衝撃
「……失礼ながら、ターシャ様の母君はナタリア様でいらっしゃいますか?」
ターシャが立ち尽くしていると、ザイクが問いかけた。
「ターシャ様の母君のことを知っているのですか、ザイク?」
代わりにモアナが返事をする。
「知っておりますとも。あのような珍しい瞳の色のお方はそう簡単に忘れませんよ。北方の貴族には多い色ですが、ラトヴィア帝国内においては、深緑の瞳をお持ちの方はナタリア様のみにございます」
ザイクは鏡の中のターシャを懐かしそうに見つめた。
「いやあ、しかし、ナタリア様に似ていらっしゃると思っておりましたが、ご息女でありましたか」
「……でも、なぜわたくしの瞳の色が変わったのかしら?」
照明の色だけでこんなに劇的に変化しないはずだ。
ザイクは少し間をおいてから、こたえた。
「ターシャ様は、『魔法』をご存知ですか?」
「ええ」
本でしか読んだことはないが、この世界に実際にあることは知っている。『魔法』を使える人間は相当限られている。公爵以上の貴族はほぼ確実に。無論、皇帝一家も『魔法』が使用できる。
「特に、皇帝陛下の血筋の方は、唯一無二の『魔法』をお持ちだと、聞いたことがあります」
「はい、その通りです。王宮にはその『魔法』が張り巡らされています。そのうちの一つに“真実の姿を見せる”魔法がございます。……この鏡にもその魔法が施されております」
「……まさか」
モアナが呟いた。ターシャにとっても「まさか」だった。
「推測ですが、ターシャ様の“真実”のお姿がこちらなのでございましょう。近しい者が何らかの理由でターシャ様の瞳に“虚像”を見せる魔法をかけていたのかもしれません。そして」
ザイクが言葉を区切った。
「一旦魔法が解けた以上、このお姿こそが本当のターシャ様です」
――誰かがわたしに『魔法』を?わたしの近親者に『魔法』の使える者などいたかしら?
あまりにも衝撃的なことが多すぎた。モアナがそんなターシャを気遣い、『騎士団駐屯所には明日参りましょう』と言った。馬車に揺れる中、ターシャは返事をしたかも覚えていなかった。
モアナも主の様子に注意しながら、考え事をしていた。
――もしかして、ターシャ様はとてつもない血筋をお持ちなのかもしれない。
さっき、ザイクと二人でいた時に話していたこと。それは、身体に模様の入っている人はどういう人なのか、という話だった。ザイクは鋭い男だ。誰のことかわかっているのだろう。が、丁寧に説明してくれた。
『模様の入っている方は、宮廷の中でも限られた方でしてね。皇室の方にももちろん、模様はあります。公爵様でも、模様のない方はいらっしゃいます。ですから、大変名誉なことで、お持ちの方は男女関係なく、結婚相手も引く手あまたでしょうな』
最後の一言は暗にターシャを指して言っているのだろう。
――どうして、ターシャ様に模様が?
ぐるぐると考えていても、わからない。これは、また〝頼む〟しかないなとモアナは思っていた。
だから、二人は気づかなかった。
遠くから、馬車を見て、はっと目を見開いた人の姿に。
「……まさか、あの翡翠色の瞳は――」




