第36話 婚約者探し1
ジオラルドは珍しくイリアナから声をかけられた。人目の少ない場所に誘われて、移動した。
「マナ様、次の休養日お時間ありますか?」
「大丈夫だけど」
「その日一日、私にいただけませんか?」
「俺と過ごしてくれるってこと?」
「ええ。マナ様さえよろしければ」
「勿論。どこでも連れてくよ」
「本当ですか!?」
ジオラルドはイリアナの嬉しそうな笑顔に見惚れていた。
こんな顔を見たのいつぶりだろう。
屋敷にきたときはずっと笑顔だったけど、もっと大人しい感じだったから。
「ラーナが喜ぶなら」
「行きたいところがありまして、ドレスコードがあります。できれば馬車もお借りしたいのですが」
「いいよ。必要ならラーナの服も用意するよ」
「お気遣いいただきありがとうございます。私の服の心配はいりません。できればしっかり着飾ってきてくれると」
「ラーナと一緒にいても見劣りしないようにするよ」
「楽しみです。ではお屋敷に伺いますので、待っていてくださいね」
「迎えにいくよ」
「いえ、私のお願いですから伺わせてください。マナ様のお姿を一番に拝見させていただきたいので」
「わかった。待ってるから気を付けて」
「はい。では失礼します」
イリアナのジオラルドへの様子がいつもと違った。
俺と距離をとりたがる様子もない。もともと可愛いけど、今日のラーナは格別だ。ラーナの様子に赤面していないといいけど。
イリアナがジオラルドとを誘ったのは初めてである。ジオラルドは浮かれていた。ジオラルドはイリアナに思惑があることに気づかず浮かれていた。
ジオラルドが楽しみにしていた休養日がきた。
マナ侯爵が複雑そうに息子を見る視線には気づいたがわざわざ聞くほどのことではなかった。
ジオラルドは騎士の格好ばかりなので礼服を着るのは珍しい。執事が張り切り支度を整えていた。
ラーナは綺麗だから、一緒にいてラーナが恥ずかしくないようにしないといけないと要望を伝えて執事に任せていた。
イリアナが来たので迎えるとマナ侯爵家の執事服を着ていた。
ジオラルドは固まった。ドレスコード?
「マナ様、いえジオラルド様、かがんでください」
ジオラルドは言われたとおりかがむと胸ポケットに花を2本さされた。
「うん。素敵です。今日はアルとお呼びください。」
にっこり笑顔のイリアナにうなずく以外の選択はなかった。
手配した馬車に乗ると御者にイリアナが行先を伝えていた。
「ラーナ」
「アルです。」
イリアナの笑顔に負けたジオラルドはアルと呼ぶことにした。
「アル、どこに行くの?」
「内緒ですが、約束が欲しいんです」
「約束?」
「はい。女性には優しくしてくださいね。紳士に無碍にはしては駄目ですよ。お約束いただけますか?」
ジオラルドには恐る恐る聞いてくるイリアナの瞳が不安に揺れているようにみえた。
俺はラーナが怖がることはしない。
「もちろん。約束するよ」
「ジオラルド様、約束ですよ」
ジオラルドはにっこり笑ったイリアナに見惚れてにやけそうな顔を外を見てごまかした。
馬車が止まりイリアナが先に降りたのでジオラルドはついていった。
ジオラルドはイリアナに促されるまま歩いた。イリアナはエスコートする隙など与えずにジオラルドを誘導した。
二人が公爵邸に入ると、イリアナが招待状を使用人に渡していた。
公爵令嬢の誕生パーティ?
ラーナ、ここに来たかったの?
ジオラルドにはイリアナの意図はわからなかった。
イリアナが花束を持ってご令嬢に近づいていった。
イリアナの行動をジオラルドは茫然と見ているしかなかった。
ラーナ、花束なんてどこに持ってたの?
「お美しい公爵令嬢様。私ごときが話かける無礼をお許しください。わが主は貴女に見惚れて言葉も出ないのです。主からお花を預かっているのですが、お受け取りいただけますか」
「構わなくてよ。まぁ、見事ね。貴方の主はどちらに?」
「ありがとうございます。あちらに、ジオラルド様です」
「まぁ!?ジオラルド様が来てくださったの!?」
花束を抱えた令嬢とイリアナが戻ってきた。
イリアナに笑顔を向けられてもジオラルドには状況がわからなかった。
「ジオラルド様、素敵な花束をありがとうございます」
「ご令嬢に花束が見劣りすると落ち込まないでください。見惚れて言葉が出ないんでしょうが失礼ですよジオラルド様」
ジオラルドを見つめて、イリアナの言葉に頬を染める令嬢に戸惑うしかなかった。
「構わないわ。」
「ジオラルド様、せめてお祝いの言葉だけでもお伝えください。こんなにお美し方はすぐに攫われてしまいますよ」
イリアナは声をひそめて、あえて令嬢とジオラルドに聞こえるように話しかけた。
「お誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「ジオラルド様、ちゃんとエスコートしてあげてください」
イリアナはジオラルドに笑顔で圧力をかけた。
馬車の中で約束したでしょ!?
私に言われなくてもエスコートしてよ。
ジオラルドもこの状況はダンスに誘わないといけないことはわかっていた。
令嬢に恥をかかせないように、ジオラルドに誘われうっとりとした令嬢と踊った。
ジオラルドが踊ってる間にジオラルドのことを知りたい令嬢達に、イリアナはジオラルドが婚約者を探してると話をしていた。
ダンスが終わったジオラルドはイリアナの話に目がギラギラした令嬢達に囲まれた。
ジオラルドはイリアナが男に囲まれずに令嬢達と話しているのを見て安心していた。
ジオラルドは令嬢の勢いにまけて、身動きが取れなかった。
ただイリアナの姿だけは視線で追っていた。
パーティーもお開きに近づき人が減り始めていた。
イリアナはジオラルドを見守りながら、情報収集をしていた。
時々ジオラルドの様子を見るたびにイリアナは頭を抱えたくなった。
イリアナはそろそろ引き際と判断し、退席する事を決めた。
イリアナがジオラルドの隣に戻った。
「ジオラルド様、帰りましょう」
イリアナは令嬢達に挨拶をした。
イリアナが令嬢達にかけている言葉はジオラルドには聞こえなかった。
ただ周りの令嬢達の歓声が聞こえるばかり。ジオラルドは自分の名前を借りてイリアナが令嬢達を褒めたり口説いていることを気付いていなかった。
イリアナに笑顔で圧力をかけられたジオラルドは帰りの挨拶をして、迎えの馬車に乗った。
ジオラルドはイリアナと一緒に過ごせると浮かれていたのに今の状況がわからなかった。
イリアナはジオラルドに笑顔を向けた。ジオラルドに見惚れている令嬢達もいたので、はじめてにしてはまずまずの収穫だった。
「マナ様、上々です。どなたか好みの方はいましたか?」
「え?」
「今日お会いになった方々は侯爵夫人として相応しい方々です。婚約者もいません。」
ジオラルドはイリアナの言葉に息をのんだ。
「待って、俺はリア、ラーナがいいんだよ。」
「私、貴方のお父様に任せられてるんです。初対面では、まだ決められませんか。」
父上?
「俺はラーナじゃないと嫌だ」
「わかりました。茶髪の方がいいんですね」
違う。ラーナが笑顔を向けてくれるのに、なんで距離をかんじるんだろう。ジオラルドはイリアナの手を握った。
照れてる場合じゃなかった。
「イリアナ・ラーナが好きだ。なんで俺じゃ駄目なの」
イリアナは手を振り払った。
イリアナの顔から笑顔が消え無表情になった。
ジオラルドには初めてみる表情だった。
「ジオが駄目なんじゃなくて、私が駄目なんです」
「俺がマナ侯爵嫡男だから?」
ジオラルドはイリアナにずっと身分が釣り合わないって言われてた。
イリアナはジオラルドに正直に話すことにした。
「たとえ、あなたが平民でも選びません。私は第二王子殿下じゃないと駄目なんです。レオ様との契約なので結婚はします。でも心はあげられません。私がジオと結ばれるためにはたくさんの障害があります。私はその障害を乗り越えられるほどの決意はありません」
「そんなの、俺が頑張るから」
ジオラルドを見てもイリアナの心には全く響かなかった。
「二人で頑張れないなら駄目です。破綻します。貴女は相応しい家の令嬢で、できれば貴方を慕ってくれる方を選ぶべきなんです」
「俺はリアが好きなのに」
イリアナは恋い焦がれる気持ちを知っていた。
でも答えることはできなかった。まっすぐ自分を見つめる瞳に昔の自分を思い出した。
「ジオ、死んだ人間には敵わないの。」
「俺だって、リア以外を好きになれない。触れたいのも守り、ごめん、側にいたいのもリアだけだ。今日だって、俺はずっとリアばっかり見ていたよ」
「もっとほかの令嬢のことを知れば変わります」
「なら、リアだって俺と過ごせば変わるかもしれない」
「好きになる要素が全く感じられないので時間の無駄です。好みの令嬢がいないなら、次は夜会に行きましょう。」
「もう行かない」
「行ってください。」
「嫌」
「社交は貴族の義務ですよ」
「俺は父上に社交は求められてないから」
「振られたんだから諦めてください。」
「嫌だ。」
ジオラルドはイリアナに全く相手にされてないことに落ち込んでる場合じゃなかった。ジオラルドはイリアナ以外を選ぶ気はない。
沈黙が続いた。
いつの間にか馬車が止まったのでジオラルドは先に降りて手を差し伸べるとイリアナが手を重ねた。
「そこで、微笑んでください」
「え?」
「笑ってください。そうです。そんな感じでお願いします。今日は失礼します。また一緒に過ごしていただけますか?」
イリアナに見つめられて頷くとジオラルドを残念そうに見ていた。
「できれば、相手が帰る前にマナ様から誘っていただきたいんですが。令嬢のエスコートは殿方のつとめです。セイン兄様を見習っていただきたいです」
「ラーナ、また俺と過ごしてくれる?」
イリアナはジオラルドがこのままだといけないと思っていた。
「セイン兄様のもとで女性のエスコートを学んで、及第点をいただければ」
「セインに?」
「セイン兄様のエスコートは完璧です。うっかり見惚れてなにも考えられなくなってしまいます。」
「ラーナも?」
「はい。マナ様も端正な容姿ですから、エスコートを覚えれば完璧です。」
「わかった。そしたら誘っても?」
「ええ。人目がなければ。楽しみにしてます。では失礼します。」
ラーナの期待に答えたい。
セインに話したら苦笑しながら了承してくれた。ジオラルドにとってセインは昔から頼りになる友人だ。
ただジオラルドの思考はイリアナに対してはポンコツだった。




