舞台裏で……
今回は、ザイクとルークの二つの視点が入ります。
今日は、普段通りの一日……ではなかった。客数は同じだが、疲労感がある。
少し前に帰っていったアッヘル家の『候補』について、考えていたせいかもしれない。
――ソフィア様が『候補』になられると思っていたが。
宮廷内のルーク殿下についての情報は、大商会の一角を任されている者として、ザイクは知っていた。アッヘル家当主がソフィアを選ばなかった理由も少し察せられる部分がある。それでも、ソフィアの美貌なら殿下の心も「初恋」の女性とやらから移るかもしれない、とも思っていた。
――だが、予想は良い意味で裏切られたな。ナタリア様にいつの間にかご令嬢がお生まれになっていたとは。ミヒャエル様は“あの事”をお知りになっているのだろうか。
モアナとの会話で、話していないことがまだあった。模様については全て告げたが、もう一つの――そう、ターシャの母方の血筋について、だ。ターシャの母、ナタリアが生きていた頃はまだザイクも若僧で知り得なかったが、今の自分は情報網を持っている。
――ミヒャエル様は、大変な〝強運〟を持っておられる。ターシャ様は予想外の「最強のカード」かもしれない。
引き続き、今後の動向を見守ろうとザイクは固く決心した。
「ルーク、またあの“筋肉バカ”にからかわれたんだって?」
王宮内のルークの私室に、ルークの親友、ウィルはいた。不機嫌な表情を隠そうともしない。
「別に。ちょっとトールの悪戯がひどかっただけだ」
その話を蒸し返されたくないルークもむすっとしていた。
「よかったら、僕が“お灸”を据えてあげてもいいよ?なんなら、今からでも」
「いや、いい」
慌ててその提案を却下する。以前、うっかりこの提案に同意して、トールとウィルが決死覚悟の大戦をやらかしたことがある。連帯責任で、父帝にたっぷり説教された。あんなことはごめんだ。
豪快な性格のトールと神経質なウィル。両極端な二人は犬猿の仲だ。牽制し合って、ルークの御前でも平気で牙をむき合う。
「それより、ルーク。そろそろ『候補』たちが全員揃うんだけど。このままだと勝手に決まっちゃうよ?」
ルークはため息をつく。結局トールもウィルもこういう時は言うことは同じだ。
「いいんだ。たかが『中継ぎ』だ」
「ふーん……。あ、そうそう。ルークの探していた女性なんだけど」
「わかったのか!?」
あの七歳の誕生日の時の少女の行方をずっと探し続けていた。ウィルとトールには詳しい特徴を伝えて、捜索させている。トールも本当は口の堅い男だ。騎士団連中にばらしたのは、信頼しているからだ。……とはいえ、重臣たちの強固な情報網において、ルークのささやかな〝秘密〟などばれてしまっているが。
「情報源は、宰相のクマグス」
「……その情報源、信憑性は?」
父と違い、あまりクマグスを信用していないルークは顔をしかめた。
「大丈夫。あいつが部下と話していることをこっそり聞いたんだから」
ウィルもクマグスを快く思っていない。
「宰相が貴族街で見かけたらしいよ。珍しい特徴を持っていたから、覚えていたらしい」
「珍しい特徴とは?」
前傾姿勢のルークに気圧されながら、ウィルはこたえた。
「なんでも翡翠のような深緑の瞳を持ったご令嬢だったそうだ」
ルークは思わず言葉を失った。




