見学中に
午前をモアナが『候補』の令嬢たちの情報を頭に叩き込むのに費やした。結局、騎士団駐屯地に行ったのは、昼を挟んでのことだった。動きやすく装飾の少ないドレスに着替えたターシャは、顔が引きつっていた。緊張していた。何しろ本の中でしか見たことがない世界なのだ。
「騎士団の見学に参りました」
「どこを見たいんだ?」
「騎士達の実戦演習が拝見できる場所、騎士達の実生活のわかる場所、あとは……ターシャ、『医学科』も見学する?」
受付で門番と話していたモアナが、振り返って悪戯っぽく笑った。騎士団の“普段通り”の姿が見たいので、今のターシャとモアナは単なる友達で町娘、の設定だった。
「ええ。お願い」
一度は行こうとした部署だ。興味が湧かないはずがない。
「じゃあ、『六等騎士演習所』と『寄宿舎』、あと『医学研究所』だな。ただし、『医学研究所』は極秘の研究事案が多く保管されているから、お二方の荷物の中身を点検させていただこう。内容を盗まれたら、大ごとだ」
ずいぶんはっきり言う騎士だ。だが不思議とターシャは不快にはならなかった。
「わかりました」
ターシャもモアナも別段何も持ってこなかったので、すぐに検査は終わった。駐屯所の中から、案内係の騎士がやってきて、二人を出迎えた。
「ようこそいらっしゃいました、お嬢さん方」
軽装で良かった。若い騎士はすぐ二人を町娘と認識したようだった。
「まず、騎士団の階級構成をご存知ですか……緑の瞳のお嬢さん」
「……わたしですか?」
「もちろん」
まだ瞳が“緑”と認識されるのに慣れていない。
ターシャはざっと今まで読んできた“騎士”に関する本の内容を思い出した。
「ええと……。確か騎士団の騎士は一等から六等まで階級がわかれています。一等、二等あたりの騎士は貴族階級では公爵から伯爵までの地位の方。三頭から五等あたりの騎士は伯爵未満の貴族の方。下級貴族もいます。そして、六等騎士は平民出身の方です。階級はピラミッド型なので、六等騎士の方が騎士団の半分以上を占めます」
騎士が目を丸くした。
「もしかして、お嬢さんは豪商の娘さんとか?相当本を読んでますね」
まさか「貴族です」とは言えない。
「まあ、そんな感じですわ」
モアナが隣で苦笑していた。
「へえ。博識なお嬢さんですね――っと、ここが『六等騎士演習所』です」
話しているうちに、目的の場所へ着いた。
「これは…………」
ターシャの言葉がそこで途切れた。
騎士たちの汗が飛び散り、掛け声が響き渡る。想像以上の迫力だ。
武器を素振りする者。疲れ切って、地面に倒れ伏している者。二人でペアになって、戦っている者。
「今日の見学はお嬢さん方の貸し切りです。珍しいんです、騎士たちの姿を見たがる女性は」
案内係の騎士が嬉しそうにターシャたちを見つめる。
ターシャは黙って、練習風景を眺めていた。
――この人たちが、帝国を守ってくれているのね。
それはすごい心強い気がする。一種の感動を覚えながら、ターシャが立っていると、案内係の騎士のもとに別の騎士がやってきた。
「おい、大変だ」
「どうした?」
「ルーク殿下がここに来るぞ!」
ターシャは頭の中が真っ白になった。




