第35話 婚活
イリアナはレオナルドとの契約であと1年で婚約者を見つけないといけなかった。
セインに相談するも自分で探せと振られていた。
「伯爵家以上で形だけの正妻でアマルも受け入れてくれる。ただ問題は私に後ろ盾がないってこと。
うん?家に力はあるけどレオ様の信頼を得ていない家なら?
私と結婚すればレオ様の信頼を、無理。
レオ様は私を使える手駒としての認識だけで、夫の家を重用してくれるかは怪しい。
駄目です。私に利用価値がない。
私の利用価値。武力、治癒魔法。そうだ!!
貧乏な伯爵家なら。護衛を私がするし、医者もいらない。簡単な病なら治る。
さすがに重たい病は代償なしには治療はできないけど。
家事も私とアマルがいれば使用人はいらない。
持参金も用意できるし、私のお給金も家にいれればいい。
これは名案かも」
第二騎士団小隊長は虚ろな目の部下に声をかけた。
「ラーナ、大丈夫か?」
イリアナは声に気づき、今は書類仕事の時間ということを思い出した。
「お帰りなさい。小隊長。すみません。ぼんやりしてました」
第二騎士団小隊長は素直に謝罪する部下に大事なことを話すことにした。
「ラーナ、さすがにそれはやめた方がいいんじゃないか」
「なんのことですか?」
「お前の価値って武力と魔法だけじゃないだろ?」
「!?小隊長は人の心も読めるんですね。流石です。」
第二騎士団小隊長は勘違いしているイリアナに苦笑した。
「全部言葉に出てたから。」
イリアナは呆然とするも、聞かれて困ることではないこで、気にしないことにした。
「すみません。忘れてください」
第二騎士団小隊長はイリアナが本気で言ってる気がしたので、聞き流せなかった。子供の間違いを正すのは大人の役割である。
「さすがに。なんでそんなに卑下してるの?」
「だって私には今は後ろ盾がありません。平民が伯爵家との婚約を望むなんて、無謀です」
イリアナは第二騎士団内でも民達にも人気があった。
自分の価値がわかっていない部下に笑って、助言をすることにした。
「男なんて単純だから、好きな女に頼まれれば必死で家を説得するよ」
「それ、本当ですか?」
「ああ。この国はそんなに身分にうるさくないから」
「ありがとうございます。書類終わったので失礼しますね」
イリアナは上司の言葉に閃いたので、礼をして退室した。
さすが小隊長。狙いは伯爵家の次男か三男。
嫡男ほど期待はされてないよね。
騎士見習いに伯爵家嫡男がいたのでイリアナは探しにいった。
弟の友達か弟を紹介してもらえるように頼むと戸惑いながらも騎士見習いは頷いた。近々弟が友達と狩りに行くのでそれでよければと誘ってもらったイリアナは上機嫌だった。
イリアナは狩りに興味のある少女として静かに見学していた。彼らの狩りの腕に呆れながらも我慢して、笑顔で賞賛を送っていた。ただクマが現れたことで状況が変わった。イリアナは怖がる振りをしていた。ただ少年達が怯えて動けなくなっていた。少年達の様子に逃げることは無理だと判断し、少年の剣を借りてクマを倒してしまった。
イリアナがクマを倒してからは少年たちの視線が変わった・・・。怯えられた視線を向けられたイリアナは計画の失敗を悟った。か弱い少女の振りはやめて、クマを処理して少年たちと別れて帰ることにした。
イリアナは少年達の保護者に文句を言いたかった。
クマも倒せない子供だけで狩りにいかせないでと。
翌日、イリアナは兄の騎士見習いに特別訓練をした。報復じゃなくて指導である。イリアナにとっては…。
そして、狩りについても教育したのはイリアナなりの善意である。騎士見習いはイリアナの狩りの常識にドン引きしながらも静かに頷いていた。
イリアナの次の作戦は後妻狙いだった。
夫人を亡くされた伯爵がいたので、後妻におさまろうとイリアナは接触を図った。
伯爵が通っている店を調べて、慕っているふりをして近づいた。3度目の逢瀬で伯爵家でゆっくり話がしたいという言葉に笑顔でうなずいたらジオラルドに肩を叩かれた。伯爵はすごい勢いで立ち去りそのあとから伯爵は店に来なくなってしまった。
イリアナは失敗したことを悟った。
翌週はイリアナは出会いを探しに行くことにした。
イリアナはカツラを被って、大人っぽい服装で貴族御用達の酒場に行った。
憂いの表情でお酒を呑み、肩を叩かれたのでゆっくり振り向き切ない瞳で見上げたらセインがいた。
イリアナは笑顔のセインと一緒に家に帰ってお説教コースだった。
未成年だってお酒飲んでもいいじゃない。
まさかセイン兄様がいるなんて思わなかったのよ。
イリアナはセインに酒場には近づくなと約束させられた。
どこかに伯爵家の人間、落ちてないかな。
レオ様の側近の方々は身分が高いから手を出したら令嬢達の報復がくるから危険。
イリアナは悩んでいた。第二騎士団小隊長のおかげで策の幅は広がったけど中中うまくいっていなかった。
今日も新しい標的に近づくための身支度に余念はなかった。
ただイリアナにはやらなければいけないことがあった。
最近休養日に家の前で待つ人間を追い払わないといけなかった。イリアナの婚活の邪魔ばかりするジオラルドを睨みつけた。
「人の家の前で待ち伏せするのやめてくれません?」
ジオラルドはイリアナの令嬢仕様の姿に眉を潜めた。
「ラーナ、その恰好!?」
「休養日くらい好きな格好をさせてください。女性の家で待つなんて不躾です」
「まさか、また」
「私、あの時邪魔されたのは非常に腹が立ってます。時間がないのでご用件は?」
ジオラルドは花束をイリアナに差し出した。イリアナは睨みつけるだけで受け取ろうとしなかった。
イリアナは花束くらいで邪魔したことを許さない。イリアナの中では一番手応えがあった婚活だった。
「ラーナ、お前の条件は全部のむ。誰でもいいなら俺にして」
イリアナは冷たい視線で睨みつけた。不敬なんて気にしてるほど心の余裕がなかった。
「それはマナ侯爵令息としての命令ですか?」
「違う。家は関係ない。俺がラーナと」
侯爵家が関係ないならこれ以上は聞く義理はなかった。懇願するジオラルドの言葉を遮った。
「私には務まりません。謹んでお断りします。」
「誰でもいいんだろ?」
ジオラルドの言葉にイリアナは呆れた。
「よくないです。ちゃんといくつか条件はあるんです。貴方に嫁ぐなんてごめんです。侯爵嫡男が平民を娶るなんて自分の立場を自覚してください」
「父上と母上の許可は取ってある」
「分家やマナ家門が許しません。侯爵嫡男を騙した女なんて罵られながら余生を過ごすなんてごめんです。お互いに不幸しかありません」
「俺はラーナがいればいい」
「私には無理です。他をあたってください。次、邪魔したら武力行使しますから。失礼します」
イリアナは何を言っても聞かないジオラルドを無視することにした。
結局、声をかけようとしたところをジオラルドに止められて邪魔された。
一緒のテーブルで食事をしているジオラルドに何も言えなかった。
さすがに人目が多い場所で武力行使はできなかった。
また侯爵令息を無視して伯爵に近づけなかった。イリアナはもし次回もジオラルドが邪魔するならば問答無用で武力行使してから出かけることを決意した。
イリアナは途方にくれていた。
休養日を全部使っているのにうまくいかなかった。
イリアナはエミリオにも振られた。
「エミリオ様、私、お母様を説得します。誠心誠意お仕えするので、嫁候補にしてくれませんか?」
「ごめん。俺、自分より強い嫁はちょっと。しかもお前を娶ったら色々と怖い」
「私、暴力なんてふりません」
「そうゆうことじゃなくて。ごめん」
「でしたら、貧乏な伯爵家のご友人を紹介していただけませんか?」
「ごめん。力になれない」
申し訳なさそうに謝るエミリオにイリアナはひき下がるしかなかった。
第二騎士団の希望は砕け散った。
イリアナは婚活のうまくいかない原因を潰すことにした。
第二騎士団長室を目指した。
「隊長、ご子息をなんとかしてください。」
飛び込んできたイリアナを第二騎士団長は静かに見つめていた。
「ラーナ、」
「私の婚活邪魔するんです。私、時間が無いんです。恐れながら人の恋路を邪魔するなんて、正しく教育していただけませんか。お願いします。」
頭を下げるイリアナの頼みを聞くことはできなかった。
「頭をあげなさい。うちのはラーナを嫁にしたいみたいなんだが」
「社交が面倒だからって、近場ですまそうなんて失礼ですよ。せめてそれなら、同派閥の顔見知りの侯爵令嬢を選ぶべきです。」
「あんまり社交はさせてこなかったからな」
イリアナは父親が息子をどうにかする気がないことを悟った。
期待できない。
やっぱり先に片付けないといけないみたい。
イリアナは覚悟を決めた。
「わかりました。マナ侯爵家の執事服を貸してください。あといくつか社交界の招待状をください。私が婚約者を見つけてあげます」
「ラーナ?」
「私、こうみえても社交は得意なんです。お任せください。立派な令嬢との縁を紡いで見せます」
「お前がいいなら止めないが。」
「お給金はいりませんので側使えとしてつくことをお許しください」
隊長はなにか言いたそうだったけど、あえて気付かない振りをした。
婚約者がいれば私の邪魔なんてしないはず。
後日隊長から欲しいものを預かった。
初回は上手く行くかわからないけど1か月で終わらせられるように頑張ろう。
目的を果たすためには時には回り道も必要だもの。
第二騎士団長はイリアナがジオラルドのために動くのを歓迎すべきか止めるべきか迷っていた。
イリアナの勢いに流されてしまっていた。
第二騎士団長は息子の幸せを祈るくらいしかできなかった。




