第27話前編 出産
イリアナはヒューゴと一緒に街の見回りをしていた。
詰め所当番は三人一組だった。
騎士は二人一組で動くため町を二人が見回る間にもう一人が詰め所で待機番だった。
犯罪の抑止力の意味もこめて毎日定期的に騎士が見回りをしていた。
イリアナ達が見回りを終えて詰め所に戻ると数人の子供達が来ていた。イリアナが寄ってくる子供達の相手をしていると、泣きながら幼い男の子が駆けこんできた。
「ラーナ!!助けて、お母さん、動かないの」
ヒューゴが男の子を抱き上げた。
「よく来たな。場所を教えてくれ」
「あっち」
「ラーナ、行くぞ」
子供の誘導通りに二人が進むと女性が倒れていた。
外傷はなく大きいお腹を抱えてうずくまる女性を見てイリアナはヒューゴに頼んだ。
「ヒューゴ、産婆を連れて来て」
ヒューゴが子供を降ろして駆けていった。イリアナは女性に体力の回復の魔法をかけてから女性の衣服を緩めて、声を張り上げた。
「どなたかベッドを貸していただけませんか。」
イリアナの言葉に夫人が近づいてきた。
「うちを使いな。」
「ありがとうございます。誰か、もうすぐもう一人の騎士が戻ってきますので、居場所を伝えていただけませんか?」
「任せろ!!」
イリアナは女性を運びたかった。ただヒューゴが降ろしてからずっと腰に抱きついてる子供をどうしようか迷っていた。
困っているイリアナを見かねて店主が手をあげた。
「嬢ちゃん、俺が運ぶから坊主抱いてやんな」
「ありがとうございます」
イリアナは店主の厚意に甘えて子供を抱き上げた。
夫人のあとを歩きながらイリアナは子供に微笑んだ。
「お母さんは大丈夫。教えてくれてありがとう」
「ラーナ」
イリアナはずっと泣いてる子供の頭を撫でながらベッドを貸してくれた夫人に頭をさげた。
「ありがとうございます。助かります」
「子供達が頑張ってるのに、大人が手を貸さないわけにはいかないよ」
イリアナは夫人の言葉に心の戸惑いを隠して頭を下げた。
子供・・。
助けてもらえたならありがたいと思おう。
昔は一人で行動することはなかったから、助けを呼ぶことなんてほとんどなかった。
常にアドニス達も傍にいたから、有事のときは彼らに指示をだせばよかった。
離れて気付くけど、恵まれていたな。アド達がいれば、私の視線一つで動いてくれたもの。
イリアナは子供を降ろして視線を合わせた。
「お仕事できる?」
「うん。がんばる」
「お母さんの手を握ってあげる」
「うん」
イリアナは涙をふいて母親の手を握る様子に優しく頭を撫でた。子供から離れてイリアナはまた治癒魔法をかけはじめた。段々女性の顔色は良くなっていった。ただイリアナにはお腹の子供の生命力が弱い気がしていた。
イリアナが考えこんでいるとヒューゴが産婆を背負って駆けこんできた。
ヒューゴがおろした産婆はゆっくりと動き夫人を見た。
「若い者は荒いのぉ。」
「ヒューゴありがとう。後は私がついてるから戻って」
「バカ。二人一組だ。詰め所にはきっと応援が来ているよ」
ヒューゴは見当違いなことを言うイリアナの頭を軽く叩いた。産婆はイリアナとヒューゴに指示を飛ばした。
戸惑いながらもイリアナとヒューゴは産婆の指示に従い動いた。騎士とは命令されると自然と体が動くものである。
イリアナは産婆の指示通りに赤子を取り上げた。
なぜ自分が取り上げるのか疑問を口にできる雰囲気ではなかった。
イリアナは器用に自分を産んでくれた母に感謝したくなった。
産まれた赤子は真っ青だった。イリアナの体力回復の魔法も効果がない。
試しに魔力を送るとみるみる赤子の顔色が良くなっていった。
産婆がニヤリと笑った。
「嬢ちゃん、やっぱり魔導士かい」
「嗜み程度です」
イリアナは赤子にどんどん魔力が吸われていった。意図的に魔力を送るのはやめても、赤子はイリアナの魔力をどんどん吸い取っていく。自分の魔力を凄い勢いで吸収する赤子に感心していたイリアナもこれ以上吸われると自分が倒れるのがわかり赤子をヒューゴに渡した。赤子はイリアナの魔力を吸って元気に泣いている。
母親は目を覚まさなかった。
イリアナは眠り続ける女性に魔力を送る。イリアナの予想通り女性は魔力持ちだった。
魔力持ちは魔力がなくなると生命力を吸われる。母親に必要なのは体力回復の魔法ではなかった。
イリアナの魔力は赤子に吸収されほとんど使いはたしていた。いつもならこれ以上魔力を消費することは選ばないだろう。
イリアナは母親と手を握る子供と赤子を見て決めた。イリアナがやらなければ母親は死ぬ。
イリアナの生命維持に使う最低限の魔力を残して魔力を送ることにした。
ただこれ以上魔力を使うと自分が倒れることはイリアナもわかっていた。
「ヒューゴ、私、この後しばらく倒れます。眠れば治りますので、夫人に頼んで一晩寝かせてください」
「ラーナ?」
「急ぎの事情説明が欲しければ、レオ様の側近のセイン・シカク様に聞いてください。寝てれば治るので、心配しないでください」
戸惑うヒューゴを無視してイリアナが魔力を送ると母親はゆっくり目を開けた。母親に泣きながら抱きつく子供を見て、もう大丈夫とイリアナは一息ついた。
イリアナはゆっくり立ち上がりフラフラしながら部屋の隅に移動し座り込んだ。
イリアナは魔力を使いすぎたため限界だった。ヒューゴの呼ぶ声にも反応できずに意識を手放した。
イリアナが目を覚ました。
制服を着たままベッドに寝ていたので、騎士の制服を着たまま家まで背負われて運ばれたことの恥ずかしさにため息をつきたくなった。
「イリア!!」
起きたイリアナをアマルが泣きそうな顔で見つめていた。イリアナはアマルの様子に戸惑いながら、手を伸ばして頭を撫でた。
「アマル?」
「リア、お前・・・」
セインの呆れる声と顔を見てイリアナは、現状を理解した。
「魔力ありがとうございます」
目の前のアマルとセインの顔を見て心配をかけたことを自覚した。
セインから魔力をもらったイリアナは、予想よりも早く目を醒ました。
セインのおかげで体が軽いと呑気なことを言うイリアナをセインは睨みつけた。イリアナは一歩間違えれば死んでいた。
「寝たら回復するじゃないだろ!?限界まで使うバカがいるか」
「そうするしかなかったの。まさか赤子にあんなに魔力吸われるなんて思わなかったし、母親が魔力持ちなんて予想もしなかった」
「だからって限度があるだろ」
「あそこになんとかできるのは私しかいなかったの。子供の前で親を死なせるなんてできない。」
「自分を危険にさらしてまでやることかよ」
「ちゃんと生命維持のラインは守ったもの。朝には動けるまでには回復した。魔導士としての腕はセイン兄様にも負けません。」
「倒れて動けなくなった時点で守れてない。どれだけ危険なことしたかわかってんのか!!」
セインは全く反省していないイリアナに声を荒げた。イリアナは淡々と弁解していた。
喧嘩する二人にアマルが泣き出した。
「やめて。イリアもセイン様も落ち着いて。セイン様怒るなら後でにして。今はイリアを休ませて。イリア、休んで、俺怖くて、イリアもいなくなっちゃうって」
涙を流し悲痛な声を出すアマルにイリアナとセインは言い争いをやめた。イリアナはアマルの頭を撫でた。
「ごめんね。大丈夫よ。なにも危ないことはしてないから。疲れてただけだから心配しないで」
「アマル、イリアの大丈夫は大丈夫じゃないからな」
「うん。イリア、もうやめて」
イリアナは危険なことはしていなかった。泣きじゃくるアマルの様子に心配をかけたことは反省した。
「努力する」
セインはイリアナの様子に苦笑した。
「俺よりアマルの方が向いてるな。また来るよ。説教は元気になってからだ」
「ご迷惑をおかけしました。セイン兄様」
「明日は休んで明後日から出勤しろってさ」
「それは・・」
「王太子殿下から」
「なんでそんなに話が大きくなってるの!?」
「じゃあな。ゆっくり休めよ」
悲痛な悲鳴を上げたイリアナを無視してセインは帰った。
セインが帰ったのでイリアナはアマルと一緒に再び眠った。
翌日、目が覚めると夕方だった。




