第26話 買い物
イリアナは前日の休養日にゆっくり眠ったおかげで、すっきり目覚めた。
イリアナが一人で起きたことにアマルは驚いていた。
イリアナの具合が悪いのか心配するアマルにイリアナは苦笑した。
イリアナは出勤し、第二訓練場に向かうと、野外訓練で怪我をした女性騎士と会った。
面倒ごとを避けたいイリアナは、女性騎士を見ないふりをして通り過ぎた。
「あの」
呼ばれた声は気のせいと思い、イリアナはそのまま足を進めた。
「ラーナ」
女性騎士に名前を呼ばれたので、ため息をついて足を止めた。
「おはようございます」
「おはよう、待って」
イリアナは挨拶をして立ち去りたかったが、女性騎士の様子に逃がしてもらえないことを悟った。
イリアナは諦めて女性騎士に話しかけた。
「なにか?」
「助けてくれてありがとう。今までごめんなさい」
イリアナはあまりに予想外の言葉が聞こえて、思考が止まった。
「は?」
「助けに来てくれてありがとう」
イリアナは聞き間違えではないと気付いた。
「いえ、当然のことをしたまでです。お気になさらず」
「当然じゃない。卑怯な私を貴方は見捨てないで助けてくれた。嬉しかった」
イリアナは状況がわからなかった。でも見下す相手に謝罪をした女性騎士には敬意は示そうと思った。
「よくわかりませんが、私は襲われても生きることを諦めなかった貴方に同じ騎士として敬意を示します」
「ラーナ、また話しかけてもいい?」
一応先輩にあたる相手に迷惑ですとは言えなかった。
「あなた次第です。そろそろ遅刻しますがいいんですか?」
「まずい!!ありがとう。またね」
イリアナは嬉しそうに笑って去っていく女性騎士が不思議だった。考えるほど女性騎士に興味がなかったので、気にしないことにした。
訓練場に着くと騎士達の視線がイリアナに集まった。
遅刻はしてないけど、なんですごい形相で見てるの?なにか憑いているの?
「ラーナ、髪どうしたの?」
騎士の一人の言葉にイリアナは考えた。
髪を切った丁度いい理由を思いついて、にっこり笑みを浮かべた。
「独り立ちしましたので、気合をいれるために切りました。隊長にもっと頑張るって約束しましたし、心機一転です」
イリアナの頭に重みがかかった。
「ラーナ、隊長たちのことは気にしないで。ラーナの働きに充分満足してるよ。隊長たちのバカに巻き込まれて大事な髪を切らなくていいんだよ。」
イリアナは第二騎士団小隊長に頭を撫でられる理由がわからなかった。
「小隊長?」
「ラーナに不足があればちゃんと俺が注意するから。あと第一騎士団のことは気にしないでいいから」
「ありがとうございます?」
イリアナには言葉の意味がわからなかったけど、とりあえずお礼を言った。
小隊長の笑顔に寒気がするのはなんでだろう…。
通常通りの訓練が始まった。
休憩時間に第二騎士団小隊長に声をかけられイリアナはついていった。
訓練場から少し離れると小さい訓練場が見えた。
中には武器が置いてあった。
槍を渡されたイリアナは意味がわからなかった。
「隠れて練習してるでしょ?見てあげるよ」
「ご存知だったんですね。」
せっかくなので手合わせしてもらうことにした。
イリアナが槍を向けると軽々と振り払われた。
小隊長に隙がない。構えも綺麗。剣の腕はそんなでもないのに…。
イリアナは第二騎士団小隊長の腕に驚いていた。
「ここまでにしようか。」
「ありがとうございます。強いんですね」
「槍は得意だからね。時々見てあげるよ。周りには隠してるんだろ?」
「はい。ありがとうございます。助かります」
「そろそろ食事に行こうか」
二人は移動して食堂で食事をした。イリアナにはアマルのお弁当があるのでどこで食べても問題はない。余りが出ないのでヒューゴを探さなくても食事ができるのはありがたかった。
それから時々イリアナは第二騎士団小隊長に槍の訓練を見てもらうことにした。
小隊長は平民出身なのに気配りが凄い。ジオと生まれを取り換えた方がいいと思う。
イリアナの中で第二騎士団小隊長の評価がまた上がった。
イリアナは最近付きまとわれている。帰宅しようとすると女性騎士に捕まる。
「ラーナ、一緒に帰ろう!!」
「方向が違いますよね。」
「つれない。料理が好きなラーナが喜びそうな場所があるんだけど」
イリアナは料理が好きではない。でも場所を聞いてアマルを連れていきたいと思った。
イリアナはニヤリと笑った女性騎士に手をひかれる。
「興味もったでしょ。来て。私、この街には詳しいの」
イリアナは不思議だった。
無口な女性騎士が、急に明るくなったことに。
そして彼女がアドニス達の仲間入りをしていることをイリアナは知らなかった。
騎士団の服装で歩いていると子供がイリアナに近づいてきた。
イリアナはこの国では騎士は子供に人気なのねと検討違いなことを思っていた。
広報してから人気が出たのは騎士ではなくイリアナだった。
イリアナは自分の広報が大好評だったとは知らなかった。
「ラーナ!!」
「こんにちは。お母さんは?」
「後ろ」
「お母さんと一緒に来てね。女性のエスコートは男の子の役目よ」
少年は後ろの母親のもとに駆けていき、手を引いてくる姿にイリアナから笑みがこぼれた。
母親が申し訳なさそうに謝った。
「ラーナ様、うちの子がすみません」
「いえ、優秀なお子さんで将来が楽しみですね」
「騎士様達のおかげです。将来は第二騎士団に入るんですって」
母親の言葉にそれは喜んでいいのかイリアナには分からなかった。
「ラーナ、僕が第二騎士団になったら嬉しい?」
「私はお母さんのお手伝いをしてくれる女性に優しい人になってくれる方が嬉しいわ」
「僕、もっとお手伝いする」
「頑張ってね」
「ラーナ、今度はいついる?」
「三日後のお昼過ぎかな。居なかったらごめんね」
「一人でも呼びにいけるようになるための訓練だから。ちゃんとお母さんと一緒にいくよ」
得意気な顔をする少年にイリアナは感心した。
訓練なんて言葉を覚えたのね。どの国でも子供の吸収力はすごい。
「えらいね。諦めないで逃げて助けを呼んでくれれば助けにいくわ」
「諦めない!! 絶対生きる!!」
その心構えが一番大事。
イリアナは母親の視線を見てやり過ぎたことに気付いた。
「ごめんなさい。私、つい」
「ラーナ様、誤解です。頼もしくなっていく息子が嬉しくて。これからも構ってあげてください」
「じゃあ、また今度ね。」
イリアナは親子に手を振り別れた。イリアナは隣にいる女性騎士の存在を忘れていた。
「お待たせしました」
「大丈夫よ。ラーナ、どっちが素なの?」
「さぁ」
「つれない。」
女性騎士はイリアナの冷たい態度に苦笑した。
案内された店は市の外れにあった。
イリアナは料理の本を見つけて買うことにした。
「これください」
「銀貨二枚」
お財布を出そうとすると女性騎士に手を掴まれた。
「待って、高い」
店主に話しかける女性騎士に驚いて視線を向けた。
「姉ちゃん、これは貴重なものだよ」
「これ、中古だし、痛んでるし、汚れもある。銅貨30枚でも多いくらいよ」
「それはさすがに」
「本ならこの先も売ってるよね。私達時間はあるし」
「この三冊で銀貨一枚」
「もう一声」
「これもつけてやろう」
「乗った!!ラーナ、銀貨一枚出して」
女性騎士の手が離れたのでイリアナは銀貨を一枚渡して本を4冊も受け取った。全部料理関連の本だった。
イリアナは女性騎士に促されて店を離れた。
「これ、通報されたりしませんか?」
突然笑い出した女性騎士にイリアナはどうすればいいかわからなかった。
「あんなに強くてしっかりしてるのに。ラーナ、市はあらかじめ高い値段で売ってるの。この本1冊に銀貨二枚なんてぼったくりよ」
「え?」
「銅貨30枚でも多いくらいよ」
「国によって物の価値が違うんですね」
「この現状を知ったら第二騎士団の連中が騒ぎそうね。」
女性騎士の言葉の意味はわからなかった。
通報されないならいいかと考え直してイリアナは気にすることをやめた。
イリアナはアマルにお土産を買えたのでそろそろ帰ることにした。
「ありがとうございました。明日も仕事ですし今日はここで失礼しますわ」
「ラーナにお礼を言われるなんて、また明日ね」
手を振る女性騎士に礼をして帰路についた。
「イリア、おかえり」
「ただいま、これあげる」
イリアナが差し出した本をアマルがじっと見つめている。
「いくら?」
「銀貨1枚」
「イリア、お土産は嬉しいけど買い物は俺と行こう。」
「どうして?」
「買いものはイリアには難しい」
「アマル、もし1冊銀貨2枚で買ってきたら?」
「店主と話をしてくる。ぼったくりもいいところだ」
「アマル、別にうちはそんなにお金に困ってないわ」
「物には適性価格があるの。イリアの金銭感覚おかしいの自覚して、ごめん。言い過ぎた。落ち込まないで。俺のために探してきてくれたの嬉しいよ。でもイリアが早く帰ってくるほうが嬉しい。」
「アマルは無欲すぎる。子供は我侭をいって大人を困らせるものよ」
「明日は自分で起きてよ」
「ごめんなさい。」
「冗談だよ。起こすから安心して。食事にしよう」
年下のアマルの方がしっかりして見えるのはどうしてかな。
明日は定時で帰ろう。
早く帰ってほしいなんて、やっぱり子供ね。
いつかアマルも巣立っていくのか。
本物の弟のアベルトは元気でやってるかな。
今日もアマルに世話をやいてもらって、イリアナは眠りについた。




