせてください。これを使ってください。」
イリアナは金貨を一枚渡した。
「こんなに!?」
「薬代です。お釣りはいりません。」
「貴方は、どうして、」
「自己満足なので気にしないでください。」
子供たちが領主を信じてるから。
イリアナは悲惨な状況でも食べ物を分け合った子供達に心が動いた。
それに救える命を見捨てる理由はない。
イリアナにはできなくても、この二人にはその力があった。
「また明日の夜に伺います。今日は失礼しますね」
家まで馬で一時間だった。
連日夜遅くに帰るのはアマルには申し訳ないけど、さすがに見捨てられない。私の殿下なら放っておかない。
ここで見ないふりをしたら殿下に合わせる顔もない。
家に帰って、薬を調べると毒薬だった。
この薬は飲んで少しすると、吐き気がでる。
食べても吐くので栄養が全くとれなくなる。
伯爵は病気じゃなくて衰弱。
誰かが伯爵を殺したい人間かいる?
相手は神官とも繋がってる可能性もある。
イリアナは伯爵を治してから考えることにした。さすがに伯爵を殺そうとしている人物まで調べる時間はなかった。それに伯爵さえ治れば、伯爵自身で解決してくれるかもしれない。
イリアナはアマルに頼んで携帯食料を大量に買ってもらった。
仕事用と話したら許してくれた。
イリアナはアマルに仕事で当分帰りは遅くなると伝えていた。
アマルは仕事ではないことを気づいていたけど何も言わなかった。ただイリアナに帰ってから用意した食事をきちんと食べることを約束させることを忘れなかった。
イリアナが伯爵領に通って一週間後に伯爵は回復した。
子供たちには携帯食料を渡していた。
回復した伯爵に薬のことを伝えると唖然としていた。
まさか薬だと思ってたのが弱い毒薬だった話を聞いても、怒りも悲しみも見れなかった。
この伯爵夫妻は呆れるくらいに人が良かった。
イリアナにも感謝するだけだった。
薬を用意した神官を疑うなんてできない様子だった。家財が使用人に盗まれても退職金代わりと笑ってるとかやる気あるの!?
イリアナは失望と怒りで頭がぐるぐるした。
こんな気持ちになったのは始めてだった。
善良なことが良いこととは限らない。貴族としてふさわしいかと問われると否だった。
非情な人間でも領民を正しく導くなら、イリアナにはそのほうが好ましい。優しさや甘さで領地を荒らすなんて貴族として恥である。
でも優しさを忘れずに必死に生き抜く子供達が領主を信じていた。だから伯爵夫妻が断罪されて、新しい領主に挿げ替えるという方法を棄却した。
子供達が頼りにしていた伯爵を全く使えないと判断したイリアナは自分だけの手に負えないのでアドニスを巻き込んだ。
伯爵さえ回復すれば、領地の問題は全部片付くいう予想は外れてしまった。無能な伯爵には任せられなかった。
「イリアナ様、読み通りあの神官は人身売買に手を染めてます」
「証拠は?」
「証言だけだから弱い」
「証拠なんて、残さないよね」
「殺しますか?」
「それは私の仕事じゃない。セイン兄様案件ね」
イリアナは報告書をまとめて相談すると、セインが引き受けてくれた。
人身売買と領地問題や貴族の断罪はセインやレオナルドの案件である。単なる騎士のイリアナの力では何もできない。
セインたちは没落伯爵家嫡男に侯爵令嬢との縁談を整えた。
侯爵家の支援も受けられ、伯爵夫妻達は侯爵令嬢には逆らえない。
侯爵家は事業を広げる土地が欲しかった。
セイン兄様が選んだならきっと敏腕侯爵家よ。きっとバカじゃない。子供達の未来も明るくなるはず。
神官は人身売買の現場を抑え他国の奴隷商人との繋がりが見つかった。
「イリアナ、まさか君の婚活が人身売買に領地改革って」
突然現れて笑ってるレオナルドを見てイリアナは重大な事実に気づいた。
私、婚活のためにいったのに落とすの忘れてた。
だって、あんまりにも酷かったから…。
きっとあの感じだと弟の縁談も家の利になる相手を侯爵家が探すよね。あの伯爵家はもうだめだ。
私の縁談相手にならない。
「レオ様がセイン兄様を欲しがった意味がわかりました」
「使える手駒は優秀が一番だからね。ご苦労だったよ」
「お役にたてて光栄です。失礼します」
私は何をしてるんだろう。
時間がないのに。でもあの子供たちが幸せに暮らせるならいいか。
次の標的どうしよう…。
ジオラルドの邪魔がなくてもイリアナの婚活は全然うまくいっていなかった。
イリアナは第二王子に会いに行って英気を養うことにした。




