第32話 相談
セインはザビ王国に来てレオナルドの補佐官の仕事を卒なくこなしていた。
もともと宰相の仕事も叩き込まれていたセインには簡単だった。
仕事さえできれば周りからは、文句は言われない。
貴族位はなくてもセインはシカク公爵家の嫡男。
シカク公爵家は敵にまわしてはいけないと言われる怖い一族だった。
別に俺達は王家を陰で操ってなかったけど、王のかわりに父上が交渉していたから仕方ないか。前国王陛下は寡黙な方だったから。
セインは貴族の対応なんて、体に染みついているから不敬なんてへまはしない。
ほぼレオナルドと一緒にいるから、絡まれることも少ない。
たとえ絡まれたところであしらえるから問題はなかった。
セインにとって心配事は2つだけだった。
時々、無茶をやらかす従兄妹のイリアナ。
もう一つは目の前にいるジオラルド。
レオナルドはジオラルドの空回りしている初恋を楽しんでいるがセインはそうはいかなかった。
アベルトはしっかりしているしエレインもいるから心配はしていなかった。
セインの屋敷の者たちは、ジオラルドの訪問に慣れきっていた。
頻繁に訪問するから扱いが雑になっているけどジオラルドは気にしていなかった。ジオラルドには気づく余裕もなかった。
セインは落ち込むジオラルドを見て苦笑した。
予想以上に拗れてるよな。
ジオラルドは最近イリアナの態度が昔に戻ったと浮かれていたのに。
大の大人に縋りつく目で見られても・・・・。
侯爵家の一人息子だし、2年も行方不明だったから、可愛がられて育ったんだろう。
ジオラルドは令嬢にも人気があるのに全く気付いていない。
イリアナしか見えてないのに、イリアナには全く相手にされない。
「俺さ、リアの大事な者も守るから、結婚してほしいって言おうとしたんだよ」
俺が知らない間に進展したのか・・。その言葉、他の貴族令嬢相手なら言うことなしだよ。
ただリアは、王太子殿下に騎士として連れてこられた。
リアは騎士としての矜持は一級品。この国の誰よりも高いだろう。
ラーナ侯爵家の教育は半端ないから。
俺、シカク公爵家出身でよかったよ。
「結婚してって言う前にアドニスが剣を向けてきて」
アドニスはイリアナに忠誠を誓っているから、これ以上の侮辱を許せなかったんだろうな。
イリアナ・ラーナは誰かに守られるのを許さないから。
護衛騎士も自分の手足として連れている。護衛なんてあてにはしていない。護衛騎士の立場もわかるから状況を見ながら守られた振りをしてるけど、いつでも応戦できるように構えているしな。
「リアにジオとリアは終わりだって」
「振られたのか」
「振られてない。」
「なんでそんなに落ち込んでるの?」
「リアにとって俺ってその程度だったのかって。別れる時にリアが行かないでって泣きながら手を伸ばすから、俺、いつか迎えに行こうって。強くなって守れるようになったらって」
確かイリアナがジオラルドを拾って来た時ってイリアナは3歳でジオラルドは7歳。
叔父上にイリアナが一人で山に放り込まれて、帰って来た時にジオラルドを連れてきたんだよな。
ラーナ侯爵家では山に放り込むのが躾の一環だったから・・。
訓練もできて反省もできて一石二鳥と叔父上は笑っていた。
ラーナ家の常識はおかしかった。
その時ジオラルドは記憶喪失でまさか隣国から浚われてきたとはわからなかった。
ジオラルドの捜索願いもなかったから、捨て子と判断してラーナ侯爵家で保護した。
その頃アベルトは叔母上と一緒にラーナ領を離れて療養に行っていたから、寂しがっていたイリアナは拾ったジオラルドの世話をやいていた。イリアナの後をついてくるジオラルドが嬉しかったんだろう。
幼い頃のアベルトはずっとベッドにいたから外で遊びまわるなんてできなかった。俺もそんなにリアを構ってやれなかった。大好きなアルと叔母上がいなくなって寂しがってるイリアナを叔父上が山に放りこんだのを聞いて驚いたけど。寂しがってもアベルトは治らない。姉ならしっかりしなさいって。
ジオラルドはリアの言いなりだった。リアのやりたいことには全部付き合っていた。
俺は嫌なことは断るから余計かな。
二人共仲は良かったよ。ジオはリアの無茶を止める役には立たなかったけど。
この頃から俺はリアへの説教がはじまったのか。
ジオを拾って2年後、隣国からジオラルドの捜索願いが来て、慌てて叔父上は連絡した。
ジオラルドがいつの間にか記憶が戻っていたのは、迎えがくるまで誰も気づかなかった。
マナ侯爵夫妻自ら迎えに来て、ジオラルドもいなくなると知ったイリアナは大号泣した。
ジオ、ごめん。お前の記憶はここまでだけど、ジオが帰った後、アベルトが帰ってくると知らせを受けたリアの思考はもうジオにはなかったんだ。
叔父上もジオとの別れでリアが寂しがるのがわかっていたから、あえてアベルトの話をジオが帰るまで隠していた。
3歳のリアを山に放り込んだのをうちの母上に説教されていた所為かな・・。
母上は強いからな・・。
知らせを聞いて泣き止んだリアはアルのお祝い!!って準備に駆けまわっていた。
お前の中の綺麗な記憶ほど、リアには残っているか怪しい。
淑女として大泣きなんて許されませんと母上達に嗜められてたから記憶としては残ってると思うけど。
ジオラルドが帰った後は、アベルトと叔母上が療養から帰られ、翌年第二王子殿下に一目惚れ。それから第二王子殿下の近衛を目指して訓練を本格的に始めてたな。その数年後に殿下に婚約者になってって言われて歓喜してたな。敵わぬ恋が叶った!!って興奮したリアはやばかった。
さすがにジオラルドには言えないよな。
俺は殿下に惚れこんでたリアが簡単に誰かを好きになれるとは思えない。
「それ、大事?リアの中にジオがいなかったら諦める?」
「諦められない」
「リアにとって俺がどれだけの価値があるかわからない。俺は妹分が心配だから傍にいるだけ。リアが俺をどう思ってるかなんて全く関係ない」
「セインはリアに大事に思われてるだろ?」
「リアの行動をみれば慕われてるとは思うけど、わからないよ。本心なんて自分自身にしかわからないだろ?」
「俺が落ち込むのは筋違いってこと?」
「気持ちはわかるけど、無駄だと思うよ。どうしても手に入れたいなら策を考えるべきだ。」
「策?」
「手っ取り早い方法がある。王太子殿下とマナ侯爵を説得をして縁談を整えてもらえばいい。リアは後ろ盾の王太子殿下の命なら従うよ。俺達は王太子殿下に恩があるから、逆らえない」
「それは」
ジオラルドが首を横に振る。
甘いよな。力があるなら使えばいいのに。
「嫌か。でもそれが貴族のやり方だ。」
「リアに傍にいてほしい。でもリアが幸せじゃなきゃ意味がない。」
「本当に貴族に向いてないよな。後悔しないように頑張れよ。じゃあリアの心が手に入るように足掻くしかないな」
「リアとジオは終わった」
「ならジオラルド・マナとイリアナ・ラーナではじめればいい。」
ジオラルドが考え込んでいる。
諦められないなら足掻くしかない。
王太子殿下の喜ぶ顔が目に浮かぶ。
ジオがぐずぐずしている間に、リアが次を見つけるかもしれないけど。
形だけの正妻にしてくれる人間を。
もし、どうにもならなかったらアマルを任せていいかと頼まれたけど断った。
絶対アマルはリアから離れる気はなさそうだし。
それにリアのお目付け役は必要だから。
イリアナはアマルがいないと食事さえまともにとらないから。
もしリアがジオと結婚してマナ家門を育てれば、王太子殿下の戦力の向上は叶うよな。
王太子殿下の転移魔法と俺とリアがいれば、暗殺なんて簡単だけどそうゆうわけにもいかない・・。
セインは適度な距離で二人を見守るつもりだった。




