第25話 一人前
野外訓練が終えたイリアナは家に帰った。
念願の湯あみをおえて、満足したイリアナを目の据わったセインが待っていた。
イリアナはセインが怒る理由に検討もつかなかった。とりあえずお礼を言うことにした。
「セイン兄様、アマルをありがとうございました」
「それはいいんだ。それより、これはなに?」
セインに見せられた本を見てイリアナは固まった。
イリアナは第二王子の部屋から持ち帰った魔導書を誰にも見られたくなかった。特にセインとアベルトには絶対に。
「殿下の部屋にあったので、出来心で。お返ししたほうがいいですか?」
イリアナはどうにかしてごまかしたかった。
反省した顔を作るが、セインには通用しなかった。
殿下の枕の下に魔導書が隠してあったから…。
読んだら興味深い魔法がたくさんあったんだもの。
魔導書をすべて読み尽くしたい衝動はセイン兄様にわかるはず。
「イリアナ、わかってるよな?」
イリアナの淡い期待は砕け散った。
残念ながらセインは持ち出したことを怒ってるわけではないことをイリアナは気付いた。
「出来心で。」
「使ったのはアルにだけか?」
セインは魔導書を読んでいた。
イリアナが隠したかった代償を使った禁呪とされる治癒魔法のことも。
イリアナには黙る以外の方法は思いつかなかった。
レオ様にも…。アベルトの病を自分の生命力を代償に魔法をかけたことに後悔はない。
やっぱり気づいたか…。
アルには嘘をついてもすぐにバレるのよね。
「イリアナ、わかってるのか!?自分の命を犠牲にしてまで、治癒魔法を使うな。わかったか?」
イリアナは詰め寄られてもセインの言葉に頷けなかった。
イリアナは長生きなんて望んでいなかった。便利な代償の治癒魔法を使わない理由がなかった。
セインは頷かないイリアナに最終手段を使うことに決めた。
セインはイリアナを睨んだ。
「命令だ。この本の魔法を使うのは許さない。本は俺が預かる。お前の忠誠は?」
忠誠を誓ったセインに対し、イリアナに許された言葉は一つだけだった。
「セイン様のものです。セイン様に従います。」
イリアナは後悔していた。
セイン兄様に忠誠を捧げなければよかった。
あの時はこんなことになるなんて、思ってなかった。
忠誠を誓った主の命令には逆らえない。
セイン兄様が私の忠誠を利用するなんて思わなかった…。
私の人生は予想外ばかり。殿下に会いたい。
3人で食事をした後、さらにセインの長いお説教がイリアナを待っていた。アマルはセインにお説教されるイリアナは気にせず、先に寝ていた。アマルはイリアナがお説教の様子を見られたくないことを知っていた。
翌日、イリアナはアマルに起こされ出勤した。
イリアナはセインのお説教に疲れていたので、寝坊するのはアマルにとって想像通りだった。
イリアナは第二騎士団長に呼ばれていたので第二騎士団室に向かうと中には両騎士団長と第二騎士団小隊長、指導係のヒューゴが待っていた。
「ラーナ、ここにきて半年か。今日から一人の騎士として認めよう」
「はい。恥じないよに励みます。」
「ヒューゴ、指導係ご苦労だった」
「いえ」
「ラーナ、お前の能力を見込んで、小隊長補佐をやってみないか?」
「うちの小隊長に補佐など不要と思いますが…。」
「補佐を任せたいのは」
第一騎士団長の言葉にイリアナは嫌な予感がした。
腕だけは強い脳筋男…。
イリアナは不敬を承知で言葉を遮った。
「命令ですか?」
「いや、無理矢理役職につけたりしないよ」
「慣れない私を暖かく迎えてくれたのは第二騎士団の皆様です。邪魔でなければこのまま置いていただきたい。」
イリアナには第一騎士団に行ったら死者を出す自信があった。
なによりバカの相手はしたくなかった。
第一騎士団長がいやらしい笑みを浮かべてイリアナを見つめた。
「給金あがるよ?」
「あがるもなにも、頂いていないので。」
イリアナの言葉に周りの空気が凍った。
「は?」
「ラーナ、今までの生活は?」
「個人資産がありますので」
「ヒューゴ!!」
「すみません。後で説明しておきます。」
周りの雰囲気など気にせずに、イリアナは命令でないなら必死でお願いすることにした。
「お金も権力も求めておりません。隊長、もっとがんばるので、このまま置いてもらえませんか?できるだけ問題も起こさないようにします」
「ラーナが希望しないなら、このままで構わない。この話は終わりだ。」
「そんな!?」
「ラーナはやらん。去れ。」
イリアナは自分の取り合いが行われていることに気づいていなかった。
第二騎士団小隊長から退室許可が出たので、第一騎士団に移動しなくていいことに安心したイリアナは礼をしてヒューゴと一緒に退室した。
イリアナはヒューゴに給金について説明を受けた。
給金は国から資産カードに振り込まれる。ヒューゴと一緒に経理部に資産カードを取りに行った。
イリアナはレオナルドがお給金を払ってくれる気があったことに驚いた。イリアナは身分証明カードと一緒に入れて持ち歩くことにした。
今日はイリアナにとってありがたい書類仕事の担当だった。
昔のイリアナは体を動かす仕事を好んだけど、ザビ王国に来てからは静寂な執務室で仕事を片付けることの方が好きになっていた。集中している間は演技もいらない。
イリアナはイリアナ・ラーナを演じることに時々無性に疲れることがあったから。
イリアナが書類仕事をやり過ぎても第二騎士団は気にしないことにした。仕事は完璧なので、イリアナがやりたがっているので任せることにしていた。イリアナは気づいていないが、第二騎士団はイリアナには甘かった。
イリアナは仕事をおえて帰路につくと、ジオラルドと会った。
イリアナは王宮ではないので気にせずにすれ違うつもりだった。
「待って」
呼び止められた声にイリアナは振り向くとジオラルドに真剣な顔で見られていた。
幼い頃は可愛かったけど、今は全然可愛くない。
端正な顔立ちだから女性には困らなそうだけど…。
「ジオラルド・マナです。よろしくお願いします」
突然のジオラルドの自己紹介は人目を集めた。侯爵家のジオラルドへの不敬は許されない。
イリアナはジオラルドの意図がわからなかったが礼を返した。
「イリアナ・ラーナと申します。失礼しますね」
自己紹介をして立ち去った。イリアナは侯爵家のジオラルドが立ち去るのを待つべきだとわかっていたけどこれ以上は関わりたくなかった。
イリアナはジオラルドの謎の行動は気にしないことにして家に帰った。
「アマル、出かけるから先に寝てて」
「わかった。気を付けてね」
食事をおえるとイリアナはやりたいことがあった。
アマルはイリアナが一人になりたいときは察してくれた。
イリアナはセインに魔導書を見つかったので、持ち歩けない殿下の遺灰の場所をかえようと考えていた。
イリアナは喪服を着て、カツラを被ってイリアナ・ラーナの姿になった。
イリアナの家は少し進むと森がある。イリアナはどんどん森の奥に進んでいった。
「ラン、殿下はどのあたりが好きかな?」
「どこでもいいって言うわよ。」
「そうね。」
イリアナは白い花が咲いている花畑を見つけた。花畑の真ん中に木があるのでそこに決めた。
イリアナは木の下に穴を掘った。
イリアナは、家に置いてあった瓶にいれた第二王子の遺灰の瓶を防水の魔法をかけてある布に厳重に包んだ。イリアナは包んだ瓶を抱きしめた。
「殿下、リアの姿では時々しか来れない。でもまたランと来るから。本当は一緒にいたいけど壊れるのも奪われるのも耐えられないから許して。怒ってもいいからリアだけの殿下でいて。お願いだから」
イリアナの目から涙が溢れた。
殿下、会いたい。殿下がいればきっと心配そうに見つめて仕方ないなって笑って抱きしめてくれる。
「リアはやっぱり殿下がいないと幸せなんてわからない。ごめんなさい。でもちゃんと殿下のかわりにお務めは果たすから。待ってて」
イリアナは肩まで伸びた髪を短剣で切って殿下の遺灰と一緒に埋めた。
イリアナは指を切って殿下を埋めた場所に血で魔法陣を書いて封印をした。
これで殿下が私以外には見つからない。
封印を解こうとした相手には命の保証はしない。殿下に手を出すなら当然の報い。
即死しないだけ感謝してほしい。
殿下と二人の世界に生まれかわれればいいのにな。
イリアナは第二王子の側で夜空を見つめて、そのまま眠りについた。朝の光で目覚めて慌てて家に帰った。
それからイリアナはアマルが寝たのを確認してから第二王子のもとを訪ねることにした。
イリアナは第二王子の傍にいると時間をたつのを忘れてしまうから。
イリアナなりにアマルに心配かけないための行動だった。でもアマルはイリアナの不在に気づいていることはやっぱりイリアナは気づかなかった。




