二人の行く先に
トールに何度も駐屯所に来るよう誘われている。剣での三本勝負をルークとしたい、と言うのだ。
『今度こそ、おまえに勝てそうな気がするんだ。ホントだぞ!』
トールはどんな武器も使いこなせる万能型だが、剣でルークに勝ったことがなかった。悔しいのか何度もルークに勝負を申し込んでくる。
いつものルークなら、快く受けて立っただろうが、今は頭の中が緑の瞳の令嬢でいっぱいだ。断ると、トールは「今度こそは!」とねばり続け、平行線の話にウィルが口を挟んだ。
「ねえ、だったら、駐屯所に行くのを口実に貴族街も探索してみたら?……例の人を探しに」
トールがすぐに「例の人」に反応した。三人の間での共通言語だ。
「え?もしかして、ルーク、ついに見つけたのか?」
トールが目を輝かせた。
「まあな」
「やったな!これで『未来のルークの花嫁』はその人で決まりだ」
「……まだ本人かわかってないし、すぐに直結して考えるな、楽観男」
ウィルが小さな声で悪態をついた。が、トールには聞こえない。
「よかったな~。ルーク、おめでとう!これで一石二鳥だな。俺はルークと三本勝負。ルークはとうとう本命と再会!」
「……ありがとう」
そんなに喜んでくれると、照れてしまう。
「……しかし、心配だな。ルークが七歳の時にちょっと年上に見えたってことは、三つ上で十歳かそこらだろ? ルークの年齢は今十八だから、二十一――結婚している可能性が高い……」
ルークはすっと胸が冷えていくのを感じた。
「……俺もそう思う」
「おい、ウィル。今そんな話しなくていいじゃん。俺の姉も二十三過ぎているけど、結婚してないぞ?」
ウィルが顔をしかめた。ルークもウィルと大して変わらない表情だろう。
「……トールの姉君か……」
ウィルが呟く。
トールの姉はごつい彼と似ず美人だが、とんでもないお転婆の女騎士だ。下心ありで寄ってくる男は皆返り討ちにされている。騎士団内でも伝説となっている人だ。
「彼女と一緒にされてもな……」
ルークの独り言に張り切っているトールは気づかなかった。
「ほら、行こうぜ、ルーク。今日は俺が勝つ!」
「わたしたち、帰りましょうか?」
ターシャは今すぐ逃げ出したかった。
「ターシャ様、ルーク殿下の“中身”をお知りになる良い機会ですわ」
横で案内係に聞こえないようにモアナが囁いた。
「……中身?」
「当主様によると、殿下は騎士団の方々との交流が盛んだとか。とても心を開いていいらっしゃるそうですよ。この場に入れば、ルーク殿下の人柄がよく理解できますわ」
モアナが案内してくれた騎士に顔を向けた。
「ルーク殿下のお姿を遠くから拝見することはできますか?殿下のお邪魔にならないよう、死角にいますので」
「うーん。僕の一存では決められないな。ちょっと上司に訊いてみます」
そのまま上司らしき立派な鎧に包んだ男の元に駆け寄っていった。
「モアナったら!」
勝手に進んでいく話にターシャは心の準備ができなかった。
「すいません。ですが、これを逃すわけにはいきません」
平然とモアナがこたえると、先ほどの騎士が上司と共にやってきた。
「ルーク殿下のお姿を拝見したいというのは、あなた方かね?失礼ながら、お名前と住まわれている家を知りたいのだが」
どう返答すればいいか迷っているうちに、モアナが
「わたしはモアナ。こちらはわたしが仕えている主。アッヘル伯爵家のターシャ・アッヘル様にございます」
「え?」
「何だって!?」
モアナ、今ここで言うの!?
モアナの発言に上司は目を丸くし、案内の騎士もあんぐりと口を開けていた。
「ターシャ様は殿下の『中継ぎ婚約者候補』です。アッヘル家を背負う者として、殿下の“普段”のお姿を知るのは当然のことと思いますが」
さらに爆弾を投下する。だが、上司の騎士の立ち直りも早かった。
値踏みするようにじっくりと見つめられ、ターシャは居心地が悪かった。それでも、背筋を正し、強張りそうな頬を抑え、笑みを浮かべた。そして、優雅に貴族式の礼をする。
「……未熟者ですが、精いっぱい『候補』として努めさせていただきます」
ふと睨みつけるように見つめてきた瞳が和らいだ。
「わかりました。ターシャ殿。〝素〟の殿下のお姿をとくとご覧ください。死角からだと見えづらいので、客人用の席をご用意いたします。おまえも急いで準備しろ」
片手を胸に当てて、騎士の礼を取り、騎士二人は去っていった。




