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傷心令嬢の鬼ごっこ  作者: 夕鈴
第一章

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第24話後編 野外訓練

獣たちの狩りの時間がはじまった。

イリアナは怪我をしている女性騎士を背に庇い獣の気配を感じる方に弓矢を放つ。

致命傷にならなくても当たれば十分だった。速さが落ちれば儲けものだった。

かかってくるオオカミを剣で切り付けた。数が多かった。魔法は最終手段だから使う気はなかった。

予想外の数の多さにため息を我慢する。

イリアナは馴染みの気配を感じて向かってくる5匹のオオカミのうち2匹を仕留める。

残りの3匹をアドニス達が仕留めるのを確認し満足げな顔を作った。


「わざとでしょ?」

「私のアドなら余裕でしょ?」

「相変わらず良い性格ですね。」

「イリア様、僕もいますよ」


アドニスと仲の悪いリックが声をかけてきた。


「リック、イワン久しぶりね。楽しませてくれる?」

「もちろんです。姫様の手は不要です。俺にお任せを」

「アド?」

「俺達だけで十分です」


不敵な笑みを浮かべる3人の様子を見て、イリアナは3人に任せることを決めた。

和やかに会話をしながらも、アドニス達はオオカミ仕留めていた。


イリアナの元護衛騎士達はイリアナが手を出すことを好まなかった。

主の手を煩わせることは騎士の手落ちである。


イリアナは誇らしげな笑顔を作って三人の様子に頷いた。女性騎士の隣に座った。

茫然と見つめる女性騎士の視線は気にせず3人の様子を窺う。


危なげな様子はないし援護は彼らの矜持を傷つけるからしない。

3人共普段は仲が悪いのに連携は抜群だった。


狩りが終わったのでイリアナは立ち上がった。

イリアナの前に3人が跪ずいた。


「流石ね。来てくれてありがとう。それはやめて」

「イリア様、どうして一人で行ったんですか!?」

「もう侯爵家じゃないし貴方たちを養えないわ」

「給金なんていりません。僕はイリア様の騎士です」

「姫様」


イリアナを拗ねた顔で見つめるリックと悲しそうに見つめるイワン、アドニスだけは楽しそうに眺めていた。


「その顔やめて。大の大人が情けない。私なんかのどこがいいのよ。セイン兄様の方が優秀よ。顔ならアルと変わらないでしょ?」

「イリアナ様のかわりはいません。」

「アドニスは諦めたけど。貴方達はちゃんと考えた?」

「イリア様は二度も僕を置いていきました。もう次はありません」


リックの拗ねた顔にイリアナはため息をついた。


一度目ってあれよね。

アルとしてセイン兄様と戦場に行ったときの。私の護衛騎士がアベルトの近くにいたらおかしいでしょ!?

連れていけないわよ。その時イリアナは療養中だったんだから。しかも貴方達は私の護衛騎士として有名だったもの・・。


「姫様」

「我が主」

「アドのその笑顔が腹がたつわ。好きにして。ただ面倒事はごめんよ。ちゃんとラーナ家門として恥じない行動をするのよ。バカの相手は時間の無駄よ。騒ぎになる前に帰るわ。」


近づいてくる気配にイリアナはため息をついた。面倒ごとがきた。イリアナの様子に気づいたアドニスが動いた。


「イリアナ様、俺が対応しますよ」

「任せるわ。私、できれば関わりたくない」


姿を表したジオラルドにアドニスが近づいていく。


「これは小隊長、どうしましたか?」

「夜になっても戻らないから探しに。これは」

「襲われたので、撃退したまでです」


ジオラルドはオオカミの死骸の山に眉をひそめた。


「獣が寄ってくる前に燃やすか」

「それは承りますので怪我人をお願いできますか?」

「怪我!?」


ジオラルドに心配そうな視線をむけられたのはイリアナだった。


「ジオラルド様、お手を煩わせて申しわけありません。死体の処理を終えたらもどります。彼女を連れて、先にお戻りください」

「リアは大丈夫なのか?」


先に自分の部下の安否の確認しなさいよという言葉をイリアナは抑えた。


「戻りましたら隊長に報告に伺います。私達よりジオラルド様の方が彼女も安心すると思いますのでお願いできますか?」

「リアは戻らないのか?」

「ここの処理をしてから向かいます。怪我人優先ですのでお願いします」


ジオラルドの言いたいことのありそうな視線は無視してイリアナは死体を集めていく。

黙々と作業をするイリアナを見て、女性騎士を背負ったジオラルドが去っていった。


あれで小隊長か…。

レオ様がセイン兄様を欲しがる理由がよくわかる。この国は人材の質が悪い。

処理をおえたのでイリアナ達は騎士団長のテントを訪ねた。


テントに入った途端に第一騎士団のジオラルドとは別の小隊長の糾弾がはじまった。


彼は女性騎士に心を奪われているバカの一人。弱きを守るは間違っていない。騎士だから女性騎士を守るなんてバカにしている。性別だけで庇護におくなら女性騎士なんて認めなければいい。女は男に従順なんて夢を見過ぎ。このバカが伯爵家で小隊長とか失笑しかない。

イリアナは真剣な顔を崩さないように努力をして、心の中で反論しながら聞き流していた。


「ラーナ、話は聞いた。お前が勝手に飛び出し、戻ってこなかったのは本当か?あと騎士失格と彼女達の矜持を傷つけたと」

「事実です。いかように処分も受けましょう」


イリアナは第一騎士団長の言葉に頷いた。静かに頷いたイリアナは第二騎士団小隊長に静かに見つめられた。イリアナは第二騎士団の小隊長は評価していた。彼ならラーナ家の適性試験も受かると思っている。


「ラーナ、報告を」


第二騎士団小隊長の命令に従い答えた。


「はい。テントに戻ると一人で狩りに行った騎士が戻らないと聞き、急を用すると駆けつけました。報告をせずに、救援に向かい申しわけありませんでした」

「先輩騎士の言葉を聞かなかったのは?」

「後輩の力量も考えずに一人で狩りに行かせる。そのあとの安否も気にしない。そんな人間に払う敬意はありません。騎士に向いてないという言葉を向けたことは事実です。あんな人間に年長という理由だけで敬い、膝を折るなら自刃を選びます」

「ラーナ、お前は救援に向かって自分で対処できる自信があったのか?」

「はい。無理な場合も救援を呼ぶ備えはしてあります。」

「そうか。私はラーナより後輩に全てを押し付け高みの見物をしている人物こそ罪があると思います。ラーナは後輩だからとテントに入れて貰うことも許されなかったそうです。これはラーナからの報告ではありません。」


第二騎士団小隊長の言葉にジオラルドがイリアナに視線を向けた。


「ラーナ、どこで寝ていた?」

「野宿は慣れてますので。荷物だけは好意に甘えて先輩方に預かっていただきました」


第二騎士団小隊長はイリアナを庇ってくれたことでイリアナの中で評価がまた上がった。検討違いな質問をするジオラルドにイリアナの評価がまた下がった。

第一騎士団小隊長がイリアナを睨んだ。


「ラーナが調和を乱したと聞いている。何を言っても聞く耳を持たないと」

「事実です。私は頭をさげてお願いをする必要性を感じませんでした。」

「質問してもいいですか!?」


突然手をあげたアドニスに視線が集まった。

第二騎士団小隊長が了承した。


「仲間を救援にいって無事に連れて戻った人間に罵声をあびせるのがこの国の流儀なんですか?仲間を守って一人でオオカミと戦っていたイリアナ様がどうして責められるんでしょう。自分にできると判断して、成果をあげた彼女が一方的に責められる理由を教えてください。救援を呼んで動くのを待っていたらきっと死人が出ていましたよ。報告もできない緊急事態なんて、この国には存在しないんですか?」

「お前、新入りのくせに」

「新入りだから国の流儀がわからないから聞いてるんです」


アドニスは第一騎士団小隊長の言葉を流して脱線していた本題に戻した。


「隊長、両者の申し開きも聞きましたし、両隊長が処罰を決めませんか。あと今夜、ラーナは俺達のテントで寝かしても?さすがに今日は休ませてあげたい」

「構わない。連れて行け。ラーナ、よくやった。」


不満そうな第一騎士団小隊長に第二騎士団小隊長が笑みで制す。


「うちの隊長の言葉に部外者が口を挟むことはないですよね。ラーナ行くよ」


第二騎士団小隊長に連れられてイリアナはテントを後にする。


「お騒がせしました」

「お疲れ。」


イリアナは第二騎士団小隊長とヒューゴのテントに入った。

食事の心配をされていたので荷物と一緒に置いていた昼間に焼いた肉を食べた。

ヒューゴ達に羨ましそうに見られたので、葉巻の肉を三人に渡した。

嬉しそうに食べる三人に男の人は良く食べるとイリアナは感心して眺めていた。


最終日の昼は罰則として第一騎士団の女性騎士達が用意していた。

イリアナは罰則の甘さに呆れた。

イリアナだったら、騎士資格の剥奪を選ぶ。訓練で先輩が後輩を、見捨てるなんて許されない。そんな騎士道に反する者に騎士を名乗る資格はない。

イリアナは自分の食事を見てため息をついた。正直食べたくないけど、残すわけにはいかなかった。

受け取った料理を半分はヒューゴの皿にうつして食べはじめた。


ヒューゴは何も言わずにお皿を差し出してくれるからありがたい。やっぱり味がしない。

隣で食べてるヒューゴが突然うめき声をあげた。


「ラーナ、食べるな」


震えるヒューゴの声を拾った。


「え?」


イリアナは水筒の水を差し出すとヒューゴが一気に飲み進める。イリアナは隣に座っていた第二騎士団小隊長の笑顔に寒気がした。


「ラーナ、それ俺のと交換してくれる?残ったら俺が食べるから」

「小隊長?」


気付くと皿が交換されていた。第二騎士団小隊長がジオラルドのもとに向かって歩いていった。

なぜかイリアナの食べかけの皿をジオラルドに渡している。


「マナ、これ食べてみてくれない?」

「は?」

「とりあえず一口」

「ジオラルド、駄目!!」


女性騎士の制止の声が響き渡ったころにはジオラルドは一口食べて震えていた。


イリアナはヒューゴの背中を撫でながら、状況が全くわからなかった。


「お昼の調理番は反省の印ですよね。なんでラーナの分だけ違うんですか?うちのラーナは食料を無駄にしてはいけないと食べてましたけど。これは抗議してもいいですか?」


「悪かった。帰ったら隊長と話し合う」

「よろしくお願いします。それ、そちらで処理してください。追加も後で持ってきますので」


ヒューゴがイリアナから受け取った分を渡しにいった。イリアナは心配そうにみられて、いたたまれなくなった。毒も耐性あるし味もわからないからイリアナには無害だった。

隣に戻ってきた二人にイリアナは頭を下げた。


「申しわけありませんでした」


謝罪をして皿を第二騎士団小隊長にかえした。


「ラーナ、食べなよ」

「食欲がでません。もう許してください」

「もう少し食べないと大きくなれないよ」

「家に帰ったらちゃんと食べます。小隊長、移動願い書いたら受理されますか?」


イリアナは、辺境地あたりに配属を変えてほしかった。

バカと関わるのは面倒だった。


「ラーナは殿下のお気に入りだから無理だよ。」

「無理ですか。」

「そろそろ目に余るよな。先輩に任せてラーナは仕事をこなしてればいいよ」

「あと1回でトイレ掃除です。」

「俺は罰はいらないと思ったけど」

「団体行動をしなかったので仕方ないです。」


第二騎士団長から罰則としてペナルティが1回追加された。

イリアナは団体行動せずに、軍の規律も乱したからである。

イリアナはうちも罰則が甘いから第一騎士団の罰則の甘さを責められないことに気付いた。


「もしトイレ掃除になったら手伝ってあげるよ」

「小隊長!私は小隊長が爵位がないことが非常に残念です」

「ラーナ?」


騎士としてマトモな人の隣には安心できる。

爵位があれば、イリアナは彼を必死に落としただろう。

地位があるのに、トイレ掃除を手伝ってくれる人ならアマルもきっと受け入れてくれる。

家で待ってる可愛いアマルを思い出してイリアナは疲れた心を励ました。

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